ミトコンドリアと「体の歪み」 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

日常茶飯事にみられる"ストレートネック"


 現在、頭痛専門医は、ストレートネックは頭痛患者さんに限らず日常茶飯事に見られる所見であり、「頭痛とストレートネック」は、全く問題にならない(エビデンスなし)と一蹴されます。


 私が、この「頭痛とストレートネック」についての調査を行っている最中に、頭痛専門医・神経内科の重鎮とされる岩田誠先生に以下のように、ご指導頂いたことがあります。


 「私の若い頃には、少なくとも日本人の男性では、頸椎X線撮影の側面像において、第7頸椎椎体は殆どの方で肩に隠れて見えませんでした。今ではそのような体型の人は極めてまれです。特に20 歳代から30 歳代の男性では、第7頸椎どころか第1胸椎まで丸見えの人たちが多く驚いています。このような体型の人たちでは例外なく、頸椎前彎が消失しています。日本人の遺伝子構成がここ半世紀で大きく変わったとは思えませんので、食習慣の変化、生活様式の変化などの環境因子が影響していると思います。これが、現代の若い方々において、東京脳神経センターの松井孝嘉先生の提唱される”頸性神経筋症候群”が多発している大きな要因になっているのだろうと思います。」というコメントを頂いたことがあります。


 私は、こういった以前にはみられなかったストレートネックが現在日常茶飯事に見られるように至った理由は「ミトコンドリア」に関連したものと思っております。その理由は以下の通りです。


 ミトコンドリアは“細胞のエネルギー生産工場”とも言われ、グルコース(糖)・脂肪を原料として、“生体のエネルギー通貨”と呼ばれる「アデノシン三リン酸(ATP)」を合成しています。
 ミトコンドリアがエネルギーを作り出す際には”活性酸素”が生み出されます。
 細胞内小器官である「ミトコンドリア」は私達に生きるエネルギーを与えてくれますが、反面、活性酸素を最も多く発生する細胞内小器官でもあります。

 ミトコンドリアを増やし、活性化させると、エネルギー合成時に発生する活性酸素の消去する機能も高まります。しかし、弱ったミトコンドリアの活性酸素を消去する機能は低く過剰の活性酸素が発生し、その活性酸素によってミトコンドリアがさらに弱っていくという悪循環が始まります。


身の回りは活性酸素で満ちあふれている


 実は活性酸素は、私たちが生きていく上で、どうしても発生してしまうものなのです。
 私たちが体に酸素を取り込み、消費する過程で活性酸素は自動的につくり出されます。
 激しい運動をしているときはもちろんのこと、仕事や家事などをしてふつうに生活しているときも、寛いでいるときや眠っているときも発生するのです。私たちは生きている限り活性酸素から逃れることはできません。
 太古、地球の生物が酸素を体に取り込んで生きるようになったときからの、宿命といえるかもしれません。
 もちろん活性酸素が体の中で増える一方だと、人間はたちまち死んでしまいます。
 そのため、私たちの体は活性酸素を取り除く手段を持っています。
 ただ、この手段では手に負えない量の活性酸素が発生したとき、病気や老化が起きるのです。活性酸素の大量発生のきっかけにはさまざまなものがあります。
 体が傷を受けたり、ウイルスが侵入したときもそうですし、太陽光線も原因になります。
 これらは昔から、私たちの体に活性酸素を発生させる原因になってきました。その上、現在では、更に活性酸素を発生させる原因が増えています。
 それが食品添加物や洗剤、化粧品などに含まれる化学物質であり、大気中の有害物質や放射線などです。これらの原因は、昔にはなかったものです。
 豊富な栄養をとっているにもかかわらず、現代人に病気が多いのは、このことが原因ではないかと言われています。
 ウイルスや細菌は、病気を引き起こす元凶ですが、これも活性酸素発生の原因になります。これらの外敵が入ってくると、白血球が出動してきて外敵を殺そうとします。
 このときの武器が活性酸素なのです。白血球が敵の数に合わせて、びったり適量の活性酸素しか出さなければいいのですが、白血球は外敵を確実にやっつけるために必要量を上回る活性酸素をつくってしまいます。その余分な活性酸素が、まわりの細胞まで傷つけてしまうのです。体にとっての異物は、ウイルスや細菌ばかりではありません。
 実は、病気を治すために飲む薬や、空気中に存在する有害物質、そして食品添加物や洗剤、化粧品などに含まれる化学物質も、体にとっては異物なのです。
 これらのものは、つい最近まで、人類の体内に入ることはなかった物質なので、体は異物と理解してしまうのです。
 そして、異物を解毒しようと、ある酵素を出します。この酵素が働く過程でも、活性酸素が発生してしまうのです。
 このように特に、現代の科学や文化の発達が生んだ数々の人工的な要因が、私たちを更このように特に、現代の科学や文化の発達が生んだ数々の人工的な要因が、私たちを更に蝕んでいることが伺えます。


