二次性頭痛(その他) 8 一酸化炭素中毒 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 デパートや混雑した映画館、狭く人がたくさんいる会議室に長時間いた日や、激しい運動をした日、激しく泣いた後など、酸素をたくさん使った時や、酸素を思うように摂取できなかった時に頭が痛くなるような経験をされた方も多いのではないでしょうか?
 先日も取り上げた高山病もそうですが、このような”酸欠による頭痛”の代表的なものは、今回の「一酸化炭素中毒による頭痛」です。
「神経細胞の酸素不足=頭への血流不足」によって反応性に脳血管が拡張することによって、片頭痛のような拍動性の頭痛を来すものと思われます。


● 酸欠による頭痛


 1931 年のこと、冒険家C・K・スミスはサザンクロス・マイナー号という飛行機に乗ってオーストラリアからイギリスに向かっていました。ラングーンに近づく頃、彼は急激な頭痛とめまいに襲われました。
 ラングーンを発ちベンガル湾の上では「恐ろしい気分!日射病になりかけのようだ」という状態になり、カラチに着いたときには「ひどい夜だった。頭はドラム缶のように鳴り続けた」、さらに飛び続けると「飛行が終わる前に死んでしまいそうだ。着陸する場所を見つけなければ・・・さもなければ、きっと墜落するだろう」などと記載しています。その後、頭痛が治まったので再び飛行すると、今度は「頭痛とめまいに苦しめられる」結局アテネで飛行機の排気管に漏れ穴が発見されました。
 かれの頭痛の原因は、なんと排気ガスのせいだったのです。排気ガスに含まれる二酸化炭素は脳に酸素を送り込むために血管を著しく広げ、ズキズキ頭痛を起こします。そのほか一酸化炭素も同様の理屈で頭痛の原因になります。
 一般に酸欠の状態は血管がひどく拡張して頭痛の原因になります。人混みや空気の悪いところで頭痛がおこるのもそのせいです。
 また、高山病や極度の貧血でも同じように血管が広がって頭痛が起こります。
 このように環境の変化で頭痛が起こった場合酸欠、一酸化炭素中毒、二酸化炭素中毒、有毒ガスによる環境汚染を疑う必要があります。この場合、頭痛は非常ベルの役目を果たしています。
 いびきをかく癖があり朝頭痛がする人は、睡眠中、無呼吸になり、二酸化炭素が蓄積されて頭痛が起こっている可能性があります。睡眠中の無呼吸は突然死の原因になりますので、思い当たる人は、是非医療機関で相談して下さい。


「国際頭痛分類 第3版β版」では、以下のように記載されています。


 二次性頭痛のなかの「物質またはその離脱による頭痛」として 「物質の使用または曝露による頭痛」の項目のなかで


  一酸化窒素(NO)供与体誘発頭痛
  ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬誘発頭痛
  一酸化炭素(CO)誘発頭痛
  アルコール誘発頭痛
  食品および添加物誘発頭痛
  コカイン誘発頭痛
  ヒスタミン誘発頭痛
  カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)誘発頭痛
  外因性急性昇圧物質による頭痛
  頭痛治療薬以外の薬剤の一時的使用による頭痛
  頭痛治療薬以外の薬剤の長期使用による頭痛
  外因性ホルモンによる頭痛
  その他の物質の使用または曝露による頭痛


 そして、「一酸化炭素(CO)誘発頭痛」は、以下のように規定されています。


 以前に使用された用語としては、「倉庫労働者の頭痛」でした。

一酸化炭素(CO)への曝露によって引き起こされ,排除後72時間以内に自然消失する頭痛。


・診断基準


A.両側性の頭痛がCを満たす
B.一酸化炭素への曝露
C.原因となる証拠として,以下のすべてが示されている
  1.頭痛は一酸化炭素曝露後12時間以内に発現
  2.頭痛の程度は一酸化酸素中毒の重症度により変動
  3.頭痛は一酸化炭素が排除されてから,72時間以内に消失
D,ほかに最適な「国際頭痛分類 第3版β版」の診断がない


