第2章 「健康的な生活を送る」ためには | 頭痛 あれこれ

頭痛 あれこれ

 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

「健康的な生活を送る」ためには


 「健康的な生活を送る」ためには、ミトコンドリア・腸内環境・生理活性物質が重要な”鍵”となり、生命の根源ともなるべき役割を果たしています。
 このなかでもミトコンドリアはその”要(かなめ)”となり、私達の体を構成する細胞の中にあり、食事から摂取した栄養素から生きるために必要なエネルギーを作り出しています。エネルギーを常時たくさん使う細胞であるほど、ミトコンドリアの数が多く存在し、ミトコンドリアは、私たちの”活力源”とも言えるものなのです。


 私達が日中活動している際に、常時活動している神経系がセロトニン神経系です。
 このようにエネルギーを常時たくさん使うセロトニン神経系は、ミトコンドリアの働きが悪くなりますと、ミトコンドリアでエネルギー産生が十分に行われないために、同時にセロトニン神経系の働きまで悪くなってきます。
 セロトニン神経系は、”大脳皮質を覚醒させ、意識のレベルを調節する、自律神経を調節する、筋肉へ働きかける、痛みの感覚を抑制する、心のバランスを保つ”などの重要な働きをし、「健康的な生活」を送るためには欠かせない働きをしています。


 「健康的な生活」とは、生まれつき体に備わっている「生体リズム」に沿った生活ということを意味しています。
 この「生体のリズム」は「ホメオスターシス(自然治癒力)」によって維持され、「体内時計」により刻まれ、「体内時計」は「ミトコンドリア」・「セロトニン神経系」により制御されています。


 「ホメオスターシス・恒常性(自然治癒力)」には自律神経、内分泌系、免疫系の3つの働きが深く関わっており、3つの相関関係は「ホメオスターシスの三角」と呼ばれます。
 自律神経系には、セロトニン神経系が、内分泌系として、生理活性物質が、免疫系には、腸内環境が主に関与しています。
 セロトニン神経系はミトコンドリアと連動し、自律神経を調節しています。
 生理活性物質のエイコサノイド は、必須脂肪酸のオメガ3とオメガ6で作られ、必須脂肪酸は生体膜(細胞膜)を構成しており、ミトコンドリアの機能を左右します。
 腸内には、ミトコンドリアが最も多く存在し、腸内環境の悪化はダイレクトにミトコンドリアの働きを悪化させることになります。


 ホメオスターシスはストレスなどに大きく影響されます。
 例えば自律神経を失調させるストレスは内分泌を乱し、免疫力も低下させてしまいます。
 この3つのバランスが崩れてホメオスターシス機能が保てない状態になると、”頭痛”を肇とするいろいろな”体の不調”が現れることになります。


 先述のように、私達の身体の細胞にはミトコンドリアという小器官があり、ミトコンドリアは糖と脂肪酸の代謝とアミノ酸の代謝などエネルギーを産生するのに必要不可欠な働きを担っていることから、「自然治癒力」を正常に保つにはミトコンドリアを働きを良好に維持することが必要です。


 私達の生活環境は活性酸素・有害物質に満ち溢れており、ここ50年間の間のうちにミトコンドリア自体の働きが人間界において、悪化していることから、同時に起きている「セロトニン神経系の機能低下」と相まって、「姿勢の悪さ」を引き起こしやすい状況にあります。私達は日常生活を送る上で、前屈み・うつむきの姿勢を強制される生活環境に置かれていることから、「姿勢の悪さ」が起きやすい生活環境に置かれています。
 このような「姿勢の悪さ」は、猫背や前屈みの姿勢ですと、胸郭を大きく開いての深呼吸ができなくなり、結果的に「低酸素状態」となり、ミトコンドリア優位のエネルギー産生にならなくなることから(後述します)「健康的な生活を送る」上に、さまざまな悪影響を及ぼします。当然、頭痛を起こす原因にもなります。


 ここに、さらに「運動不足」、「栄養のアンバランス」は「健康的な生活」を送ることを阻害する要因になってきます。

 

 


(1)ミトコンドリア


 ミトコンドリアとは、私達のからだの組織・臓器を構成する個々の細胞のなかにある小器官で、私達が生きるためのエネルギーを作っており、生命活動に直結する役割を果たしています。


