来てみれば長谷は秋風ばかりなり    夏目漱石

 

 

 秋風・・・いまだ秋風とは気づかないようにわずかに感じるものも、はっきりと秋風とわかるものまで、秋に吹く風をいうのです。次の古今集の歌は、はっきりと分かる秋風に近いように思います。<昨日こそ早苗取りしかいつのまに稲葉そよぎて秋風の吹く>

 漱石は、鎌倉の円覚寺を訪ねたり、長谷寺を訪ねたりしていますが、あまり印象がよろしくなかったようです。「秋風ばかりなり」の措辞に、欝々とした気分を払拭できずにいる漱石を想像します。