独眼竜”臨床頭痛学” その7 問診の技術 | 頭痛 あれこれ

頭痛 あれこれ

 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 私は医学部の学生時代から神経学に興味をもち、この当時から諸先輩から神経学修得についての”イロハ”をお教え頂き、これを忠実に守って現在に至っております。
 学生時代は、神経生理学では神経伝導の電気生理学的研究をされる第一生理学教室の入沢宏教授とさらに自律神経系を研究される第二生理学教室の銭場武彦教授がおられました。 とくに神経解剖学では松島龍太郎先生の局所神経解剖学のノートはいまだに書棚にあります。実際に医師となった当時、画像診断は血管撮影しかなく、CTなどはない時代でしたので、「神経学的検査法」がすべてで、当時出版される「神経学的検査法」に関する書籍すべてに眼を通し、とくに平山恵造先生の1200ページに及ぶ「神経症候学」がボロボロになるまで繰り返して読み、「神経学的検査法」の手技取得のための研鑽に励みました。
 こうした時代に育ったためか、いまだに画像診断を行う前に、神経学的検査法によって病巣部位を特定して、画像診断により確認することを”慣わし”となっています。
 闇雲に画像検査を行って、はじめて病巣が見つかるということはありません。
 現在のように画像診断のなかった時代の修行の時期には、将来の神経内科を目指す若い者同士で、自分の「神経学的検査法」の手技の優劣を競ったのが思い出にあり、CT出現後は、CT撮影直前に、このような「神経学的検査法」を行い、病巣がどこにあるのかを賭ける”丁半博打”のようなことをして先輩の先生に怒られたものです。
 その後、ドイツ流の”局所診断学”からアメリカ流のメーヨー・クリニックの神経科学へと変遷していくうちに、「神経学的検査法」も変化し、これにより「運動系・感覚系・自律神経系」と分けて所見をとるようになり、これがさらに神経伝達物質の観点から「機能的神経学」となり、この頃からセロトニン神経系・ドーパミン神経系・アセチルコリン神経系という考え方へと自分自身も変化していきました。これが現在の考え方の”礎”となっています。(慢性頭痛もこうした”セロトニン神経系”という観点から捉えるように至っています。これが習慣化されているといっても過言ではありません。)


 神経学の研修を行う際に、とくに厳しく指導されたことは「問診」でした。神経学は、”問診に始まり問診に終わる”というように徹底したものでした。とくに、神経症候の「発症様式」は極めて重要とされ、オンセットが”いつなのか”を明確にさせ、その後現在に至るまでの経過が最も重要視されていました。これは、現在でもそうですが・・。サドン・オンセットなのか、緩徐な緩やかな発症なのか、いつとはなしに発症したものなのかということです。さらに発作性に周期的に出没するのかということです。これにより病因を推定する根拠とされるからに他ならないからです。
 そして、生活習慣、生活環境を確認することが最低限度要求されました。

 この神経学研修中にいろいろの経験を積ませて頂きました。このなかで忘れられないことは、秋田県立脳血管研究センターでのことでした。救急で搬送されてきた患者さんかもしくは患者さんの家族から直接、発症した状況を確認することがまず行うことです。
 ところが、秋田弁が広島の人間にはまったく理解できないことでした。こちらの質問は理解されるものの、その返答を秋田弁でされるため、こちらには全く理解できません。
 このため、看護師さんにすべて”通訳”してもらう必要がありました。この時のもどかしさは、経験したことのない人間には到底理解されないことと思います。
 言葉が理解できないことでは、”診療もなにもない”ということです。
 検査をすれば、それですべてが解決するものではないということです。とくに神経学の領域は、これをあからさまに表しており、とくに”慢性頭痛診療”ではこれが全てです。
 このようにその土地・土地での方言があり、その訴える気持ちがスムースに受け止められないもどかしさは、まさにストレスそのものであったように記憶しています。
 このことは、頭痛診療を田辺で始めた際にも味あわさせられました。広島弁も余り自慢されたものではありませんが、田辺弁には独特な表現があり、そのニュアンスを飲み込むまでには大変苦労させられました。表現のしかたを理解できないことには、微妙なこころの”心の綾”は読み取れないということを示しています。


