セカオワ『scent of memory』全曲感想&アルバムレビュー【マスクの時代に豊かな香り】 | とかげ日記

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●マスクの時代に豊かな香り

2007年結成のSEKAI NO OWARI(旧称:世界の終わり)、2011年にメジャーデビューしてから5枚目のアルバム。

メジャーなシーンで実直に"うた" を歌うことを引き受けようとする意思を感じる。"うた"の力でリスナーを励まそうとする爽やかで風通しの良いバイブスを感じずにはいられないのだ。

過去に「銀河街の悪夢」という精神病患者応援ソングを歌って弱い立場の人たちを励ましたり、また、東日本大震災復興支援など直接的にチャリティー運動に関わってきた彼ら。彼らは様々な人の想いを背負った活動をしている。

リスナーの想いを背負わなくても良いんだよと言っても、セカオワのメンバーは皆優しいから、背負おうとするのだろう。大森靖子さんや神聖かまってちゃんもその系統だ。(共依存にならないために、の子は自分とファンの境界をくっきりと区切ろうとする言動を取っているが、の子は類稀なファン思いであると僕は思う。)僕も彼らの生き様には勇気づけられている。

セカオワの歌は外向的にも内向的にも突き抜けている。心の奥底を突き進んでいって宇宙が見える。コミュニケートしようとする意思も感じる。この外向と内向のバランスが僕には心地良い。

それでは、各曲を見ていこう。

オープナーの#1「scent of memory」とエンディングの#12「Utopia」はピアノインスト曲。このアルバムに切実な響き(≒記憶の香り)をもたらしている。

#2「Like a scent」はFukaseの半生をあけすけなラップで表現し、セカオワにとって新規軸な曲となっている。Fukaseのラップ、巷のラッパーじゃ太刀打ちできないくらいすごいよ。シャバでの本場ギャングスタラップといった感じ。また、清濁併せ呑むリリックの言葉選びにタブーがなく、すごみとリアリズムを帯びている。

#3「umbrella」 。曲調にはいかにもなマイナーキー由来の切なさゆえの湿り気があり、「umbrella」というタイトルにふさわしい。切なさを盛り立てる、歌謡曲的なメロディの強さもある。Fukaseさんのファルセットが雨水を健気に弾く傘のように切実で清純だ。



#4「陽炎」。Saoriがソングライティングし、ボーカルも録った曲。僕が知らないだけなのかもしれないが、Saoriが歌った曲はセカオワ史上初ではないか。歌に込められたエモーションは終始平坦だが、それがこの曲を個性的にしている。曲タイトルの陽炎も歌詞に出てくる蜻蛉(カゲロウ)も刹那のもので、この曲の哀しみを演出している。

#5「silent」。クリスマスの夜のロマンチシズムに彩られた王道ポップソング。雪の降る静寂の中で歌われる悔悟めいた独白は、センチメンタルな心の音であり、僕の心もその音に共鳴して熱くなる。



#6「周波数」。ポップで軽快な曲調で、すでに亡くなっている人に「See you again」と歌う。この曲は僕が亡父と過ごした記憶の匂いを呼び起こしてくれた。僕も去年に亡くなった父にもう一度会いたい。

#7「正夢」。Nakajinがソングライティングし、ボーカルを務める曲。ナカジンらしい実直さと優しさを感じる。人工的由来のストレスを感じさせない打ち込みが自然で素晴らしい。

#8「バードマン」。朝に起きた時に聴きたい、さわやかで清らかな風と日差しを運んでくる曲。バックのクワイア(≒合唱)が気持ち良く、風通しの良さはこのクワイアあってこそだ。



#9「Dropout」。Fukaseさんの閉鎖病棟経験の想いがつづられている。全編英語詞だが、その意味を知ると、日本語のように自然に頭の中に入ってくる。包み込むような電子音のサウンドの上に乗る深瀬さんのボーカルは儚げで、リスナーを切ない感傷に浸らせる。しかし、儚げであると同時に、誰にも自分の進む道を邪魔させないような純度の高い意思も感じさせるのだ。

#10「family」。Fukaseの2人の妹もゲストボーカルで参加(めちゃくちゃ上手い!)。「銀河街の悪夢」の最後の言葉「ただいま」から繋がっていくようなストーリーの曲。家族の温かさがシンプルなアコギ一本+歌(ところどころ鉄琴のような音も)で表現されている。

#11「tears」。アフリカンな情緒を帯びたタムのトライバルビートがリスナーの気持ちを前へ前へと進ませる。tears(涙)という歌詞の言葉が最後にcheers(乾杯)になるのにはリスナーの僕も胸が熱くなる。



僕がこうして全曲に感想を書けるのは、それぞれの曲が個性的だからだ。各曲に僕にとって語るべき意味があるからなのだ。

世界の終わりみたいに深刻な2021年の状況でも、希望を鳴らすバンドであるセカオワ。地に足のついた希望を歌うために、これまで専売特許だったファンタジーの要素を薄くしたのだろう。これからも応援しています!

Score 8.5/10.0

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