独眼竜”臨床頭痛学” その2 私と頭痛診療 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 それでは、一般開業医と竹島先生との考え方の相違はどこに原因があるのでしょうか?


 診断基準として、「国際頭痛分類 第3版β版」に従うことには、私は全く異論のないところです。そして、こうした国際基準は、頭痛診療を行う人間にとっては必須のものであることは骨の髄まで叩き込まれ、「国際頭痛分類 第2版」に至っては、念仏を唱えるがごとく繰り返し・繰り返し、読み直しをする程、この重要性は認識しています。
 これに従わなくしては、議論も何もないと考えているからです。

 それでは、どうしてこのような相違が生じてきたのでしょうか?



 これを理解するためには、私の頭痛医療との関わり方を説明する必要があります。
 私は、昭和45年から国家公務員等共済組合連合会 呉共済病院内科に勤務致しました。
 ここでは、新入内科医局員は、内科医長の外来診察日には予診係が義務とされていました。こうしたことから最初の1年間は予診係をさせられ、不適切な予診・問診は、直ちに取り直しを命じられる程、徹底して厳しいの一言でした。このなかでも、特に厳重に指導されたことは、頭痛患者さんの予診でした。当時は、現在のようにCTとかMRIのような画像診断がなかった時代です。このため、予診の段階で、まず、脳のなかに原因のある二次性頭痛かどうかを明確にさせる予診の内容が要求されました。さらに、二次性頭痛ではないとの予診内容が取れた場合は、次に要求されることは、一次性頭痛とされる脳のなかには異常のない慢性頭痛の予診のとりかたが求められました。当時は、緊張型頭痛か片頭痛かの鑑別だけに過ぎませんが、果たして緊張型頭痛なのか片頭痛なのかを明確に予診をとる時点で明らかにさせ、カルテの記載からこれがくみ取れるような記述を徹底して求められました。こういったことから、「頭痛患者」さんの予診は恐怖の的のように思える程、徹底して取り直しを命じられた記憶が未だに忘れることはできません。
 このため臨床医学雑誌に掲載されていた頭痛懇話会の重鎮とされる先生方が作成されておられた「問診表」を参考にして、自分独自の「問診表」を作成し、予診係に備えました。 当時の問診表は、あくまでも二次性頭痛を除外することが目的でした。これに一次性頭痛を鑑別するために問診項目を追加すれば、反って煩雑なものとなるため、こちらは極めて大雑把に、「閃輝暗点」があるかとか、頭痛時に嘔吐するかとか寝込んだりするかとか、 家族に”頭痛もち”がおられるかどうか、といった程度しか含めませんでした。
 このようにして作成された”予診”をもとに内科医長は、当時の悪名高き”3分間診療”を行っていました。当時は、頭痛の検査としては、画像検査がなかった時代でしたので、神経学的検査法、眼底検査、脳波検査、髄液検査、さらに場合によっては脳血管撮影を内科独自で行っていました。このなかの、眼底検査、脳波検査、は必須の検査でした。
 初年度から、私が将来”神経学”を志すと内科医長に伝えてあったこともあり、神経学的検査法の手技を磨くことを義務づけられ、眼底検査、脳波検査、髄液検査、すべてを私に任され、さらに脳血管撮影の手技まで身につけることになりました。こうしたことから
 「脳波検査」は過去20年間にわたって自分で記録し、自分で判読してきました。
 「髄液検査」は致命的とされるクモ膜下出血の診断を行うために行っており、何が何でも髄液を採取することが求められ、とくに traumatic tap といって髄液採取時に誤って血管を傷つけ血液の混ざった髄液を採取することもあります。こうした場合に、採取した髄液を遠心分離器にかけて、血球成分と上澄みの液に分離させ、上澄みの液がキサントクロミー(黄色)か透明かで判別するテクニックも身につけ、上澄みの液がキサントクロミー(黄色)であれば、直ちに脳血管撮影を行うことにより、脳動脈瘤の発見に努めました。
 このようななかで、中学生の女の子の片頭痛の方が、ときに意識が薄れることがあるということで、脳血管撮影を行うことにより、脳動静脈奇形を見つけたこともありました。
 このように、内科で二次性頭痛であれ、頭痛患者さんの最終診断を下して、必要であれば脳神経外科に紹介するというスタンスは、最初から叩き込まれました。
 そして、医師になって2年目から、外来診察を任されることになりましたが、今度は予診係がいるわけではなく、自分ですべて行わなくてはならなくなりました。将来、神経学を目指すということから、頭痛・めまい・手のしびれ・ふるえ等々の訴えの方々を中心としての診察を任されました。当時は、1日100名前後を午前中の診察時間内でこなすことが求められており、これが当時の悪名高き”3分間診療”でした。こうしたことから、頭痛患者さんの場合、3分間診療では、二次性頭痛の除外診断(問診・神経学的検査法・眼底検査だけは必らず行うことから、到底3分間以内では行えないことになります)を行うことが精一杯の状況であるため、到底、慢性頭痛の診療には程遠いものでした。こういったことから、週1回は、特別に午後から「頭痛・めまい」の患者さんだけ診察する日を設けてもらうことにしました。ここには、先程の「慢性頭痛」と診断した方々を日を改めて受診して頂くことにしました。ここに「めまい」を加えた理由は、当時から「頭痛患者さんには同時にめまいを訴える方」が多いということを経験的に感じていたからです。
 この週1回の午後からの外来には、セデスGによる薬剤乱用頭痛の方々が圧倒的に多く、当時の内科医は、自分の外来患者さんが頭痛を訴えれば、安易にセデスGを処方するということが日常的に行われていた結果でした。これから脱却させるための苦労は人一倍させられたように思っております。また、片頭痛の治療薬としては、エルゴタミン製剤のカフェルゴットしかなく、予防薬としてβブロッカー、抗うつ薬、カルシウム拮抗薬のフルナール、ミグリステン程度しかなく、とくにカフェルゴットは使い方が難しく、前兆のある方には極めて有効のようでしたが、前兆のない方々は服用のタイミングが合わないと悲惨な結果しかなく、こうしたことから生活習慣を詳細に点検することによって問題点を抽出し、これを是正させることに務めていました。こういうことから、診察時間は30分間を1名に取っても足らないことも度々でした。こういったことから、将来、自分で医院を持った暁には、慢性頭痛患者さんにとって満足の得られるような頭痛診療を、と夢に描いておりました。どの程度の時間が必要なのかは暗中模索しておりました。