 ミトコンドリアは、通常では長さが1~4ミクロン、大きさが0.5ミクロンで、バクテリアとほぼ同じ大きさです。
 このように、ミトコンドリア自体の大きさは、バクテリアと同じ大きさですが、体全体からみれば、全体重の10 %を占めています。
 骨格筋や心臓、肝臓、腎臓、脳などエネルギー代謝の盛んな臓器・器官の細胞ほどミトコンドリアの数は多く、それだけたくさんのエネルギーをつくり出すことで、神経・筋肉を動かしたり、心臓を働かせているわけです。
 ミトコンドリアが最も多く存在するのが「腸」です。つまり、腸内環境を整えておくと、「ミトコンドリア・エンジン」も効率よく働きます。
 さらに体の中でミトコンドリアが多く分布している場所は、「背中」です。背骨を支える「脊柱起立筋」という筋肉は、体の中で最も長い骨を支えるため、赤筋が最も多く存在している筋肉なのです。次いで、下肢、太ももです。


 生物の細胞の中には、必ずミトコンドリアが共生しています。このミトコンドリアこそ、私達の祖先が取り込んだ好気性の生命体なのです。第1章で述べたことです。


 ミトコンドリアは細胞内で細菌のように見え、実際、昔、真核細胞生物に入り込んだある種の細菌がその先祖であると考えられています。
 このように、ミトコンドリアは細菌的な性質を有していることから、他の細菌類と同じように抗生物質により殺傷される可能性が高いのです。
 細菌に近い生物であったミトコンドリアにも少なからずダメージを与えます。特に片頭痛の素因のある人は、ミトコンドリアの数がもともと少なく、またミトコンドリアの働きが悪いために、その影響を受けやすいのです。


ミトコンドリアは細胞核にあるDNAとは違う、独自のDNAを持っています。


 片頭痛では、このミトコンドリアの働きの悪さ(活性低下)という”遺伝素因”が存在し、この”ミトコンドリアの働きの悪さ(活性低下)”が、ミトコンドリアDNAによって、母親から子供に受け継がれることになります。
 このように、先祖代々、主として母系家族から継承されてきます。
  

 ミトコンドリアの活性が低くなると、細胞が活動するために必要なエネルギー発生量も少なくなります。その結果、器官や組織を構成する個々の細胞のエネルギーの不足が直接的に器官の機能低下を引き起こすことになります。
  

 そして、このように先祖代々引き継がれたミトコンドリアDNAは活性酸素によって傷つきやすい特徴があります。


 細胞は増える時に、自らの遺伝子をコピーします。このコピーですが、時々間違ってコピーされることがあります。この間違いを塩基置換と言います。
 また、コピー時だけでなく、何らかの刺激などで、DNAの配列が変わってしまう塩基置換もあります。塩基置換は致命的なときもありますが、なにも影響がなかったり、少し影響したりする場合があります。
 塩基置換は生物が環境に適応するのに、とても大切なことです。
 もし遺伝子が完璧にコピーばかりされていたら、環境が変化した時、その生物はそれに適応できずに絶滅してしまいます。
 このように生活環境によってミトコンドリアDNAは変化してきます。
 ミトコンドリアDNAの塩基置換は通常の核DNAと比べると、5 ~ 10 倍早いとされています。
 私達の体は約60兆個の細胞からなりますが、老化に伴いその数が減少します。
 ミトコンドリアは大量の酸素を消費しており、その過程で多くの活性酸素を発生します。 これにより細胞が酸化障害され、ミトコンドリアDNAに損傷が蓄積するとミトコンドリアの機能も障害されます。
 異常なミトコンドリアが多い細胞では必要なエネルギーが産生できなくなり、細胞の自殺(アポトーシス)を起こしやすくなります。
 特に、エネルギー代謝が盛んな骨格筋や神経細胞では、ミトコンドリアの劣化に伴うアポトーシスが原因で機能も低下します。
 お年寄りの体が小さくなったり機能が低下するのは、このようなミトコンドリアの劣化やアポトーシスが原因の1つとなっています。


 このように生後、ミトコンドリアの働きを悪化させる以下に述べるような要因が加わることによって、ミトコンドリアDNAは変化してくることになります。


  「ミトコンドリアの機能を悪化させる要因」      表1
 

    1.生活習慣の問題
 

       睡眠不足
       運動不足
        食べ過ぎ・過食
       早食い・ドカ喰い・・インスリン過分泌
       薬剤による影響・・とくに市販の鎮痛薬

 

  2.食事内容の問題
 

      マグネシウム不足
       必須脂肪酸の摂取のアンバランス 
       鉄不足
       食生活の欧米化・・腸内環境の悪化
  

    3.生活環境の問題
 

      活性酸素    野菜不足・・抗酸化食品の摂取不足
       有害物質
    

    4.年齢的な問題


      女性ホルモン(エストロゲン)の分泌低下


 いろいろな原因でミトコンドリアDNAが傷つくことによって、活性酸素で身体が”酸化”していく全身病が、「後天性ミトコンドリア病」です。
 このようにして傷つけられたミトコンドリアDNAの数が一定数を超えくるとエネルギー産生能力が低下し、片頭痛を発症させ、さらに「後天性ミトコンドリア病」が発生してくることになります。このことも第1章で述べたことです。
 卑近な例では、水や食生活、放射能汚染や環境汚染、有害物質の蔓延などや酸素不足などを原因として、後天的に発症するミトコンドリア病です。
 このように、片頭痛という”症状”は生活習慣病そのものであるということです。


