慢性頭痛の周辺 その10 高血圧症 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

高血圧に頭痛は少ないが安心してはダメ


 高血圧は思ったほど頭痛とは関係ありません。といいますのは、高血圧では
むしろ血管が緊張していますので、頭痛が起こりにくいのです。
 高血圧の人は普段は健康で、精力的に仕事をこなします。「仕事師」タイプの人が多いようです。医者知らずでバリバリ働いているうちに、ある日「突然脳卒中で倒れた」というケースにしばしば遭遇します。
 このように高血圧は、知らない間に脳や心臓に病気をつくりますので、定期的に血圧をチェックしましょう。なにしろ血圧を測るだけで、簡単に診断がついてしまうのですから。
 多少の高血圧では無症状であっても、収縮期血圧が220 mmHg 拡張期血圧120 mmHg 以上の高血圧になってきますと、やはり頭痛や肩こり、めまいが起きてきます。
 患者さんによってはぽーっつとする、気分がおかしいとも訴えます。 高血圧の頭痛は朝方、後頭部が痛むという特徴があります


 こわいのは高血圧性脳症です。血圧計が振り切れるほど血圧が急に上がることによって、脳の血管が膨れて脳がむくみ、脳圧が上がる病気です。こうなりますとひどい頭痛、吐き気、嘔吐、けいれん、意識混濁があらわれ、下手をすると死亡してしまいます。
 いっぽう、高血圧のときには症状がなかったのに、治療をはじめてから頭痛が起こるようになったという人もいます。これは血管を広げるタイプの降圧薬(たとえばカルシウム拮抗薬)を使用した場合、血管拡張作用のために、頭痛がおこることがあるためです。
 しかし血管を広げる作用は、脳や心臓の血流を改善する作用も併せ持っていま
すので、この頭痛はむしろ好ましいことなのです。


高血圧による頭痛は、「国際頭痛分類第3版 β版」では、以下のように分類されています。


高血圧性頭痛


 褐色細胞腫による頭痛
 高血圧性脳症のない高血圧性クリーゼによる頭痛
 高血圧性脳症による頭痛
 子癇前症または子癇による頭痛
 自律神経反射障害による頭痛


 ここでは 【高血圧性脳症による頭痛】について考えてみたいと思います。「国際頭痛分類第3版 β版」での診断基準を示します。


高血圧性脳症による頭痛


A.頭痛はCを満たす
B.高血圧性脳症が診断されている
C.原因となる証拠として、以下のうち少なくとも2項目が示されている
1.頭痛は高血圧性脳症の発現と時期的に一致して出現している
2.以下のうち一方もしくは両方
a.頭痛は、高血圧性脳症が悪化するのと並行して有意に悪化している
b.頭痛は、高血圧性脳症が改善もしくは消失するのと並行して有意に改善もしくは消失している
3.頭痛は、以下の3項目のうち少なくとも2項目を有する
a.頭部全体の痛み
b.拍動性
c.身体活動により増悪
D.ほかに最適な「国際頭痛分類第3版 β版」の診断がない


 脳血流量は、血圧が高くなっても低くなっても、一定に保たれる脳循環の自動調節能が存在します。高血圧性脳症は、正常な脳循環の自動調節能を越えてしまい、代償性脳血管収縮ができなくなり、血圧上昇による脳の過灌流を防止できなくなった場合に発症すると考えられています。現在は、高血圧性脳症は脳循環の自動調節能のブレイクスルー及び血管内皮の障害によって脳浮腫を生じるためと考えられています。MRIでこれはしばしば後頭葉の白質においてみられます。
 この病態は、可逆性後頭葉白質脳症とされています。 どうして後頭葉に多いのでしょうか。それはよくわかっていませんが、脳血管の交感神経系の分布の違いによると考えられています。脳の後方循環の交感神経は前方に比較して少ないと報告されています。そのため可逆性後頭葉白質脳症は、脳の後方循環で起こりやすいと考えられています。


