前回は、片頭痛は、”ミトコンドリアのエネルギー代謝異常あるいはマグネシウム低下によって引き起こされる脳の代謝機能異常疾患”であると考えられていると述べました。
今回は、片頭痛の発生機序に関連した「閃輝暗点」とミトコンドリアとくにマグネシウムとの関連について述べます。多少、専門的すぎるのですが、大切なことですので・・・しばらく辛抱して下さい。
片頭痛には,前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛の2種類があります。前兆のある片頭痛は目がチカチカしたり,手がしびれたり,言葉が出なくなったりという前触れがあってから大きな拍動性の頭痛が来るのが典型的なパターンです。
この目がチカチカする現象を「閃輝暗点」と表現しています。
マグネシウム欠乏は、『皮質拡延性抑制』(これは以下で説明します)を発生させ、三叉神経刺激へと繋がり、片頭痛を発生させるといわれています。米国の研究では、400mgのマグネシウムを毎日補充すれば3~4週間後に片頭痛の頻度が減るという報告もあります。
マグネシウム欠乏は、細胞の興奮性を増します。その結果、神経の過興奮・不安定が生じ、拡延性抑制を発生させます。片頭痛トリガーが起動します。
現在、この『皮質拡延性抑制』を抑える治療薬は開発されていませんが、片頭痛患者に非常に効果があり、皮質拡延性抑制を抑制する物質として期待されているのが『マグネシウム』です。慢性頭痛を持つ方による、マグネシウムサプリメントの摂取例で、劇的に症状が改善したという例も報告されています。
それでは、まず、頭痛の専門家はこの点をどのように考えておられるのでしょうか?
専門家による片頭痛の発生機序
完全には原因が分かっていませんが,痛みが拍動性であるのが片頭痛の特徴ですので,血管が痛みを発しているのであろうというのが基本的な考えです。
片頭痛には,前兆のある片頭痛と前兆のない片頭痛の2種類があります。前兆のある片頭痛は目がチカチカしたり,手がしびれたり,言葉が出なくなったりという前触れがあってから大きな拍動性の頭痛が来るのが典型的なパターンです。その病態を昔の臨床家たちが究明を試みた際には,最初は血管が何かの原因で収縮を始め,その収縮によって脳に虚血が起こって目がチカチカしたり,視野が欠けたりするのではないかと言われていました。
そして次にはその収縮が保てなくなり,拡張に転じて激しい痛みが来るのだろうと説明しました。これを「血管説」と後の人が呼んでいます.その後の脳血流測定などの臨床検査によると,血管が収縮して拡張するのは確かではありますが,どうやら収縮して拡張する前に痛みが始まっていることが分かったのです。
そうなりますと,血管の動きだけでは説明できなくなり,目がチカチカするのは血管が収縮して起こるのではなくて,脳の神経細胞自体が電位的な変化を後頭葉中心に起こし,それが影響を及ぼしているのではないかという説が出てきました.
これを,それ以前から知られていた動物実験の結果とうまく組み合わせて説いたのが北欧のグループです。「大脳皮質拡延性抑制」と呼ばれる現象で,ウサギの脳にカリウムを滴下すると,脱分極を起こすことが分かりました。脳波の平坦化か進み,またそれが回復する傾向が見られたのですが,これは昔から動物実験で知られていた現象であり,実験当初は一般には受け入れられていなかったのです。
しかし,1980年代にその実験結果に注目したグループが,研究していた脳血流と結び付けました。大脳皮質拡延性抑制という現象が片頭痛の前兆を引き起こして,その前兆が何かの刺激で痛みに至る。それが片頭痛の「神経説」です。
1980年代半ばにMichael Moskowitzによって,なぜ脳の脱分極が痛みを起こすのかについて述べられていますが,脳の血管の周りに三叉神経終末がたくさんあることに着目して,脳血管周辺の三叉神経が痛みを発していることに気が付きました。そしておそらく三叉神経の興奮を起こすのがこの大脳皮質拡延性抑制ではないかという説として構築されたのが「三叉神経血管説」です。
脳の三叉神経の興奮を鎮めることによって神経の周りで起こっていた炎症が鎮まり血管が収縮するという実際のメカニズムがこの説の根本なのです。これをもとに開発されたのがトリプタンです。トリプタンは三叉神経の興奮が収まって血管が収縮する,つまり片頭痛の発作のときの一大異変を,消防車のように消してくれるという消火作用があります。
この説が現在いちばん多く信じられているのですが,「大脳皮質拡延性抑制」を起こす原因が分かっていないということ,それからその前兆のかなり前に予兆と呼ばれる症状があります。あくびが出るとか,異常にお腹がすくとか,イライラするとか,眠くなるなどの症状があってから前兆が起こり,さらに激しい発作が起こること,発作が鎮まった後も気分の変調があったり,尿量が増加したりするなど全身の症状を伴うことが分かりました。
そうなると,片頭痛は脳の血管,あるいは脳だけの局所的な疾患ではないのではないかという疑問が出てきました。最近は三叉神経血管説を踏まえたうえで,「神経血管説」と言われています.神経の大部分は大脳皮質にありますが,大脳のどこかに片頭痛を起こす源があって,片頭痛の患者さんは,そうでない方と違って特別に興奮しやすい状態があるのではないかという説です.
