片頭痛発作時には「脳内セロトニンの低下する」ことが分かっており、現在、発作時にはこの脳内セロトニンを補填するために”トリプタン製剤”が使用されています。
このため、片頭痛治療上重要なことは、「脳内セロトニン」を増やす工夫をすることが必須となってきます。
まず、食事によって増やす方法を考えてみます。
「脳内セロトニン」の前駆物質であるトリプトファンを食物から直接取り入れるのです。
脳内セロトニンを確実に増やすためには、いろいろな問題がありますので、この点について詳しく述べていきます。そう単純なものではありませんので・・・
脳内セロトニンは増やすために・・食事による
「セロトニンを増やすのならトリプトファンをたくさん含んでる食べものをとればOK」というかもしれません。
セロトニンは「トリプトファン」というアミノ酸を原料としてカラダのなかでつくられます。
腸や血液に含まれる大部分のセロトニンは、脳に入っていきません。つまり、単純にトリプトファンが多い食べもの、たとえば「牛レバーやバナナをせっせと食べよう!」なんて本や雑誌を見かけることがありますが、実際にそうしたからといって脳内セロトニンが単純に増やすことはできません。
トリプトファンが多く含まれる食品をとることは、たしかに大事です。でも、そこにはちょっとしだ工夫”が必要です。その工夫とは、“トリプトファンのとり方”にあります。
腸内や血液中のセロトニンは脳に入っていきませんが、トリプトファンはちゃんと脳に入っていくことができます。ですから、トリプトファンをたくさん取り込むことができれば、脳内セロトニンも充分につくることが可能になります。
しかし、トリプトファンが通る場所(脳血液関門)に問題があって、ここは、ほかの必須アミノ酸も通っていく場所なのです。この必須アミノ酸というのは、「フェニルアラニン」とか「口イシン」というものですが、食品によってはトリプトファンよりもこれらの必須アミノ酸のほうが多く含まれるものがあるのです。これらの必須アミノ酸がトリプトファンの邪魔をするため、トリプトファンが通過しづらくなってしまいます。その代表的な食べものが、肉類や乳・乳製品です。
つまり、牛レバーにはトリプトファンよりもほかの必須アミノ酸が多いため、実際には思ったほどトリプトファンがとれません。
結局、トリプトファンが多いだけではダメで、それと同時にフェニルアラニンとロイシンの量が少ないことも大事だということです。
肉類はともかく、乳・乳製品が大好きな女性はきっと多いはずです。
お肉を食べるときは、野菜やくだものはもちろんのこと、「いも類」を一緒にとるのがおススメです。いちばんいいのはしっかりとご飯(米)を食べることです。パンやパスタ、ピザなどの小麦製品、牛乳や乳製品中心の食事ばかりでは、いつまで経っても脳内セロトニンは増えることはありません。
結局、人間にとって、とても大事なセロトニンの原料はトリプトファンです。それを効率よく取り込むためには、必須アミノ酸(フェニルアラニン、ロイシン)との含有比率が大切だということです。
トリプトファンはセロトニンになるだけでなく、セロトニン以外にも「ナイアシン」(=ビタミンB3)になります。
しかも、トリプトファンからセロトニンがつくられるときと同様、「補酵素」として「ビタミンB6」が使われます。つまり、トリプトファンは同じ方法で、セロトニンとナイアシンになるというわけです。
ここでもさっきのフェニルアラニンやロイシンの場合と同じようなことが起きます。つまり、ナイアシンのほうが優先的につくられ、セロトニンは残念ながら後回しにされてしまうのです。
ナイアシンは魚介類や肉類などの食品に含まれており、腸内細菌により産生もされますので、適量の魚介類・肉類を摂食し、腸内細菌を健全に保っている限りにおいて、ナイアシンの摂取不足を起こすことはありません。
この条件が整った状態で、セロトニンはトリプトファンを原料として、ビタミンB6、亜鉛、マグネシウムなどを補酵素として合成されます。
要するに、そもそもナイアシンが不足しなければいいということです。つまり、ナイアシンたっぷりの食事をとり、あとは補酵素として使われるビタミン類やマグネシウム、亜鉛、鉄もしっかりとるように心がければいいのです。
ナイアシンは、糖質・脂質・タンパク質の代謝に欠かせません。口内炎になるのはナイアシン不足が原因です。
補酵素とは、酵素が体内で十分に働くために必要な成分です。
ビタミンB6 食品・腸内細菌
