CTやMRIといった画像診断がない時代は、脳神経外科医および神経内科医の基本検査は神経学的検査法でした。神経学的検査法で詳細に所見をとり、その責任病巣がどこにあるかを推定し、これをもとに治療を行い、最終的には病理解剖所見で確認していました。
その後、CTが神経学領域に導入され、こうした病巣診断が生前に簡単に行えるようになってきました。
CT導入当初の記憶は、当時、秋田県立脳血管研究所での思い出です。
日本全国各地から研修にきていた脳神経外科医および神経内科医は、当日救急で搬送されてきた救急の脳卒中患者をまず、「神経学的検査法」で詳細に所見をとり、その責任病巣がどこにあるかを推定し、その後CTを撮影し病巣を確認し、各自の「神経学的検査法」の手技の優劣を競ったことが思い出されます。
このようにして、神経疾患を診察する場面では、まず「神経学的検査法」を行った上で、病巣診断をつけて、これを確認する目的でCTを撮影するのが原則でした。
ところが、患者さんの立場からすれば、どのような訴えであれ、まずCTを撮影してもらい脳に異常のないことを確認してもらえば、それで満足される方々が多いことに驚かされます。これは、特に頭痛患者さんで言えることのようです。
当医院も開院当初からCTを設置して診療を行って参りましたが、とくに頭痛患者さんは、私が「神経学的検査法」を行って、頭蓋内には病変はない、といくら口で説明しても納得されない方々がほとんどで、CTを撮影してやっと納得されるようでした。
こうしたことから、多くの頭痛患者さんが当医院にも受診されました。
ところが、その後、MRIが総合病院や一般診療所にも導入されるようになってからは、こうした頭痛患者さんは、殆ど受診されなくなりました。結局、これまで片頭痛で苦しまれた方々は、CTで異常がないと言われたが、ひょっとしてMRIを撮影してもらえば、何か分かるのではないか、と思われるようです。(確かに、動静脈奇形という動脈と静脈がシャントを作るような奇形では、MRIは有力な手段であることは間違いありませんが)
しかし、こうした動静脈奇形の頻度は極めて低く、MRIでも大半の方々は異常がみつかるはずはないわけです。そして、再度、脳の中には異常なしとされ、そのまま鎮痛薬の服用を余儀なくされ、挙げ句の果ては「薬剤乱用頭痛」を引き起こす原因ともなってきました。(こうした医療機関では、片頭痛が生活習慣病であるとの観点からは指導されません)こうしたことから、相変わらず原因不明ということを植え付ける根源になっています。
一方、こうして片頭痛患者さんにMRIが撮影される頻度が多くなるにつれて、微少な小梗塞巣がみつかるようになりました。とくに小脳の白質の部分が多いようです。
こうしたものが見つかるのは、前兆のある片頭痛で喫煙やピルを服用される方々に多いことから、前兆のある片頭痛での生活指導の中心になっているようです。
さらに、こうした方々は、片頭痛発作時毎に”トリプタン製剤”を服用しなかった結果であると警告する頭痛専門医も出現することになり、その結果、トリプタンが全く効かないトリプタン・ノンレスポンダーの方々まで、片頭痛発作時毎に”トリプタン製剤”を服用させる風潮までつくりあげ、トリプタン製薬メーカーの売り上げに協力されます。(後に、詳しく述べます)
MRIが導入される以前のCTの時代では、このような微少な小梗塞巣(ラクーネ)は、九州大学の勝木、朝長先生らは、大脳基底核は中および前大脳動脈からの外側線状体動脈および Heubner の動脈など典型的な逆行性分枝を示す血管で養われており、このことが基底核・内包領域に脳血管病変を生じる理由としてされていました。
このような血管構築学的特性と、病理学的にこの血管に高血圧性病変が最も起こりやすいことで説明づけられておりました。このようにして「ラクーナ梗塞」の概念が確立されました。当然、このようなラクナ梗塞の基礎疾患として、高血圧症・糖尿病・高脂血症の存在が必須と考えられていました。
しかし、片頭痛の場合は、逆に、低血圧の方々が大半であり、また基礎疾患もない状態で、こうした小脳の白質の部分に小梗塞巣をなぜつくるのか、疑問の多いところでした。
このような点は、どう考えるべきでしょうか?