このように、いろいろな説がありますが,日本頭痛学会,国際頭痛学会の研究発表の場においてもメカニズムについて新しい見解が次々と出てきています.そのつど納得するのですが,血管の重要性がもっとあるのではないかとか,脳の虚血の説も決して消えてはいないのではないかとか,諸説紛々としているのが現在の片頭痛の発生機序に関する考え方です。
最終的に根本的な痛みが止まるのは,神経と血管の関係にあります。トリプタンが効く理由はセロトニンが関係しています。セロトニンが頭痛発作のときに減ってしまい,そこでトリプタンがセロトニン受容体を刺激して病態を改善してくれます。しかし,中枢神経系でセロトニンが減少する理由についてはまだ謎なのです。
この「閃輝暗点」だけに絞って要約すれば・・
三叉神経血管説では、先に神経の興奮があってその結果として血管が拡張するという見方です。では、その三叉神経終末の興奮を引き起こす「なんらかの刺激」とは何かということが問題になりますが、その正体は「皮質拡延性抑制」と呼ばれる現象ではないか、というのが現在のところ有力な説です。皮質拡延性抑制とは、脳皮質のある場所で一過性に神経が過剰興奮したあと、しばらく神経活動が抑制されて脳波が平坦化するとともに、その過剰興奮とその後の抑制現象がその場所から脳皮質全体へと少しずつ拡大していく現象です。皮質拡延性抑制は後頭葉から始まることが多く、そこから頭頂葉にむかって進行していきます(速度約2~3mm/分)。三叉神経血管説では、この皮質拡延性抑制が脳の腹側面の血管壁に存在する三叉神経終末を刺激することで片頭痛発作が始まると考えます。
閃輝(輝く部分)暗点(見えにくい部分)が連続して拡大する現象は脳皮質に 起こる 皮質拡延性抑制が原因と考えられています。
そして、後頭葉から始まった皮質拡延性抑制が脳の腹側面の三叉神経終末まで到達するまでの段階が片頭痛の前兆段階にあたると考えます。片頭痛持ちの人は、何らかの理由でこの拡延性抑制が起こりやすくなっている、つまり脳が興奮しやすくなっていると考えられます。
これに対して、分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は分子化学の立場から、以下のように解説されます。
脳神経の刺激伝達はおもにナトリウムの細胞内取り込みにより生じる神経パルス(ナトリウムの取り込みにより、細胞外の陽電荷は瞬時に陰電荷に、内部に集合している陰電荷は同時に陽電荷に変わるというイオン電荷の逆転が起きる現象)により行われます。軸索内に於いても髄鞘に生じる放電が伝播され、その刺激が伝達されます。
神経細胞や筋肉細胞など組織細胞は細胞外にあるナトリウムやカルシウムなどのミネラルの取り込みと排出によって細胞としての役割を果たします。ナトリウムは「放電」を起こすことにより神経伝達を可能にし、カルシウムは細胞を緊張させることによって神経伝達を速め、筋肉に力を与えます。このときマグネシウムは細胞の中に居て取り込まれたナトリウムやカルシウムを細胞内から同時にくみ出し、カリウムは同じように細胞内に居て複雑なイオンのバランスを整える働きを担っています。
簡潔に、脳の働きいわゆる、情報伝達や脳細胞の緊張や緩慢、興奮や衰弱はこれら神経細胞外にいるナトリウムやカルシウムと細胞内にいるカリウムとマグネシウムにより精密にコントロールされています。
このときに、マグネシウムが不足するとどのようなことが起きるでしょうか。
ナトリウムやカルシウムはそれらの取り込み口を開けることで、細胞内外のイオン濃度差により瞬時に取り込まれます。取り込まれたミネラルは瞬時にナトリウムポンプやカルシウムポンプにより排出されることによって正常は働きが営まれるのですが、ナトリウムやカルシウムの汲み出しはイオン濃度差に逆らうため大量のエネルギー(ATP)が必要となります。ATPからエネルギーを取り出すために「ATP分解酵素」が必要ですが、このATP分解酵素はマグネシウムと結びついてはじめて働くことができる「マグネシウム酵素」の一つであり、マグネシウムが不足するとマグネシウムポンプが充分に働くことができなくなります。そうすると、細胞内のナトリウム濃度が上がり、充分な放電が起きなる(カルシウムも同様に汲み出されなければ神経細胞の脳過敏が継続することになる)。脳細胞は疲弊してしまうのです。
また、細胞内のナトリウムイオン濃度が上がると、細胞内の高まった浸透圧を下げようと体液中の水分が細胞内に移動し、細胞浮腫を引き起こし、さまざまな障害を起こすようになります。この状態でさらにナトリウムイオンが取り込まれますと、水分の移動だけでは細胞内の浸透圧のバランスが取れなくなり、なんとしてでもナトリウムを細胞内から排出しようとする機能が働き、最終的には細胞内のカリウムやマグネシウムまで放出されてしまうことになります。
このように必要以上に取り込まれたナトリウムイオンやカルシウムイオンは細胞の働きや代謝に重大な異常を引き起こすことになるのです。特に血液量が制限されやすい海馬近辺で起きれば「てんかん」の発症可能性を増し、後頭葉で起きれば、「大脳皮質拡延性抑制」を誘引することになります。
このような症状を引き起こす根本的な原因はナトリウムポンプやカルシウムポンプの作動不良(ATPからのエネルギー不足)であり、最大の要因はATPの分解酵素に必要なマグネシウム不足ということができます。従って、通常1日当たり200mg~400mgのマグネシウムを補充することにより、短時間のうちにこれらの症状はおのずと改善されていきます。
また、マグネシウムを補充せずこの状態を放置していますと、神経細胞内より放出されたマグネシウムは尿とともに排泄されることになりますので、より脳過敏や片頭痛などを引き起こしやすい状態となります。
脳過敏や閃輝暗点、片頭痛には、その発症要因であるマグネシウムの補充が先ず優先されるべきなのです。短絡的に、脳過敏に即“てんかん薬”とは、いかがなものかと言わざるを得ません。
このように、「マグネシウムの関与」から説明されています。
このようにみますと、片頭痛はミトコンドリアの機能障害による頭痛と考えるべきものです。