私が昭和45年当時に頭痛診療を始めた頃は、1962年(昭和37年)に発表された米国神経学会の「頭痛分類特別委員会の分類」に従って診断を行っていました。
昭和63年(1988年)に発表された「国際頭痛分類 第2版」に改訂されてからは、その細かな分類・診断基準に厳密に従うべく、患者さんそっちのけで診断基準と格闘でもするかのような心境で「頭痛診断」を行っていた時期もありました。
しかし、年を取るとるに連れて、”考え方”も次第に”枯れてきた”ためか、診断基準そのものにこだわらなくなってくると同時に、この診断基準そのものに疑問を持つようになってきました。それは、”現実の緊張型頭痛、片頭痛の患者さんの姿”と”診断基準”の相違を感じてきたからです。その点は、先日も述べましたが、再度、繰り返します。
「国際頭痛分類 第2版」は一昨年、「国際頭痛分類第3版β版」に改訂されましたが・・
繰り返される頭痛がある患者さんの中には,頭痛の性状・程度・随伴症状・増悪寛解因子などが毎回同じパターンで繰り返されると感じる方もおられますが,時期や状況により頭痛のパターンがいくつかあると感じる方も少なくありません.国際頭痛分類第3版β版では,片頭痛と緊張型頭痛はともに一次性頭痛に分類され,別々の疾患として定義されています。片頭痛を定義し,緊張型頭痛は結果として「片頭痛が否定された慢性頭痛」の形となっているため,頭痛発作が繰り返し起こる患者さんのうち、片頭痛の診断基準には当てはまらない頭痛発作があると,緊張型頭痛が併存していると診断されることが多いようです.現在は別々に定義されている片頭痛と緊張型頭痛ですが,中心となる病態生理が同一もしくは共通した部分が多く,程度の差はあれ連続したものと考えれば,「同じ疾患である」と考えるのが妥当と考えております。
片頭痛患者は,頭痛発作が始まったが,それほどひどくならずに済んだという経験をすることがあります.ひどくならない発作は,片頭痛の診断基準を満たさないことが多く,緊張型頭痛と診断せざるを得ませんが,これを上手に説明したのが一次性頭痛(機能性頭痛)一元論です.1回1回の片頭痛発作に注目し,スタートは同じでも、軽く済めば緊張型頭痛,エスカレートしてひどくなれば片頭痛発作になるという考え方です.
片頭痛患者の多くは,10~20代という人生の早い時期に頭痛発作が起こるようになり,その後数年から数十年にわたり頭痛発作が繰り返されますが,この「頭痛持ち人生」の間に頭痛発作の頻度や程度は変化します.
片頭痛患者では,若い時期は発作頻度が少ないが重篤な発作が起こり,年齢が上がるとともに頭痛発作の頻度は増えますが程度は軽くなるというパターンをとることが多いようです.加齢とともに片頭痛らしさが減り,緊張型頭痛のような頭痛発作が多くなってくる,いわば「頭痛持ち人生」の間に片頭痛と緊張型頭痛が連続しているような状態です.このような片頭痛は変容性片頭痛と呼ばれ,国際頭痛分類とは別の概念ですが,日常臨床では広く受け入れられています.