 薬や食品添加物の氾濫、農薬の普及、排ガスによる大気の汚染、水の汚染、原子力の利用による放射線被爆、電気製品による電磁波・・・・・生活環境の変化、破壊はすなわち体内での活性酸素の大量発生につながっているのです。
 昔から受けてきた紫外線にしても、オゾン層の破壊により、増加し続けています。
 こうした要因は、ほんの数十年の間に急速に増えてきたものです。
 私たちの体の働きは、太古から少しずつつくられてきたものですから、この数十年の変化にはついていくことができません。
 体の中には活性酸素を取り除く働きもありますが、人間のミトコンドリアは、活性酸素の発生源が今よりずっと少ない時代につくられていますから、新しい要因が生み出す過剰な活性酸素まで取り除くことはできない状態にあります。
 活性酸素をつくり出す原因がこれだけ増え、体の中には対抗する手段が充分にはないとすると、私たちの体の中には、過剰な活性酸素が存在しているということになります。
 これが現代人の体を蝕み、病気をつくり出しているのです。


 食物の豊富な国に住み、快適な暮らしをしているにもかかわらず、現代社会に暮らす日本人は病気から逃れることができません。
 ガンや糖尿病、心臓病などの成人病の発生が増えているのも、昔はあまりみられなかった喘息や花粉症、アトピーなどのアレルギーが増えているのも、環境の悪化による活性酸素の増加が原因と考えられます。
 日本は長寿大国となりましたが、長寿を謳歌している人の多くは、活性酸素を発生させる要因が少ない時代に育っていることを忘れてはいけません。
 また、昔の日本人の食事は活性酸素を取り除くために理想的な食事とも言われています。
 活性酸素の発生要因に囲まれ、欧米風に変化した食事をとって育っている若い人や子供が、長生きできる保証はどこにもないのです。


 また、高脂肪・高タンパク質食品に偏った食生活を続けると、カロリーのとり過ぎとあいまって、「SOD」(スーパーオキシドディスムターゼ)や「グルタチオンペルオキシダーゼ」、「カタラーゼ」といった、抗酸化酵素”の活性に必要不可欠なマンガン、鉄、銅、亜鉛、セレンなどのミネラル元素の不足を引き起こします。結果、活性酸素の発生が抗酸化作用より常に優位な状態、いわゆる「酸化ストレス」になります。
 偏食や過食は活性酸素の発生を加速し、がんや認知症などの疾患にも悪影響を及ぼします。カロリーのとり過ぎは活性酸素の発生量を増加させ、逆にカロリーを制限することは活性酸素の発生を減少させ、老化の進行を抑制します。


