中国の駐日大使館書記官の違法行為問題 | 現下の国際情勢の見所・疑問点

現下の国際情勢の見所・疑問点

揺れ動く世界情勢・日本が直面する問題を共に考えよう。投稿歓迎。

中国の駐日大使館の一等書記官が、外交官であることを隠して虚偽の住所を記入した申請書を東京の葛飾区役所に提出し、外国人登録証を不正に取得 し、銀行口座を開設していたとして、外国人登録法違反、外交関係に関するウィーン条約で禁ずる商業活動従事の疑いで、2012年5月中旬警視庁公安部が外 務省を通じ、中国大使館に当該一等書記官の出頭を要請したのに対し、中国大使館はその要請を拒否し、当該書記官は出頭しないまま中国へ帰国してしまったと される事件が大きく報道されている。

中国側は、同書記官の帰国は任期終了によるものとし、一部に報じられたスパイ活動等の事実は根拠なしと否定しているという。

報道によれば、警視庁公安部は、当初、同書記官は、「中国人民解放軍総参謀部第2部」に籍を置いていると見て、スパイの可能性が高く、日本企業に中国進出 を持ちかけていたのは「人民解放軍の影響下に置き、軍の資金源にする狙いがあった」との見方を示したとされるが、その後、同人が開設した銀行口座は、多数 にのぼり、妻の勤務先からの給与も入金されているものや中国への進出についての助言等で得られる企業から顧問料を振り込んでもらうためのものもあり、「個 人的な蓄財のため」の活動との見方が出てきており、違法な機密情報収集をした形跡は確認されていないという。

同書記官の実名は、中国側からもすでに明らかにされており、東大研究員だった頃を含め、日本滞在期間が長く、日本語達者で、永らく日本専門家として育成さ れてきたようであるので、報道の顔写真を見ると、筆者を含め、ああ、あの人かと分かる、都内でのセミナー、シンポジウム等でよくコメント、質問をしていた 人物であり、中国大使館経済部館員として、日中経済関係に関与し、幅広い人脈を築いていたのは当然であろう。

大使館の外交要員は、特権免除を有するので、任国官憲よりその出頭要請があっても、出頭を拒むことができるが、多少なりとも説明しにくい不都合があって、 館員の在勤を続けさせることが得策と判断されないときは、「任期終了」したとして即刻帰国せしめてしまうのは、多くの国が行っていることであり、珍しいこ とではない。

従って、今回のケースについての真相は、まだ分からないところが多いが、中国側が同書記官の日本での行動のすべてを掌握していなかった可能性もあり、まずは、中国側が内部的に調査することになるのであろう。
ただ、少なくも、上記にあるような、同書記官の活動が「人民解放軍の資金源」に寄与させる狙い云々といった見方は、人民解放軍が機密費を含め資金不足の状況にあるとは到底考えられないので、的外れの観を免れないといえよう。
  (Y. I. )
**********************************************************************
 姉妹ブログ「現下の国際問題」 http://smartpower.cocolog-nifty.com/blog/ ),(http://angelpower.at.webry.info/ ),
(http://blogs.yahoo.co.jp/ksmgsk66 )でも本欄と同一記事がご覧になれます。
**********************************************************************
  2012年版中国の軍事力に関するペンタゴン報告書が5月18日米議会に提出され、公表されました。http://www.defense.gov/pubs/pdfs/2012_CMPR_Final.pdf
 推薦図書・資料
 1.国際情報センター所長の茂田 宏氏監訳による【インテリジェンス―機密から政策へ】
  マーク・M・ローエンタール 著
  (慶應義塾大学出版会 http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766418262/ )  
 2.「ペンタゴン報告書:中華人民共和国の軍事力―2009年版」(全和訳完全版)
 http://www.amazon.co.jp/ペンタゴン報告書-中華人民共和国の軍事力-米国防総省/dp/4990474104
*********************************************************************