【ライブレポ】笹口騒音ライブ「大笹祭」感想 | とかげ日記

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【日記+音楽レビューブログ】音楽と静寂、日常と非日常、ロックとロール。王道とオルタナティブを結ぶ線を模索する音楽紀行。
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今夜は楽しみにしていた笹口騒音さんのライブ!

今日は笹口さんの誕生日。正確には、うるう年の2月29日なんだけどね! そして、4年に一回しかやってこない誕生日をネタにして、自身を8と4分の1歳と称する笹口さん。

アイドルならあるだろうが、ロッカーが自身の誕生日を祝うために大人数を率いてライブを行うのはなかなかないことだろう。どれだけ自分が好きなんだよっという。でも、僕はそんな、自分が好きな笹口さんだからこそ、彼の音楽に惹かれるのだろう。自分が好きで自分を信頼している笹口さんだからこそ、強烈に自分を押し出す音楽を作れる。

そして、笹口さんという人間は、生来の強烈なオルタナティブ性を持っている。笹口さん自身の核の中は空洞でも、その空洞に流れる気流がオルタナティブなのだ。そのオルタナティブ性に僕の琴線は共鳴している。

笹口さんの2月19日のツイートが興味深い。

「日本では顕著にインディーロックはほぼ死んでる…今日本でインディーといわれる類が我が物顔で取り入れてるブラックほどブラックでないし、ソウルがない、シティほどシティ感ないし、オルタナほど革新的でなく、ロックもパンクもバカ丸だし、ポップじゃない…今日本でがんばってるのはヒップホップYO」

最近の音楽シーンをばっさり切り捨てる笹口さん。

笹口さんは新しくラインでブログを始めたが、やはりここでも既存のシーンの否定から入っている。

笹口さんのツイートを見よ。

「ブログなんて大体男の腐ったようなのがやるもんだけど、笹口のブログは男らしくておもろいんで読んでね」

僕も一ブロガーとして反発を感じなくもなかったのだが(それに個人的でセンシティブな問題として容姿も女顔だし、性格も男らしくはないからね)、既存のブログシーンを否定して新しい思想と価値観をブログ上に打ち立てようとする意志を感じ、このツイートは面白いなと思った。

今夜のライブも最近のライブシーンの常識からはみ出しまくるエキセントリックなものだった。

ライブ開始前、ササデミー賞入選作品と称して1分〜10分程度の映画を複数上映。ササデミー賞とは、笹口さんの曲を元に作った映画の優れた作品を表彰する、アカデミー賞に次ぐ権威のある賞である。名曲「プロポーズ」を元に作られた映画の出産シーンも含めたあけすけのなさには驚いたし、「New Music, New Life」のカバーMVのサイケでドラッギーな歌と映像の作り込みには唸らされた。チープな作りの映画もあって、作品の並びがカオティック。ササデミー賞のプレゼンターは大内ライダー改め大内ライディーン。

その後ライブ開始! まず、日曜大工感あふれる御輿(みこし)に乗って笹口さんが登場。御輿からそのままステージへ。

ウクレレで数曲演奏。笹口さん、声がよく出ている。男らしいしっかりした地声と美しいファルセットとウクレレののどかな演奏が織りなすハーモニーを楽しむ。最後の曲「蝉」では観客に合唱を要求するが反応に乏しく、代わりに「世界に一つだけの花」を歌ってシメに「カナブーン!」と叫ぶ。時事ネタを笑いに絡めるセンスは流石の笹口さん。

次は笹口騒音&ニューオリンピックス。アルバム外の曲もあったが、アルバム『2020』の曲が狂騒の暴風雨に巻き込まれながらアレンジされている。「No!」のギャングスタラップに象徴的なように、強い音圧に負けじと笹口さんのボーカルもシャウト気味になる。シャウト気味なボーカルが時空を歪めるようにライブ会場をより熱狂させる。

大内ライディーンと水中、それは苦しいのジョニー大蔵大臣が出てきて、ササデミー賞の最優秀賞の発表。一時停止画像を効果的に使った動画だった。受賞作は明日YouTube上にアップされるとのこと。

その後、笹口騒音ハーモニカの弾き語りが始まる。地下アイドルと結婚すると言って始まった「プロポーズ」と、途中からバイオリンと鍵盤も加わった「SAYONARA BABY BLUE」は真に胸を打つ演奏だった。笹口さんの強い気持ちが歌に乗り移っていた。強い気持ちが言葉に乗せられて強い言霊になり、強い言霊がメロディーに乗せられて迫真の歌になっていた。しかし、笹口さんが結婚すると言ったのはどこまでが本当なのかよく分からない。

ラストは笹口騒音オーケストラ。アルバム『TomorrowIsland』の曲の他、ぐるぐる回るのテーマなども。多くの人が演奏し、多くの人がその演奏を受け取り、多くの幸せを感じ取る、文字通りの多幸感を覚える演奏。笹口騒音&ニューオリンピックスが狂気を前面に打ち出すのに対し、笹口騒音オーケストラは優しさを帯びた美しさを打ち出していて、そのどちらの編成にも僕の心は動かされる。二つの音楽が共通して持っている、孤高と孤独を守りつつも、仲間がいる喜びもあるという二面性の切なさに僕の心の深淵は波しぶきをあげて共鳴するのだ。

アンコールの大ラスは笹口騒音オールスターズも登場して、演者も観客も踊り乱れる大騒ぎ。そうだ、今日は「大笹祭」。年に一回のお祭りなのだ。

笹口さんは売れるための努力を惜しまない。SNSを縦横無尽に駆使した宣伝、月に何本もやるライブ、複数のユニット形態を行き来するバイタリティ。しかし、音楽は自分の信じる音楽を愚直に貫いている。決して、自分の信義と反する売れ線には寄せない。僕が笹口さんを信頼している理由はそこにあるのだ。笹口さんとそのバンドメンバーには心から売れてほしいと思う。彼の歌の素晴らしさに多くの人が気づいてほしい。