羊文学『12 hugs (like butterflies)』感想&レビュー【志と繊細さと…】 | とかげ日記

とかげ日記

【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。



●志と繊細さと心強さと

女性ボーカルでスリーピースのオルタナティブロックバンド「羊文学」による期待のメジャー3rdアルバムのレビュー。

《収録内容》
[CD]
1. Hug.m4a
2. more than words
3. Addiction
4. GO!!!
5. 永遠のブルー
6. countdown
7. Flower
8. honestly
9. 深呼吸
10. 人魚
11. つづく
12. FOOL


👆アルバムティーザー

ナタリーのニュースを見ていたら、タワーレコードの意見広告シリーズ「NO MUSIC, NO LIFE.」のポスターに羊文学が初登場することが報じられていた。12月2日からタワレコの店舗で順次掲出しているとのこと。


根本的な価値観があたらしく、優しくなってゆく。
その流れを感じながら、緩やかに取り込めるように、私たちは音楽を作るのだとおもう。


このポスター、彼女らの言っていることがとてもかっこいい…。『12 hugs (like butterflies)』<よーよー訳:蝶のような12のハグ>というアルバムタイトルのように柔らかくあたたかい言葉。漢字を開いてひらがなで表記している箇所に僕の心もひらけていく。僕も羊文学が歌う未来を信じている。

「NO MUSIC, NO LIFE.」ポスターに登場できたのは、レコード会社の推しもあっただろうが、彼女らはハイプ(マーケティングの誇大広告による人気)ではない。実力が伴っていることは確かだ。

最近の羊文学といえば、TVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」EDテーマになり、話題になった#2「more than words」(本アルバムにも収録されている)にうちのめされた。まず、珠玉のメロディに。次に「圧倒的」という形容がふさわしい歌唱力に。そして、ライブで聴いたら超絶気持ち良さそうな轟音でリバービーなギターに。新次元を開くクオリティ。次のステージに進んだ感がある。


羊文学 - more than words

本アルバムからのリード曲では、#5「永遠のブルー」も良かった。葛藤をこれだけディテール豊かに描けていて、バンド名についている"文学"という言葉に遜色ない。この前向きさが救う心もあるだろう。「でも陰では泣いてもいいよな」という歌詞に泣く人もいるだろう。「永遠のブルー」は僕たちリスナーを裏切らない。


羊文学 -永遠のブルー

もう一つのリード曲#12「FOOL」はオルタナ寄りのためか、展開や歌メロは他のバンドに比べると地味にも思える。だが、聴き込むと彼女らならではの華を感じ取れる。そして、歌唱と演奏がやはり良い。歌唱とコーラスは美しく説得力を持ち、ギターサウンドのテクスチャーには志と繊細さが宿る。


羊文学 - FOOL

その他の本作収録曲で気になった曲を見ていこう。

アルバム導入部の#1「Hug.m4a」。m4aとは、音声データを記録するファイル形式の一つM4Aファイルのことだろう。音楽を聴かせるM4Aファイルのように、Hug.m4aはハグの温かさをリスナーに伝える。

#6「countdown」はチルとエモが併存する佳作。曲中で10から1までカウントダウンしているモノノケのような男性の声は誰なのだろう。あと、曲の内容とは関係ないが、曲名に関連して今年末の12月30日のカウントダウンジャパン(邦楽ロックフェス)に羊文学が出演らしいので、頑張ってきてほしい。

#8「honestly」。弱さをさらけ出し、本当の自分を告白する切迫感のある曲。肌色面積の多いアルバムジャケットのように、自分の心奥を吐露し、その吐露を鮮麗に昇華しているところにアートを感じる。オススメ!

曲名どおりリラックスできて、息づかいまで感じられる#9「深呼吸」のたおやかなビートと曲調。イントロのドラムからして穏やかだ。

#10「人魚」はサビのメロディがサカナクション「mellow」のラスサビのように没入感があり、人魚や魚のように深々とした海に潜っていくような感覚になる。

#11「つづく」。前曲「人魚」で海に潜ったあと、歌詞で描かれた「浅い眠りの海の中」にいるような潜伏感のある曲。ウィスパーなボーカルが刹那に可憐で見事だ。

そして、先述した#12「FOOL」で幕引き。銀杏BOYZ(& GOING STEADY)の「BABY BABY」のAメロのメロディをカラッと揚げたようなAメロがまぶしい。この明るいメロディとサウンドで終わるのはリスナーに優しい気がするね。


塩塚モエカさんのボーカルはイノセントというよりも、たくましさやタフさを感じる。歌声が成熟しているからだろう。塩塚さんの繰り出すギターサウンドも骨太で成熟している。#3「Addiction」とか、太いギターの音色には迫力がある。

リズム隊の二人も素晴らしい。背景に退きながらも、ロー(低音)を包み込むように支える河西ゆりかさんの手だれのベース。タメが効いていたり、金物がパシャパシャと心地よく鳴いたりするフクダヒロアさんのドラム。

優しい未来をどこまで信じることができるか。羊文学の本作はその方法のひとつを教えてくれる。飛ぶ蝶のように身軽にヒラヒラと人々が世界とハグできたら、人々も世界ももっと優しくなれるのかもしれない。クリスマスも近いし、僕も羊文学の「1999」を聴きながら暖を取ろう。

Score 9.1/10.0

🦎関連記事🦎以下の記事も読まれたい❣️
羊文学『our hope』感想&レビュー【(諦めなければ)世界は美しい】
👆 第15回CDショップ大賞2023 大賞<青>を受賞した前作のレビュー💿🎖️

羊文学関連記事の一覧(現在、9記事あります🐏)

⭐️オマケ⭐️
若手のバンドでは、ダニーバグがオススメです! 音楽好きな方はもちろん、レコード会社さんや音楽事務所さんはぜひ一聴を🙏


ダニーバグ「my list」
👆このバンドを知らない方を歌の魅力でねじふせる力がある。


ダニーバグ「まなったん」
👆秋元真夏へ歌うバラード。

『とかげ日記』といえば、神聖かまってちゃんと"うみのて"!🦎 最後にうみのての名曲を紹介してこの記事を〆ます。


👆うみのて「SAYONARA BABY BLUE」