事業性評価という言葉が浸透するきっかけとなったのは広島銀行の事例です。広島市内には自動車メーカーのマツダ系列の部品メーカーがひしめき、広島銀行の貸出先となっている会社が多数あります。当時存在した金融検査マニュアルをそのまま当てはめ、財務指標だけで判断すると、銀行としては債務者区分を落とすあるいは、取引打ち切りを検討しなければならない会社もでてきます。
 

 しかし財務的には傷んでいても高い技術力を持っている会社も多く、その技術力をてこに将来復活する可能性もあります。それを評価に加えるためには、という目線で評価の見直しをしたのです。広島銀行は斬新な対応を行いました。

 

 行外からエンジニアをスカウトし、貸出先の技術力の評価を行ったのです。まさに事業性評価です。この取り組みが注目を集め広島銀行の融資部長が金融庁に引き抜かれるという驚くべき人事も行われました。(「捨てられる銀行」2016、橋本卓典著)


 考えてみれば昭和の頃まで銀行はすべて事業性評価を組み込んで融資に応じてきたのです。たとえばまだ町工場だった松下電器(現パナソニック)に、当時の住友銀行が取引実績がないにもかかわらず踏み込んだ融資を行っています。昭和2年、金融恐慌の最中のことでそれまで松下電器のメインバンクだった銀行が破たんした直後のことでした。

 

 それをバネにパナソニックは大企業にステップアップし、松下幸之助氏が引退したとき「メインバンクは住友から変えるな」という申し渡しがあったそうです。よく考えてみればこの融資はパナソニックの将来性に着目して行われた融資です。財務内容だけで評価し「保証協会がつけば」などとやっている現在の融資手法なら、支店長の暴走と言われかねないものです。


 保証協会付融資ではない、自行がリスクを取る貸し方をプロパー融資といいますがその審議書を書ける人が今、現場にいないといいいます。
 

 プロパー融資の審議書は、
 

 「この会社は、今このような理由で融資が必要である。成長性・安定性がある。」

 と分析し、最後に、

 

 「融資金の返済には懸念がないので支援いたしたい」という結び方になります。


 どのような資金使途でいくら、いつ必要になるのかの資金繰り表、キャッシュフロー計算。そしてそれが将来的にきちんと返済されることについて、担当者がきちんと分析ができないとプロパー融資の審議書は書けません。その分析ができることは、すなわち事業の目利きがきく、ということでこれが「事業性評価」だと思います。


 事業性評価といっても最後の最後は、銀行としてこの会社を信頼しておカネを出す、あるいは貸したカネの返済を求めずしばらく猶予するというリスクテイクが待っています。銀行が事業性評価になかなか足を踏み入れられない気持ちは理解できますが、銀行の将来は事業性評価にかかっている、というのも事実です。


 いままで事業性評価をもとにした融資に取り組んでこなかった金融機関。貸付係事務員は銀行窓口係とともに「AIやロボットによる代替可能性が高い」とされる「将来なくなる職業」の一つにあげられています。(野村総研推計、2015年12月2日)。
 

 同じ推計の中では逆になくならない職業も列挙されていて「中小企業診断士」「エコノミスト」「経営コンサルタント」などがリストアップされました。いずれも分析力がカギとなる職種です。事業性評価などできない!と言い切るのも良いのです。しかし分析力を基礎として事業性評価を身に着けていく先に、金融機関本体もそこで働く個人にも将来が拓けると思うのですが…

 

 

 

 縁の深い川湯温泉/弟子屈町を応援しています。

 

 

 

>目次に戻る

>用語集へ