頭痛と高血圧の密接な関係


 毎年5月17日は、「高血圧の日」です。世界高血圧デーに合わせて、2007年から日本でも高血圧の啓発キャンペーンなどがおこなわれています。
現在、高血圧の方は患者と予備軍を合わせると約4300万人にのぼりますが、治療を受けているのは約4分の1(24%)にすぎません。その理由の1つは、高血圧になっても痛いとかつらいといった自覚症状がほとんどないため、治療を先延ばしにしたり、放置したりしている方が多いためです。
たしかに高血圧には、自覚できるような目立った症状は少ないのですが、意外な症状の1つに頭痛があります。頭痛は、肩こり や寝不足、ストレスなどでも起こるため、高血圧との関連はあまり重視されていませんが、頭痛を起こす方は少なくありません。
一般に、頭痛はなんらかの原因で脳の血管が拡張し、神経を刺激することから起こるとされています。
しかし、高血圧の場合には、少し事情が違います。かりに血圧が上昇しても、私たちの体には脳の血流を正常に維持するシステムが備わっているので、通常は脳の血流圧(灌流圧)は影響を受けず、高くなりません。それにもかかわらず頭痛が起こるのは、脳内になんらかの異常(変化)や動脈硬化などの障害が生じている可能性を示しています。
 高血圧が原因の頭痛は前頭部や後頭部に痛みがあります。なぜ頭痛の症状が出るのかは未だにわかっていませんが、今のところ血圧が上昇することによって脳内の血管が急激に広がり、神経が刺激され痛みが発生すると考えられています。血圧が正常値の人も急激に血圧が上がることで頭痛が発生することがあります。
 高血圧の人には必ず頭痛が発生するというわけではないですが、高血圧だと頭痛が起こりやすいと言われています。この頭痛はそれほど心配する必要のないものですが、中には命に係わる危険な病気のサインである場合もあります。
実際に、頭痛と高血圧がセットになった場合、高血圧性脳症や脳出血などの重大な病気のリスクが高いことが分かってきています。
それだけに、頭痛は高血圧のサインの1つであるだけでなく、高血圧の方の頭痛には十分な注意が必要だといえます。頭痛くらいとあなどらず、高血圧との関係をよく知っておき、予防のきっかけにしましょう。

高血圧性脳症に気を付けよう


 私たちの脳の血流は、さまざまな調節機能によってコントロールされています。その代表的なものは、血液中の二酸化炭素を介した化学的調節機能と、脳の血管周辺にある自律神経系の作用による調節機能です。
前者は、脳の活動によって代謝が進んで二酸化炭素が増えると血管が拡張し、代謝が低下すると二酸化炭素も減少して血管が収縮することで、脳の血液循環を一定に保つ機能です。
もう1つの自律神経系による調節機能は、近年になって研究が進んでいるもので、自律神経が障害を受けると脳の血流に変化が生じることから、自律神経系が脳の血液循環に重要な役目を果たしていることが分かってきています。
ところが、なんらかの理由で、これらの調節機能の限界を超える事態が生じることがあります。
その原因の1つとして、急激な高血圧(血圧上昇)や長期間継続する高血圧が指摘されています。個人差はありますが、目安として収縮期血圧が210㎜Hg以上、あるいは拡張期血圧が120㎜Hgを超えるケースでは注意が必要とされています。
こうした悪性の高血圧の場合、代謝異常などによって脳本体(脳実質)に水分が溜まって脳浮腫(脳のむくみ)を起こすと、頭蓋内圧が上昇しやすくなります。その結果、神経が刺激され、頭痛が起こると考えられています。とくに、早朝に頭痛が起こりやすいという傾向がみられます。
脳浮腫によって頭蓋内圧が上昇した病態を、高血圧性脳症といいます。
典型的な症状は頭痛ですが、吐き気や嘔吐をともなうこともありますし、頭蓋内圧の上昇状態が続くとけいれんや意識障害、視力障害を起こすリスクも高くなることが知られています。
また、放置していると脳だけでなく、心臓や腎臓などにも致命的な影響を及ぼす可能性があるので、早く治療を受けて血圧を下げることが必要です。