↓ ↓
トリプトファン ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ⇒ ビタミンB3(ナイアシン)
(60個) ↓ 優先 (1個)
↓
→ → → → セロトニン
↑
ビタミンB6
亜鉛、鉄
マグネシウム
前回も述べましたようにBCAAが多い環境では脳への取り込みが阻害され、脳内セロトニンがあまり増えないことがありますので注意が必要です。
BACCとは動物性蛋白質に含まれており、食品では牛乳、鶏卵、マグロ、牛肉などが挙げられます。食べ物はバランスが大事なので、極端に摂取を制限すると逆に体調不良の原因になるので注意です。牛乳、鶏卵、マグロ、牛肉の摂りすぎは「脳内セロトニン」不足を招くことに繋がりますので、注意が必要です。
トリプトファン比の高い食品を摂ることと筋肉を付けることが脳内セロトニンを増やすための第一歩なのです。
決して、ダイエットと称して筋肉量を落としてはいけません。
また、運動量が少ないにも拘らず、トリプトファンを多く含むからと言って、お肉などの動物性タンパク質や牛乳・乳製品を摂りすぎてはいけません
運動量の少ない方はトリプトファン比の高い大豆製品などを努めて摂りましょう
トリプトファン比の低い食品と高い食品
トリプトファンをほとんど含まない食品にはコラーゲン(人の酵素では消化はしません。悪玉菌のエサにはなります)、ゼラチン(効率はよくありませんが消化はします)、トウモロコシなどがあります。
体にはアミノ酸プール(体内ではタンパク質の分解と合成が常に起こっていますので、さまざまなアミノ酸がプールされているように考えられています)がありますので、これらの食品を食べたからといって直ぐにはトリプトファン不足になる事はありません。
しかし、日常から多くを摂り続けますとセロトニン不足以外にもビタミンB3不足などさまざまな悪影響を生じます。
次にトリプトファン比の小さなものとしては、小麦、食パン、アーモンド、小豆、牛肉(サーロイン)、牛乳、落花生などがあります。
これらの食品の摂りすぎに運動不足が加われば脳内セロトニン不足の可能性が高まります。
トリプトファン比の高いものとしてはお米があります。サツマイモ、大豆、レバー類、マグロ(赤身)などもほぼ同じ程度です。
これら食品以上にトリプトファン比の高いものには、全粒そば、サトイモ、ゴマ、ココア、ニンニクやトリプトファンの量的には少ないですが、カボチャ、ごぼう、小松菜、春菊、大根葉、ニラ、ブロッコリー、もやし、えのき、しいたけ、のり、こんぶなどがあります。
果実類でトリプトファンを比較的多く含むものに、バナナやキウイフルーツがありますが、キウイフルーツのトリプトファン比高いですが、バナナは小麦やお米の中間程度で特に脳内セロトニンに好ましいと言うアミノ酸組成ではありません。
セロトニン合成にかかわる酵素、補酵素やトリプトファンを原料とするビタミンB3の不足を起こさない
セロトニンを増やすためは、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB6、およびマグネシウム、亜鉛の不足を起こさないことが大切です。
トリプトファンはセロトニンの原料であると同時に、ナイアシンの原料でもあり、ナイアシンの合成が優先されます。
そのため、ナイアシンが不足していますと、折角、脳内に取り込まれたトリプトファンもナイアシンの合成に使われてしまい、セロトニンの合成へはまわってきません。
ナイアシンは魚介類や肉類などの食品に含まれており、腸内細菌により産生もされますので、適量の魚介類・肉類を摂食し、腸内細菌を健全に保っている限りにおいて、ナイアシンの摂取不足を起こすことはありません。
この条件が整った状態で、セロトニンはトリプトファンを原料として、ビタミンB6、亜鉛、マグネシウムなどを補酵素として合成されます。
ビタミンB6は、ニンニク、唐辛子、マグロ、カツオ、レバーなどに多く含まれています。亜鉛の多い食品は牡蠣が有名ですが、牛肉にも多く含まれます。
マグネシウムは非常に不足しやすいミネラルですので、ニガリやマグネシウム水溶液から日常的に摂るのが好ましいでしょう。
これらのビタミン剤やミネラルはサプリメントである栄養素を多く摂ったからといって効果が上がるというものではなく、全ての栄養素の不足を起こさないというのが改善のための基本となります。
