昨日も述べましたように、欧米人は日本人に比べ、肥満が多く、これに関連して、欧米人と日本人の片頭痛の発作頻度および程度の相違を明らかにしたばかりです。
片頭痛になりやすい要因にはさまざまなものが知られていますが、肥満もそのひとつと考えられています。肥満はさまざまな生活習慣病のもとになりますが、肥満の人は頭痛が慢性化しやすい、太っている人ほど頭痛発作が頻回に起きやすいということが報告されています。また、アメリカの研究では、肥満の子どもは頭痛になりやすく、頭痛を訴える未成年の若者にダイエットを勧めたところ、体重の減少とともに頭痛が軽減したという結果も示されています。もちろん成人でも片頭痛のある肥満の人には、頭痛改善のためにダイエットが勧められることがあります。
肥満に関わるホルモン
食欲をコントロールするホルモン
~脂肪細胞から出る“満腹“サイン「レプチン」~
あなたの身体に蓄積している体脂肪、その脂肪細胞から食欲を調整するホルモンが出ていることを知っていますか?このホルモンは「レプチン」と名付けられていて(「痩せる」という意味のギリシャ語が語源)脳の視床下部に作用し「満腹」サインを送って、食べ過ぎを防いでいます。交感神経にも働きかけ、脂肪の蓄積を抑制してエネルギー消費を亢進する作用もあり、未来の「痩せ薬」としても期待されているホルモンです。
脂肪細胞から出ているなら、太った人の方がよく効きそうな気がしますが・・・実はこのレプチン、受け取り方に問題があって、体脂肪の多い肥満の人はレプチンを受け取る「受容体」が反応しにくくなってしまう(レプチン抵抗性といいます)ことがわかっています。 常に剛速球のボールが投げ続けられすぎて、受け取るキャッチャーミットが壊れてしまったような状態です。つまり肥満の人はレプチンから「満腹」サインがたくさん出ているにもかかわらず受け取ることができずに、食べ続けてしまう→更に太る→更にレプチン受容体の感受性が鈍くなる→更に食欲抑えられず太る・・・という悪循環に陥りやすいのです。
つまりダイエットで体重が減っても食欲を抑える作用がすぐには戻らないので、食欲は亢進したまま、という状態が一時的にできてしまうのです。この食欲亢進状態に屈してしまうと「リバウンド」を招くのですが、この窮地(?)を強い意志で乗り越えることができれば、そのうちレプチン抵抗性は改善し、食欲を抑えるように働きます。そこまで来ればもう無理しなくても自然に食べ過ぎたりしなくなってかなりラクになってきます。
そう考えるとレプチン抵抗性の改善を待つ間の食欲亢進状態をどう乗り切るかがダイエット成功のカギを握ると言えそうです。
“安らぎ”と“満腹感”の深い関係「セロトニン」
セロトニンは、脳内の様々な神経伝達物質に作用して「精神を安定させる」役割を持っていて、鬱病や神経症などの治療に使われることで知られていますが、実は「満腹感」を感じさせ、食欲を抑制する作用も持っているのです。強いストレスを感じたりイライラする時に甘いものや肉類などを食べたくなった経験はありませんか?セロトニンは、精神安定作用と食欲コントロール作用を合わせ持っているので、不足すると「精神的不安定」と「食べたい!」という欲求がよく連動して現れます。特に甘いものや肉類を食べると一時的にセロトニン分泌が増え、一時的でも気持ちが落ち着くのでこうしたものへの欲求が強くなると言われています。
実は女性は男性に比べて元々セロトニンの脳内合成が少ないので、ストレスを感じるような状況におかれると、セロトニンが枯渇状態になって、情緒不安定になったり甘いものを中心とした過食へと走る行動が男性よりも強く出る傾向があります(ですから女性はケーキが大好きなんです!)。その上「月経前の体調不良期(PMS期)」には、セロトニンの受け取りを阻害する物質が出るため、更にその傾向が顕著になるとも言われています。