 昨年、日本頭痛学会が主催される「HMSJ-Osaka」に参加させて頂きました。ここで、驚かされたことは、頭痛専門医には”独特な頭痛の問診方法がある”ということでした。
 そして、竹島多賀夫先生の「頭痛診療の極意」(丸善出版)にも同じように示されます。
 その共通するところは、「国際頭痛分類 第3版β版」の枠に沿うように問診体系が構築されています。「頭痛診療の極意」(丸善出版)の前半部分は、このような記述で占められており、これらを2、3提示してみたいのですが、著作権にも抵触しかねますので控えさせて頂きますが、頭痛専門医ならではの問診テクニックです。
 簡単に表現すれば、現在、一番困っている頭痛について要領よく聞き出し、ここから推測される頭痛の種類を「国際頭痛分類 第3版β版」に準拠して、可能性のあるものをすべて挙げることです。そして、最も可能性のある・困った頭痛に対して、「慢性頭痛診療ガイドライン」に従って、適切とされる薬剤を処方するということのようです。
 これまでの神経学の問診方法とは、まったく異なることに驚かされました。
 ということは、慢性頭痛の大半は片頭痛であり、片頭痛を見落としなく拾い上げ、トリプタン製剤を間違いなく処方するということです。
 このような実際については「頭痛診療の極意」(丸善出版)の前半部分に詳細に記載されていますので、一度はご覧になられるのもよろしいかと思っております。


 それでは、私の頭痛患者さんへの問診方法をお示し致します。


 先程も述べましたように、頭痛の起こり方を最重要視します。
 頭痛が、サドン・オンセットであれば、まずクモ膜下出血という致命的な頭痛を真っ先に考えなくてはなりません。さらに椎骨動脈解離も念頭に置く必要があり、結局、血管障害を念頭において、早急に画像検査を行い、脳神経外科に紹介することが大事です。
 かなり急激な発症を示し、発熱・嘔吐などがあれば、髄膜炎のような感染症を疑います。
 さらに、緩徐で次第に増悪してきているような場合は脳腫瘍を疑う必要があります。
 このように二次性頭痛かどうかは、発症様式さえ確認しさえすれば容易に区別できます。
 問題は、持続的に、あるいは断続的・周期的に・発作的に出没するような慢性の経過をとる場合です。このような頭痛は、慢性頭痛(一次性頭痛)ともいうべき頭痛です。こうした慢性頭痛の問診を行う場面では注意すべきことが、2,3あります。

 それは、受診時の時点で「頭痛がある」場合です。このような場合、これまで周期的にあったかどうか確認の上、受診した目的を確認することです。ひとによっては、何か脳に異常があるのではないかと考え、画像検査だけを希望される場合もあります。また、頭痛を早く鎮めて欲しい方もおられるはずです。こうした場合は、根掘り葉掘り聞くことは厳重に慎むべきです。
 このような「頭痛」のある時期に根掘り葉掘り聞きますと、患者さんは必ず、”さらに頭が痛くなるような”質問をするなと、怒り出すことが当然あるため、絶対にこの時点では、例え不十分な問診しか聴取できなくても、行うべきではありません。
 この場合は、迅速に「頭部CT検査」「頸椎X線検査」を行った上で、改めて、「頭部CT検査」はまず異常のないことを説明し、「頸椎X線検査」ではまずストレートネックが確認されるはずですから、緊張型頭痛であれば緊張型頭痛と説明し、片頭痛の場合、ストレートネックを示す原因が、日常生活上の姿勢に問題があること、さらに「ミトコンドリア」「脳内セロトニン」の関与があることを説明した上で、頭痛が治まった時点で、再度、受診し治し方を考えましょうと日を改めてということにします。しかし、このような対応をすれば、大半の方々は受診されることがないようです。が、どうにもならなくなってから受診されるのが”常”のように思われます。残念な限りですが仕方ないようです。


 これとは別に、周期的に頭痛が出没しながら、頭痛のない時点で来院され、患者さんの希望として、”頭痛の原因を知り、その対策を知りたい”という方々の場合です。
 このように「頭痛のフリーの状態」で来院された場合の問診のとり方です。


 こうした場面では、現在の「頭痛外来」で使用される「問診表」を使わないことです。
 最初は、患者さんの訴えをそのまま自由に、こちらから口を挟むことなく述べてもらうことが大切です。決して、患者さんが如何に”冗長に”述べようとも遮ることは厳禁です。
 このような訴え方から、本人の性格のあり方が垣間見れるはずだからです。
 このように「患者さんからの訴えの説明」がすべて終わってからが重要です。
 神経学でいう問診のとり方の原則に従って、聴取することが重要になってきます。
 時間が許す限り、根掘り葉掘り聞き出すことが最も重要になってきます。