これが、現実の”緊張型頭痛”と”片頭痛”の姿です。
そして、「国際頭痛分類 第3版 β版」での一次性頭痛(慢性頭痛)は以下のように分類されております。
第1部: 一次性頭痛
1 片頭痛
2 緊張型頭痛(TTH)
3 三叉神経・自律神経性頭痛
4 その他の一次性頭痛
4.1 一次性咳嗽性頭痛
4.2 一次性運動時頭痛
4.3 性行為に伴う一次性頭痛
4.4 一次性雷鳴頭痛
4.5 寒冷刺激による頭痛
4.5.1 外的寒冷刺激による頭痛
4.5.2 冷たいものの摂取または冷気吸息による頭痛
4.6 頭蓋外からの圧力による頭痛
4.6.1 頭蓋外からの圧迫による頭痛
4.6.2 頭蓋外からの牽引による頭痛
4.7 一次性穿刺様頭痛
4.8 貨幣状頭痛
4.9 睡眠時頭痛
4.10 新規発症持続性連日性頭痛(NDPH)
このような、慢性頭痛(一次性頭痛)には、以下のような共通した病態が存在するように思えてきました。
1.ミトコンドリアの関与
2.セロトニン神経系の関与・・脳内セロトニン
3.体の歪み(ストレートネック)の関与
4.ホメオスターシスの関与・・ストレス
5.脂肪摂取の問題
すべて一次性頭痛は連続したものであり、敢えてこうした人為的な分類すべきなのかと思うようになってきました。これら慢性頭痛の病態は、この5つから推測され、とくに、緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛では、このような5つの病態が関与しているのではないかと、”枯れた感覚”で、一般開業医としてみるようになってきました。
しかし、頭痛専門医が出現するに至って、「国際頭痛分類 第3版 β版」という共通の言語をもとに論じる人間でなければ頭痛研究者ではなく、さらに専門医ではない、ということが、「頭痛を論じる際の基本原則」とされ、一般開業医とは一線を画されてしまいました。
このため、頭痛専門医と一般開業医は、まさにお互い相容れない関係になったようです。 こうしたことから、頭痛専門医の申されることは、一般開業医には、まさに異国人の話でも聞いているように思えるようになり、理解不明の点が多くなりました。
頭痛専門医は、片頭痛が、単一遺伝子から生じるものがあることから、すべて単一遺伝子による”遺伝的疾患”であるかのごとく考えており、”多因子遺伝”とは考えません。
そして、緊張型頭痛と片頭痛は明確に区別すべきものとされ、お互い相容れないものとされます。さらに、「体の歪み(ストレートネック)」は論外というのが常識になっています。昔は、緊張型頭痛はストレートネックと関係があるとされた時代があったようですが。
そして、頭痛診断は「国際頭痛分類 第3版 β版」に従って、あくまでも”症候論”から診断を行い、「慢性頭痛診療ガイドライン」に従って、”エビデンス”のある薬剤を処方することが原則とされます。ということは、片頭痛の場合、その根底に何があろうともお構いなしに、症状さえ合致すれば、一律に”トリプタン製剤”が処方されることになります。このため、片頭痛の病態は全く無視されているということに他なりません。
結局、鎮痛効果が優れていれば、問題ない、ということのようです。(要するに、痛みさえ抑えれば、それほど問題とすべき頭痛であるとは考えておられないようです)
これに対して、一般開業医からみた慢性頭痛とは、緊張型頭痛も片頭痛も一連の連続したものであり、片頭痛は”多因子遺伝”で先祖代々受け継がれ、「ミトコンドリアの働きの悪さ」という”遺伝素因”に、”環境因子”として、
1.ミトコンドリアの関与
2.セロトニン神経系の関与・・脳内セロトニン
3.体の歪み(ストレートネック)の関与
4.ホメオスターシスの関与・・ストレス
5.脂肪摂取の問題
が加わることによって発症するのではないかと考えるようになってきました。
そして、片頭痛の発症過程(あくまでも”仮説”です)として、以下のように考えるようになりました。
(このようには頭痛専門医は考えることは全くありません。)
このように考えるようになってから、以下のような考え方で「頭痛診療」を行うように至りました。
緊張型頭痛は慢性頭痛の起点(スタート)になるものです。前屈みの姿勢を強制させられる作業環境から後頸部筋肉群に過剰な負担がかかることによる異常な筋緊張をまず緩和させることが重要と考え、日常の作業を行う際に、首を労る配慮がまず大切になってきます。これを行った上で、異常な筋緊張をまず緩和させる目的で後頸部筋肉群に「低出力レーザー照射」を行っていきます。このような配慮がなされませんと、いずれ体の歪み(ストレートネック)を併発してくることになります。
このような観点から、緊張型頭痛を訴えて受診されれば、この点から治療を徹底させることが極めて重要となってきます。疎かにすれば、片頭痛へと移行させてくることになります。ですから、ストレートネックの治し方 http://taku1902.jp/sub106.pdf
を各患者さんにお渡しして、改善に務めさせることが肝要と考えています。
