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『COSMONAUT』(2010年)以降の作品の中で最も心に響いたアルバム。
前作『RAY』のレビューでは、「セルアウトした」に近いことを書いたのだけど、時間が経って聴き直してみると、バンプオブチキンとしての核を持ったまま、そのままスケールだけアップした感じなのかなと思えてきた。
フロントマンの藤原基央さんは、『MUSICA』のインタビューにおいて、アコギ一本で曲作りする姿勢も、その曲に合うアレンジを施すのも昔から今まで一貫していると語っている。
アコギ一本で曲作りをするという話を聞いて、各曲の弾き語りバージョンを想像してみたら、アコギ一本でも力強い歌がそこにあった。インタビューで自分たちのことを臆病と話している藤原さんだが、臆病だからこそ歌える力強い歌がある。
決してセルアウトした訳ではなく、演奏も上手くなり、やれることの幅も広がって、音の感触が過去から変わってきたということなのかもしれないと思った。
ただ、『COSMONAUT』(2010年)、『RAY』(2014年)と、だいぶ着飾った音のアルバムが続き、昔のような熱のあるもっとむき出しの音のバンプが聴きたいとも思っていた。
本作『Butterflies』は、以前のようなむき出しのバンドサウンドという訳にはいかないが、『COSMONAUT』、『RAY』よりも歌がくっきりと聴こえてくる。そういう音の処理をしているためか、歌の強度が強いためか、強靭なバンドサウンドの中で藤原さんの歌声がまっすぐにリスナーに届く。
リード曲の「Butterfly」のMVが公開された時には、バンプもEDM路線に行くのかと話題になった。ふたを開けてみたらそんなことはなく、リズムが肉感的なタフなバンドサウンドのアルバムだった。
EDMを取り入れたり、肉感的なリズムになったり、それらは最近のライブやフェスの潮流にも乗っている。
南田勝也は『オルタナティブロックの社会学』(花伝社,2014,p.138.)で、現在は身体性の音楽が時代の潮流になっていることを書いている。
精神性の音楽であるロック、フォークが主流だった時代の更に昔はワルツ、ポルカ、タンゴ、スウィングなどの身体性の音楽が流行していた。そして、時代は一巡し、ハウス、レイヴ、EDM、オルタナティブロックなどの身体性の音楽が流行しているというのが南田さんの主張だ。レコードやCDが隅に追いやられ、ライブやフェスなどの興行が音楽業界の主軸になっている今、ライブの場で身体に訴えかける身体性の音楽が流行するのはもっともなことだ。
だが、バンプの曲は身体性だけでなく精神性にも訴えかけてくる。以下に本作の各曲がいかに精神性に訴えかけてくるか、全曲を簡単にレビューしようと思う。
#1「GO」。「歩くのが下手って気付いた」と自分たちの不器用さを歌い、「怖がりながらも」未来を選ぶ。透明感と清涼感のあるサウンドが宝石の光のように透き通った未来を予感させる。
#2「Hello, world!」。ブレずに確かなリズムの足元の上で、「さあ目を開けて」と開放感のあるサウンドの中で歌い、目線を前(世界)に向けさせる。
#3「Butterfly」。EDMを取り入れてもバンプはバンプ。「君」と「僕」と「生きること」と「死ぬこと」を直球で歌い上げる。量産型のような特別でない存在でも、心は自分のものだし、消えてしまう最後まで命を歌うことができるんだ!
#4「流星群」。人は光、人は星。光の交差と交錯から生まれる優しいメロディと言葉。コーラスが夜空の広がりを感じさせる。
#5「宝石になった日」。歌詞の「君」は亡くなってしまったのだろうか? そして、「宝石」になってしまったのだろうか? ギターリフの輝きが宝石のように、「君」との時間の思い出を想い起こさせる。
#6「コロニー」。雨が肌を叩くように音数の少ない穏やかな序盤から、盛り上がりを見せる終盤までの流れは、「揺らいで消えそう」な蜃気楼の世界の中、自分の心の内で強くなっていく思いのようで、胸を熱くさせる。
#7「パレード」。幾分ミステリアスな曲調からは、曲の主人公の迷いが透けて見える。パレードのように次から次へと景色が変わっていき、「どこまでが本当か」分からなくなる世界において、自分の心だけが世界なのだと結論付けている。
#8「大我慢大会」。「平気な顔」したり、「作り笑い」したりして我慢している主人公。この曲の歌詞を見ていると、「鏡見たような気分」になってくる。そういった状況でも自分を鼓舞しようと歌の言葉を紡いでいる。80~90年代の西海岸ロックに影響を受けたサウンドが印象的。
#9「孤独の合唱」。ケルト音楽的なサウンドが、どことなく「車輪の唄」を思い起こさせる。緩いアタックの四つ打ちが、孤独でも君との絆(音やメロディー)を感じながら「遠い場所へ」行くんだという意思を感じさせる。
#10「You were here」。低音だけをバックに歌われる序盤は、歌声の温もりを感じ取れる。バンドの抑揚の効いた切実な演奏がリスナーの心を捉える。「全て越えて会いにいくよ」というラインは、ライブの度にリスナーと別れ、音源で再びバンプとリスナーが出会うみたいだ。
#11「ファイター」。メロディもリズムもどこにも収斂せず、落ち着く所に落ち着かないこの終わり方は、まさにButterfly(蝶)が飛翔したまま終わっていくみたいだ。「涙超えた言葉が/その鼓動から届き勇気になる」という歌詞の言葉どおり、僕は確かにバンプから勇気を受け取った!
その後のシークレットトラックでは、過去のアルバムにいつもあるシークレットトラック同様、バンプのお茶目さが全開だ。この緩い空気感が好き。
アルバムのジャケットの光は、人の心のことなのだろう。命をかけて歌った歌(人の一生)は、光となって他の光と交差する。願わくば、僕もその中の光の一閃になりたいと感じさせるアルバムだった。このアルバムが多くの人に届き、それぞれの人がバンプの音楽の光との交錯を楽しんでほしい。
BUMP OF CHICKEN「Butterfly」