ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ランドマーク』 感想&レビュー | とかげ日記

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アジカンが2012年にリリースした2年3カ月ぶりのフルアルバム。
ひとつ前のアルバム『マジックディスク』に引き続いて
「言葉のアルバム」であると感じる。
Vo.の後藤正文はインタビューで、
「ずっと歌詞に関しては、
 僕の中で言葉の重要性みたいなものが作品を出す度に高まっていた」
と近作では歌詞に重きを置いている旨を発言している。

そして、過去作のどのアルバムのモードに近いかというと、
本人たちの言うように『ソルファ』のモードに近い。
後藤さんはインタビューで
「サウンドに関しては、今みんなが言ったように開けてるし、
 要は『ソルファ』みたいなことをやったんだよね」
と答えている。

『マジックディスク』は後藤さんが
ソングライターとしてのエゴを前面に出したアルバムだった。
『ソルファ』のひとつ前の『君繋ファイブエム』も同様。
『マジックディスク』を発表し、震災を経て、
メンバー同士のセッションで曲が作られていく開かれた雰囲気の中で
『ランドマーク』は作られた。
作曲に関しても、作曲者のクレジットに後藤さん以外のメンバーの名前が載るのは、
『マジックディスク』は「双子葉」の1曲のみだったが、
『ランドマーク』は12曲中7曲もクレジットされている。

後藤さんが書いている日記(9月13日付)を読むと、
「スルメソング」(聴けば聴くほど味が出る曲)という声が
このアルバムの曲に寄せられているようだ。
僕も1回聴いただけでは魅力が分からなかったが、
繰り返し聴くうちに、良いアルバムだと思うようになった。

「リライト」のような即効性のあるキラーチューンは少ないが、
『ソルファ』のように開かれていて、
『マジックディスク』のように言葉が身体と心に染み込んでいくアルバムだ。
そして、重要なのは震災を経た後のアルバムであるということ。
震災を経て以前のアルバムよりも社会性を帯びた言葉を用いているように感じられる。

2曲目の「N2」というタイトルには“No Nuke”の意味も込められている。
おそらく原発を指して、
「資本主義の火葬場
 呪文のように「安心だ」って」
と歌う。
他にも「出鱈目 プライム・ミニスター」や「バレてんだぜ キャピタルモンスター」と歌う8曲目「1980」もある。

社会の出来事を暗に揶揄していると思われる言葉が並ぶ曲もある。
(例えば、
 「緩慢な輪なって
  単純なことになって
  賛成か反対か
  それは何やってるの?

  手と手を取り合って
  ワン、ツー、スリーで追い出して
  異端者は誰だ 異端者は誰だ」
 と歌う7曲目「それでは、また明日」など。)

意味を考え、その言葉を選んだ意図まで考えると辛辣に思える歌詞だが、
抽象性でくるまれた言葉使いをしているため、
ぱっと聴きでは攻撃性を感じない。耳障りが良いのだ。
震災後、詩的な言葉でこれだけ社会の状況を的確に捉えた歌詞を僕は知らない。
アクチュアルでありつつ、普遍的でもある。
これこそ、ロックの言葉だと思う。

歌詞の抽象性について思っていることを書こう。
『ランドマーク』の最後に収められた「アネモネの咲く春に」や、
6thアルバム『マジックディスク』の「転がる岩、君に朝が降る」のような例外もあるが、
後藤さんの歌詞はパーソナルな視点から一歩公的な視点に踏み出している。
後藤さんの感情の直接的でナマな描写、心からの距離が1mm以下な描写はあまりない。
歌詞で表現しているのは素直な自分の気持ちや自意識の吐露だが、
その自分の気持ちや自意識を外向けにろ過したような言葉を使う。
人にとってはそこを見てアジカンはポーズだと言う人もいるだろう。
だが、この距離感がアジカンの魅力でもある。
演奏される音もパーソナルで生々しい露出というよりも、
自意識の直接的な吐露を避け、オープンマインドで外に向かって鳴らされる音だと感じる。

次にアルバムの構成を見ていく。
このアルバムは2部構成になっている。
後藤いわく、アナログ対応で曲順を考えていて、
6曲目までがA面、7曲目からがB面だと言う。

チャットモンチーの橋本絵莉子と一緒に歌う
パンキッシュな「All right part2」でアルバムは幕を開ける。
ポップ&キャッチーかつ開放的であり、突き抜け方が素晴らしい。
アルバムの入り口としての役割を果たしている。

この曲と2曲目「1.2.3.4.5.6.Baby」,4曲目「AとZ」は歌詞に言葉遊びの要素がある。
あいうえお順,数字順,アルファベット順に歌詞の言葉が並んでいる。
こういう仕掛けがあるのも、このアルバムの面白いところだ。

「朝(あ)
 居間のソファーの肘掛け(い)
 うずくまる猫と(う)
 エディと言う名の模型(え)
 起き抜けに濃い珈琲を注いで(お)」
(「All right part2」)