 その後、昭和63年8月に呉共済病院を辞して、大阪の富永記念病院に移ったものの夢に描いていた「脳梗塞急性期の血行再開療法」も空しく潰え去ったあとに、田辺での開業の話につられて開業する羽目になりましたが、ここを終生の住み処と心に決めて最後の砦の「慢性頭痛診療」を平成2年4月から開始するに至りました。田辺市は総人口8万人前後の片田舎であり、さらに田辺市の隅っこにあるさらに片田舎にあることから、一般の外来患者数も1日40人前後であり、このなかの頭痛患者数は1日に数名前後であることから、慢性頭痛患者さんの診療環境としては申し分ないものでした。こうした環境に恵まれたお陰で、1名の診療時間は自分の思うようにとれる状況が生まれたことになりました。

 開院当初は、当地区には脳神経外科が存在しなかったため、二次性頭痛まで診断を下す必要があり、頭部CTと脳波計とX線テレビ装置を設置し、必要であれば髄液検査も適宜行える体制を作った上で、命にかかわる頭痛は、最初に除外する方針のもとに「慢性頭痛」を腰を据えて診るように心掛けました。慢性頭痛の診療方針として、まず頭部CTおよび頸椎X線検査を必ず行うようにしてスタートしました。

 ここで、なぜ「X線テレビ装置」を設置したのかという理由ですが、頸椎X線検査を行うのに先立って、まず透視下において、脊柱全体の走行を把握するため、正面および側面から脊柱の走行に歪み・偏りがないかどうか確認の上、頸椎X線検査を撮影するためです。
 頸椎X線検査では正面像で左右どちらかへの偏位がないかどうか確認の目的で撮影します。そして側面像でまっすぐに起立した状態で撮影します。前彎が保持されているかどうか、前傾していないかどうか(直線的になっていないかどうか)確認します。さらに介助して前屈位をとらせることによってスムースに前屈できるかどうかがポイントです。そして後屈させて、スムースに後屈できるかどうか把握します。場合によっては、前屈・後屈させても棒状にしかならないこともあるからです。そして、斜位を2方向追加します。
 これは頸椎症にまで進展していないかどうかの確認を目的とするものです。そしてストレートネックを認めた場合は、正面から左右の鎖骨が水平になっていないかどうかを確認します。これは胸郭出口症候群にまで進展していないかどうかの確認です。このように原則として6方向を撮影することによって、ストレートネックの有無を確認します。
 また頭部CT撮影に際しては、頭を固定するときの位置合わせを行う時点で「体の歪み」
が確認されることもあります。このように頭部CTおよび頸椎X線検査を行う場合に、一般病院のようにレントゲン技師任せにすることなく、私自身がレントゲンを被爆しながら撮影するようにしております。これは弱小の一般開業医のあり方として当然のことです。


 当初は「頭痛の問診表」を独自に作成して使っておりましたが、途中から緊張型頭痛やら片頭痛やらどちらとも言えない患者さんも多く、返って問診表を使うことで煩雑になっていることに気がつき、直接じかに問診を行うように改めることになってしまいました。
 診断基準は「国際頭痛分類」に従って行い、改訂の都度、これに合わせるべく行ってきました。「国際頭痛分類第2版」以降は、1名の患者さんの診断名が4つか5つを並列せざるを得ない場合も多く、地域柄、緊張型頭痛が多いのも特徴のように思っております。
 こうしたことから、慢性頭痛患者さんの診療時間は平均して、1時間前後であり、片頭痛の場合は、生活指導を行う関係から1時間半前後要しています。こうした「生活指導」を行う場面において、単に口頭だけで行った場合不十分であり徹底しないことに気づき当医院独自の「生活習慣の指導書」を作成し、直接、患者さん1人1人にお渡しすることにしておりました。開始当初から現在まで頭痛研究の知見が改まると同時に改訂を積み重ね、最近では、日本頭痛学会の作成する「慢性頭痛診療のガイドライン」とは全く異なる考え方でこうした指導書を作成しております。(これが、”片頭痛の生活習慣の改善”です)


