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●迷える羊のための処方箋
ボーカロイド畑出身ならではの細やかさがありつつ、ロックのダイナミズムがある。その細やかさは精緻に作られたガラス細工のよう。米津さんが描いたジャケットの絵のように細部まで美しい。
#1「カムパネラ」から#2「Flamingo」にかけての主張しつつ歌を引き立てる重低音の美味にまずノックアウトされる。#7「優しい人」の厳かなストリングスに心がうずく。#11「迷える羊」はカメラの音のようなSEからして中毒性がある。そして、#12「Décolleté」で魅せる妖しい響きのギター。細かなサウンドの一つ一つに僕らリスナーを夢中にする罠がしかけられている。
また、音楽的な挑戦も見られるアルバムだ。現在の世界におけるヒップホップやR&Bの潮流を通過した刻みをリズムに刻印している。
#3「感電」ではGt.関口シンゴ(Ovall)、Ba. Shyoudog(韻シスト)、Dr. 石若駿(CRCK/LCKS)、MELRAW HONESといった実力派のブラックミュージックアーティストを引き連れてファンクを鳴らす。
他にもたとえば、野田洋次郎(RADWIMPS)とコラボした#4「PLACEBO」ではエレクトロポップに挑む。シティポップにも通じるリズムの甘やかさに米津さんと野田さんの絶妙のボーカルが絡む「PLACEBO」は必聴だ。
ヒット曲「Lemon」を筆頭にメロディも親しみやすい。また、米津さんの声に内包されている優しさは、先述した野田洋次郎(RADWIMPS)の系譜から連なるものだ。優しい声で誠実なメロディを歌い、その高貴な謙虚さは他に類を見ない。タイトなリズムと包容力のある歌声のギャップが麗しい。
#8「Lemon」の歌詞「あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ」とは、「あの日」が何を指すのか具体的にしないのを僕は疑問に感じていた。しかし、ドラマの主題歌になった「Lemon」はドラマの内容と「あの日」がシンクロしていたのだろう。ドラマで描かれる悲しみと苦しみを表現する音楽に視聴者は胸を打たれたのだ。悲しみと苦しみに寄り添うような優しいボーカルに心を委ねたくなる。
本作『STRAY SHEEP』はオシャレな美容室でBGMにかかっていてもおかしくない作りだ。しかし、BGMとして聴き流せない切実さもある。
#9「まちがいさがし」の「まちがいさがしの間違いの方に 生まれてきたような気でいたけど」という歌詞に共感する。この歌詞で描かれる米津さんの不全感は彼の作品の通奏低音だ。そして、「君」や「あなた」に出会い、共に歩んでいこうとする姿も。
終盤の#14「海の幽霊」の突き抜けるようなボーカルに涙腺が緩む。言葉にならない大切な思いを音楽に託している、その深度に泣きそうになる。一つ一つの音に情感がこもり、夏の匂いを運んでくる。
最初から最後まで終始エレガントでドラマチックな歌唱とサウンドを聴ける本作は米津さんの最高傑作だと思う。幅広い年齢層に受け入れられるドラマチックさと、ツウを唸らせる細やかさとダイナミズム。どれも申し分がない。
Score 8.1/10.0
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