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今年の5月27日、きのこ帝国が活動休止することを発表した。
UKプロジェクト時代はライブに行くなどして熱心に活動を追いかけていたが、最近の僕はきのこ帝国から遠ざかっていた。自身の実存を強烈に音楽に打ち出していたきのこ帝国はもういない気がして…。それでも、新譜が出たら聴くことはしていたのだが。
活動休止に対して感慨は特にない。悲しいとも残念だとも思わない。きのこ帝国は僕の手を離れていったバンドなのだ。
だが、きのこ帝国が大切なバンドであることに昔も今も変わりはない。活動を追いかけた記憶は、僕にとって何にも代えがたい思い出だ。
きのこ帝国には、他のアーティストが人生かけても作れない名曲がいくつもある。彼女らの天才的なソングライティングとアレンジの楽曲を聴き、音楽に希望を持ったことが僕には何度もある。
例えば、「クロノスタシス」。この曲は、コンプをかけたドラムの緊張感が肝だと思っている。それと横ノリのリズムによる弛緩が合わさって、たまらなく気持ち良い一曲になる。この夜風に揺れるような気持ちの良い横ノリは、他のバンドが演奏しようと思ってもなかなか演奏できるものじゃない。
初期の曲では、「夜鷹」と「ユーリカ」が出色だ。
「夜鷹」は、THE BLUE HERBに影響を受けた、スポークンワーズで歌われる曲。星空のファンタジーのようなポエトリーリーディングが、サイケデリックで陶酔感のあるギターの上で、主張しつつ波打っている。歌詞がこれほど耳に入ってきて情景を描く楽曲は稀だ。
「ユーリカ」は、攻撃的なサイケデリックの要素を持ち、リバーブとディレイを泥まみれにまぶして、ギターが悪魔のしっぽのようにとぐろを巻いている。ここまでエクストリームで凶悪的なギターサウンドは聴いたことがなかった! 凶悪的でも、成熟しているため、聴いていても嫌な気持ちになることがない。
直近の曲では、「LAST DANCE」と「夏の影」が好きだ。
「LAST DANCE」も「クロノスタシス」と同じくR &Bの曲だ。サウンドのデザインに無駄がなく美しい。そして、その美しさが切なさを運んでくる。
「夏の影」を聴くと、ここには知らぬ顔で通り過ぎることのできない切実な何かがあると感じる。レゲエ調のサウンドが夏の太陽のようにまぶしい。
しかし、曲の中に実存は感じるが、その実存はリスナーの心を強烈に揺さぶるものではなく、ろ過した上澄み液のように淡いものになっている。
最近のきのこ帝国は儚げな曲調は得意だが、実存を強く感じさせる「夜鷹」や「ユーリカ」のような曲調からは離れてしまった。僕もたまには淡い音楽を聴きたくなるけれども、実存をギュウギュウと詰め込んだ濃密な音楽を聴きたいと思っているので、それで彼女たちから離れていったのだと思う。それでも、「夏の影」は名曲だ。僕も何十回と聴いた。
最新のアルバムである『タイム・ラプス』は曲調もそこまで淡くはないのだが、ポップ寄りであり、実験精神が薄いのが残念だった。しかし、「金木犀の夜」という名曲があり、これも何度も聴いたものだ。
きのこ帝国は曲の良さと音楽性の豊かさ、ボーカルの佐藤千亜妃のカリスマ性でスターダムに駆け上がったバンドだ。きのこ帝国が終わったとしても、きのこ帝国が見せた景色は僕の頭の中で死ぬまで再生され続けるだろう。