MRIで描出される「白質病変」
脳は表層の皮質と深部の白質から成ります。白質病変では、いくつかの疾患や病態が考えられますが、中高年者においてコンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)検査で偶然見つかる病変のほとんどは、部分的に血液が行き渡らなくなる虚血性病変です。代表的なものは、先程から述べている小さな脳梗塞で、「ラクナ梗塞」と言います。ほかに、広範囲に及んだり、深部にできたりする白質病変もあります。場所によっては、全く神経症状を呈することなく、「脳ドック」などで偶然発見される病変です。
その大部分は、細い血管が詰まってできる小血管病に分類されます。白質病変が数個のうちは多くは症状が出ず、無自覚です。進行して白質病変が増えると、ふらつきや、ちょこちょこと少しずつしか足が前に出ないような歩行の異常、声がうまく出せない、認知機能の低下などの神経症状が起こりやすくなります。
危険因子は高血圧や糖尿病、不整脈の心房細動などですが、高血圧が最もよくありません。白質病変を進行させないためには、日ごろの血圧管理をはじめ、持病の悪化を防ぐ生活習慣の見直しが大切です。
危険因子がほとんどない人は、悪化の危険性は低いと考えます。無症状なら特に心配する必要がないと思いますが、定期検査をして、白質病変の状態をきちんと評価するのが望ましいでしょう。こうした観点から、従来、高血圧・糖尿病・高脂血症のような基礎疾患がない場合、”あくまでも偶然、見つかったもの”として、殆ど問題にされてきませんでした。
片頭痛で見られる「白質病変」
ところが、片頭痛患者さんをMRIで脳を検査しますと、このような「白質病変」が多くみつかるようになり、一部の「頭痛研究者」では重要視されるに至っております。
そして、このような頭痛研究者は「片頭痛は脳梗塞予備軍」と言って、以下のように忠告されます。というか脅迫めいたことを言われます。
ところで、片頭痛は2~3日我慢すればそのうち消えて終わる、と考えていませんか?
最近、片頭痛の人は、一般人と比べて脳梗塞を起こしやすいことが分かってきました。片頭痛の発作を起こすたび、脳血管の内皮細胞に損傷を起こし、繰り返す頭痛で血管ダメージが蓄積し、脳梗塞を引き起こすのです。発症倍率は、単純な片頭痛がある方で2倍、キラキラした光が見える片頭痛の方で6倍、片頭痛がありタバコを吸うと10倍、片頭痛があり低用量ピルを飲むと2倍、片頭痛がありタバコを吸い、低用量ピルを飲むとなんと34倍です。片頭痛は注意が必要な症状なのです。
そして、トリプタン製剤を服用しておれば、このようなことが予防されると申されておられることは、先程も述べた通りです。さらに、トリプタン製剤の全く効かない「トリプタン・ノンレスポンダー」も効かなくても服用すべきと強要されます。
このようなトリプタン製剤が効かない場合、忠告・脅迫されるように、頭痛の発作を起こすたび、脳血管の内皮細胞に損傷を起こし、繰り返す頭痛で血管ダメージが蓄積しているはずであり、果たして「脳梗塞予防効果がある」と言えるのでしょうか?
これよりも、最も問題にすべきことは、このような「白質病変」であるラクーナは、大半が高血圧を基盤として生じてくるという考え方が一般的でした。
ところが、片頭痛の方々は、高血圧を合併される頻度は極めて少なく、大半は「もともと、低血圧」の人であるという事実をどのように考えるかということです。
どうして、このような低血圧の人に「白質病変」を起こしてくるのでしょうか?
片頭痛におけるラクナ梗塞の発生機序
動脈硬化は血管内皮から
では、血管の狭窄や閉塞はなぜ起きるのでしょうか?
