片頭痛発作時には「脳内セロトニンの低下」が分かっており、現在、発作時にはこの「脳内セロトニン」を補填するために”トリプタン製剤”が使用されています。
そのため、片頭痛の発作回数を減少させるには「脳内セロトニンを増やす」とよいのです。
「脳内セロトニン」の前駆物質であるトリプトファンを食物から直接取り入れるのです。
脳内セロトニンを確実に増やすためには、いろいろな問題がありますので、この点について詳しく述べていきます。そう単純なものではありませんので・・・
さらに、巷では、セロトニンを増やすための方法として、単にバナナを積極的に食べる、とかサプリメントで簡単に増やせばよいといったことを宣われる”輩”が未だに絶えないため、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生に詳しく・分かりやすく解説してもらうことにします。
レバーを食べても脳内セロトニンは増えません!
ところで、あなたがふだんから健康に高い関心を持っている人だとしたらー・・ 「セロトニンを増やすの? それならトリプトファンをたくさん含んでる食べものをとればOKよ!」というかもしれません。さすが、よくご存知ですね!
そう、セロトニンは「トリプトファン」というアミノ酸を原料としてカラダのなかでつくられます。だから「正解!」……といいたいところですけれど、それではせいぜい正解率は50点がいいところです。
じつは、腸や血液に含まれる大部分のセロトニンは、脳に入っていきません。つまり、単純にトリプトファンが多い食べもの、たとえば「牛レバーやバナナをせっせと食べよう!」なんて本や雑誌を見かけることがありますが、実際にそうしたからといって脳内セロトニンが単純に増えるわけではありません。
トリプトファンが多く含まれる食品をとることは、たしかに大事です。でも、そこにはちょっとしだ工夫”が必要です。その工夫とは、“トリプトファンのとり方”にあります。
腸内や血液中のセロトニンは脳に入っていきませんが、トリプトファンはちゃんと脳に入っていくことができます。ですから、トリプトファンをたくさん取り込むことができれば、脳内セロトニンも十分につくることが可能になります。ここまでが50点。
ただしーここからが大切です。-トリプトファンが通る場所に問題があるのです。実はここ、ほかの必須アミノ酸も通っていく場所(専門的には、脳血液関門)なのです。
どういうことかを説明します。
この必須アミノ酸というのは、「フェニルアラニン」とか「口イシン」というものですが、食品によってはトリプトファンよりもこれらの必須アミノ酸のほうが多く含まれるものがあるのです。するとどうなると思いますか?
これらの必須アミノ酸がトリプトファンの邪魔をするため、トリプトファンが通過しづらくなってしまうのです。その代表的な食べものが、肉類や乳・乳製品なのです。
つまり、牛レバーにはトリプトファンよりもほかの必須アミノ酸が多いため、実際には思ったほどトリプトファンが摂れない、というわけです。
結局、トリプトファンが多いだけではダメで、それと同時にフェニルアラニンとロイシンの量が少ないことも大事だということです。なかなか簡単にはいかないのです。
肉類はともかく、乳・乳製品が大好きな女性はきっと多いはず。
お肉を食べるときは、野菜や果物はもちろんのこと、「いも類」を一緒にとるのがおお勧めです。一番いいのはしっかりとご飯(米)を食べること。パンやパスタ、ピザなどの小麦製品、牛乳や乳製品中心の食事ばかりでは、いつまで経っても脳内セロトニンは増えることはありません。
もう一工夫でストレスに負けないからだに
脳内セロトニンの働きと増やし方、わかってくれましたか?
人間にとって、とても大事なセロトニンの原料はトリプトファン。それを効率よく取り込むためには、必須アミノ酸(フェニルアラニン、ロイシン)との含有比率が大切だということです。
ここでさらに一工夫!