ミトコンドリアは「生命エネルギーの製造工場」


 ミトコンドリアは“細胞のエネルギー生産工場”とも言われ、グルコース(糖)・脂肪を原料として、“生体のエネルギー通貨”と呼ばれる「アデノシン三リン酸(ATP)」を合成しています。ATPは体内で日に延べ50~100 kgが作られていますが、そのうちの約95%はミトコンドリアによって作られています。また、ATPをつくる過程では水がつくり出されており、その水は「代謝水」と呼ばれ、身体の水分保持において重要な役割を果たします。
 こうして、ミトコンドリアは「生命エネルギーの製造工場」とも呼ばれています。


「解糖系」と「ミトコンドリア系」


 エネルギーの産生システムは、「解糖系」と「ミトコンドリア系」という2つのプロセスに分けることができます。
 解りやすく言いますと、人間には細胞内に、性質の異なる2つのエネルギー工場があるのです。
 解糖系とミトコンドリア系のエネルギー産生は、専門的には、嫌気性(酸素を嫌う)と好気性(酸素を好む)と呼ばれています。
 私達の体は、嫌気性(酸素が嫌い)代謝の生命体と、好気性(酸素が好き)代謝の生命体が融合して出来ていると言われています。
 このように、エネルギー産生の仕組みには、解糖系とミトコンドリア系の2つのがあります。この、両者の調和がとれてこそ、健康が保てるのです。


 「解糖系」は、酸素を使わず、糖質を分解してエネルギ―をつくり出します。
 「ミトコンドリア系」は、酸素を使って、食事で得られた糖や脂肪、タンパク質や解糖系で生まれたピルビン酸を材料にエネルギ―をつくり出します。


 「解糖系」は、細胞質で、酸素を使わず低体温の環境で働きます。ピルビン酸を経由して乳酸をつくり出す過程で、ATP(アデノシン3リン酸)を瞬時につくります。グルコース(ブドウ糖)1分子当たり、2分子のATPが生成されます。
 骨格筋(白筋)、精子、再生上皮細胞、骨髄細胞、ガン細胞など分裂の盛んな細胞は、解糖系のエネルギ―を主体に活動します。瞬発力と分裂に使われます。


 「ミトコンドリア系」は、ミトコンドリア内で、酸素を使って高体温の環境で働きます。グルコース(ブドウ糖)1分子当たり、36分子(計38分子)のATPが生成されます。 「解糖系」の18倍、あるいは19倍の効率で、安定的にエネルギ―をつくり出すことができます。骨格筋(赤筋)、心筋、脳神経細胞、卵子、一般の細胞などは、ミトコンドリア系のエネルギ―を主体に活動します。
  ミトコンドリア内でのATPの産生は「TCAサイクル」と「電子伝達系」です。


 例えば、瞬時にエネルギーが生み出せる解糖系=無酸素運動は、短距離走のように素早い動作を行うときに必要になります。実際に試してみると分かりますが、人は全速力で走るとき、息を止めて無酸素状態になっています。
 そうでなけれは全力疾走はできません。素早い動作というのは、すべてが嫌気性の無酸素運動なのです。もちろん、無酸素の世界は長続きできるものではありません。
 全速力で走るとすぐに疲れ、動きが止まってしまいますが、それはブドウ糖が分解される過程で疲労物質である乳酸などが作られるからです。そのため持続力が必要になるときには、解糖系からミトコンドリア系のエネルギーに切り替わります。
 マラソン選手のように長時間にわたって運動が持続できる人は、ミトコンドリア系をうまく活用しているのです。


 このため「解糖系」と「ミトコンドリア系」の2つのエネルギー産生のバランスがとれた生き方を心がける必要があります。


細胞内のエネルギーシステムは、年齢により変化します 


 このように、解糖系とミトコンドリア系のエネルギーを必要に応じて使い分けていますが、年齢によっても変化します。


・20歳位までは、解糖系が優位
・20~50歳代:解糖系とミトコンドリア系の比率が1対1
 (年代により、多少の比率は変わります)
・40~50歳代:解糖系からミトコンドリ系への移行が強くなります。
・60歳代以降:ミトコンドリア系が主体


  年齢とともに、無理が利かなくなったと感じるのは、ミトコンドリア系への移行が進んでいるからとも言えます。ですから、年齢=体のエネルギーシステムにあった生活の仕方(無理をしないなど)も必要になってきます。