一つでも成分が不足しますと、一連の反応は進まなくなります。
特に偏食も無く、平均的な食事をしていても、マグネシウムは最も不足しやすい栄養素です。
以上から、「脳内セロトニンを増やすための食事」は以下のようにまとめられます。
○肉類や乳・乳製品など動物性のタンパク質をとり過ぎないようにする
O芋類、野菜類、きのこ類、海藻類を努めてとるようにする
Oコラーゲンなどのゼラチン類をとらない
○パン、パスタ、うどんなどの小麦製品にかたより過ぎない(米飯、そばを適宜とる)
Oトウモロコシやその加工品、種実類(アーモンド、落花生)、小豆(あんこ)をとり
過ぎない
○トリプトファン比率の高い果実類(キウイフルーツ、柿)、種実類(ゴマ、ココア)、魚介類(カッオ、しじみ)を努めてとる
○ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB6、マグネシウム、亜鉛を多く含む食品をとる
○筋肉を鍛える(筋肉量を増やす、または落とさない)
○腸内環境を健全に保つ
次に、生活習慣を見直すことによって、増やす方法です。
この「セロトニン神経を活性化する」方法が「セロトニン生活」です。
このため、片頭痛を治療していく上で、セロトニン神経を活性化する必要があります。
「セロトニン神経の活性化」の原則・・セロトニン生活
(1.)早寝早起きの規則的な生活を心がける
セロトニンは、太陽の出ている日中に分泌されやすく、睡眠中は日が沈んでからは分泌が少なくなります。これはメラトニンの働きと関係していますが、人間が本来持っている生活リズムは『日中に活動し夜は寝る』と言うもので、この原則を守ることがセロトニン神経の活性化に効果的だと言われています。
(2.)太陽の光を浴びる
セロトニンは、睡眠ホルモンであるメラトニンと相対する性質があります。
セロトニンは脳の覚醒を促し、メラトニンは睡眠に作用します。
メラトニンが分泌している間はセロトニンの分泌は少なく、逆にセロトニンが多く分泌されている間はメラトニンの分泌は少なくなります。
太陽の光(のような非常に強い光・明かり)を浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌がストップし、代わりに脳の覚醒を促すセロトニンの分泌が活発化されるのです。
昼夜逆転の生活をしていたり、日中部屋の中にばかりいると、セロトニンとメラトニンの分泌のバランスが崩れ、不眠症になったり、片頭痛が起きやすくしてしまうのです。
毎朝日光を浴びる行為は、セロトニンを鍛えるだけで無く、生活リズムを整えることにもつながります。
できれば、紫外線が強くなる前の時間帯、日の出から8時までの間が良いでしょう。
時間は5分~15分ほどで構いません。両手を広げ、全身で朝陽を浴びてみましょう。
外に出るのが苦手な方は、カーテンを開け、部屋の中でも構いません。
全身に光を浴びることを意識し、できれば「気持ちいい~」と言葉に出してみましょう。
そもそも地球上のほとんどの生物は太陽のエネルギーなくては生きていけません。
この自然の恵みを全身に浴びることで、ミトコンドリアの遺伝子のスイッチがオンになると同時に、脳の中では、視交叉上核というところが反応し、体内時計がリセットされます
体内時計とは、私たち自身のからだ、臓器や器官がそれぞれもっている時計で、地球の自転(24時間)とは1時間ずれ、体内時計は1日25時間といわれています。この時間を調整し、地球の自転とあわせてくれているのが朝陽なのです。ですから、放っておくとリズムが崩れ、生活リズムが乱れていきます。そのリズムをもとに戻してくれるのが「朝陽」なのです。また、太陽の光は、脳の中にある視交叉上核から松果体を刺激し、セロトニンやメラトニンというホルモンをつくってくれます
このふたつのホルモンは、ミトコンドリアの天敵「活性酸素」を除去する働きがあります。
メラトニンは睡眠ホルモンとして、セロトニンは心を鍛え、バランスを整えるホルモンとして、有名ですが、この二つとも、ミトコンドリアにとって天敵の活性酸素を除去する働きがあります。
活性酸素は、細胞を傷つけたり壊したりする働きがあるので、ミトコンドリアだけでなくからだにとっても天敵で、片頭痛の原因でもあるのです。朝陽を浴びることは、この活性酸素を減らすホルモンをだす効果もあるのです。
(3.)リズミカルな運動をする
スクワットや階段の昇り降りなど、一定のリズムを刻む運動を反復して行うとセロトニン神経が活性化されるとされています。