トリプトファンはセロトニンになるだけが仕事じゃなくて、セロトニン以外にも「ナイアシン」(=ビタミンB3)になります。
しかも、トリプトファンからセロトニンがつくられるときと同様、「補酵素」として「ビタミンB6」が使われます。つまり、トリプトファンは同じ方法で、セロトニンとナイアシンになるというわけです。
注目すべきは、ここでもさっきのフェニルアラニンやロイシンの場合と同じようなことが起きるということ。つまり、ナイアシンのほうが優先的につくられ、セロトニンは残念ながら後回しにされてしまうのです。どうしてセロトニンにはこんなに敵が多いのか……。
でもまあ、ものは考えよう。要するに、そもそもナイアシンが不足しなければいいのです。つまり、ナイアシンたっぷりの食事をとり、あとは補酵素として使われるビタミン類やマグネシウム、亜鉛なんかもしっかりとるように心がければいいのです。
ナイアシンは、糖質・脂質・タンパク質の代謝に欠かせません。口内炎になるのはナイアシン不足が原因です。
補酵素とは、酵素が体内で十分に働くために必要な成分です。
ビタミンB6 食品・腸内細菌
↓ ↓
トリプトファン ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ビタミンB3(ナイアシン)
(60個) ↓ 優先 (1個)
↓
→ → → → セロトニン
↑
ビタミンB6
亜鉛
マグネシウム
BCAAが多い環境では脳への取り込みが阻害され、脳内セロトニンがあまり増えないことがありますので注意が必要です。
BACCとは動物性蛋白質に含まれており、食品では牛乳、鶏卵、マグロ、牛肉などが挙げられます。食べ物はバランスが大事なので、極端に摂取を制限すると逆に体調不良の原因になるので注意です。
牛乳、鶏卵、マグロ、牛肉の摂り過ぎは「脳内セロトニン」不足を招くことに繋がりますので、注意が必要です。
トリプトファン比の高い食品を摂ることと筋肉を付けることが脳内セロトニンを増やすための第一歩なのです。
決して、ダイエットと称して筋肉量を落としてはいけません。
また、運動量が少ないにも拘らず、トリプトファンを多く含むからと言って、お肉などの動物性タンパク質や牛乳・乳製品を摂り過ぎてはいけません
運動量の少ない方はトリプトファン比の高い大豆製品などを努めて摂りましょう
トリプトファン比の低い食品と高い食品
トリプトファンをほとんど含まない食品にはコラーゲン(人の酵素では消化はしません。悪玉菌のエサにはなります)、ゼラチン(効率はよくありませんが消化はします)、トウモロコシなどがあります。
体にはアミノ酸プール(体内ではタンパク質の分解と合成が常に起こっていますので、さまざまなアミノ酸がプールされているように考えられています)がありますので、これらの食品を食べたからといって直ぐにはトリプトファン不足になる事はありません。
しかし、日常から多くを摂り続けますとセロトニン不足以外にもビタミンB3不足などさまざまな悪影響を生じます。
次にトリプトファン比の小さなものとしては、小麦、食パン、アーモンド、小豆、牛肉(サーロイン)、牛乳、落花生などがあります。
これらの食品の摂り過ぎに運動不足が加われば脳内セロトニン不足の可能性が高まります。
トリプトファン比の高いものとしてはお米があります。サツマイモ、大豆、レバー類、マグロ(赤身)などもほぼ同じ程度です。
これら食品以上にトリプトファン比の高いものには、全粒そば、サトイモ、ゴマ、ココア、ニンニクやトリプトファンの量的には少ないですが、カボチャ、ごぼう、小松菜、春菊、大根葉、ニラ、ブロッコリー、もやし、えのき、しいたけ、のり、こんぶなどがあります。
果実類でトリプトファンを比較的多く含むものに、バナナやキウイフルーツがありますが、キウイフルーツのトリプトファン比高いですが、バナナは小麦やお米の中間程度で特に脳内セロトニンに好ましいと言うアミノ酸組成ではありません。
セロトニン合成にかかわる酵素、補酵素やトリプトファンを原料とするビタミンB3の不足を起こさない
セロトニンを増やすためは、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB6、およびマグネシウム、亜鉛・鉄の不足を起こさないことが大切です。
