経営上、何らかのトラブルが発生しそれが法的な争いに発展するときがあります。退職した従業員さんから未払賃金の請求を受ける、キャンセルされた仕事で発生した損害の賠償を求めたいが相手が同意しない…などなど。

 

 私自身、何回か訴訟も経験している中で感じたこと、法の世界とはどのようなものなのかを書いてみます。

 

【いきなり訴訟、にはならない】

 商品代金未払いなら、「請求書を再度送付」「それでもだめなら催告書」「内容証明で送付、法的手続きも辞さないという予告」「(必要に応じて)弁護士を依頼」と進みます。

 

 それでもだめなら、「訴訟」ということになります。

 

 いきなり訴訟ではなく、その前の段階で解決すればそれに越したことはありません。

 

【先方が弁護士を代理人に立てたとき】

 その弁護士の性格や方針にもよりますが、乏しい経験の中ではしっかりお話は聞いていただけるように思います。もっとも、話し相手が弁護士、とうことでこちら側が逃げ回ったり、その場限りの言い訳を繰り返す、などすれば先方の態度も硬くなってきます。

 

 落としどころを念頭に、「ここまでなら」という譲歩を見せれば話は進んでいきます。

 

【訴訟のやり方】

 どうしても解決しないとき、通常弁護士に委任します。しかし求める賠償額が数十万円の訴訟なのに手前で着手金を払い、さらに取り戻した金額の一定割合を成功報酬で支払うとなるとほとんど経済的な実効性はありません。相手方にプレッシャーを与え、「あなたがしたことは世間一般では通用しないことなんですよ」という認識を持ってもらうという効果はあるかもしれませんが…

 

 となると少額の争いであれば本人訴訟で、という流れになります。本人訴訟の手引き書は多数出ていますのでそれらを参考にしつつ…ということになります。

 

 相手方にも同じことが当てはまります。「数十万円のことで代理人弁護士を立てても…」となる可能性もあります。

 

 とりあえず訴状を書き、それを裁判所に持ち込んで書記官から指導を受けます。証拠のつけ方、納付すべき切手代など教えてくれます。裁判所はいうまでもなく公平な立場ですので当然に「こうすれば勝ちやすいですよ」というアドバイスはなく、あくまでも形式を整える、という意味のアドバイスがあります。

 

 また、いきなり裁判所に持ち込むのも…というときには訴状の下書きのチェックを弁護士に依頼するという手もあります。

 

【私が本人訴訟を経験したきっかけ】

 となり裁判になりそうなトラブルが発生したとき、本人訴訟など全く考えず弁護士に相談しました。どんなトラブルかを正しく理解してもらうために、資料を整え、相談したのですが…

 

 「山崎さん、ここまで資料がそろっていて主張したいこともまとめてあるのですから自分でやった方が良いですよ」

 「どうしてもというのなら受任しますが結局私がやる仕事は極端に言えばワープロ打ち、ということなります」

 「解らない展開になったらお聞きいただければそこのところはお教えします」

 

 という流れで本人訴訟を経験することになりました。

 

【素人が見る訴訟、法の世界】

 私の印象は、「紙の世界」。あらゆるものを紙に落とさないと「ない」ことになります。法廷でどんなに雄弁な主張をし、その場で裁判長がうなずいて聞いていたとしても、それはその場限り。

 

 主張は準備書面や上申書の形でしっかり残さないといけません。

 

 (私は経験していませんが、「証拠にするためにその日起きた出来事を織り込んで会話を録音する」というのを知ってらっしゃる方も多いと思いますが、その場合でも録音から会話を活字に書き起こし証拠提出することになります)

 

 次の印象は、「裁判はゆっくり進む」。

 

 大まかには、「お互いが事前に、あるいはその場で提出した書面を裁判長がチェック」「双方の主張は解りました。それぞれ反論があれば次回までに」「次回の期日、〇月〇日のご都合は」という繰り返しになります。法廷の場で火花が散るようなやり取りの末に裁判所の判断を逆転させる、というのはテレビドラマの中の話のように思います。

 

 ここが素人にはツライところで、どうしても「話が進まない」印象になります。かといって拙速にはしり主張をきちんと聞いてもらえないのも困りますが…公判期日は1か月おきくらいのペースですので書面の交換をしているうちに春が夏になり、秋になり…という感じになります。

 

 余談の上、うろ覚えですがオウム真理教の裁判の公判が月2回ペースだったと記憶します。裁判としては異例のスピードで進めた(裁判所も弁護人もこの事件を最優先した)のだと思います。 

 

 さらに余談ですが提出する書面のフォントはなぜかMS明朝ということになっています。

 

【判決の威力はすごい】

 首尾よく勝訴を勝ち取り、「〇〇万円を支払え」という判決が確定すればそれをもとに改めて相手方に請求を行います。いままでの請求書、催告書と違うのは、判決をもとに差押など強制執行ができることです。

 

【和解の威力もすごい】

 裁判でお互いの主張が対立し裁判が長期化したような場合、裁判所から和解を勧められることもあります。和解というとソフトな語感がありますが、効力は判決と同じで破った場合には強制執行が可能です。

 

 別項で、「金融機関の債務が返せなかったときに訴訟されたら」という記事も準備します。