 まず、頭痛を一番最初に自覚した時期を思い出してもらうことです。このような最初の頭痛は極めて軽度のため記憶に残っていないことがほとんどであるため、誘い水として、人混み,疲れのあと,寝過ぎ,映画のあと、前屈みの姿勢を長時間とった時に頭痛を経験したことがなかったかどうか、等の具体的な質問を示す必要があります。
 そして、この最初の頭痛が現在のような頭痛に至るまでにどのように変化してきたのかを確認していきます。増悪してきたのであれば、増悪するまで間の期間中に生活習慣、職場などに変化がなかったかどうかを確認します。とくに睡眠時間に変化がなかったかを。
 さらに、初めての頭痛から現在に至るまでに、最も激しい頭痛がなかったかどうかを確認し、その激しい頭痛がどの程度であったか、寝込んだり、嘔吐したり、光・音が煩わしくて、じっと静かなところで安静にする必要があったかを確認しておくことが重要です。
 さらに、自分で頭痛の原因が何と思っているのかを確認していきます。多くの場合、ストレスを挙げられる方々ではないでしょうか? または天気の変化とか・・
 そして、食生活について確認します。嗜好に何か特徴があるか、肉食が多いのか、甘い物が好きなのか、脂肪酸摂取などの食生活の問題点を聞き出すことも大切になります。
 さらに、家族・親戚のなかに”頭痛もち”がいないかどうかを確認します。
 これまでの既往歴も当然のこととして確認することも必要です。
 また、仕事の具体的な内容を確認します。とくに前屈みの姿勢を強要される作業環境にないかどうか、高温・低温の作業環境にないかどうかも含めてです。
 これまで、頭痛のために他の医療機関を受診したことがあるのかを確認し、受診していた場合、どのような検査を受けどのような説明がなされたかを確認します。
 片頭痛と言われていた場合、どのような説明を受けていたのか・・・
 そして、これまでの頭痛に対してどのように対処していたか、鎮痛薬を服用しておれば、どのように服用していたか、服用回数およびその効果がどのようであったかを確認します。


 このような問診により、自ずと緊張型頭痛から片頭痛へと移行してくる様相が明確にされ、”片頭痛移行への要因”も明らかになってきます。これは、検査を行った後の説明のために活用されることとなります。


 以上のような問診を行ったうえで、「頭部CT検査」「頸椎X線検査」を行います。
まず、「頭部CT検査」でなにも異常のないことを確認して頂きます。
 慢性頭痛では、神経学的検査法によって、脳のなかに異常がないことが判っていながらなぜ、「頭部CT検査」を行うのかということになりますが、これは神経学的検査法だけを行って”脳は心配ない”と仮に説明しても、患者さんは納得されないことがあるからです。 さらに、受診後にクモ膜下出血を起こされ、死亡でもすれば、訴訟問題にもなりかねないからで、予め受診時にはクモ膜下出血はなかったという証明になるからです。
 そして 「頸椎X線検査」でストレートネックが見られることを、正常の頸椎X線写真と対比させ、このように直線的になり前方に傾斜し、左右どちらかへの傾きがあることを確認してもらいます。このことから、このストレートネックがどのように頭痛を引き起こしているのかを図示して、分かりやすく説明します。
 そして、このストレートネックの原因が、姿勢の問題・ミトコンドリアの問題・脳内セロトニンの問題の3点からきていると分かりやすく図示して説明します。


 これを行ったうえで、病歴から総合して解説すれば、初めは緊張型頭痛から始まって、これにミトコンドリアの要因・脳内セロトニンの要因が追加されたことによって現在の頭痛(片頭痛)に至っていることを病歴上の問題点を指摘しながら説明することにしています。このようにすることによって、これまで”根掘り葉掘り確認したこと”がすべて関与していることが容易に理解されることになります。
 こうしたことを総合すれば、今後、何をどうすればよいのかは理解されることになります。そして、ミトコンドリアの働きを改善し、脳内セロトニンの低下をどのように改善させるかの概略を説明し、このためにも日常生活の改善の必要性を述べておきます。
 以上のような問診を行うことによって、生活習慣上の問題点が自ずと明確にされるということを意味しています。
 その結果、くすりだけでは頭痛の改善は得られないことが納得されることになります。