トリプトファンはセロトニンの原料であると同時に、ナイアシンの原料でもあり、ナイアシンの合成が優先されます。
そのため、ナイアシンが不足していますと、折角、脳内に取り込まれたトリプトファンもナイアシンの合成に使われてしまい、セロトニンの合成へはまわってきません。
ナイアシンは魚介類や肉類などの食品に含まれており、腸内細菌により産生もされますので、適量の魚介類・肉類を摂食し、腸内細菌を健全に保っている限りにおいて、ナイアシンの摂取不足を起こすことはありません。
この条件が整った状態で、セロトニンはトリプトファンを原料として、ビタミンB6、亜鉛、マグネシウムなどを補酵素として合成されます。
ビタミンB6は、ニンニク、唐辛子、マグロ、カツオ、レバーなどに多く含まれています。
亜鉛の多い食品は牡蠣が有名ですが、牛肉にも多く含まれます。
マグネシウムは非常に不足しやすいミネラルですので、ニガリやマグネシウム水溶液から日常的に摂るのが好ましいでしょう。
これらのビタミン剤やミネラルはサプリメントである栄養素を多く摂ったからといって効果が上がるというものではなく、全ての栄養素の不足を起こさないというのが改善のための基本となります。
一つでも成分が不足しますと、一連の反応は進まなくなります。
特に偏食も無く、平均的な食事をしていても、マグネシウムは最も不足しやすい栄養素です。
以上から、「脳内セロトニンを増やすための食事」は・・
○肉類や乳・乳製品など動物性のタンパク質をとり過ぎないようにする
○芋類、野菜類、きのこ類、海藻類を努めてとるようにする
○コラーゲンなどのゼラチン類をとらない
○パン、パスタ、うどんなどの小麦製品にかたより過ぎない(米飯、そばを適宜とる)
○トウモロコシやその加工品、種実類(アーモンド、落花生)、小豆(あんこ)をとり過ぎない
○トリプトファン比率の高い果実類(キウイフルーツ、柿)、種実類(ゴマ、ココア)、魚介類(カッオ、しじみ)を努めてとる
○ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB6、マグネシウム、亜鉛を多く含む食品をとる
○筋肉を鍛える(筋肉量を増やす、または落とさない)
○腸内環境を健全に保つ
「セロトニン生活」の効果が現れるまでは最低3カ月は必要です!!!
こうした「脳内セロトニンを増やす方法」の効果が現れるまでは最低3カ月は必要です。
決して焦らずに行うことが大切で、多くの方々はその効果が出現する途中で諦めているのが実情です。根気強く行うことが重要になってきます。
どうして、このように”まどろっこしい”のかを認識しておく必要があります。それは・・
セロトニン神経は各細胞のセロトニン受容体に向けてセロトニンを送るのですが、自分自身に対してもセロトニンを分泌しています。脳の神経系細胞は末端から軸索というケーブルを使って他の神経細胞と繋がっており、データの伝達を行います。この軸索を通して戻ってきたセロトニンを受け取るのがセロトニンの自己受容体で、受容体の数が多いとセロトニンの放出を抑えようとする働きがあるのです。
もう少し、詳しく言えば、セロトニン神経にはオートレセプター(5-HT1A 自己受容体)という機構が備わっています。セロトニン神経が興奮すると、オートレセプターを介して自己にネガティブフィードバックをかけ、増えた活動を抑えてしまうという、やっかいな特性です。このため、簡単にはセロトニン神経の活動レベルは高く維持し続けられません。
このオートレセプターの数が多いと、普段からセロトニン神経は抑えられる傾向にあり、逆に、オートレセプターが少なければ、セロトニン神経の活動レベルが高く維持されることになります。したがって、オートレセプターの数を調整することが、セロトニン神経を弱めたり、鍛えたりする時に、大切なポイントとなります。オートレセプターは一種の蛋白ですから、遺伝子の発現を変えるような持続的な変化が加わり続ければよいわけです。
どうするのかといえば、オートレセプターを絶えず繰り返し刺激し続けてやると、やがてオートレセプターの数が適応性に減少していきます。オートレセプターを形成する遺伝子の発現にオフの調整がかかった結果と考えられます。このプロセスが完成するには、数週間から数ヶ月を要します。この点は重要なことです。