 このようにして「ミトコンドリアの働き」を悪くさせる要因が、ここ半世紀の間に増加してきていることを忘れてはなりません。


 このように、私達の生活環境は活性酸素に満ち溢れており、ここ50年間の間のうちにミトコンドリア自体の働きが人間界において、悪化していることから、同時に「セロトニン神経系」の機能低下が生じているために”脳内セロトニン低下”と相まって、「体の歪み(ストレートネック)」を引き起こしやすい状況にあります。
 (ミトコンドリアの働きとセロトニン神経系の働きは連動しています。)
 ミトコンドリアは、全身を支え、姿勢を整える筋肉グループ「抗重力筋群(脊椎起立筋)」に多く存在し、ミトコンドリアの働きが悪くなれば当然のこととして、容易に「体の歪み(ストレートネック)」引き起こしてくることになります。
 セロトニン神経は直接体を動かすのではなく、筋肉を緊張させることによって、重力に対して姿勢を保つために働く筋肉に働きかけていることから、セロトニンが不足してきますと、セロトニン本来の働きである「正しい姿勢の保持」が、困難となり、「体の歪み」を招来し、結果的に「体の歪み(ストレートネック)」を引き起こします。


 すなわち、脊椎起立筋群に対して、ミトコンドリアの働きの悪さは、”筋肉そのもの”への関与、さらに脳内セロトニンは、”神経系の要因”として、関与しています。
 こういったことから、現代では、ストレートネックが日常茶飯事にみられるようになってきました。


体の歪み(ストレートネック)の作られ方


 私達は、日常生活を送る上で、前屈みの姿勢をとる生活環境に置かれています。特に、女性の場合は、炊事・洗濯・掃除を行う際に”前屈みの姿勢”を日常的にとっています。
 さらに職場では、事務系の仕事が多いためパソコンの操作を終日行うことになります。
 仕事が終われば四六時中スマホ・携帯を覗き込む姿勢をとっています。
 こうした前傾姿勢は知らず知らずのうちに後頸部の筋肉に負担をかけることになります。


 さらに、イスに座るとつい脚を組んでしまう、ヒールの高いクツを長時間履いている、立っている時はたいていどちらかの足に体重を乗せている、横座りをする、立ち仕事や中腰の姿勢でいることが多い、いつもどちらかを下にして横向きに寝ている、または、うつ伏せになって寝ている、長時間座りっぱなしの仕事、イスやソファーに浅く座ってしまう、バッグなどはいつも同じ方の肩にかける、重たい物を持つ仕事をしている、赤ちゃんをダッコしていることが多い、などの無意識に”おかしな体の使い方”をしていますと、知らず知らずのうちに仙腸関節がズレ、骨盤の歪みから脊椎( 背骨)の歪みが生じてきます。
 仙腸関節のズレは、脊柱に影響が及び、ひいては頸椎にまで及び、このようにして、脊柱は捻れてきて「体の歪み(ストレートネック)」を最終的に引き起こしてきます。


 このようにして「体の歪み(ストレートネック)」が作られてくることになります。


 そして、頸椎が一直線で、なおかつ前に傾斜・左右いずれかに傾いておれば、バランスがとれず後頸部の筋肉の片側だけに過剰な張力が常に加わることになり、これが肩こりに繋がり、この”こり”が上部へと拡がることによって鈍い痛み、締め付けられるような痛みとなってきます。これが、専門家が”とるに足らない頭痛”とされている緊張型頭痛です。このように頸椎が一直線で、なおかつ前に傾斜・左右いずれかに傾いている(捻れている)ことが、重要なポイントになってきます。



「脳過敏」、「慢性化」の”3大要因”のなかの「1つ」になります


 そして、「体の歪み(ストレートネック)」が長期間放置され、持続することによって、これも「脳過敏」の要因になってきます。



 「ストレートネック」→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
   ↓                 ↓
   ↓    脊髄を介して三叉神経脊髄路核
   ↓                 ↓
   ↓     中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
   ↓                 ↓
   ↓       脳の過敏性、頭痛の慢性化
   ↓
自律神経失調症状 → 交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
                              (慢性頭痛)