 子供時代は解糖系が優位ですが、大人になると、1対1になり、60代以降、解糖系が縮小し、最期を迎えます。
 このように、エネルギー産生のしくみには、解糖系とミトコンドリア系の2つのがあります。この両者の調和がとれてこそ、健康が保てるのです。
 このためには、解糖系とミトコンドリア系の2つのエネルギー産生のバランスがとれた生き方を心がける必要があります。


乳酸アシドーシス


 解糖系が働きやすい環境は、低体温、低酸素、高血糖の3条件です。
 主として解糖系でエネルギーを得ている「低体温」「低酸素」「高血糖」の状態が、エネルギーの低下した状態なのです。
 解糖系でATPを作るには、大量の糖質が必要になり、大量の乳酸を排出して身体を酸性に傾けます。ということは、糖質を過剰に摂取すれば、エネルギー産生系は解糖系に傾くことを意味しています。
 糖質の過剰摂取は糖尿病だけではなく、人類の万病のもとです。
 解糖系のエネルギー産生が高まると、炭水化物(ブドウ糖)からエネルギーを作り、その際に副産物として乳酸が産生されます。ミトコンドリア系が十分に働いている場合は、副産物の乳酸も栄養としてエネルギー産生に使われます。しかし、ミトコンドリア系のエネルギー産生能力が低下しておれば、乳酸がエネルギー産生のためにミトコンドリアで利用されないため、細胞内で乳酸が余った状態になります。
 酸性である乳酸が細胞内で余っていくと、慢性的な「乳酸アシドーシス」(pHが本来の状態よりも酸性側に傾く)状態になります。「乳酸アシドーシス」は、乳酸の過剰産生、代謝低下により起こります。このようにして、乳酸アシドーシスの状態になると、ミトコンドリア系はますます働きが悪くなります。


 ミトコンドリアの機能が低下するのは、「低体温」「低酸素」「血液の酸性側への傾き」の状態です。このような状況になると、ミトコンドリアの機能低下によって十分なエネルギー(ATP)が得られないため、解糖系のエネルギー産生が盛んになります。
 このようにして、ミトコンドリア系は働かなくなります。
 ミトコンドリア機能が悪くなれば、解糖系が作ったピルビン酸・乳酸を代謝(還元)できませんので、必ず乳酸が溜まることになります。
 「後天性ミトコンドリア病」(ミトコンドリア系の働きが悪くなれば)になれば、乳酸アシドーシスになるのは、そのためです。
 糖尿病、片頭痛やガンを治すには、高体温、高酸素、低血糖の状態にして、ミトコンドリア系にシフトしていく必要があります。そのためには、ストレスを少なくして(ストレスにうまく対処して)、副交感神経優位の状態に戻していかなくてはなりません。


ミトコンドリアが不調になると・・・
 

 ミトコンドリアの機能が低下すると、ATPが不足するほか、ATPがうまくつくられないことにより活性酸素が増加し、その結果、身体にはさまざまな不調が現れます。
 めまい、動悸・息切れ、疲れ、肌荒れ、貧血、無気力、うつ状態等々・・・
 身体を元気に健康に保つためには、ミトコンドリアを元気にすることが大切なのです。
 ミトコンドリアの数が少なく弱ってくると、細胞が適正に活動するために必要なエネルギー量が不足し、細胞や組織はその役割を充分に果たせなくなります。私達が元気でいられるのは、ミトコンドリアが十分エネルギーを供給してくれるからです。そのため、ミトコンドリアの数が少なく活力が無ければ、その私達の活力もなくなってしまうということです。
  片頭痛もミトコンドリアが弱ることで起きる頭痛ですので、ミトコンドリアをいかに元気にすることができるかが片頭痛を改善させる最大の“鍵“となります。

 

ミトコンドリア系の働きを本来の姿に戻すには、


 先述のように、エネルギー産生の仕組みには、解糖系とミトコンドリア系の2つのがあります。この、両者の調和がとれてこそ、健康が保てるのです。
 解糖系とミトコンドリア系の2つのエネルギー産生のバランスがとれた生き方を心がける必要があります。
 主として解糖系でエネルギーを得ている「低体温」「低酸素」「高血糖」の状態が、エネルギーの低下した状態なのです。
 この「低体温」「低酸素」「高血糖」を改善することなしには、治療効果が上がりにくいし、治療効果も長続きしにくいのです。
 治療効果を上げ、治療効果を長続きさせていくには、体温を上げ、酸素を多く取り込み、血糖を下げる必要があります。このような状態になると、解糖系と比べて効率の良いミトコンドリア系のエネルギー産生が上がって、エネルギーが高まっていきます。
 このエネルギーが高まった状態(病気になる以前の状態)になると、治療効果は上がりますし、治療効果が長続きするようになります。また、治療をしなくても、体が勝手に治していくという本来の状態に戻っていくわけです。
 すなわち、ホメオスターシス(自然治癒力)が働く状態です。


