一般に片頭痛は、20 ~ 30 代では鋭い頭痛が時々起こるという経過を辿りますが、これが年代とともに変化してきます。
40 歳を過ぎると、頭痛の鋭さはいくらか和らいでくるので、頭痛がピークに達したときの痛みも少しずつましになってきます。
それに対して、頭痛が起こる回数が増えたり、頭痛が起こってから消えていくまでの時間がだんだん長くなってきます。また、随伴症状である吐き気や嘔吐も、若い時に比べると起こりにくくなってきます。
要するに、全体的にみると、くっきりしていた症状が次第にぼけてくるのです。
そして、なかには慢性連日性頭痛(変容性片頭痛)と呼ばれるように、毎日、頭痛が起こるようになってしまうこともあります。
頭痛が毎日起こるようになったとしても、片頭痛の特徴である「発作性の出現様式」は残っていますから、一日中同じような痛みが続くわけではなく、頭痛が強くなったり、いくらか落ち着いたりして、症状に浮き沈みがあるようになります。
60 歳を過ぎると頭痛は軽くなり、70 歳以上ではほぼ消えてしまいます
さらに年齢を重ねると、片頭痛はだんだんと起こりにくくなってきます。
60 歳までに約80 % の人では頭痛がもう起こらなくなるか、かりに起こったとしても、大して困らない程度の軽い頭痛になります。
70 歳を過ぎると、ほとんどの人で頭痛は起こらなくなってしまいます。
さきほど述べた誘発要因がある場合には軽い頭痛が残ることもありますが、誘発要因があったとしても、大抵の人では頭痛は起こらなくなります。
どうして軽くなるのかについては詳しいことは分かっていませんが、もっともよく言われるのは、若い時に比べると動脈が硬くなっているために血管が拡がりにくくなるからではないか、という説です。
この説の出典がわからなくなってしまったのですが、古い医学論文に、70 歳で片頭痛が続いている人には脳梗塞が少ないと書いてあったのを読んだ記憶があります。片頭痛の軽減や消失に動脈硬化が関係するならば、これは理にかなったことだと思います。
もう一つの説は、てんかんなども高齢化によって起こりにくくなりますが、それと同様に、さまざまな命令系統が「鈍く」なるためではないか、とする考え方です。
いずれにしても、厳密にはわかっていません。最近では年齢とともに薬物乱用になるとする説が唱えられていますが、そんなことはありません。年齢が高くなると頭痛が軽くなってくることは確かなのです。
以上のように寺本純先生は述べておられます。これらをどのように解釈すべきでしょうか?
解糖系とミトコンドリア系
私たちの体は、食べ物の栄養素や呼吸から得た酸素を細胞まで運び、活動エネルギーに変えることで生き続けています。人が呼吸し、食事をするのは、全身の60兆もの細胞にエネルギーの原料を送りこむためであり、こうした燃料をもとにした細胞内のエネルギー産生が生命活動の基礎になっているのです。
エネルギーの産生システムは、「解糖系」と「ミトコンドリア系」という2つのプロセスに分けることができます。
細胞内のエネルギーシステムは、年齢により変化します
解糖系とミトコンドリア系のエネルギーを必要に応じて使い分けていますが、年齢によっても変化します。
・20歳位までは、解糖系が優位
・20~50歳代:解糖系とミトコンドリア系の比率が1対1
(年代により、多少の比率は変わります)
・40~50歳代:解糖系からミトコンドリ系への移行が強くなります。
・60歳代以降:ミトコンドリア系が主体
20 ~50 歳代では、解糖系とミトコンドリア系の比率が1対1(年代により、多少の比率は変わります)であることから、解糖系とミトコンドリア系が同比率で働いています。
解糖系が働きやすい環境である「低体温、低酸素、高血糖」の状況になることによって、この年代では片頭痛発作を繰り返すことになります。
40~50歳代では、解糖系からミトコンドリ系への移行が強くなります。
このため、40歳を過ぎると、頭痛の鋭さはいくらか和らいでくるので、頭痛がピークに達したときの痛みも少しずつましになってきます。
60 歳以降では、解糖系がほとんど機能しなくなるため、片頭痛は自然に消滅しています。
かりに起こったとしても、大して困らない程度の軽い頭痛になります。
これは、「体の歪み(ストレートネック)」が、この年代まで改善されることなく継続しているためです。このため緊張型頭痛を引き起こすため、軽度の頭痛で済むことになります。
しかし、片頭痛治療の世界にトリプタン製剤が導入されて、これを発作の都度頻繁に服用することによって、ミトコンドリアの機能を悪化させることによって、なお解糖系のエネルギー・システムが残存することによって、片頭痛が継続してきます。なかには70 歳過ぎても発作に苦しめられる場合もあります。このようにトリプタン製剤が導入されて以降様相が変化してきています。
女性特有の問題点
片頭痛も緊張型頭痛も共通して「頸部筋肉群の疲労」を基盤として発症すると考えられます。
この根拠として、両頭痛に共通してストレートネックが認められる点です。女性では、「体の歪み(ストレートネック)」が男性に比べ、出現頻度が極めて高い特徴があります。
片頭痛の遺伝素因(ミトコンドリアの活性低下)のない場合は、首の筋肉のこりは、大後頭神経に痛みのみ起きることによって、純然たる「緊張型頭痛」を発症します。
片頭痛の遺伝素因(ミトコンドリアの活性低下)があれば、片頭痛の場合は、「セロトニン神経が働きが悪くなって「痛みの感じやすさ」が存在するところに、首の筋肉のこりの刺激が、大後頭神経から三叉神経に絶えず刺激が送られ続けます。このため、「痛みの感じやすさ」がさらに増強され、常時、脳の過敏性が高まった状態が継続していきます。