脳出血・脳梗塞にも注意を


 頭痛をともなう高血圧で、もう1つ気を付けたいのは脳出血と脳梗塞です。
 脳出血は、なんらかの原因で脳血管の一部が破裂して出血を起こし、脳機能がダメージを受ける病気です。高血圧の初期治療が進んだ結果、脳出血で亡くなる方は減少しつつありますが、半面、さまざまな後遺症(手足などの筋力の低下や麻痺、視覚障害や言語障害など)によって、寝たきりとなったり、日常生活に支障をきたすことも多く、介護を必要とするケースが増加しています。
脳出血というと、なんの前触れもなく突然に発作を起こし、意識を失って倒れるといった印象があるのではないでしょうか。しかし、それ以前の段階として、脳血管から浸み出した血液などが、脳内に血腫という血液のかたまりをつくります(高血圧性脳内出血)。血腫が次第に大きくなると、頭蓋内圧が上昇するため、神経が刺激されて頭痛を起こすことも少なくありません。さらに、血腫に圧力がかかり、破裂すると脳出血が起こります。
したがって、高血圧の方の頭痛は、血腫ができ、脳出血のリスクが高くなりつつあることを示す1つのサインともいえます。もちろん頭痛には、肩こりなどほかの要因も数多くありますが、原因不明の頭痛をくり返す場合には早めに検査を受けたほうがいいでしょう。
高血圧は、脳出血の原因の60%~70%を占めるほど大きな要因ですが、とくに動脈硬化があると血腫ができやすく、また脳出血を起こしやすくなるので、40歳以降の中高年の方は注意が必要です。
もう1つの脳梗塞は、動脈硬化などが原因で脳の血管の一部が詰まり、脳機能にダメージを及ぼす病気です。梗塞が起こった場所によって、運動障害や言語障害などの後遺症も生じます。
一般に、脳梗塞の場合には、頭痛の症状が出る方はそれほど多くないとされています。ただし、梗塞が大きくなると、脳浮腫などからやはり頭蓋内圧が高くなって頭痛につながることもあるので、一応の注意は必要です。
脳梗塞では、一過性脳虚血発作といって、片方の手や足に急に力が入らなくなる、言葉がもつれてうまく喋れなくなる、片方の目が見えにくくなるなどの、一時的な前触れ症状がみられることが少なくありません。
そうした場合には、早めに受診すると同時に、自分でも血圧管理をしっかりすることが大切です。

予防のためにできること


 高血圧性脳症や脳出血を予防するためには、(1)高血圧を放置しないこと、(2)急激な血圧上昇を防ぐこと、が大切です。


(1) 高血圧を放置しない


 定期健診などで高血圧やその予備軍と診断されたら、放置せずに定期的に病院で検査を受けることが、予防の基本です。とくに頭痛や吐き気、めまいなどがある場合は、軽い症状であっても、高血圧性のものかどうかなど、原因を把握することが大切です。
仕事が忙しかったり、悩み事などがあったりすると、気づかないうちにストレスによって高血圧状態が続いていることがあります。ストレスは自律神経系にも影響を及ぼすため、脳血流の調節機能が低下し、高血圧の影響を受けやすくなります。自宅でも毎日、血圧測定をする習慣をつけ、日々の血圧や体調に気を付けるようにしましょう。ストレスを解消するために、週に3~4回は運動をしたり、楽しめる趣味をもつことも大切です。
また、睡眠時に大いびきをかく人は、気道が閉塞して呼吸がうまくできず、脳の血液中の二酸化炭素濃度が高まって血管が拡張し、頭蓋内圧の上昇をまねきやすくなります。その典型が、睡眠時無呼吸症候群ですが、重症化すると脳出血や脳梗塞を起こすリスクが、健康な人の3倍以上になることが報告されています。大いびきを家族や友人などから指摘された場合は、早めに受診して治療を受けるようにしましょう。


(2) 急な血圧上昇を防ぐ


 スポーツの応援や言い争いなどで興奮すると、血圧が急上昇します。また、入浴時にいきなり熱い湯につかったり、トイレで強くいきんだりしたときにも、血圧が一時的に急上昇します。
こうした血圧の急上昇は、脳出血の大きなリスクとなります。実際に、スポーツ観戦時や入浴中、あるいはトイレで脳出血を起こして倒れるケースは少なくありません。とくに高血圧で頭痛もある方は、先程説明したように脳内に血腫ができ、高血圧性脳症になっている可能性もあるので、十分に注意しましょう。
日常生活では、気持ちにゆとりをもち、あわてて行動したり、怒って興奮したりしないように心掛けることも大切です。


 一般に、脳出血や脳梗塞は、毎日1合以上のアルコール(ビールで大瓶1本程以上)を飲む人や、タバコをよく喫う人でリスクが高くなります。たとえば、1日に40本のタバコを喫う人の発症リスクは、タバコを喫わない人の約4倍にもなります。
アルコールを控えめにし、禁煙をするだけでもリスクを下げることができることを知っておきましょう。