「斜めになって(7)
 蜂になって 集めた密で何を作ろう(8)
 苦しくなるなら(9)
 遠のいて(10)」
(「1.2.3.4.5.6.Baby」)

「ABCで書き殴れもっと(ABCD)
 EFGの英知だけずっと(EFGH)
 IJKじゃ得るモノはないか(IJKL)
 MNOがピークならキューを(MNOPQ)」
(「AとZ」)

次に「N2」。音も歌詞の意味合いもヘビィなギターロック。
サウンドのかっこよさで深刻さが薄らいでいる。
声に加工が施されているのが面白い。
そのせいで歌詞の内容が聴きとりにくくなっているが、
クリアーな言葉で歌われるよりもグル―ヴィーでこの曲に合っていると感じる。
社会的な出来事を音楽の俎上に載せるためのアジカン流のやり方だろう。

サビの盛り上がりや途中のファルセットの歌唱が印象的な「1.2.3.4.5.6.Baby」を経て、
名曲「AとZ」へ。
『ファンクラブ』の「バタフライ」が好きで、
王道よりも邪道な曲が好きな僕としては、この曲、好きです。
ダークなイメージでありつつ、
パーカッシブでファンクな香りもする、アジカンにないタイプの曲。
サビの盛り上がりの気持ちよさは筆舌に尽くしがたい。最高!

「1.2.3.4.5.6.Baby」と通じるクリアーで抜けの良いギターサウンドが印象的な5曲目「大洋航路」。
2曲とも同じギターの音色を使っているという。

「大洋航路」が終わるとA面の最後の曲であり、ハイライトでもある「バイシクルレース」へ。
『未だ見ぬ明日に』に収録の「ムスタング」が好きな僕は、
同じように静かに叙情的に始まるこの曲の始まり方が好きだ。
イントロと同じ音を使い、もの寂しげに終わるアウトロも好きだ。

A面が終わるとB面の1曲目(アルバムで7曲目)「それでは、また明日」。
王道すぎるくらい王道の疾走感のあるギターロック。
この曲も好きだ。おすすめします。
メジャー感があり、映画のNARUTOのタイアップに選ばれたのもうなずける。

8曲目「1980」は80's感があるサウンドとギターリフで踊らせるダンスグルーヴの曲。

9曲目「マシンガンと形容詞」は、
「新世紀のラブソング」などの『マジックディスク』の曲の延長線上にあるサウンドの曲。
呟くように歌うトーキング・ボーカルが印象的だ。
ba.の山田貴洋の演奏がいい。グリスに不思議な魅力がある。

そして10曲目「レールロード」は被災地に向けて哀悼の意を示した曲。
前半の情景描写のあと、
「音をたてて進め 未来へ続くレールロード」とサビで歌う歌唱が力強い。

次の11曲目「踵で愛を打ち鳴らせ」はB面のハイライト。
サビで清涼感のあるコーラスとともに「オールウェイズ」と
繰り返しにぎやかに歌う部分が気持ちいい。
「踵で愛を打ち鳴らす」とは音楽を聴きながら足でステップを踏むことらしい。

直接的に「頑張ろう」と言われて勇気づけられる人もいると思うが、
この曲の歌詞はもっと複雑で詩的な「頑張ろう」だ。

「哀しみは膜のよう
 細胞を包むように いつでもそこにあって
 楽しみは泡のよう でも
 どうか君よ 嘆かないで」

優しさを感じる。頑張ろうと思える。
歌詞で「頑張ろう」とだけただ言われるよりも、
もっと頑張ろうと思えたのならば、それが文学の成した効果だ。

「直接、自分に言葉が、メッセージが宛てられているように感じるのが文学的であるということ。」
これが僕の文学観で、
その意味合いでは、この曲の歌詞はとても文学的に感じる。

そして最後の曲「アネモネの咲く春に」。
この曲は3つの手紙で構成されている。
まず被災地の悲しみに対して手紙を書いて、
原発に端を発した人間の欲望について手紙を書き、
最後に親愛な人たちに向けて照れながら最後の文章を書いている。

この3つの手紙は、
被災地支援を行い、「THE FUTURE TIMES」の発行という社会的な活動を行っている
後藤さんの問題意識とつながっているだろう。
そういった活動を行いつつ、
「いつかまた君と会う日を願う
 コーヒーは今日も苦いです」
と照れながら、親愛な人へ向けて照れながら愛を歌う。

この曲を聴いて、
ああ、僕は後藤さんの人間性が好きなんだなと思った。
真面目すぎるくらいに真面目で、
ときには屁の話をしたりするユーモアをあわせ持つ。
そんな彼の活動や話や音楽は、
どこまでも人間的であり、音楽的だ。
これからも応援し続けたい。

『ランドマーク』を聴いて、
アジカンや後藤さんを好きになる人が増えてくれたら嬉しい。
アジカンと一緒に未来を見よう。希望はなくても、僕らに未来はある。

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