 

 そして、「体の歪み(ストレートネック)」は「脳過敏」「慢性化」の要因になってきます。先日の閃輝暗点を引き起こす要因にもなります。


 片頭痛の遺伝素因(ミトコンドリアの活性低下)のない場合は、首の筋肉のこりは、大後頭神経に痛みのみ起きることによって、純然たる「緊張型頭痛」を発症します。
 片頭痛の遺伝素因(ミトコンドリアの活性低下)があれば、片頭痛の場合は、「セロトニン神経が働きが同時に悪くなって「痛みの感じやすさ」が存在するところに、首の筋肉のこりの刺激が、大後頭神経から三叉神経核に絶えず刺激が送られ続けます。このため、「痛みの感じやすさ」がさらに増強され、常時、脳の過敏性が高まった状態が継続していきます。
 片頭痛の基本的な病態は「脳過敏」(脳がちょっとしたことで反応しやすくなることです)にあるとされます。このように少なくともこうした3つの「脳過敏」を引き起こす要因が次々に追加されることによって、”緊張型頭痛”から”片頭痛”にまで進展していくことになります。



多彩な合併症の原因になってきます


 首にはたいへん多くの神経や血管が集中しています。首の筋肉や関節の異常などによって、これらの神経や血管が圧迫されると、自律神経の働きが乱れ、さまざまな不定愁訴が起きることが多いのです。その症状は、頭痛、吐き気、耳鳴り、めまい、イライラ、不眠など、実に様々です。ときには、こうした不調が自律神経失調症やうつ病など、こころの病気にまで発展することもあります。


 ストレートネックが長期間、放置されて引き起こされる病態が「頚性神経筋症候群」です(東京脳神経センターの松井孝嘉先生による)。結果として、さまざまな自律神経失調症状が引き起こされ、片頭痛の場合には、頭痛発作が「天気」によって左右されたり、光が異様に眩しく感じられたり、めまいが頭痛発作と関係なく出現したり、不眠、不安障害、パニック障害やうつ状態にまで発展することもあります。(これらは片頭痛の共存症とされています)
 また、慢性頭痛に腰痛を伴う原因にもなっています。


 このように「体の歪み(ストレートネック)」は片頭痛の場合、片頭痛がミトコンドリアの機能障害による頭痛と考えれば、片頭痛と「体の歪み(ストレートネック)」は明らかに因果関係があると考えられることになります。


 片頭痛の場合、「ミトコンドリアの働きの悪さ」が生まれつき存在し、このため同時に「セロトニン神経系の機能低下」が存在することから、これに生活習慣の問題点が加わって「脳内セロトニン低下」がもたらされ、この2つの要因によって、姿勢保持が困難となり、前屈みの姿勢が長期間に渡って持続する生活環境によって、容易に「体の歪み(ストレートネック)」を形成しやすくなることになります。


 このように、体の歪み(ストレートネック)は、慢性頭痛発症の基本骨格ともなり、これが「脳過敏」「慢性化」の要因ともなり、体の歪み(ストレートネック)を無視した、慢性頭痛の治療はあり得ないことになります。


 以上、体の歪み(ストレートネック)は、ミトコンドリアの関与から考察されるべきものです。しかし、学会を主導される方々には、慢性頭痛とミトコンドリアの関与を一切考えないことから、「頭痛とストレートネック」は、全く問題にならない(エビデンスなし)と一蹴されます。これは、全世界の頭痛研究者の共通した考え方です。
 こうした考え方は、緊張型頭痛と片頭痛は一連の連続した頭痛でありながら、緊張型頭痛と片頭痛はまったく別の範疇の頭痛であり、緊張型頭痛を軽視というか無視され、片頭痛こそ重要な頭痛としか考えていないことを如実に示すものです。これが何を意味しているかを、きちんと整理しておく必要があります。