吉田大八監督 映画「桐島、部活やめるってよ」感想&レビュー | とかげ日記

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小説すばる新人賞を受賞した朝井リョウによる同名の小説を、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の吉田大八監督が映画化。

なんていびつな映画なんだろう、と観終わって感じた。同じ日を違う視点で何度か繰り返すアンバランスな構成,映画のタイトルにもなっている物語の中心人物・桐島が画面に全く出てこない構成,スッキリしないラスト,どれもいびつだ。普通の娯楽作品のお決まりの物語進行とか、構成とか、そういうものに対して少々飽きがきているような人にはこのいびつさが楽しめるだろう。僕は娯楽作品も好きだが、こういう作家性の強い作品も好きなので結構楽しめた。

でも、いびつさの中に思春期特有のまっすぐさ、不器用さが巧く描かれていて好感が持てる。それを支えるのは主役の神木隆之介君を始めとする役者の好演。役者たちによる皮膚感覚でリアルな会話。自分の高校生活を思い返すよりもリアルだ。「役者が演じている」ということを感じることなく、映画の中の登場人物として役者を見れる。それにしても、橋本愛のミステリアスさはなんなのだろう。胸がキュンとする← ドラマ『セクシーボイスアンドロボ』が好きだったので、大後寿々花が出演しているのも良かった。主題歌を歌う高橋優も、不器用ながらまっすぐな歌を歌わせたら天下一品。作品にハマっていた。

ドラマの中では生徒同士の間のヒエラルキーも描かれていた。運動部の生徒が文化部の生徒をバカにして見下して、文化部の生徒が運動部の生徒を陰でバカにする。そのあたりの描写も手が込んでいる。僕は帰宅部で、友達とテレビゲームやカードゲームして遊んでいた。クラスの中心派閥からはきっとバカにされていただろう。そんなことを思い返しながら見ていた。だから、映画の中の神木君やその他の冴えない映画部の連中に感情移入していたのだろう。だからこそ、映画のラスト近くの描写では手に汗を握った。放たれる「こいつら全員食い殺せ!!」の号令。そして、大笑いした。この衝撃のシーンはぜひ劇場で確かめてほしい。

少しセンチメンタルな気持ちになって、少し笑って、少しイラっときて、少し残念な気持ちになって、そんな色々な「少し」なシーンが詰まった映画。大がかりな仕掛けでワっと沸く映画ではないけれど、登場人物たちの感情の微細な揺れ動きが胸に来る。とても良い映画だと思う。見終わった後、若い観客の「意味わかんねーよ」という声がそのまま運動部のイケてる連中の発言と重なった。


映画『桐島、部活やめるってよ』予告編