その多くは血管の動脈硬化を基にして発症します。動脈硬化は多くの因子が長年にわたり積み重なった結果として起きてきます。危険因子のうち、加齢、心臓病・脳卒中の家族歴、男性、閉経(女性の場合)は残念ながら自分では避けられない危険因子です。一方、喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症は、生活習慣の改善と適切な薬物療法で解決ないし是正が可能な危険因子です。年齢を重ねるにつれ動脈硬化は進行します。加えて危険因子が放置されていると実際の年齢よりも早く動脈硬化が進行することになります。
少し専門的な話になりますが、血管の内側は血管内皮細胞という薄い1層の膜のような細胞で覆われています。この内皮細胞には2つの働きがあります。1つは「血液と血管壁が接触して血液が固まる」ことを防ぐバリアーとしての働き(抗血栓作用)です。もう一つは血管を拡張させる物質を産生して血液の流れを調節する働き(血流調節作用)です。動脈硬化はまずこの血管内皮細胞が傷害されるところから始まります。傷ついた血管の内側には、傷を修復しようとしていろいろな細胞が集まります。場合によっては血の固まり(血栓)もできるでしょう。すり傷を思い出してみて下さい。案外よく似た現象が血管の中に起きているのかも知れません。血管壁に付着した悪玉コレステロールはマクロファージという細胞に食べられますが、泡沫細胞として血管壁に残り、動脈硬化の基ができあがります。
●内皮細胞の“バリア機能”と”活性化機能”
血管病のメカニズムを知ると、血圧や血糖値、LDLコレステロール値が高い人は、「このままでは危ないかも・・・」と、不安な気分になってしまうかもしれません。
しかし、血管は、若返りが可能な器官です。疲れて老化しかけた血管も、セルフケアで強く蘇(よみが)えさせることができ、それによって怖い血管病も防げるのです。
その生まれ変わりの鍵を握るのが”内皮細胞”です。血管壁の最も内部に位置する内皮細胞は、一層の細胞だけが並ぶ薄い層ですが、血管内腔との境にあるので、血管内を流れる血液に常に接しています。その為、血液と血管壁の仲介者の様な役割を持ち、血管を守り、強くするよう働いているのです。
内皮細胞の主な役割は、“バリア機能”と”活性化機能”の二つに分かれます。バリア機能は「防壁機能」とも呼べるもので、血液中に存在する成分が血管壁内に侵入するのを防いでいます。血液の循環を川の流れに例えると、内皮細胞は川の水が溢れないように保ち、よどみない流れを促す堤防の様なものです。
一方、活性化機能は、内皮細胞自身が作る物質に関係しています。内皮細胞は防壁となって血管壁を守るだけでなく、血管を健康に保つ為の物質を自らが産み出し、活用しているのです。その主な物質が”NO(一酸化窒素)”です。人の体内で産み出される"NO”はとても良い働きをします。これは血管壁に良い刺激を与え、血管壁を広げる働きをします。すると血圧が下がり、血管の負担が減ってきます。また、NOが血液中に放出されると血液が固まりにくくなり、脳梗塞や心筋梗塞の引き金になる血栓ができにくくなります。その為、内皮細胞が生き生きしていると、血管自体も若さと強さを保てます。逆に、内皮細胞が疲れていると、本来の役割を果たせなくなり、血管の老化が早まって、40代、50代でも血管病に襲われます。
つまり、内皮細胞をどうケアするかが、血管ケアの最大のカギとなるのです。では、内皮細胞の働きによって血管はどう強くなり、血管病を防ぐのか?