こうした情緒不安定&食欲亢進状態を落ち着かせて、食べ過ぎを防ぐためにはセロトニン分泌を増やして食欲を抑制することが効果的なのですが、甘いものや高カロリーの肉類を食べることで一時的に凌いでいたのでは結局は過食となり肥満を招いてしまいます。
そうしたものを食べることではなく、日常的な行動でセロトニン分泌増加に効果的、と言われていることを行う必要があります。食べることで気を紛らわせるのではなく、十分に休息し、ストレス解消&気分転換を上手に行って気持ちを安定・リラックスさせることがセロトニン分泌増加につながり、過食を防ぐことになるのです。食欲を上手にコントロールするためには気持ちが安定し、充実していることも大切なのです。
食欲亢進ホルモン「グレリン」
ここまで「食欲を抑える」作用のホルモンについて紹介してきましたが、今度は反対に食欲を増進させる方へ働く「グレリン」という物質のハナシです。グレリンは、主に胃から分泌され脳の視床下部に働きかけるペプチドホルモンで、食欲を増進させ成長ホルモンの分泌を促進する作用を持っています。お腹がいっぱいでもう満足しているのに、デザートメニューが差し出されると「別腹」で、ついデザートも食べたくなってしまうことってありませんか?このように“満腹なのに更に美味しいものを”という“誘惑”に負けてしまうのも、グレリンの作用により「美味しいものを摂ることで得られる快楽」を欲求してしまうからではないかと言われています。また、胃の病気や不調で胃壁が破壊されると食欲が無くなるのは胃から分泌されているグレリンの低下による影響もあると考えられています。
このグレリンは、先に紹介したレプチンとは逆に働き、拮抗的な関係で作用して常にバランスをとっていると考えられています。
レプチンが出てくるとグレリンの作用は抑えられ食欲が抑えられますが、レプチンが減ってくると今度はグレリンの作用が働いて食欲が亢進し、「食べたい」衝動を抑えられなくなるのです。こうしたレプチンとグレリンによる食欲の「抑制」と「亢進」のバランスを安定させるには、先に述べたようにレプチン受容体の働きを鈍らせないよう、過剰な体脂肪の蓄積を減らすことが効果的なのですが、「睡眠」や「規則正しい生活」も大きなカギとなることが最近の研究でわかってきました。
奇しくもセロトニンの分泌増加を図る場合と非常によく似ていて、結局はきちんと睡眠をとり規則正しい生活リズムを持つことがホルモンの助けを引き出して食欲コントロールを上手に行うことにつながってくるのです・・・。
ところで、食欲を亢進させてしまうグレリンはダイエットにとっては悪者というイメージですが、最近の研究では不整脈を引き起こす心臓の交感神経を鎮静化させる働きがあることがわかり、心筋梗塞等の有効な治療薬になる可能性も期待されています。肥満やメタボリック症候群によって危険性が高まる心筋梗塞に、食欲を亢進させるホルモンであるグレリンが治療効果を発揮するなんて、なんとも皮肉な、というか、非常に興味深い話です。
その他食欲コントロールホルモン
食欲を抑えるホルモンとしては、レプチン、セロトニンだけではなく、食後血糖値を下げるために分泌されるインシュリンも同様の食欲抑制作用を持っています。しかし、インシュリンは血中の糖分をエネルギーとして消費・代謝させる反面、余った分を体脂肪として蓄積させる作用も持っていますから出すぎると肥満を招く方に働き、過剰な状態が続くと今度はインシュリンを受ける作用がうまく働かなくなって(インシュリン抵抗性といいます)糖尿病につながる危険もあります。食欲調整と脂肪蓄積・エネルギー消費の作用はとても複雑に絡み合っているのです。
マウスの実験では、食欲調整作用として男性は糖代謝を司るインシュリンの影響を受けやすく、女性は脂肪組織から出るレプチンの作用を受けやすいという性差が見られます。 セロトニン合成能は男性の方が高いですし、こうした男女の違いを男女の身体特徴や嗜好の傾向の違いと合わせて考えてみると、様々な意味を持っています。
肥満がなぜ片頭痛によくないのか?
