今回は食物アレルギーに関する“食物(離乳食)の開始時期”についての最近のトピックスについてお話させていただきます。ちょっと難しい話になりますが、食物アレルギーに対する考え方の変化とその理由がわかると思います。
卵アレルギーが心配だから... 「妊娠中や授乳中に卵の摂取を控えていました」「離乳食では遅くに開始しようと思っています」と言われるお母さんがいらっしゃいます。このことは過去のブログ“アレルギーの話 食事制限について”でも触れていますが、以前はアレルギー予防の一般的な考え方として広く受け入れられてきました。しかし、最近ではこのような考え方は“根拠(エビデンス)”の無いこと、つまり実際には有用ではないことと考えられるようになりました。医学的に“根拠”が無いということは、その有用性を示す“証拠や検証結果・臨床結果(一般には論文)”が無いということです。
なぜ、このように考え方が変わってきたのか?それには理由があります。
増え続けるアレルギー疾患への対応として2000年にアメリカ小児科学会は、両親のいずれか、または同胞にアレルギー疾患がある場合“妊娠中の母親のピーナッツの除去”、“授乳期間中のピーナッツ、卵、牛乳、魚類摂取の除去”、さらに“それらの離乳食での開始時を遅らせる”ことをアレルギー予防として推奨する声明を発表しました(ただし、この声明は確かな臨床結果を示す質の高い論文などは無い学会内での総意として提唱されたと考えられています)。
妊娠中や授乳中の卵摂取制限についてのお母さんの発言はこの声明が発信元になっているものと思われます。ところがその後10~15年の間にアメリカにおけるピーナッツアレルギーの患者さんの数は3倍へと増えてしまいました。これに伴い2008年にアメリカ小児科学会は、2000年の声明を否定し“妊娠中、授乳中の食物除去、離乳食を遅らせることはアレルギー予防として根拠の無いこと”と修正することになりました(図)。
2008年は有名なピーナッツアレルギーの研究報告がDu Toitらによって発表された年でもありました。この報告は1歳未満でピーナッツを積極的に摂取していたイスラエルの子どもたちの方が、ピーナッツ摂取を控えていたイギリスの子どもたちよりピーナッツアレルギーになる率が有意に低かったという内容です。その後、さらに彼らは640名の乳児を対象としたランダム化試験という質の高い研究を行い“4~11ヶ月の乳幼児早期にピーナッツ摂取が開始されると絶対的値で11~25%のピーナッツアレルギーの減少、相対的には80%も減少する”という驚きの事実を今年に入って示しました(Du Toit G, et al. N Engl J Med 2015; 372: 803-813)。
これらの最近の報告をもとに、最近アメリカ小児科学会を含む世界10学会から“ピーナッツ摂取開始を遅らせることがピーナッツアレルギー進展のリスクを増大させる可能性がある”、“ピーナッツアレルギーが多い国では乳児期の早期(4~11ヶ月)にピーナッツを含む食品の摂取を開始することを推奨すべきである”という文章を含んだ共同声明が発表されました。
ある食べ物に対して“食物アレルギー”のあるお子さんが、その食べ物を少しずつ食べ続けることによってアレルギーを起こさなくなることがあります。これはその食べ物に対して耐性ができるからで、このことを“経口免疫寛容”と言います(“アレルギーの話3 アトピー性皮膚炎について”でお話ししました)。乳児期の早い時期からピーナッツを摂取することによってピーナッツアレルギーのリスクを軽減することも“経口免疫寛容”が関係しているものと思われます。
卵、小麦、乳製品などにもピーナッツと同様に“経口免疫寛容”が働く可能性が高いと考えられますが、これらの食べ物も早期に開始した方が良いという学会発表も最近散見されるようになりました。また、イギリスでは食物アレルギーに関した“eat study”という大規模な研究も現在行われています。
いずれにしましても、単にアレルギーが心配だからという理由だけで卵、小麦、乳製品等の開始時期を遅らせることのないように離乳食を進めていただきたいと思います。