 典型的には,一酸化炭素血色素が10~20%のレベルでは胃腸症状または神経症状を欠く軽度の頭痛がみられ,20~30%のレベルでは中程度の拍動性頭痛と易剌激性がみられ,30~40%のレベルでは悪心・嘔吐および霧視を伴う重度の頭痛がみられます。 40%以上のレベルでは,意識が変化するため,通常頭痛を訴えることはありません。
 頭痛における一酸化炭素中毒の長期の影響に関する十分な研究はありませんが,慢性一酸化炭素中毒後頭痛のいくつかの証拠があります。

 このように記載されております。


「まさか」と思う状況で発生する一酸化炭素中毒の怖さ


こまめな換気と的確な情報伝達が二次災害を予防することが大切です。


 毎年、冬場になると増加するのが一酸化炭素中毒による死亡事故といったニュースです。 一酸化炭素は、炭素含有物の不完全燃焼によって生じる無色・無味・無臭の気体であり、発生に気づきにくいという特徴を持っています。


気づかないうちに一酸化炭素は充満する


一酸化炭素が発生しやすいのはどのような状況か。


 一番身近なところでは、閉鎖空間の中でストーブなどの暖房器具を用いる場合です。昔の日本家屋ではすき間がありましたが、今のマンションなどは気密性が高いため、「まさか」と思うような状況でも事故が起こります。よくいわれることですが、暖房中の「こまめな換気」は本当に重要です。
 また、車の排気ガスによる一酸化炭素中毒もあります。自殺に使われることもありますが、意図しなくても車内に充満してしまうケースがあります。久しぶりの大雪で、マフラーが雪に埋もれていることに気付かずにエンジンをかけ続けたため、一酸化炭素が車内に逆流するという事故も起きています。積雪量の多い地方では、エンジンをかけたまま車を停止している際、雪でマフラーが隠れてしまっていないかを常に注意しておく必要があります。
 それから、ガス炊きのお風呂が原因となる場合もあります。特に注意したいのは、追い炊き機能があって、横にボイラーが付いているような古いタイプのお風呂です。入浴中は、窓を開けて換気するというわけにもいかないので、日ごろからガスの燃焼状態や、給排気設備に不備がないかなどをチェックしておいた方がよいでしょう。



一酸化炭素中毒の症状。


 一酸化炭素は血液中の『ヘモグロビン』と結合しやすいのが特徴で、吸い込んだのが少しの量であっても血液の酸素運搬能力を低下させ、酸素欠乏状態を招きます。
 症状は一酸化炭素の濃度と、その場にいた時間(曝露時間)によって異なってきます。最初は、頭がフラフラする、顔が火照る、などといった症状ですが、段々ひどくなると頭痛やめまい、吐き気などが起こり、最終的には意識障害や意識消失へと重症度が増していきます。ある一定の高濃度に達すると、窒息から即、死亡ということも起こり得ます。


空気中におけるCO濃度(%)


0.02 = 2~3時間で前頭部に軽度の頭痛
0.04 = 1~2時間で前頭痛・吐き気、2.5~3.5時間で後頭痛
0.08 = 45分間で頭痛・めまい・吐き気・けいれん、2時間で失神
0.16 = 20分間で頭痛・めまい・吐き気、2時間で死亡
0.32 = 5~10分間で頭痛・めまい、30分間で死亡
0.64 = 1~2分間で頭痛・めまい、15~30分間で死亡
1.28 = 1~3分間で死亡


 顔の火照り感や頭痛といった段階では、ガスにさらされていると気づかないケースが多いのも事実です。例えば、暖房をしている室内やお風呂場では、温度もかなり高くポカポカしている状態であるため、フラフラしたり火照ったりしても、それがガス中毒による症状だと分からないことも多いのです。また、頭痛や吐き気を起こして病院に来たとしても、それらはその他の病気でもあり得る症状なので、一酸化炭素中毒という診断と結び付かないことがあります。