 ミトコンドリア系の働きを本来の姿に戻すには、「低体温」「低酸素」を改善するとともに、ビタミンとミネラルが不足しない状況にすることが大切です。
 ミトコンドリア系では、ATPを作るために、クエン酸回路を働かせます。
 この際に、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、 葉酸、ビオチン、ビタミンCといったビタミンが必要になります。
  ビタミンB2はミトコンドリアの電子のやりとり(電子伝達によりエネルギーを産生する)を円滑にします。
  腸内細菌は、ビタミンB1、B2、B6、そして、葉酸、パントテン酸、ビオチン、ナイアシンというビタミンB群、さらにビタミンKを合成する能力を持っています。
 このため、腸内環境を整えることが極めて重要になっています。


 脳に存在し、精神を安定させる神経伝達物質、セロトニンの95%が腸で作られることが指摘されています。
 なぜ腸内環境を大事にしたいかといいますと、腸内の常在細菌もトリプトファンからナイアシン(ビタミンB3)を作ってくれるからです。常在細菌がナイアシンをたくさん作ってくれれば、その分を体内で作る必要がなくなって、脳内セロトニン用の材料となるトリプトファンを余分に確保できるのです。
 腸内環境が悪いとセロトニンもスムーズに分泌されないことが判明しています。
 便秘や暴飲暴食による腸の疲労状態を改善することが、幸せかどうかを感じることに大きく関係しています。


  電子伝達系があるミトコンドリア膜には鉄は必須です。貧血や鉄欠乏貧血など鉄の不足があると、TCAサイクルや電子伝達系での反応が進みにくいため、エネルギー不足で疲れやすい、強い冷え症(低体温)などの症状が発現し、また脂肪が燃えにくくなります。
 このように、鉄分の不足は、ミトコンドリアのエネルギー代謝がスムーズに行かなくなります。その結果、機能低下を招くことになります。そして、片頭痛を引き起こしやすくなってきます。


エネルギー効率を上げる方法


  主として解糖系でエネルギーを得ている「低体温」「低酸素」「高血糖」の状態が、エネルギーの低下した状態なのです。
 この「低体温」「低酸素」「高血糖」を改善することが大切になってきます。


 体温を上げるには、体を冷やさないことです。冷蔵庫から出してすぐの食べ物や飲み物を避ける、体を冷やす服装をしないことです。また、湯たんぽやカイロや入浴で体を温める、適度な運動を心がけるといったことを行ってください。
 酸素を十分に取り入れるには、深呼吸です。深呼吸は酸素を十分に取り入れるだけでなく、横隔膜を大きく動かすので、静脈血やリンパ液の流れをよくします。また、姿勢に注意してください。猫背や前屈みの姿勢ですと、胸郭を大きく開いての深呼吸ができなくなります。「体の歪み(ストレートネック)」は是正・改善に努めなくてはなりません。


 さらに、食事に気をつけてください。エネルギー源になるのは、糖質(炭水化物)と脂肪です。解糖系でもミトコンドリア系でも、糖質が胃や腸で分解されたブドウ糖をエネルギー源としています。消費エネルギーのうち、およそ60%は糖質が望ましいといわれています。現代の食生活は、主食である「糖質(炭水化物)」が少ない状態になっています。
 睡眠も、エネルギーと大きな関わりがあります。脳の重さはおよそ体重の2%ほどですが、消費するエネルギーは、目覚めているときで、体全体の 20 %ほどだと言われています。起きている間は、エネルギーを作り出して心身を活動させているわけですが、睡眠中はその作用を抑えてエネルギー源を保存しています。深いノンレム睡眠では、エネルギーの消費量は、目覚めているときの40 %程度に下がっています。
 したがって、睡眠時間が短いと、エネルギーを消費しやすくなります。
 また、前向きな「プラス思考」も、行動を促し、結果として体温を上げていきます。うつ状態で低体温の方でも、プラス思考ができるようになって、行動を起こすことができたら、体温が上がってうつの状態から抜け出すことができます。


 もっとも、「低体温」「低酸素」「高血糖」はバラバラで現れているわけではありません。 体温が上がってくれば、低酸素の状態から抜け出し、血糖値も下がります。酸素を取り入れる呼吸をすることで、体温も上がり、血糖値も下がります。