 また、当紀南地区は梅の産地でもあり、受診される頭痛患者さんは、前屈みで日常的に作業される環境にあり、肩こり・頭痛(緊張型頭痛)が多いことから、平成15年以来、低出力レーザー治療機器(スーパーライザー)を導入し、治療にあたって参りました。
 この点は、「慢性頭痛の周辺」で述べたばかりです。省略します。
 そして、若い転勤族の方々もおられるのですが、多くの方々は、土地のひとが大半であり、断続的に受診される方々が大半です。当医院では電子カルテ(Dynamics)を導入して病名が保存されていることから、いかに断続的に受診されようとも、以前の診断名が即座に分かるようなシステムが構築されております。
 こうした診療環境から生まれたのが、平成24年9月に公開した「頭痛とストレートネック」でした。 http://taku1902.jp/sub105.pdf


 さらに、竹島 多賀夫先生の提唱される「機能性頭痛一元論」は、まさにその通りとの確信に至っており、緊張型頭痛と片頭痛は一連のものであるとの考え方が生まれております。さらに山崎有為さんの「頭痛解体新書」を拝読することにより、片頭痛と「セロトニン生活」の関与を知りました。さらに、東京脳神経センターの松井孝嘉先生の「頸性神経筋症候群」の概念を知りました。そして、平成25年2月には、分子化学療法研究所の後藤 日出夫先生の書籍「お医者さんにも読ませたい 片頭痛の治し方」を拝読させて頂いて以来、先生からいろいろご指導頂き、その結果、現在のようなブログで明らかにさせて頂いているような考え方に変遷するに至っております。
 以上のように私の慢性頭痛に関する臨床頭痛学は、頭痛と首は切っても切れない関係にあるということが基本となり、これに諸々の先生方の考え方を組み立てて構築したものです。このなかには当然のこととして、鳥取大学医学部神経内科の下村登規夫先生のMBT療法もこのなかには組み込まれております。
 このようにして、竹島先生が今回示されるような「頭痛診療の極意」(丸善出版)とは、まったく異なるものとなるに至っております。
 これは、「国際頭痛分類第3版 β版」だけに拘って「慢性頭痛に関する臨床頭痛学」を論じたものではないということを意味しております。

 そして、片頭痛治療として、トリプタン製剤が第一選択薬とはなりえず、まず生活習慣を徹底的に洗い出し・見直しを行い、問題点を見つけ出して、これを改善させることに主眼を置いております。このようにしながら、市販の鎮痛薬が有効であれば、そのままとしますが、ここでは月10回以内にすることを徹底させています。これでダメなら非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を、これでもダメならエルゴタミン製剤を、そしてこれでもダメなら最後の切り札としてトリプタン製剤を使うことを原則としています。いきなり、トリプタン製剤を使うことは絶対にしない方針です。この理由は、安易にトリプタン製剤を使えば、効く人には麻薬並みの絶大な効果を示すことになり、発作の都度服用することになり、トリプタン乱用頭痛を併発することになり、この頭痛地獄に陥ることにより、ここからの脱却が極めて困難になるからです。こうしたことから、生活習慣の改善が図れない方々に対しては”禁忌”とすら考えているほどです。それほど、「生活習慣の改善」は片頭痛治療上の核心に触れるものと思っております。予防薬を使わざるを得ない頻回に起きる方々には、とくに最優先して行うべき事項と思っております。
 こういったことから、片頭痛治療上最も大切なものは、自分の生活習慣を見直させるための「手引書」が必要不可欠のものと思っております。
 このようなことから、片頭痛治療は、”くすり”だけでは改善は到底望むべくもないということです。


 以上のように、私の慢性頭痛診療の基本姿勢は、検査上では、頭部CTおよび頸椎X線検査の2つを必ず行うことであり、診察の場面では、問診表を利用することなく、直接、時間をかけて話をお伺いすることです。この際、受診目的を明確にさせることです。
 最も、重要な点は、「生活習慣の点検を行い、不適切な部分を指摘」した上で、「生活習慣の具体的な改善方法」を提示することを原則としています。絶対に”薬物療法”のみに終始しないことが大切と思っております。
 こうしたことから、1名の患者さんの診察時間は最低でも1時間を費やしていることです。この点が、一般の「頭痛外来」とは根本的に異なる点です。
 このようにして構築された独眼竜”臨床頭痛学”です。


 次回は、この点を竹島先生が今回示されるような「頭痛診療の極意」(丸善出版)から引用することによって、掘り下げて述べていくことに致します。