BUMP OF CHICKEN『RAY』(2014年)感想&レビュー【過去記事再録】 | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。





昨年のバンプオブチキンは初めて尽くしだった(注:この記事を書いたのは2014年)。

★初のライブ映像集をリリース
★初のベストアルバムをリリース
★初のスタジアムライヴを開催
★そのスタジアムライヴで、初の生映像配信
★初の配信シングル

インタビューでメンバーが語っていたように、
もっとたくさんの人に聴いてもらうために貪欲に考えた結果だった。
そうした昨年の活動の後、リリースされた今回の作品は、
かつてのアルバムにないほど開かれたアルバムになっている。

今回のアルバムについて考える前に、
今までのアルバムの足跡を振り返ってみたい。

3rdアルバムでありメジャー一作目の『jupiter』までは、
初期の衝動にあふれたアルバムだった。
ギターロックの青春性が吹き荒れていた。
そこには切迫感があった。
とかく生き急いでいた。
「ガラスのブルース」で歌われていたように、
いつも全力で駆け抜けるバンプの姿があった。
演奏もこなれていなく、音楽的な語彙も少なかったが、
熱さとセンスで人の心を打つ芸になっていた。
曲の10の器に12の熱量を載せるようなエナジーを放っていた。

その後に出たアルバムである『ユグドラシル』『orbital period』は、
経験値を得た演奏と失われていない熱さが両立したアルバムだった。
「車輪の唄」、「涙のふるさと」など、いくつもの普遍的な名曲が生まれた。

次のアルバム『COSMONAUT』でまたバンプは変わったと思った。
音楽という生き物の扱い方に自由になった。
力を抜いて、音楽的な温かな呼吸だけで人を感動させる技量を身につけていた。
だが、彼らの音楽を聴きながら感じる熱さをぶつける行き先が、
彼らの音楽の中にないとも思った。
熱さの方向性を見失った気がした。

そして、今作『RAY』である。
『COSMONAUT』以上にスケールの大きなロックになった。
言ってしまえば、スタジアムロックだ。
狭い半径の小文字のロックから堂々とした大文字のロックへと
完全な脱皮を遂げたのだ。
大型タイアップの連続や今まで断ってきたベスト盤の発売等と併せて、
古くからのファンには、セルアウトしたといわれても仕方ない内容だろう。
また、以前の矮小で荒れた砂の匂いのような演奏が好きだった身としては、
音に味がなくなってしまったように感じた。
清書の清書である神聖かまってちゃんのの子のソロアルバムのように、
アジカンのアルバム『THE RECORDING at NHK CR-509 Studio』のように、
ニルヴァーナを失ったデイヴグロールのバンド・フーファイターズのように、
音が洗練されて綺麗過ぎて無味乾燥に感じるのだ。

2ndアルバム『THE LIVING DEAD』でリアルタイムで初めてバンプを聴いて感じた、
心の大事なところを深くえぐられるような衝撃や切実さは、
このアルバムからは感じられなかった。
(『THE LIVING DEAD』の衝撃は、
 僕が最も愛するバンドの一つである神聖かまってちゃんに初めて触れた時と
 同じくらい大きなものだった。
 新しい時代がこのバンドによって作られるとまで感じたのだ。)

だが、バンプの音楽の魔法は失われていないとも感じた。
ここには他の音楽では代替できない歌がある。
音自体の面白みとは違う、歌の面白さがある。
音の神通力は失われたが、歌の神通力は失われていない。
音自体を楽しむクラブ文化とは対極で、
バンプの音楽は歌が主人公だ。
誠実さと発見に満ちた歌詞が、
オケの上で温かみのあるメロディに乗って表情豊かに歌われる。
ボーカル・藤原さんの声は今までのどのアルバムよりも多彩な表情をしていると思った。
クラブミュージックにはない文学がバンプの歌にはある。

エレクトロの上を
無意味な言葉がひたすらにリリカルに流れていく水曜日のカンパネラを聴いた後、
バンプのこのアルバムを聴いたら、
なんと血の通った音楽だろうと思った。
優しく自分の心を包んでくれる。
水曜日のカンパネラのような中毒性は『RAY』にはないが、
この音楽に長い間包まれていたい心持になる。

温かい歌が「RAY」-光芒-の下に集まっている。
ロックバンド・つばきの「光 ~hikari~」という曲は
つばきが突き抜けた瞬間が刻まれた名曲だが、
つばきが歌った光とはまた違った、ぬくく希望を感じさせる光が、
『RAY』の全編に渡って貫かれている。

そこにあるのは、百万人に届く歌であるのと併せて、
小さな街のひとりのあなたにも届く歌だ。

「ray」という曲が象徴している。
四つ打ちを導入した曲で軽快だが、SEKAI NO OWARIのように軽くはない。
「大丈夫だ あの痛みは 忘れたって消えやしない」と歌われ、
初期からのバンプの音楽に通奏低音としてある「痛み」が忘れられていない。
光とともに、光によってできる影のことを忘れていないのだ。
今作の中で僕が最も好きな曲だ。

バンプは痛みと共に成長を続けようとする。歩みを止めない。
「ラストワン」で歌われているように、
変われないけど変わろうとする曲の主人公を
一歩引いて見守るような優しい眼差しをどの曲からも感じる。

バンプの歌は、
どの歌も何かを問いかけるときっと自分に合った答えを答えてくれる。
今作を聴いた大勢の人たちが、
今作の曲たちに、自分の側にいる友達のように問いかけるのだろう。

最後の曲「グッドラック」を聴いて、
僕は涙ぐんだ。

藤原さんはこう歌う。
「君の生きる明日が好きさ その時隣にいなくても
 言ったでしょう 言えるんだよ いつもひとりじゃなかった」

これは、ファンの一人一人へ向けたメッセージだ。
バンプの音楽の、ひとりのあなたの光であろうとする意志、
消えない意志の力を感じる。







(この記事は、発売当時に書いて削除してしまった記事を復元したものです。)