可能性を伝え、二次災害を防ぐ


一酸化炭素中毒かはどのようにして判断するのか。


 一酸化炭素中毒かどうかは、動脈血の検査をして調べます。しかし通常、動脈の採血というのは、重症な患者にしか行わない検査です。「頭が痛い」「吐いた」などの症状で運ばれてきても、「食あたりかもしれない」と静脈血しか調べなければ、一酸化炭素中毒だと診断されないケースも出てくるのです。
 器具を指に挟むだけで、一酸化炭素に結合したヘモグロビンが、血液中に何%あるかを調べることができる施設もあります。これは、動脈の採血よりも簡単に行える血液検査です。ただし、このような先端機器がある施設は、まだそれほど多くはありません。
 したがって、一酸化炭素中毒を速やかに発見するためにも、具合が悪くなった時には、「どんな状況下にあったか」を医師に正確に伝えることがとても重要です。救急車を呼ぶ場合にも、どんな環境で、どんな人数がどんな症状を起こしているかを、なるべく詳しく伝えてください。一酸化炭素中毒の可能性があることが通報時にわかれば、救急車が到着するまでの間に、「新鮮な大気のところに患者を移す」などといった早期処置につなげることもできるからです。
 また、これは救急隊員が二次災害に遭うのを防ぐことにも役立ちます。例えば、お風呂場で高齢者が意識障害を起こしたとすれば、多くは「脳卒中」の可能性を疑います。しかし、「一酸化炭素中毒の可能性あり」と考えられる情報提供があれば、事前にそれなりの防備ができます。何もないまま現場に入り、救急隊員も一酸化炭素を吸ってしまうという事故を未然に防ぐことができるのです。

 それでもやはり、予測が付かない場合もあります。例えば以前、工場を建てているところで有機媒体を塗っていた数名の作業員が倒れるという事故がありました。この時は、溶剤を吹き付けるための機械から出ていた一酸化炭素が原因でしたが、救急隊員は皆、有機媒体による中毒だと思い込んでいたため、一酸化炭素に対する防備をしていませんでした。そのため、二次災害が起きています。


では、実際に一酸化炭素中毒になってしまったら、


 とにかく新鮮な空気をたくさん吸わせる必要があるので、酸素マスクで100%の純酸素を供給することが行われます。救急隊到着の時点で純酸素を吸わせる治療が始まりますが、病院に運ばれたあともそのまま続けられます。
 さらに重症で、純酸素を吸入しても呼吸が不十分な場合には、『高圧酸素療法』が必要となります。これは、通常の2倍に気圧を上げたタンク内で高濃度の酸素を吸入させる治療です。この方法で、身体の中に1気圧よりもたくさんの酸素を溶かすことが可能となります。急激に加圧することは無理なので、段々と気圧を上げていき、2気圧くらいを保った状態を続けて、また正常な数値に戻すという行程で、1セットの治療は1時間半から2時間を要します。症状によって異なりますが、この治療は数日間続けて行われます。

 一酸化炭素中毒の後遺症としては、知能の低下や記憶障害、感覚異常、行動異常などが報告されています。また、何年も経ってから認知症になるなど、遅発性の症状が出る可能性もあります。今現在、高圧酸素治療法は遅発性の中毒症状を回避するにも非常に有効だと考えられています。

 一酸化炭素は無色・無臭で、気付かないうちに中毒になってしまう恐ろしさがあります。もし、自分で少しでも「おかしいな」と思う状況になったら、すぐに新鮮な大気のある場所に移動することを心掛けてください。肝心なのは「ものが燃焼するような現場で閉鎖空間を作らない」ことです。これが、一酸化炭素を発生させない条件でもあり、同時に一番の予防になると思います。