まず、血糖値を急上昇させると太りやすくなり(肥満)、片頭痛にもよくありません、ということを説明しましょう。
分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は以下のように説明されます。
インスリン過剰分泌は「酸化ストレス・炎症体質」を悪化させる
血糖値というのは血液中のブドウ糖の濃度のことです。ブドウ糖というのは、ご飯や麺類などの主食に多く含まれる「糖質」が分解されたもので人間が活動するための主なエネルギーになります。食事をすると糖質が消化吸収されブドウ糖になり吸収され、血液によって体のあちこちに運ばれます。
血液の中のブドウ糖はそのままではエネルギーとして使えません。血管からエネルギーを使う器官の細胞に取り込まれないといけないのですが、その取り込む役割をするのが「インスリン」です。
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、食事をして血糖値が上昇すると分泌量が増え、血中に増えたブドウ糖を細胞に取り込みます。
その取り込まれたブドウ糖がエネルギーになって、人間は活動することができるのですが、余分にとってしまったエネルギー(ブドウ糖)は脂肪として蓄えられてしまいます。ですから必要以上に血糖値を上げない方が良いのです。
急激に血糖値が上がりすぎますと、血糖の急激な上昇を抑制するためにインスリンが過剰に分泌されることになります。過剰に分泌されたインスリンは血糖を下げすぎることになります。血糖値が下がりすぎると、血糖を適正なレベルに戻そうとするからだの仕組みが働き、体脂肪から遊離脂肪酸がエネルギー源として放出されるようになります。
体脂肪からブドウ糖などエネルギー源としての生成とその消費がバランスしていれば問題を生じることはありませんが、急激な血糖値の変化にそのバランスが崩れてしまうと血液中の遊離脂肪酸濃度を高めることになります。
お菓子などの甘いものを食べると太りやすいといいますが、それは甘いものには非常に消化吸収の早い糖質である「砂糖」が多く含まれていますから血糖値が急激に上昇してしまいます。その急上昇に対応するため多くのインスリンが分泌され、すぐに使い切れないほどのブドウ糖が肝臓に運ばれ脂肪になってしまうのです。
そのように、食べる糖質の種類によって、あるいは食事の仕方によって、血糖値の上がり方に違いが起こります。
緩やかな血糖値の上がり方なら良いのですが、急上昇と急降下を繰り返すような食事をしていると太りやすいのです。上がりすぎた血糖値を下げるためにインスリンが頑張って中性脂肪をたくさん作ってしまうということなのです・・・
また、急上昇急降下の食べ方はすぐにお腹が空くので、食べる量が多くなってしまいますし、いつも大量のインスリンを出していると膵臓が疲れてしまい糖尿病になりやすくなってしまいます。
では、どういう食事をすると、このような血糖値の上がり方になってしまうのかといいますと、お菓子を食べる、ソフトドリンクを飲む、などの糖分摂取だけでなく・・
「いただきます」と言ってすぐにご飯を食べる。
朝食を抜くなど食事と食事の時間を長くあげてしまう。
そういった食べ方は血糖値が急激に上がってしまうのです。最近よく、食べる順番を工夫することが片頭痛治療・ダイエットに役立つといわれますが、食事の最初に食物繊維をとることが血糖値の急上昇を抑える効果があるからなのです。
先程も述べましたが、セロトニンが不足すると食後の満足感を得ることができませんので、常に食欲が旺盛な状態となり、食べることにブレーキが利かなくなります。 さらに血糖のエネルギーヘの代謝までもが阻害されますから、肥満や糖尿病になりやすくなるのです。
逆に、脳内のセロトニンが充分にあれば、食後に満足感や充実感を得られますから、肥満は解消していくことになります。さらに、セロトニンが増すことによって各組織の機能が活発になるため、基礎代謝が上がり、脂肪を効率よく燃焼させることができるようになります。
一見すると痩せているように見えても、セロトニンが不足していると、内臓脂肪がたっぷりついてしまうことが起こり得ます。痩せ型で間食が我慢できず、内臓脂肪率が高く、高脂血症や高コレステロール血症という人は、セロトニン不足が原因かもしれません。
不眠は肥満を増強させます
「睡眠時間が短いと肥満になりやすい」ということが報告されています。
確かに起きている時間が長くなると、ついつい食事や夜食の回数が増えてしまいがち。
ただ、その「つい食べてしまう」行動自体が睡眠不足によるものってご存知でしたか?