そして、家族ならびに親戚のなかに片頭痛の方がおられないかどうかを確認することが大切と思っております。もし、おられれば将来、片頭痛へ移行する”片頭痛予備軍”として対処すべく、「片頭痛は予防すべき頭痛です」http://taku1902.jp/sub136.pdf
を作成し、注意を喚起するようにしております。
そして、すでに片頭痛まで移行した段階で受診された場合は、先程の「片頭痛の発症過程(あくまでも”仮説”です)」で説明した上で、http://taku1902.jp/sub004.pdf
をお渡しします。当然のごとく、緊張型頭痛でも片頭痛でも頸椎X線検査を必ず行った上で、ストレートネックを確認することによって、「ミトコンドリア」と「脳内セロトニン」「体の歪み(ストレートネック)」の3つが関与していることを視覚的に納得してもらうことが重要です。これなしに、いくら口頭で説明しても無駄と思っております。
このように、この3つの観点から最低限、治療を進めなくては治らないと説明します。
このため、初診時の診察時間内ですべてを説明するには限界があります。さらに、すぐに片頭痛が改善できるものではなく、生活習慣そのものの見直しが必要とされます。こうしたことから、治療指針が必要とされます。このため、一般開業医として、以下のものを作成しました。(片頭痛が改善されるまでの「治療指針」です)。
片頭痛の生活習慣の改善
片頭痛の生活習慣の改善 食事療法編
年を取ると共に、こうした”枯れた感覚”で慢性頭痛をみるに至りました。
問題は、片頭痛が慢性化してしまった段階で受診された場合です。これらの方々には分子化学療法研究所の後藤日出夫先生が提唱される方式をお勧めしています。
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-11946595367.html
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-11946598705.html
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-11946631528.html
http://ameblo.jp/yoyamono/entry-11946637380.html
このように、一般開業医の慢性頭痛のみかたは根本的に異なっており、当然のこととして「片頭痛治療」の考え方も異なっております。
あくまでも、「薬物療法」は当然必要とされますが、同時に、「生活習慣の改善」は必須の項目となります。ここが基本的に異なる部分です。
これまでの「薬物療法」だけでは、片頭痛改善は到底望むべくもないと考えています。
頭痛専門医は、「国際頭痛分類 第3版 β版」を頭痛研究・診療の絶対的な基準とされます。これが、専門医たる所以とされる”証”となるものです。これに従わなければ”モグリ”とされる世界です。この世界的な基準とされるものは世界頭痛学会が作成したものであると言えば聞こえはよいかもしれませんが、基を質せば、欧米のトリプタン製薬メーカーおよびトリプタン御用学者が作成したものです(これは、名古屋の寺本純先生が指摘されたことです)。
これが片頭痛治療の世界に”トリプタン製剤”が第一選択薬とされている理由です。トリプタン製剤販売前から、多くの片頭痛治療薬がありました。しかし、トリプタン製剤販売後は、あたかも片頭痛治療薬には、”トリプタン製剤”しかないような宣伝が行われ、発売当初は”片頭痛の特効薬”とまで宣伝され、”トリプタン製剤”を使うのが”適切な治療”であるとトリプタン製薬メーカーに踊らされた一部の頭痛専門医によってマスコミを通じて、宣伝が大々的に行われてきました。
しかし、頭痛専門医の片頭痛治療の考え方では、片頭痛患者さんを熟成させているようなものです(この点は、シリーズの中で述べました)。こうした論理で継続すれば、トリプタン製薬メーカーには好都合であることは言うまでもありません。
さらに、頭痛専門医は、片頭痛という激しい頭痛発作が、トリプタン製剤で緩和されれば、それで万事解決とされますが、後に残された「片頭痛の慢性化」には我関せずといった態度を示され、この原因を一般開業医の無知によるものとされます。
結局、片頭痛を根本的に改善させようという考えは存在しないということです。
こうした点は、頭痛研究の世界における”資金不足”も関係しているのでしょうか。
このように概観してみれば、頭痛専門医とは何なんでしょうか? トリプタン製薬メーカーの援護者・後援者なのでしょうか? 私には、このようにしか思えてならないところです。こういったことを如実に示すものは、最近ではGSKが販売されるアマージの宣伝でも示されます。月経関連片頭痛のいつもの片頭痛より激しい頭痛に対して、頭痛専門医が入れ替わり立ち替わり、およそ効くとは思われない(私の少ない経験からですが・・)アマージを宣伝されます。これは一体何なんでしょうか???
しかし、一般開業医は以上述べたような専門医とは全く異なるみかたをしています。これは先程説明致しました。
これだけの食い違いのあることを訴え・理解してもらいたくて、このシリーズを企画致しました。