ミトコンドリアが喜ぶ生活


  ミトコンドリアが作るエネルギーで人間の生命は維持されています。


ミトコンドリアを喜ばせる6条件


  ミトコンドリアが喜ぶ状態は、以下になります。


   酸素が多いこと
   体温が高いこと
   腹八分目
   軽い運動
   日光を浴びること
   野菜を十分に摂取すること


 反対に、ミトコンドリアが嫌う状態は、以下になります。


   酸素不足
   低体温
   満腹
   運動不足
   日光を浴びない
   野菜不足


 つまり、深呼吸によって酸素を取り入れ、体温を高く保ち、腹八分目にし、軽い運動を行い、日光を浴び、カリウム40が多く含まれるキャベツなどの野菜をたっぷりとることです。
  ミトコンドリア系が十分に働いていない病気の代表がガン、糖尿病、片頭痛です。
 これらの病気を改善、あるいは予防するためには、「自分が喜ぶ生活習慣ではなく、ミトコンドリアが喜ぶ生活習慣」を意識して下さい。
 ミトコンドリアが喜ぶ生活は、病気の改善や予防だけでなく、若さを保ち長生きする秘訣でもあります。


 これが、片頭痛治療の基本的な考え方です。この章は本書のガイドの役割に相当するもので、詳しいことは改めて述べる予定です。


ミトコンドリアでのエネルギー制御はどのように行われているのでしょうか・・

 
 ATP(アデノシン三リン酸)は、“生体のエネルギー通貨”として重要な物質です。
ATPからADP(アデノシン二リン酸)に変換される時にエネルギーが産生されます。さらには、ADPからAMP(アデノシン一リン酸)に変換される時にまたエネルギーが産生されます。
 すなわち、生体はエネルギーが必要な時、ATPに蓄えたエネルギーを使い、ATPはAMPになるのです。
 このようにして、ATPからエネルギーが産生されます。


 “AMPK”「AMPキナーゼ」


 色々な活動にエネルギーを使うと、ATPが減少し、AMPが増えてきます。ATPの減少を感知して、活性化され、ATPのレベルを回復させるように代謝を調節しているのが、AMP活性化プロテインキナーゼ“AMPK”なのです。つまり、AMP活性化プロテインキナーゼAMPKは、細胞内のエネルギーセンサーで、一番重要なマスタースイッチとしての役割を果たしています。
 いつでも、体内のATP量をチェックしていて、少なくなればATP生産量を増やすように働きかけます。
 ATPが不足しているということはエネルギー不足ということです。
 ですから、脂肪の蓄積よりも、ブドウ糖を細胞内のミトコンドリアに運んで、より多くのATPを作るようにしていきます。
 それと同時に、ATP生産工場であるミトコンドリア自体の量を増やすようにも働きかけます。
 こうして“AMPK”「AMPキナーゼ」はATP産生をコントロールしています。


AMPK : エネルギー代謝のマスタースイッチ
 

AMPKが減ると


 この重要なAMPKが減って、うまく働かなかったら生体にとって大変なことになります。
 AMPKが活性化しないと、蓄えていたエネルギーを有効に使えなくなってしまいますので、脂質や糖などのバランスが崩れ、様々な病気になってしまう危険があります。
 脂質が増えれば、血中のコレステロールやグリセリドの濃度が上がり、血管に悪影響を与え、動脈硬化に繋がるかもしれません。皮下脂肪も増えてお腹周りが増えたり、体重が増えたりするかもしれません。
 血中の糖分が増えれば、血糖値が上昇し、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きが悪くなり、さらには糖尿病に繋がるかもしれません。異常やダメージを受けたタンパク質が増えてくれば、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経退縮性疾患になるかもしれません。

 

AMPKを活性化する方法
 

 AMPKがうまく働かないと様々な問題が出てくることが心配されます。
 では、AMPKを活性化する方法にはどんなものがあるのでしょうか?
 これまでに知られている方法は以下の4つがあります。

 

運動


 日常の運動はエネルギーを使う方向なので運動で消費されたエネルギーを補給するためにAMPKが活性化されますが、この働きは加齢で低下します。


  カロリー制限


 食事量を減らすとさらにエネルギーが必要であるとセンサーに認知され、AMPKが活性化されます。


  メルフォルミン(ビグアナイド系糖尿病治療薬)


  ll型糖尿病患者に処方される糖尿病治療薬で、上昇したブドウ糖濃度を下げます。消化器不良の副作用も報告されています。


  植物抽出物


  漢方のGynostemma pentaphyllum(アマチャヅル)とローズヒップ由来のtrans-tiliroside(アシル化フラボノール配糖体)は、ブドウ糖濃度を下げる強力な作用を示し、メルフォルミンより強くAMPKを活性化します。