先日国民栄誉賞を受賞された、女優の森光子さんも70歳から体力維持の目的でスクワットを始めて、これまでずっと継続して来たそうです。
89歳でも舞台に立ち続ける彼女の元気の源も、このリズミカルな運動にあるといえるでしょう。現在はなくなられてしまいましたが・・
同様に活発な活動をされている黒柳徹子さんもスクワットを毎日しているのも知られています。
スクワットに限らず、『ウォーキング』や『深呼吸/腹式呼吸』、最近人気の『フラダンス』など、リズムの良い運動を継続して続けていくことが、セロトニン神経の活性化に役立つとされています。
また、こういった運動を5分以上行うとさらに効果的であると言われています。
リズム運動とは、一定のリズムで筋肉の緊張と弛緩を繰り返す運度であり、この条件を満たしていれば、何でもいいのです。ウォーキング、ジョギング、自転車、ダンスなどです。一番簡単なのは、ウォーキングです。歩くとき心がけることは、できるだけリズミカルに体を動かすことです。リズムに乗って軽快に歩くと、セロトニンの分泌が盛んになってくるのです。
しかし、ウォーキングで気をつけるべきことは、ダイエットを目的とした運動とはぜんぜん違うということです。ダイエットを目的とする運動は、いかにエネルギーを消費して脂肪を燃焼させるかに重点が置かれますが、セロトニン神経を鍛えるのはそんなに激しい運動でなくてよいのです。
一番ベストなのは、朝晴れている日は外に出て適当に歩くことです。
なぜなら、太陽の光を浴びながら、リズム運動ができるからです。
(4.)食事をする際に、よく噛む
食事の際は必ず物を噛みますね。
このものを噛む動作(咀嚼) も、一定のリズムを伴った運動であるといえます。
上述のリズミカルな運動と同じく、セロトニンの活性化に役立ちます。
「運動はちょっと苦手・・・。」と、考えられている方でも、食事は必ず取るでしょうから、食事の際によく噛んで食べることを心がけてみてはいかがでしょうか。
『ものをよく噛む』と言うことは、栄養の効果的な摂取や、消化を助けることにもつながりますし、あごの筋肉の維持など、セロトニンの活性化以外にも様々なメリットがありますし、どなたでも簡単に試せる方法です。
なぜ、唾液=つばを出すのがいいのかというと、唾液には、アミラーゼと言う酵素が入っていて、食べたものを消化することを助けてくれるほか、成長ホルモンも含まれていま
す。この成長ホルモンは、傷ついた細胞を修復したり、新陳代謝を促し老化防止するなどミトコンドリアを守ってくれる要素があるからです。
すなわち、唾液の量が多いと、それだけミトコンドリアが守られ、数が減るのを防いでくれると言うことです。また、味蕾の感覚を鋭敏にするとも言われています。
成人が一日に出す唾液量は、0.5ℓから1.5ℓといわれています。
平均値だけ見ても一リットルもの開きがあるのです。
この量を増やすだけで、あなたのミトコンドリアは守られ、若さを保つアンチエイジングの効果もあります。
(5.)グルーミングという「人とのふれあい」
グルーミングは、仕事を終えた後の「オフの時のセロトニン活性」という意味で、太陽の光とリズム運動とは少し異なります。グルーミングは、「猿の毛づくろい」としてよく知られていますが、その理由は動物行動学においては、はっきりしています。動物行動学では、グルーミングは「ノミ取りの行為だけではなく、群れ社会のなかで発生するストレスに対して、緩和を試みている行為」として認識されつつあります。
それを人間社会にたとえますと「人と人とが近い距離でふれあうこと」が原則になります。具体的には、「仕事後の赤ちょうちん」「おしゃべりをしながらの井戸端会議」「家族で食事をする」、またそれに近い行為で「お風呂屋さんで一緒にお風呂に入る」というのもあります。これらの行為の結果として、何になるかといいますと「疲れが取れてストレス緩和になる」のです。
仲間と一杯やるというのもグルーミングですし、女性のよくやっている井戸端会議もグルーミングの一種なのです。全員が同じ場所にいて、同じ空気を吸いながら、打ち解けて会話を交わす──これがグルーミングなのです。
親子や恋人同士のスキンシップ、家族や友人とのおしゃべり、マッサージ、髪をすく、撫でる、などの触れ合いがグルーミングとされ、これらのスキンシップや人との触れ合いがセロトニンの活性化とストレス耐性の向上に効果があるとされています。