一酸化炭素の症状の現れ方・病態


 頭痛、易(い)疲労感(疲れやすい)、判断力低下、吐き気・嘔吐、意識障害、けいれんが現れます。血管の透過性が亢進し、肺水腫や脳浮腫を起こす場合も多くみられます。頭部CTで淡蒼球という部位に低吸収像を認める場合は、予後不良です。
 発症メカニズムは不明ですが、いったん回復したのち再び昏睡に陥る間欠型一酸化炭素中毒の存在も知られています。


間歇型一酸化炭素中毒


 急性一酸化炭素中毒から、回復後に2-40日程度の潜伏期間を経て、急激に認知機能障害、精神症状、パーキンソン症状などを呈する遅発性神経症状(delayed neurologic sequelae:DNS)が知られていて、間歇型一酸化炭素中毒と呼ばれています。
病態生理は不明ですが、二次的血流障害、細胞毒性、NO、免疫学的機序などの関与が示唆されているようで、一部の変化は可逆的です。『高圧酸素療法』を行います。
 症状として、認知機能障害、失見当識、 精神症状:錯乱、不安、焦燥、情動不安定、幻覚、妄想、 けいれん、パーキンソン症状があります。

 遅発性低酸素脳症(遅発性低酸素白質脳症)は,低酸素血症による意識障害から,一旦回復した数日から数週間後に,神経症状の増悪と頭部画像所見の悪化がみとめられるまれな病態です。
 一酸化炭素は血小板からの一酸化窒素の放出を増加させ、種々の活性酸素を生じると同時に、強力な酸化フリーラジカルである過酸化硝酸塩となり、血管内酸化ストレスに関与します。内皮への好中球の接着、酸素フリーラジカルの生成が促進され、脳の脂質過酸化により遅発性神経障害が生じるものと思われます。


最後に、一酸化炭素による中毒事故を紹介しておきます。


 不完全燃焼防止装置のついていない、古い燃焼器を使用していたために発生した一酸化炭素中毒事故を2例で、事故は何故起きたのでしょうか。事故を防ぐためにはどうしたら良いのでしょうか。


事例1:換気のつもりで換気扇をまわし一酸化炭素中毒 ~二人死亡~


 このお宅では、不完全燃焼防止装置の付いていない古い風呂がまを使用していました。
 事故の原因は、まず奥さんが入浴中にお風呂場の給気口をふさいでしまったこと。そして、更にご主人が隣室の換気扇を回してしまったことです。
 そのため密閉状態となったお風呂場から空気が吸い出され、唯一外とつながっているふろがまの煙突から、排気ガスと一緒に空気を吸い込みます。
排気ガスの混じった空気で燃え続ける風呂がまは不完全燃焼を起こし、一酸化炭素を発生したのです。この事故では夫婦2名が亡くなられました。不完全燃焼防止装置が付いていれば防げた事故でした。



事例2:一酸化炭素中毒で三人死亡 ~原因は湯沸器の不完全燃焼


 このお宅では、不完全燃焼防止装置の付いていない古い小型湯沸器を使用していました。
奥さんは、換気扇を回さずに、台所で長時間にわたって洗い物をしていました。ところが小型湯沸器の排気口にあるフアンが汚れで目詰まりを起こしており、排気ガスがうまく外にでなくなったために不完全燃焼を起こしたのです。
湯沸器は一酸化炭素を発生しましたが、ご家族は誰も気がつかず、一酸化炭素中毒事故が発生してしまいました。
 この事故では家族3名が亡くなられました。
 この事故も不完全燃焼防止装置が付いた湯沸器を使用していれば防ぐことができたのです。


 このように、私達の身近に起きるもので、日頃の注意が必要とされます。


 また、このような事故とは別に、換気の悪い部屋に閉じこもってタバコをふかしながら終日執筆活動をされる作家に”片頭痛”が多かったことは、この点を裏付けるものなのかもしれません。