MOROHA『MOROHA V』感想&レビュー【突き刺さるラップ、心に触れるアコギ】 | とかげ日記

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●突き刺さるラップ、心に触れるアコギ

ラッパーのアフロとアコギのUKの二人組"MOROHA"による、4年ぶり5作目のニューアルバム。

僕はあれだけファンだったのに、しばらくの間、MOROHAを聴いていなかった(前作のレビューの時もそんなことを言っていた気がする…)。ほどよい熱量の作品が好きなのだけど、MOROHAの音楽は熱量を極端に感じて避けていたのかもしれない。

新譜がリリースされると聞き、久しぶりに聴いたら実家にいるみたいだった。この温かな熱量は信頼に値すると思った。

とりわけ、家族をテーマにした先行リード曲の#8「ネクター」が素晴らしい。自分が心を痛めていることと、ラップの歌詞の情景が重なるとき、この上なく救われたような心地になるが、自分にとって「ネクター」はそんな心地にさせ、自分のことを励ましてくれる、いつもそばにいる家族のような曲になった。僕も父と父方の祖母を最近亡くし、この曲のラップが胸に刺さった。甘いも苦いも噛み分け、"家族"という言葉を何度も畳みかけてくるラップに僕はほとんど感動してしまった。



「家族」といえば、#3「俺が俺で俺だ」は20年前のアフロ(11歳)と20年後のアフロ(51歳)に向けて歌った曲であり、アフロが自分自身に捧げる曲なのだけど、この曲のドラマチックな温かさには、不思議な家族感がある。

他の曲も聴いてみたが、軽快だったり、自分への慰めや怒りだったり、恋人への優しいメッセージだったり、ラップで語られるどの曲の言葉も本物の言葉だと思った。自分のズルさを言葉で討ち、言葉で勝負している、自らの言葉を愚直かつ貪欲に磨いてきた人の言葉だ。自分自身の心をさらけ出すラップでは自己開示の恥ずかしさがあるはずだが、アフロはそれをものともしない。ここまで自己開示するからこそ、リスナーもアフロと同じく胸襟を開いて聴くことができるのだ。また、声にこめた感情は慈愛から怒りまで七色でいつまでも聴いていられる。

MOROHAを見下す人は「言葉」をバカにしていると思う。言葉に対するアフロの真剣さは他に類を見ない。勇壮な決意を歌った戦闘的な#2「スコールアンドレスポンス」もあれば、#7「命の不始末」などリリックをとことん突き詰めて考えられたヘヴィな一曲もある。そして、#9「主題歌」やラストの#10「六文銭」は、彼らの過去の曲ともリンクする、人生を歌ったタフな楽曲だ。言葉によるこの達成に僕は何度も首を縦にふる。

#5「0G」ではスマホのことを歌ったり、#6「花向」では相手が既婚者であるための失恋によるハートブレイクを歌ったMOROHA流バラードだったり、曲によるモチーフも多彩だ。そして、多様なモチーフを納得のいく言葉で描くアフロの語彙力がすさまじい。

もちろん、音楽的に聴いても面白い。音楽としての一つの方向性の極みをそこに聴けるからだ。

#1「チャンプロード」で一曲目からボルテージをギュっと上げていくが、アコギとラップだけなのに強靭なビートを感じる。彼らの過去の楽曲でいうと、「RED」が近いかも。アコギとラップだけでこのビートって、革命的だ。UKはアコギという楽器の持つ可能性を最大限に引き出している。(また、UKはアコギをパーカッシブに鳴らす演奏者の先駆者でもある。前作と前々作のアルバムでその技術を存分に堪能できる。)



そして、#4「エリザベス」のアコギのキラーフレーズと深い音色に注目してほしい。そのサウンドと共に繰り出すアフロのラップは実に優しい。アコギのUKはアフロの七色のラップに叙情豊かな総天然色の味わいを添えるのだ。胸襟を開いて音楽を作るのはアフロのラップだけではなく、UKのアコギだってそうだ。これからMOROHAを聴いてみようという方には、ぜひ心と音が直に触れ合う感覚を味わってほしい。
(また、過去のアルバムを聴く場合、曲の型が作られた時点からリリースまで時間がない曲の方がフレッシュに想いが伝わって良いので、再録ベストアルバムよりもオリジナルアルバムの方をオススメします!)



最近の『とかげ日記』のレビューでは、鑑賞型と没入型の間の二つのグラデーションで音楽を測れるという話をした。その話でいうと、MOROHAの作品はどれも没入型だろう。鑑賞のような生易しい聴き方を許さないドラマ性は無二であり、それゆえリスナーに刺さるのだ。近いうちに「七文銭」を聴けることを楽しみにしています!(と思っていたら、MOROHAへのインタビューによるとこのシリーズは「六文銭」でおそらく最後とのこと。ともかく次作を楽しみにしていますよー。)

Score 9.1/10.0

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