睡眠不足が食欲増進につながるということを示したこんなデータがあります。健康成人男性1,024名を対象に、睡眠時間と食欲に関するホルモンの関連を調べた報告によれば、睡眠時間が短くなると、レプチン(食欲抑制ホルモン)の分泌が低下して、グレリン(食欲増進ホルモン)の分泌が増えることが示されています。つまり、睡眠時間が短いと食欲に関するホルモンのバランスが乱れて食欲が増進してしまい、肥満につながりやすいと考えられます。
また、別の研究では、健康な20代男性12名を対象に、4時間睡眠で2晩過ごした後と10時間睡眠で2晩過ごした後で、食欲に関するホルモンの変化と食べ物の嗜好について調べています。その結果、4時間睡眠で2晩過ごした後は、10時間睡眠の後に比べ、レプチン(食欲抑制ホルモン)が低下して、グレリン(食欲増進ホルモン)が増えており、実際に空腹感や食欲も増えていました。
さらに興味深いことに、4時間しか睡眠がとれなかった後は、10時間睡眠の後に比べ、ケーキやクッキー、アイスクリームなどのスイーツや、ポテトチップスやナッツなどの塩気の強いもの、パンやパスタなどの炭水化物が食べたくなるという傾向がみられました。
睡眠不足で食欲増進、さらにスイーツや炭水化物が食べたくなる…睡眠不足は肥満の大敵といえそうです。
寝不足で骨休め不足になりますと、骨髄細胞のミトコンドリアが減少し、骨髄細胞の造血機能が低下するということになります。
寝ている間に、活性酸素等で傷ついたミトコンドリアが修復されます。
睡眠不足は、こうしたことから傷ついたミトコンドリアが修復されないため、ミトコンドリアの機能が悪化することになり、基礎代謝が低下することによって肥満を引き起こしてくることになります。
最後に
ミトコンドリアには、 効率よくエネルギーをつくりながら活性酸素をあまりださない「質のいいミトコンドリア」と、エネルギー生成の効率が悪く、活性酸素をたくさんだしてしまう「質の悪いミトコンドリア」があります。
年齢とともに基礎代謝量が減っていくのは、体の中の様々な機能の低下によるものですが、「ミトコンドリアの質が低下する」ことによってエネルギーをつくる機能が下がり、それによって基礎代謝量が低下することが大きな原因だといわれます。
それならば、代謝を活発にし、肥満を防ぐのに有効な「質のいいミトコンドリア」を増やしていけば、贅肉とグッバイフォーエバーするスピードが早まるだけでなく、たるんだ肌や乾燥肌などの トラブル肌ともおさらばできるのです。
しかもうれしいことに、質のいいミトコンドリアを増やす作業は、それほど難しいことではありません。
質のいいミトコンドリアを増やして脂肪燃焼させるには、赤筋(遅筋)を鍛えるトレーニングです。なぜなら、ミトコンドリアは白筋ではなく、赤筋のほうにたくさん含まれているのです。赤筋の量を増やすためのトレーニングを行い、基礎代謝をアップさせて贅肉を落としていくことです。
赤筋を鍛えるためのトレーニングは、成長ホルモンの分泌も促し、質のいいミトコンドリアを増やす ことができるトレーニングです。
ミトコンドリアは特に、背中の筋肉と下半身の筋肉に多く含まれています。下半身の新しい筋肉からは マイオカインも分泌しますので、やはり下半身の筋トレが大切です。
簡単な方法は「背筋を伸ばす」ことです。
背筋を伸ばすということは、姿勢を正すために背中の筋肉を使うことになる。ピンと背筋を伸ばすことを日常的に意識するだけで、ミトコンドリアの量が増えていくのです。
以上のように、肥満は、ミトコンドリア、脳内セロトニンに関連したものであり、これらは片頭痛発症の”基本的的な病態”となっているものです。
この点に関しては、以前にも記事に致しました。
肥満は片頭痛を悪化させる!?
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-11946790239.html