カロリー制限でもミトコンドリアが増えます。


  カロリー制限をして摂取カロリーが減ると、当然、その材料であるブドウ糖(グルコース)の外部からの供給が一時的に減ってATP生産量も減ってきます。すると、それを感知したAMPキナーゼが活性化します。この働きにより、先程のようにミトコンドリアを活性化させたり、量を増やしたりしていきます。
 また、カロリー制限をしていると無駄に貯まった脂肪も分解されていきます。
 脂肪細胞に貯まっていた中性脂肪が少なくなっていくわけです。
 脂肪細胞は、ただ単に脂肪を貯め込むだけのものではなく、それ自身が生理活性物質を分泌しています。脂肪細胞に脂肪が貯まり過ぎてぶくぶくになっているときは悪玉物質、脂肪が貯まっていないときは善玉物質が分泌されるようになっているのです。
 そして、善玉物質の1つに「アディポネクチン」というのがありますが、これがAMPキナーゼを活性化する働きも持っています。
 こうしてみると、”適度なカロリー制限”をすることは、二重にも三重にもいい効果が得られると考えられます。


  それでは、「アディポネクチン」とは、どのようなものなのでしょうか。


「アディポネクチン」って何?


 あるときは「やせホルモン」、またあるときは「長寿ホルモン」と呼ばれ、話題になっているものがあります。その正体は「アディポネクチン」と言い、脂肪細胞から分泌されるホルモンの一種です。生活習慣病の対策としても期待されるこのホルモンには、一体どんな働きがあるのでしょうか。


なぜ「やせホルモン」と呼ばれるのか?


 ホルモンというと、内臓などから分泌されるものと考えている人が多いと思いますが、実は脂肪細胞からも分泌されます。脂肪細胞からはホルモンだけでなく多くの生理活性物質が分泌されていますが、そのなかで善玉物質として注目されているのが「アディポネクチン」です。


 なぜ注目されているのかと言いますと、アディポネクチンには脂肪を燃焼させる働きがあるからです。そのためテレビ番組などでは「やせホルモン」と呼ばれたりして、しばしば取り上げられているのです。
 体を動かしてエネルギーが必要になると、脂肪を分解する酵素「リパーゼ」が活性化されて、体内の脂肪をエネルギーとして消費します。また、筋肉にある酵素「AMPキナーゼ」も活性化されて、糖や脂肪をエネルギーとして活用しようとします。つまり、運動することで酵素が活躍して、脂肪が蓄積されるのを防いでくれるのです。
 これに対してアディポネクチンには、運動を行わなくてもAMPキナーゼを活性化する働きがあります。運動をすればもちろん、しなくても糖や脂肪の消費をサポートしてくれるのです。アディポネクチンが分泌されていれば、脂肪を燃焼しやすく、太りにくいカラダになることが可能というわけです。


 アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されているため、脂肪が多く太った人のほうがたくさん分泌されるのでは? と考えるかもしれませんが、事実はその逆です。
 脂肪、なかでも内臓脂肪が多くなればなるほど、アディポネクチンの分泌量が減ってしまうことが分かっています。
 そのメカニズムに関しては、すべてが明らかになっているわけではありません。しかし、その理由として考えられているのは悪玉物質との関連です。脂肪が多く太っている状態は、狭い密室に脂肪細胞が詰め込まれていることを意味します。詰め込まれた脂肪細胞は炎症を起こし、炎症細胞であるマクロファージがそこに近づいてきます。すると悪玉物質が分泌されてしまい、代わりに善玉物質であるアディポネクチンの分泌が減ってしまうと考えられています。アディポネクチンが分泌されるためには、脂肪を貯め込むことを防がなくてはいけないのです。


動脈硬化や糖尿病の予防にも役立つってホント?


 アディポネクチンが注目される理由は、脂肪燃焼の働きだけではありません。
 今、最も注目されている点は、動脈硬化を予防し、改善する働きです。
 血管は加齢によって弾力が失われるだけでなく、糖や脂質などを摂取することで常に損傷していきます。そうすると血管壁にコレステロールがプラークとして付着しやすくなり、血管を詰まりやすくしてしまいます。動脈硬化は高血圧や心筋梗塞、脳卒中を引き起こす大きな原因となってしまうのです。
 アディポネクチンには血管内の傷を修復するだけでなく、血管を拡張する働きがあります。そのためアディポネクチンがちゃんと分泌されていれば、動脈硬化を予防することが可能となり、高血圧や心筋梗塞、脳卒中のリスクを低減できることになります。