 ここで、くすりについての説明を追加しておくことも大切になってきます。これまで問診するなかで何を使っていたのか、なぜ効かないのかを明確にさせておく必要があります。
 これまで市販の鎮痛薬を服用していた場合は、その種類を確認し、アスピリンを含んだものであれば、アスピリンはミトコンドリアの働きを悪くさせる原因ともなり、このため頻回に服用することにより、ミトコンドリアの働きを悪くさせたためと納得してもらいます。アセトアミノフェンの場合には、有効量が含まれていないことから効かないため、度々服用せざるを得なくなり、このため脳内セロトニンの低下が引き起こされ、効かなくなった原因となっています。さらに病院で処方された非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の場合は、食事内容の必須脂肪酸の摂取バランスに問題があることを指摘し、これを是正する必要性を説明します。さらに、トリプタン製剤を既に服用されておられる場合は、他の鎮痛薬以上に薬剤乱用頭痛を起こしやすい薬剤であり、これは同時に、先程指摘した「生活習慣の問題」を是正しなかったために効かなかったと説明します。
 いずれにしても、頻回の薬剤の服用は、活性酸素を過剰に産生させる原因となり、このためミトコンドリアの働きを悪くさせ、引いては「脳内セロトニン」まで低下させることになり、いずれも片頭痛を悪化させる最大の原因となることを説明しておきます。

 以上のように問診の上で明確にされた「生活習慣」上の問題点を指摘することによって、これらを是正しないことには慢性頭痛の改善はあり得ないと納得して頂きます。このため、いずれの鎮痛薬を使う場面でも、「生活習慣の改善」は必須のものであることを強調します。 

 こういったことから、問診上明確にされた事項は、すべて今後の治療指針と生活習慣の改善へと繋げるように説明するためのものです。すべてを無駄なく使うことです。
 このように「今後の治療指針と生活習慣の改善へと繋ぐ」ための問診でなくてはなりません。このため、いくら時間を要しても最低限必要とされるものです。

 このような問診を行うためには、最低限1時間近くは必要とされます。

 これに「生活習慣の改善の具体的な改善策」を指導するためには、さらに時間が必要となります。こういったことから、糖尿病治療の際に使用される「糖尿病治療のてびき」とか「食品交換表」といった指導書が必要とされる所以(理由)です。
 このような慢性頭痛患者さんへの「問診から指導」までを、プライマリーケアを担当する最底辺の一般開業医が行うべきことです。


 学会を主導される先生方は、このような方針を示されることもなく放置されます。
 その結果、現在の「頭痛外来」には、慢性頭痛(ほとんどは、緊張型頭痛か片頭痛です)の患者さんで溢れかえってしまい、このため直接患者さんから問診することなく、「問診表」を活用して効率よく「片頭痛患者」を見落としなく掬い上げて、トリプタン製剤と予防薬を処方するだけで、精一杯のようです。まさにベルトコンベア方式です。
 こういったことから「生活指導」そのものを行う時間的な余裕がないのか、それともその必要性を考えないためか、まず、ほとんど行われることはないようです。
 こうすることでトリプタン製薬メーカーが潤うシステムになっています。
 これが、現在の「頭痛外来」の実態です。1日に300人前後、診察される専門医もおられるようです。24時間ぶっつづけで診察したとしても、1人5分間弱の計算です。私には、たった5分間で診れる問診内容に、すごく興味をもっております。少なくとも、診断して治療上の説明ができるのでしょうか?
 こうした多忙を極める「頭痛外来」を担当される専門医が学会を主導されるのです。どこから新たな発想が生まれてくるというのでしょうか。精々、外国文献の二番煎じを行うのが関の山といったところでしょうか?


 以上のように、私が行っている「神経学の問診方法」は、発症から現在に至るまでを詳細に明らかにさせる”縦断的観点”から頭痛を捉えているのに対して、一般の頭痛外来での「問診表による方法」は、患者の意識下にある”極く一断面”を捉えた”横断的側面”からしか頭痛を捉えているに過ぎず、ここが根本的に異なっているということです。


 ここに、慢性頭痛の捉え方・考え方の相違があることを示しております。