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●(諦めなければ)世界は美しい
先日、テレビ番組『めざましテレビ』で羊文学が登場して驚いた。
アーティストが一発録りに挑戦する『THE FIRST TAKE』というYouTube番組があり、今までも錚々(そうそう)たるアーティストや新人が曲を披露してきた。その名誉ある場で、羊文学のフロントウーマンである塩塚モエカが「あいまいでいいよ」を歌う様が『めざましテレビ』で紹介されていたのだ。
レコード会社や事務所の後押しがあるとはいえ、こんなにオルタナティブなバンドがお茶の間に登場するなんて…
しかし、考えてみるとインディーロックファンからメジャーな歌もののファンまで、羊文学は塩塚さんの圧倒的な歌唱力を武器にして刺し貫ける作品を作っていると思う。
そして、本作『our hope』は今までのメロディメイクのクセ(個性)を残しつつ、さらに開けたメロディになっている。インディーロックファンのみならず、お茶の間でも人気がますます席巻しそうだ。
さて、インディーズでデビューした頃から羊文学のことを僕は知っていたが、思えば、「1999」という稀代の名曲が生まれた2018年頃から彼女たちのことを熱心に追っていた。第二の「1999」を作り出してくれないか、と。
この「1999」の前後にも「Step」「マフラー」「砂漠のきみへ」などコンスタントに名曲を生み出している羊文学。でも、特に「1999」がオススメなのだ。オルタナティブな曲としてもポップスとしても名曲で、クリスマスイルミネーションのような華がある楽曲だと思う。
本作には第二の「1999」と呼べるようなポップ&キャッチーな曲はなかったが、オルタナティブな重さを残しつつ、サビのメロディが以前の作品よりも総じて強く素敵になった。「1999」と並び、これこそ僕が求める音楽だと思う。
そう、リーガルリリーを聴く際に第二の「リッケンバッカー」を追い求めていたら、新譜のアルバムの総合力によってそのことは気にならなくなったのと同様のことが羊文学をめぐる僕のリスニングに今も起きているのだ。
また、「1999」ほどキャッチーではないが、この曲に匹敵すると僕が思う曲が本作収録の#2「光るとき」だ。
イントロのギターからして曲名のように輝いている「光るとき」。ギターの音色はドリームポップのようにも聴こえるが、それよりもズシリとした重心がある。そして、豊かな詞とメロディが自分の音楽的/文学的ツボにすっぽりとハマる。混沌の時代にあって個人が求めているのはこういうシンプルなメッセージだったりするのだ。
ここで歌詞を引用しよう。
何回だって言うよ、世界は美しいよ
君がそれを諦めないからだよ
最終回のストーリーは初めから決まっていたとしても
今だけはここにあるよ 君のまま光ってゆけよ
(中略)
いつか笑ってまた会おうよ
永遠なんてないとしたら
この最悪な時代もきっと続かないでしょう
格言(アフォリズム)めいた歌詞に文学を感じる。羊文学というバンド名にふさわしい名曲だ。この曲はアニメ『平家物語』とのタイアップ曲だが、800年の時を超えて語り継がれる『平家物語』のように、「光るとき」も時を超えてほしい。
アルバム一枚としての作品性にも注目だ。「光るとき」以外の曲もみていこう。
#1「hopi」の始まり方からして素晴らしい。"くるり"の良盤『アンテナ』の一曲目「グッドモーニング」で静かでおごそかにアルバムが立ち上がるような始まり方だ。hopiという曲名が指すのはアメリカ・インディアンの一族のひとつであるホピ族のことだろうか。ホピとは「平和の民」を意味するようだが、その曲名のとおり、平和な空気感にくつろげる一曲となっている。次の曲が戦乱の物語である平家物語をモチーフにした「光るとき」であるのには意味性を感じる。
#3「パーティーはすぐそこ」はアップテンポで軽快なナンバー。塩塚モエカさんの歌声は明るい曲にも良く映える。
#4「電波の街」はアレグロのテンポで歪んだギターサウンドの一曲。暗い世相を表現している歌詞が共感を誘うが、聴いていると不思議な希望を感じる。"世界が美しい"ことを演奏のフィーリングが諦めていないからだと思う。
#5「金色」。歌もの路線の時の"きのこ帝国"の音楽性を思い起こした。こんなふうに聴き手にルサンチマンの沼を感じさせずに、嫉妬や欲求不満を昇華して曲にしたためられるのは素敵だと思う。
#6「ラッキー」。このアルバムで「光るとき」に次ぐサビの魅力があると思う。キャッチーな曲調は「ラッキー」という曲名と親和性が高い。
長くなってしまうので、ここからは駆け足でみていく。
#7「くだらない」、#8「キャロル」、#9「ワンダー」。オルタナティブなギター(塩塚モエカ)、ロー【低音】を独特の包容力で支えるベース(河西ゆりか)、曲に寄り添うドラム(フクダヒロア)。それらの楽器隊とボーカルが描くどの曲にも、日常/音楽での気づきが生むアートと日常から非日常に手を伸ばそうとする冒険がある。
#10「OOPARTS」。「オーパーツとは、それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる出土品や加工品などを指す」(wikiより)。曲名のとおり、霊性を感じさせる神秘的なサウンドの曲だ。「地球はオーパーツ 100億年の夢」という歌詞からスケールの大きさを感じる。また、3ピースの羊文学のギター、ベース、ドラム以外の楽器で初めてと思われる装飾音として手弾きのシンセサイザーが加わっているところにアイデアを感じる。
#11「マヨイガ」で鳴る、ためらいがちで迷っているような曖昧なギターの音色。「光るとき」では光、「マヨイガ」では迷い。光にも迷いにもなるギターサウンドの表現の多彩さに目(耳?)を見張る。
ラストの曲#12「予感」は息づかいまで聴こえてくる繊細なボーカルの弾き語りから始まる。その後、ギターの轟音が鳴り響くバンドサウンドに中盤から切り替わる。訴えかけるように寂しげな轟音を聴かせることでこのアルバムが終わることを切実に予期させてくれる。
アルバムを通して、バンドサウンドには力(≠上手さ)と美しさ(≠器用さ)がある。また、抜きん出た歌唱力のある塩塚モエカさんによるボーカルの重ね録りも、計算された緻密なコーラスも質感が素晴らしいし、それだけでも価値がある。
本作『our hope』はタイトルどおり一作を通して希望を描いており、12曲は希望のそれぞれの変奏だ。バンドサウンドと塩塚さんのボーカルは暗夜行路の中で行方を照らす光となる。
Score 9.0/10.0
💫おまけ💫
新進気鋭のバンドでは、プリミティヴな衝動でロックする"ダニーバグ"と、轟音で世界を変える"夜に駆ける(バンド名)"がオススメです。ここでは、夜に駆けるの名曲「化石になろうよ」のMVを貼っておきますね! 羊文学が好きなあなたなら、ぶったまげること間違い無し!!
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