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⚫︎おとなのロック(≠AOR)️
Mr.Childrenによる前作から2 年10 ヶ月ぶりとなる21枚目のニューアルバム『miss you』の感想&レビュー。
《収録内容》
01. I MISS YOU
02. Fifty’s map ~おとなの地図
03. 青いリンゴ
04. Are you sleeping well without me?
05. LOST
06. アート=神の見えざる手
07. 雨の日のパレード
08. Party is over
09. We have no time
10. ケモノミチ
11. 黄昏と積み木
12. deja-vu
13. おはよう
👆本作トレーラー
(こちらからの一方的だが) 僕とミスチルの付き合いは長い。10年ほど前に病気がひどかった時期に僕の心を支えてくれた。精神的な混迷に陥っていた僕を最も救ってくれたのはミスチルの歌だった。それまで、「音楽マニア」の一部が「ダサい」と言っていたため、学生時代の僕もそれに乗せられてダサいと思って敬遠していたのだが、本当につらい時に頭の中で鳴ったミスチルの歌に自分の胸の内を開示できた気がしたのだ。
内省的であることとキャッチーであることを両立してきたミスチル。精神の海の底から僕を勇気づけてくれた。苦悩の底で優しく激しく彼らの音楽が鳴っていた。たとえば、名曲「名もなき詩」は内省で心の奥を掘り進んでいって逆に外に突き抜けた歌だ。そう、掘り進む道の険しさをあるがままの心で表現した傑作なのだ。
ミスチルの歌には、意味性(≒メッセージ)がある。リリックの多彩さと奥行きは、ミスチルファンを公言する笹口騒音さん(うみのてetc)の曲と並ぶものがある。Feel !(感じろ)だけではなく、Think!(考えろ)を歌うミスチルと笹口さんは、意味性がなあなあで曖昧に流されがちな日本のロック/ポップスにおいて貴重な存在だ。
意味性は、何かしらを伝えようとする意思から生まれる。そして、そのリリックの意味性をリスナーへ運ぶ乗り物はメロディとサウンドだ。うみのてだけではなく、神聖かまってちゃんやダニーバグの曲にも意思や意味性、それらを豊かに過不足なく運ぶメロディの美しさを感じる。
ミスチルは僕が小学生の頃から現在に至るまで日本の音楽界でトップクラスの人気を誇っている。ミスチルがデビューした90年代と今では、リスナーとアーティスト達が音楽の何に重きを置くのかが違う。だが、ミスチルが若い層も取り込んで巨大なファンベースを減らさずにやってきたのは、「不易流行」&「温故知新」の精神により、変わらないものと変わっていくものの双方を大切にしているからだと思う。ベテランバンドが陥りがちな「古色蒼然」&「旧態依然」とは違うのだ。
先ほどは意味性の魅力について綴ったが、もちろんそれ以上に音楽そのものとしての魅力にあふれている。それは、音楽としての魅力的な化学反応を起こしているからだ。自分の中にある音楽だけでは手ぐせの域を逃れえない。そこで、意識的なアーティストは意図して音楽性を外から持ってくる。そうして一曲ごとに起こる自らの音楽性と取り入れようとする音楽性を掛け合わせた化学反応が曲を豊かにせしめている。
ミスチルに関していえば、よく言われるビートルズやエルヴィス・コステロ、そしてピンク・フロイド(『深海』で顕著)、U2(社会的な姿勢もミスチルと通じる)、レディオヘッド(話題となった革新的な音源発売方法においても通じる)など幅広い多くのアーティストの音楽性と化学反応し、これまでも名曲を作ってきた。これはカメレオン的に多様な音楽を僕が嗜癖するからかもしれないが、ずっと似たような音楽性で自家中毒におちいる凡百のアーティストとミスチルは違うように思える。
さて、前置きが長くなったが、本作について見ていこう。
モノクロのアルバムジャケットに象徴されるように、リスナーに過度の糖分を与えず、ストイック(禁欲的)に聴かせる。しかし、バンドサウンドからは洗練され研ぎ澄まされたシンプリシティー(飾り気のない簡潔さ)の美の魅力を感じる。僕にとって本作はそんな一枚だった。
「仕事終わりに飲むビールと
年老いた2匹の犬が
僕の帰りを待っている
それだけで良い」
(#5「LOST」)
この歌詞はフロントマンの桜井和寿さんの本音の一つでもあるのだろう。そんなシンプルであろうとする世界観が本作のシンプリシティーにつながっていると僕は考える。
リード曲の「Fifty’s map ~おとなの地図 」を見てみよう。
タイトルは尾崎豊の「十七歳の地図」から取られているという。歌詞に尾崎豊的な世界観(地図)が見え隠れする。「大人」として(懸命に)生きてきた50代の方なら、より共感できるのではないだろうか。
50歳を過ぎても、まっとうにエモーショナルでいられるミスチルメンバーに拍手。老成や諦念よりも前を向く希望を感じられる。筆者の僕も憧れるような良い成熟の仕方をしている。もはや、彼らはチルドレンではない。おとなの成熟を感じさせる一曲だ。
Mr.Children 「Fifty's map ~おとなの地図」MV
もう一つのリード曲である#10「ケモノミチ」を始めとしてアルバム全曲を見ていくと、全体的にマイナー調の曲が多い。聴いていると、しっとりとしっぽりする穏やかな魅惑がある。(「ケモノミチ」は楽ではなかったこれまでの彼らの道のりの叙情が表現され、ミーハーファンの僕もしっぽりと切なくなった。)
👆「ケモノミチ」
その中でも冒険している曲もあり、#6「アート=神の見えざる手」のラップのフローの仕方はスチャダラパーを思い起こさせる。しかし、ラップの内容はスチャダラパーのリリックとは正反対な切った張ったのエロ&グロで脳天を撃ち抜かれた。常人の想像を超えていく芸術性がある。こういう生々しい表現の曲がアルバムに収録されるのがミスチルの作家性でもあるよね。
また、#9「We have no time」のバースの歌詞と歌唱は「ニシエヒガシエ」のように鋭く攻撃的だ。そして、鋭く攻撃的だからこそ、伝わってくるエモーションがある。そこから、SoulとSoulが触れるような耳に直接飛び込んでくる、胸を熱くさせるサビへ。この二層構造が面白い!
さて、総括に入ろう。
昨年発表の配信シングル「生きろ」「永遠」はストリングスが絢爛な大作だったけど、それらよりはストリングスの鳴りが抑制されている。そして、ソングライティングも大文字のロックが小文字のロックになったかのように、キャッチーさが後退したように思える。だが、ラストの曲「おはよう」のように地味だけど滋味と豊かな愛がある、そんなアルバムだと思う。
Score 8.1/10.0
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👆こちらも本記事に出てきた"うみのて"の曲「SAYONARA BABY BLUE」。笹口さんの素晴らしいソングライティングもそれに応えるメンバーの演奏も切実で涙。