家族や恋人、ペットとのスキンシップも、セロトニンの分泌を増加させます。メールや電話ではなく、実際に顔を合わせ、表情や仕草を間近に感じながら、笑ったりすれば、きっとセロトニンがたくさん分泌されます。
セロトニンとオキシトシン
セロトニンが快適な生活を送るために必要なことは上述の通りですが、近年、オキシトシンという神経伝達物質も注目されています。
オキシトシンは愛情ホルモンまたは幸福ホルモンを呼ばれており、この物質が十分に分泌されていると、心が満たされ幸せな気分になります。
哺乳類だけが持っている物質と言われています。
特に、女性が出産する時に、陣痛を促進させるためにも分泌されます。母乳の分泌も促進します。子供に愛情を抱き育むためには欠かせないホルモンです。
もちろん、母親以外の女性や男性にも分泌されます。
家族愛、夫婦愛、親子愛、カップル間の愛情など、心の中で愛情を十分に感じていると、オキシトシンは分泌されます。オキシトシンを活性化するには、愛情を育む、人に親切にする、感情を率直に表す、などが効果的です。
セロトニンに加えオキシトシンも強化して幸福感を高め、充実した生活を送りましょう。
こうしたことは、夫婦間の不和、セックスレスは、脳内セロトニンの不足に繋がります。セックスには鎮痛薬と同じように頭痛を緩和する効果があるとする研究結果が、このほど国際頭痛学会の専門誌『セファラルジア』に掲載されたくらいに重要な点のようです。
以上が、セロトニン神経の活性化の原則です。
これに、加えて、トリプトファンを含む食事に心がけ、有酸素運動を行うことによって、ストレス解消を行うことも大切です。
「セロトニン生活」の効果が現れるまでは最低3カ月は必要です
先程の「セロトニン生活」の効果が現れるまでは最低3カ月は必要です。決して焦らずに行うことが大切で、多くの方々はその効果が出現するまでに諦めているのが実情です。
それでは、どうしてこのように効果が現れるのが遅いのでしょうか。
セロトニン神経は各細胞のセロトニン受容体に向けてセロトニンを送るのですが、自分自身に対してもセロトニンを分泌しています。脳の神経系細胞は末端から軸索というケーブルを使って他の神経細胞と繋がっており、データの伝達を行います。この軸索を通して戻ってきたセロトニンを受け取るのがセロトニンの自己受容体で、受容体の数が多いとセロトニンの放出を抑えようとする働きがあるのです。
もう少し、詳しく言えば、セロトニン神経にはオートレセプター(5-HT1A 自己受容体)という機構が備わっています。セロトニン神経が興奮すると、オートレセプターを介して自己にネガティブフィードバックをかけ、増えた活動を抑えてしまうという、やっかいな特性です。このため、簡単にはセロトニン神経の活動レベルは高く維持し続けられません。
このオートレセプターの数が多いと、普段からセロトニン神経は抑えられる傾向にあり、逆に、オートレセプターが少なければ、セロトニン神経の活動レベルが高く維持されることになります。したがって、オートレセプターの数を調整することが、セロトニン神経を弱めたり、鍛えたりする時に、大切なポイントとなります。オートレセプターは一種の蛋白ですから、遺伝子の発現を変えるような持続的な変化が加わり続ければよいわけです。
どうするのかといえば、オートレセプターを絶えず繰り返し刺激し続けてやると、やがてオートレセプターの数が適応性に減少していきます。オートレセプターを形成する遺伝子の発現にオフの調整がかかった結果と考えられます。このプロセスが完成するには、数週間から数ヶ月を要します。この点は重要なことです。
このことは、坐禅が一朝一夕には極められないこと、また、やり続けなければならないという経験則、すなわち「只管打坐」に対応します。毎日坐禅を繰り返し実践すれば、セロトニン神経が繰り返し賦活され、オートレセプターも繰り返し刺激を受け続けます。数週間もすると、オートレセプターの数が減少して、セロトニン神経の活動レベルが普段から高いレベルに安定するということになります。坐禅はただひたすら継続してこそ意味がある、すなわち、道元のいう「只管打坐」ということは、セロトニン神経の自己抑制回路によって説明可能なことを示しています。
それでは、坐禅の呼吸法と関連づけて、セロトニン自己受容体の増減を考えてみましょう。坐禅の呼吸法がセロトニン神経を活性化することは、これまで証明されて来ました。