このことは、坐禅が一朝一夕には極められないこと、また、やり続けなければならないという経験則、すなわち「只管打坐」に対応します。毎日坐禅を繰り返し実践すれば、セロトニン神経が繰り返し賦活され、オートレセプターも繰り返し刺激を受け続けます。数週間もすると、オートレセプターの数が減少して、セロトニン神経の活動レベルが普段から高いレベルに安定するということになります。坐禅はただひたすら継続してこそ意味がある、すなわち、道元のいう「只管打坐」ということは、セロトニン神経の自己抑制回路によって説明可能なことを示しています。
それでは、坐禅の呼吸法と関連づけて、セロトニン自己受容体の増減を考えてみましょう。坐禅の呼吸法がセロトニン神経を活性化することは、これまで証明されて来ました。
この活性化を「絶えず」継続していると、セロトニン自己受容体が繰り返し刺激されることになります。その結果、自己受容体を発現させる遺伝子にフィードバック制御がかかり、オフの側にスイッチされます。やがて、セロトニン自己受容体の数が減少し、それは、自己抑制機能の減少に繋がります。このような構造的な変化の結果、セロトニン神経の活動レベルが恒常的に高く維持されることになります。
このことを道元は「只管打坐」の仏法として我々に伝えています。ただひたすら坐禅を毎日継続すること、それだけで良いし、それ以外に最良の道はない、と説いています。
また、坐禅をやめれば、元の木阿弥ということになってしまいます。この経験的に得られた真理は、セロトニン自己受容体の遺伝子によるオンオフ制御ときわめてよく対応します。只管打坐はセロトニン自己受容体の遺伝子をオフにし、自己受容体の数を減少させ、結果として、セロトニン神経の活動レベルを恒常的に高いレベルに維持させることになります。これが、道元の「只管打坐の仏法」に関する神経科学的な解釈です。
毎日30分が基本
絶えずセロトニン自己受容体を刺激し続けるということは、二十四時間連続して、という意味では決してありません。三十分間のリズム運動を毎日、継続することが必要で、かつそれで十分なのです。継続して刺激し続ければ、必ず、自己受容体にフィードバックがかかります。それは、興奮を抑制に逆転させますから、むしろ、期待した効果とは反対になってしまう可能性があります。やりすぎは禁物。頑張りすぎは疲労によるマイナス効果も招きます。30 分という時間は、呼吸法時の脳波測定から、セロトニン神経を活性化する最適の時間と判定されました。それ以上では、逆に自己抑制のフィードバックが出現して、反対の効果になると考えられます。したがって、早朝にお線香一本分が燃え尽きる時間、坐禅をすれば十分なのです。ただし、それを毎日繰り返すことが、セロトニン神経を鍛えるのには不可欠です。そして、約100日継続すれば、やがてセロトニン神経に構造的な変化が現れ、恒常的に高い活動レベルが維持されるようになります。
このように、「セロトニン神経を活性化」させる方法は「座禅」だけではありません。
今回は、座禅という方法で説明しました。毎日”セロトニン活性の行為”を継続すると、セロトニンの分泌量は徐々に増えていきます。具体的なイメージとして、初めは「3」であったのが、やがて「5」や「7」まで増えて維持できるようになります。それには3ヶ月ほどの継続が必要となります。ですから、継続しないと意味がありません。
以上まとめますと、セロトニンの合成量はオートレセプターといって、ある範囲内にセロトニン量を治める体の仕組みがあり、たとえ急激にトリプトファン量が増えたからといっても直ぐにセロトニンの合成量が増えるのではありません。
ですから、トリプトファンのサプリメントを摂ったからといっても、また、血液脳関門を通過できるセロトニンの中間体(セロトニンを増やすサプリメントとして市販されている)を摂ったからといっても、直ぐに脳内セロトニンが増加するということではありません。むしろ、一時的にはオートレセプターの逆作用によってセロトニンの合成量が減少してしまうことになります。
少し、わかりにくいお話かもしれませんが、要は、脳内セロトニンを増やすというサプリメントなどを飲んだからといって、短期間、且つ容易に脳内セロトニンの合成量を増やすことはできないということなのです。
決して、焦らないことが肝要とされています。根気強く行っていきましょう。
じっと我慢の子です・・・