●音楽で不思議な旅
相対性理論のライブ盤。一言で言うと、素晴らしい。二言で言うと、とても良い!
曲数は全10曲であり、少なめに思うリスナーがいるかもしれないが、どの曲も密度が濃いので僕は気にならなかった。また、真部さん在籍時の曲もあるのが嬉しい。
一曲目の「ウルトラソーダ」。演奏前のざわめく観客。曲は再構築され、自分の知らないイントロが鳴り始める。その中で自分のよく見知ったギターリフが聴こえ始めた時の嬉しさといったら! 耳に馴染んだ歌詞とメロディーが聴こえてきた時の安堵感といったら! その後もそんな瞬間を交えつつ、音楽を演奏する純粋な楽しさにあふれている。ダイナミズムのある演奏は、小手先のテクニックに捉われない才気を感じさせる。
永井聖一によるクリーンで清らかなギターの音が流れるとそこは別世界。アルバム音源時よりも少し歪んでいると思えるリバービーなギターは、それだけで一つの世界を構成している。タフなリズムを奏でるリズム隊がその世界に肉体を与える。その上に乗るやくしまるえつこのボーカルは、時を止めるかのように可愛らしい。かと思えば、時にボーカルは切実に聴こえる。ファンタジーの中の切実さが相対性理論の楽曲にはある。
「アイラブユーであなたにアクセス。初めまして、相対性理論です」という、やくしまるえつこのMCが可愛いし、素敵だ。音の一つ一つや言葉少なめのMCが相対性理論の作り出すファンタジーな世界観に貢献している。
僕らリスナーは周到に構築されたファンタジーの世界の上で遊ぶだけだ。それはとても楽しい時間で、遊び終わった後もファンタジーの世界をなくした虚無感に襲われることはない。なぜなら、相対性理論の奏でるファンタジーは、現実世界と繋がっているのだから。資本主義はシフォン主義、解体新書はハイファイ新書。僕たちがあくせく生活するその片隅で今も相対性理論の音楽は鳴っている。
8分を超える#9「わたしは人類」の時を自在に操るかのような演奏に僕は感嘆する。キャッチーな歌メロとバイオリン。曲構成はプログレッシブでえらく構築されている。人類が滅んだ後の時空旅行へようこそ! あなたを見知らぬ地平へ連れていきます! 受け手の解釈の幅広さを許容する懐の深さが相対性理論の謎めいた音楽にはある。
◯◯系として消費されることを拒み、凛としてたたずむその音楽的な姿勢にインディー・ミュージックとしての気概を感じるライブアルバムだった。スピリチュアルでありつつ、妄信的でも陶酔的でもない、その霊性的な在り方にも、インディペンデント性を感じた。
本作で演奏をタイトに感じることはあまりなかった。タイトだと聴き疲れするから、これくらいの緩さがちょうど良いのだと思う。
売れ線にも過度なマニアックにも走らないことも、ちょうど良い塩梅。かつて「まっとうな社会性を持って生きていきたいので、オフィスに出勤するような感覚でポップな音楽を作っています」とインタビューで語っていたやくしまるえつこのバランス感覚の良さが活かされていると思う。
ヴィヴィッドな最後の曲「FLASHBACK」が終わった時、眼前に開けるNEW WORLDが鮮やかに見える僕は正気じゃない。相対性理論の作り出すファンタジーな世界と現実世界が重なり合い、現実の軋む音が聴こえる。相対性理論がライブしているというファンタジーは、どこか遠いおとぎの国の出来事のようで、紛れもない現実でもある。現実に鋭く切れ目を入れたその隙間から、豊潤なファンタジーの芳香が漂っている。
Score 8.3/10.0
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