強いバリア機能が回復すると、プラークを形成する
LDLコレステロール等の悪者が血管内壁に入り込みにくくなります。このような状態が整うと、動脈硬化の初期段階くらいまでであれば、プラークが”退縮”して 小さくなり、元の生き生きと弾力に富む血管が蘇えってくるのです。更に、動脈硬化がある程度進んでいる段階でも、内皮細胞が再び強いバリア機能を持ち始めると、血管内面の傷が“修復”されて、血管が強く蘇えってきます。すると、プラークが退縮しないとしても、その表面を内皮細胞の強いバリアが覆っている為、プラークが壊れにくくなり、脳卒中や心筋梗塞の危険がかなり軽減するのです。また、内皮細胞が若返ると、NOの放出量が増え、血管が拡張して血圧が下がり、血栓もできにくくなり、血管の健康度がますます高まるのです。太い動脈の内皮細胞のケアは、細い動脈の若返りにも有効です。細い動脈は、太い動脈から枝分かれして臓器の中になどを通っていますが、直径が0.5mm以下と細い為、血管内部にプラークができるのではなく、血管壁自体が厚く硬くなって老化が進行します。
太い動脈の内皮細胞をケアすると、その効果が細い動脈にも及び、老化がかなり進行している段階でなければ、血管壁が元の厚さに戻って柔軟になり、血管自体が若さを取り戻してくるのです。
片頭痛の治療のありかた
片頭痛の治療は、自律神経のセンターである視床下部、自律神経、頭皮の血管内皮細胞のミトコンドリアを活性化することに集約されます。
片頭痛の原因となる酸化ストレスによって引き起こされる炎症反応は、感染や異物などの外因性のストレスに対しての攻撃機構として大活躍します。しかし、内因性の酸化ストレスが増加・持続するとその炎症が慢性化します。慢性炎症は自分自身の細胞も傷つけてしまいます。
ですから、酸化ストレスを減らすことも大切なのですが、一度起こってしまった慢性炎症を止める作業も必要となります。これは一度起こった火事は、その火事の原因をストップすることも大切ですが、今燃え盛っている火そのものも消さないことには、私たちの細胞が燃えつくされてしまうのと同じです。
片頭痛の概要は、
1.酸化ストレスを軽減し、慢性炎症をストップする
2.生活習慣、環境要因を整えることで酸化ストレスに耐性をつくる。
3.ミトコンドリアを活性化する
この治療方針は片頭痛のゴールデンスタンダードです。時間をかけてゆっくりと慢性炎症を抑え、ミトコンドリア機能異常を正していくという自然治療は、体に優しい、自己治癒力を引き出す片頭痛の根本治療です。
要約しますと、血管内皮細胞は、微小循環を円滑に維持しています。
ミトコンドリアの活性低下により、酸化ストレスが増加しますと、血管内皮細胞が障害され、NOの産生が低下し、血管が収縮し易く、炎症を起こし易く、血栓が形成され易い体質になります。
●NOと酸化ストレス
一酸化窒素(NO)は、血管内皮で産生される血管拡張因子として見出されましたが、その後の研究で、きわめて多彩な生理活性作用を有することが明らかにされました.特に、血管に対しては血管拡張作用ばかりでなく、血小板凝集、平滑筋増殖、内皮細胞への白血球の接着を抑制することによって抗動脈硬化作用を発揮します。
酸化ストレスは、生体における酸化と抗酸化のバランスが破綻し酸化に傾いた状態と定義されます。生体において酸化反応を担う主要分子は、スーパーオキシド(・02-)、過酸化水素、ヒドロキシラジカル(・OH)などの活性酸素種です。
NOもラジカルの一種であり、・02-と同様に不対電子を有しています。NOの作用は・02-によつて消去されるため、血管壁においては・02-の産生を制御することがNOの血管保護作用の保持にきわめて重要です.
NOは、ミトコンドリア電子伝達系を障害し、・02-の産生を増加させます。一方、最近、血管壁NOは・02-を消去する細胞外スーパーオキシドジスムターゼ(ecSOD)を増加させ、NO自身が・02-による不活性化を抑制するフイードフォワード機構を有していることも明らかにされました。(日医雑誌 2000;124:1570 からの抜粋)
このように考えるべきですが、決して頭痛専門医の方々は見方が異なっているようです。 いつになれば、こうした論点から考えるのでしょうか? ここでも、ボヤキしかありません。