 アディポネクチンにはインスリンの効果を高める働きもあります。膵臓から分泌されるインスリンは、私たちの体の中で唯一、血糖値を下げてくれる働きを持っています。
 しかしアディポネクチンの値が低いとインスリンの働きが悪くなってしまい、血糖値が上昇してしまう危険性があります。つまりアディポネクチンには、Ⅱ型糖尿病の予防に対しても大きな期待がかけられているのです。
 また、脂肪を燃焼する働きがあるアディポネクチンの分泌が十分でなければ、脂質の代謝が悪くなってしまいます。このため太りやすくなるだけでなく、中性脂肪の数値が悪くなったり、善玉と言われるHDLコレステロールの数値が低くなったりします。すると、脂質異常症にも繋がってしまいます。
 高血圧や糖尿病、脂質異常症といった病気は「生活習慣病」と呼ばれる病気です。アディポネクチンが正常に分泌されていれば、これらの生活習慣病を防いでくれる可能性があります。そのためアディポネクチンは「長寿ホルモン」とも呼ばれているのです。


 また、アディポネクチンにはガン細胞が増殖するのを抑制する働きがあるのでは、とも言われています。すべてのガンに対してではありませんが、胃ガン、大腸ガン、乳ガン、子宮体ガン、前立腺ガンなどに対して、アディポネクチンの予防効果が期待されています。
 さらに、アディポネクチンが心臓などの臓器にも作用しているのではないかという研究報告もあります。心筋梗塞のあるマウスによる実験では、心筋のアディポネクチンの量が一時的に増加するのに対して、血中のアディポネクチン濃度が一時的に低下するという様子が見られたと言います。これは、血液中を巡回していたアディポネクチンが障害された臓器に集まり、臓器保護作用を発揮している可能性が示唆されていると言うのです。


アディポネクチンを増やすためにはどうすればいい?


 アディポネクチンの分泌を高めるためには、毎日の食事が重要です。
 大豆タンパクに含まれる「βコングリシニン」は、アディポネクチンを増やすと言われています。木綿豆腐には6.6g、絹ごし豆腐には4.9gのタンパク質が含まれています(食品100g中。以下同様)。
 豆腐を凍らせて乾燥させた高野豆腐は、栄養分が豊富だとよく報道されたりします。例えば「高野豆腐は木綿豆腐の約7倍のタンパク質を含んでいます」といった記事などをご覧になったこともあるでしょう。実際、高野豆腐には50.5gのタンパク質が含まれていますが、それは乾燥品100gあたりの数値のこと。市販品の多くは1切れ約16gなので、6切れ以上食べないと100gになりません。それに比べて、約80%の水分が含まれた高野豆腐の水煮に含まれるタンパク質は10.7g。実際に食べるときにはだし汁で戻すわけですから、水煮の数値を参考にしたほうがよさそうです。もちろん納豆や豆味噌、湯葉など、ほかの大豆製品もタンパク質が豊富ですので、積極的に食べるようにしましょう。


 青背魚に含まれるEPAもアディポネクチンを増やすと言われています。青背魚とは、アジやイワシ、サバ、サンマなど、私たちにとって身近な食材です。ただし、EPAは脂肪ですので熱を加えると溶け出てしまいます。刺し身やカルパッチョなど生で食べる工夫をするほか、煮魚の場合は煮汁もいっしょに摂るといいでしよう。ただし、薄味に仕上げるなど塩分の過剰摂取には注意が必要です。EPAを摂取したい場合、青背魚の揚げ物はお勧めできません。揚げ油に溶けたEPAは取り戻すことができないからです。ほかに魚介類では、サケやエビ、カニなどに含まれている赤い色素成分「アスタキサンチン」もアディポネクチンの働きを助けると言われています。「青背魚ばかりでは飽きる」という人は、こういった食材も試してみましょう。
 アルコールも適量であれば、アディポネクチンを増やすと言われています。ただし、1日の適量というのはビールで中瓶1本、25 度の焼酎で0.7 合、ワインでグラス2杯……。酒飲みにとってはなかなか厳しい制限です。
 しかしアルコールを飲み過ぎてしまうと中性脂肪を増やし、アディポネクチンの分泌を阻害することになってしまいます。「お酒を飲み過ぎることがよくある」という人は、アルコールでアディポネクチンを増やすことは諦めたほうが得策です。
 カルシウムとともに骨や歯を形成するのに欠かせないマグネシウムも、アディポネクチンの分泌を助けると言われています。塩化マグネシウムを主成分とした「にがり」を使って作られた豆腐には、当然マグネシウムが含まれています。また、豆味噌や油揚げ、納豆といった大豆製品、あおさやわかめ、てんぐさといった海藻類、さらにはゴマやアーモンド、カシューナッツといった木の実類にもマグネシウムが多く含まれていますので、これらの食材を意識して摂取するとよいでしょう。
 最近注目されているスーパーフードのなかでも、中南米原産の穀類「アマランサス」は特に多くのマグネシウムを含んでいます。マグネシウムだけでなく食物繊維やカルシウム、鉄分も多く含まれていますので、お米を炊くときに少量加えたり、茹でてからサラダにトッピングするなど、摂り過ぎに気をつけながら毎日の食事に加えるのも一つの方法です。