片頭痛の基本的な病態は「脳過敏」(脳がちょっとしたことで反応しやすくなることです)にあるとされます。
このように少なくともこうした3つの「脳過敏」を引き起こす要因が次々に追加されることによって、”緊張型頭痛”から”片頭痛”にまで進展していくことになります。
だいたいこうした時期は、女性の場合、初潮を迎える13歳頃に一致します。
この点に関しては、女性は健常男性より 約52% 脳内セロトニンを産生する能力が低く、またセロトニンの前駆物質であるトリプトファンが欠乏すると、女性では脳内セロトニン合成が男性の4倍減少する、と言われています。
女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)は、月経周期でその分泌量は大きく変わります。
特にエストロゲン(卵胞ホルモン)が減ると、それに伴って神経伝達物質であるセロトニンも急激に減ります。
その時に頭の中の血管が拡張することで片頭痛が起こると考えられています。
このエストロゲンが減少するのが排卵日や生理の初日前後です。
つまり排卵日や生理の初日前後にはエストロゲンが減少するためにセロトニンも減少→頭の中の血管が拡張して片頭痛が起こりやすいということなのです。
以上のように、だいたいこうした時期は、女性の場合、初潮を迎える13歳頃に一致します。こうした年代に女性の場合は、片頭痛を発症してきます。
そして、発症当初は、発作の程度も頻度も少ないのですが、これが結婚を契機として出産・育児を経験することになり、これまでの生活習慣は一変します。 具体的には、睡眠時間が、育児に際して、十分に確保できなくなることを意味しています。片頭痛の場合、睡眠時間が確保できませんと、ミトコンドリアの働きを悪くさせ、ひいてはセロトニン不足に繋がってきます。
根底にあるストレートネックは経験的に30歳までに改善させませんと、固定化してきます。
こうしたことから、概して女性の場合、30歳を超えてきますと、とたんに頭痛の頻度も増え、程度も酷くなってきます。
このため30~40歳代の苦難の時期を迎えてしまいます。
さらに特に女性の場合、さまざまなストレスが加わることにより、「脳内セロトニン」不足が持続することになります。
こうした時期になると、鎮痛薬やトリプタン製剤の服用も月に10回を超えるようになり、これがさらに「化学的ストレス」となって(見方を変えれば、鎮痛薬やトリプタン製剤も私達の体には異物です。異物を解毒しようと、ある酵素を出します。この酵素が働く過程でも、活性酸素が発生してしまうのです。このため発作を起こりやすくします)、益々「脳内セロトニン」低下を倍増させてきます。これに対して抗てんかん薬(特に、デパケンは注意が必要です)を追加されることにより、一時的には発作回数は軽減されることはありますが、長期間連用しますと今度は「ミトコンドリア」を弱らせる結果、さらにトリプタン製剤の服用を減らすことができなくなるといった”泥沼の状態”を引き起こしてきます。
まさにエンドレスの状態に至ってしまいます。
さらに、更年期を過ぎてきますと、若い頃のように血管の”しなやかさが失われ”反応性も乏しくなり、片頭痛本来の拍動性頭痛でなく、緊張型頭痛のような鈍い頭痛に変化してきます。
これは、ストレートネックがそのまま持続しているためです。そして、頭痛に加えて、イライラ、不眠、めまいなどの不定愁訴が加わってきます。これが、東京女子医科大学脳神経外科の清水俊彦先生が提唱される「脳過敏症候群」そのものであり、東京脳神経センターの松井孝嘉先生の提唱される「頸性神経筋症候群」に相当します。こうしたことから、うつ状態・めまい・冷え性等々のさまざまな”共存症”を合併することになります。
コエンザイムQ(CoQ10)は年齢を重ねるごとに、その量は減っていきます。
酸化ストレスの増加などが原因で、体のコエンザイムQ(CoQ10)を作る能力が低下するためです。
CoQ10が減ることで、体内のエネルギー生産量が減り、細胞の活力がなくなります。つまり、元気や健康を維持する力が失われ、老化が進んだり、病気になりやすくなるのです。
女性の場合は、更年期を迎えると心身ともに不調を感じることが増えてきますが、それは女性ホルモンのエストロゲンだけでなく、CoQ10も減少しているためと考えられます。
不定愁訴や更年期障害などで悩んでいる人も、CoQ10を摂取することで、症状を軽くすることができるでしょう。
また、CoQ10のもうひとつの働きに、抗酸化作用があります。活性酸素は毒物やウイルスなどを分解する酸素ですが、増えすぎると正常な細胞まで傷つけてしまうことがあります。抗酸化作用により増えすぎた活性酸素を無力化して取り除くことで、細胞が元気でいられます。
私達の体には活性酸素を取り除く手段として、このような「抗酸化物質」が備わっています。
このなかで、スーパー・オキサイド・ディスムターゼ SODの産出能力は25歳から下降しはじめ、40歳を過ぎて急速に低下することが分かってきました。コエンザイムQも同様に40歳を境に減少してきます。
15~50歳女性の80%はフェリチン30以下の鉄不足で、40%はフェリチン10以下の深刻な鉄不足です。
鉄欠乏性貧血にまで至らない鉄欠乏状態である方々は成人女性の約40%存在します。
鉄分の不足は、ミトコンドリアのエネルギー代謝がスムーズに行かなくなります。その結果、機能低下を招くことになります。
このようにして、更年期には片頭痛の様相が変化してくることになりますので、これらに対する対策が必要になってきます。