この活性化を「絶えず」継続していると、セロトニン自己受容体が繰り返し刺激されることになります。その結果、自己受容体を発現させる遺伝子にフィードバック制御がかかり、オフの側にスイッチされます。やがて、セロトニン自己受容体の数が減少し、それは、自己抑制機能の減少につながります。このような構造的な変化の結果、セロトニン神経の活動レベルが恒常的に高く維持されることになります。
このことを道元は「只管打坐」の仏法として我々に伝えています。ただひたすら坐禅を毎日継続すること、それだけで良いし、それ以外に最良の道はない、と説いています。また、坐禅をやめれば、元の木阿弥ということになってしまいます。この経験的に得られた真理は、セロトニン自己受容体の遺伝子によるオンオフ制御ときわめてよく対応します。只管打坐はセロトニン自己受容体の遺伝子をオフにし、自己受容体の数を減少させ、結果として、セロトニン神経の活動レベルを恒常的に高いレベルに維持させることになります。これが、道元の「只管打坐の仏法」に関する神経科学的な解釈です。
毎日30分が基本
絶えずセロトニン自己受容体を刺激し続けるということは、24時間連続して、という意味では決してありません。30分間のリズム運動を毎日、継続することが必要で、かつそれで十分なのです。継続して刺激し続ければ、必ず、自己受容体にフィードバックがかかります。それは、興奮を抑制に逆転させますから、むしろ、期待した効果とは反対になってしまう可能性があります。やりすぎは禁物。頑張りすぎは疲労によるマイナス効果も招きます。30分という時間は、呼吸法時の脳波測定から、セロトニン神経を活性化する最適の時間と判定されました。それ以上では、逆に自己抑制のフィードバックが出現して、反対の効果になると考えられます。したがって、早朝にお線香一本分が燃え尽きる時間、坐禅をすれば十分なのです。ただし、それを毎日繰り返すことが、セロトニン神経をきたえるのには不可欠です。そして、約100日継続すれば、やがてセロトニン神経に構造的な変化が現れ、恒常的に高い活動レベルが維持されるようになります。
このように、「セロトニン神経を活性化」させる方法は「座禅」だけではありません。今回は、座禅という方法で説明しました。毎日”セロトニン活性の行為”を継続すると、セロトニンの分泌量は徐々に増えていきます。具体的なイメージとして、初めは「3」であったのが、やがて「5」や「7」まで増えて維持できるようになります。それには3 ヶ月ほどの継続が必要となります。ですから、継続しないと意味がありません。
以上まとめますと、セロトニンの合成量はオートレセプターといって、ある範囲内にセロトニン量を治める体の仕組みがあり、たとえ急激にトリプトファン量が増えたからといっても直ぐにセロトニンの合成量が増えるのではありません。
ですから、トリプトファンのサプリメントを摂ったからといっても、また、血液脳関門を通過できるセロトニンの中間体(セロトニンを増やすサプリメントとして市販されている)を摂ったからといっても、直ぐに脳内セロトニンが増加するということではありません。むしろ、一時的にはオートレセプターの逆作用によってセロトニンの合成量が減少してしまうことになります。
少し、わかりにくいお話かもしれませんが、要は、脳内セロトニンを増やすというサプリメントなどを飲んだからといって、短期間、且つ容易に脳内セロトニンの合成量を増やすことはできないということなのです。
焦らないことが肝要とされています。根気強く行っていきましょう。
このように、脳内セロトニンを増やす工夫をされても、すぐに効果が現れないため、殆どの方々は、効果発現がみられないまま、途中で断念されていたのが実情です。そんなに簡単なものではないと心得ておく必要があります。
ミトコンドリアの働きの悪い片頭痛の方々は、同時にセロトニン神経の働きが悪くなっております。さらに、ストレスに晒されますとさらに悪化してきます。これに対して、"ストレス耐性の体つくり"が必要になってきます。このため「セロトニン神経」をいかに鍛えていくことが課題になってきます。
この「セロトニン活性化、増やす」ことは、「ミトコンドリアの機能改善」と並んで、片頭痛治療の2本の柱ともいうべきものとなっています。
トリプタン製剤を服用したからといって、「セロトニン神経系」の改善は得られることはありません。あくまでも、「低下した脳内セロトニン」の補充・補填をしたにすぎません。この点を忘れてはなりません。