老神経内科医のボヤキ その10 パーキンソン病 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 最近、経験した患者さんです。あるお年寄りの方が、元気がなく、何をする気にもなれないため、ある内科の開業医の先生の所を受診されました。この先生は、老年期うつ病と考えて、ある抗うつ薬を投与されました。しかし、うつ症状は一向に改善されないため、手順通りに抗うつ薬を増量されました。結局、3カ月ばかり、これを繰り返されました。
 ところが、最近、急速に手足がこわばってきて、手足にふるえを来たし、歩行が小刻みになり、歩きにくくなったため、転院を希望され、紹介状なしで来院されました。


 私の所へ来られた時点では、明らかにパーキンソニズムと思われる所見でした。
 両側の手足の筋強剛といって手足の関節の屈伸をさせますと抵抗が認められ、歩行は小刻み歩行で、歩行時の両上肢の振り幅は小さく、顔付きも表情に乏しい状態でした。
 問題は、当初からパーキンソン病であって初期症状として「うつ症状」を呈していたのか、それとも抗うつ薬によって薬剤性パーキンソニズムを起こしたのか判断しかねました。 このため、これまで診ておられた「ある内科の開業医の先生」にお電話をして、確認しようとしましたが、最初にご覧になられた時点では、神経学的検査はまったくされておられず、ただ本人の訴えから「老年期うつ病」として、抗うつ薬を出されたようでした。
 どうも、パーキンソニズムに至るまでの経過が早く、両側に手足の筋強剛、振戦(ふるえ)が、左右とも同程度に認められることから、薬剤性パーキンソニズムと考え、抗うつ薬を減量しながら、抗パーキンソン病薬の投与を開始し、2週間かけて抗うつ薬をすべて中止し、以後、抗パーキンソン病薬を増量していき、事なきを得ました。

 こうした「薬剤性パーキンソニズム」の患者さんは、以前は、極めて多く、最近では、薬によってパーキンソン病と同じような症状が起きるといった知識が普及したためか少なくはなりましたが、やはり依然と多いようです。
こうした「薬剤性パーキンソニズム」は、抗精神病薬、消化管蠕動促進薬であるナウゼリン®(ドンペリドン)やプリンペラン®(メトクロプラミド)、胃酸分泌抑制薬であるガスター®(ファモチジン)やザンタック®(ラニチジン)などの抗ヒスタミンH2受容体阻害剤、ネオーラル®やサンディミュン®(シクロスポリン)、リューマトレックス®(メトトレキセート)などの免疫抑制薬、インターフェロンα、アミオダロン、一部の抗生物質、炭酸リチウム、かなり以前では降圧剤でもありました。そして、片頭痛で繁用される「抗てんかん薬」のデパケンでも起きてきます。


 問題は、最近の内科の開業医の先生方は、1人の患者さんに5.6剤投与されるため、こうした「薬剤性パーキンソニズム」を引き起こす可能性のある薬剤が1種類だけであればよいのですが、2,3剤も引き起こす恐れのある薬剤があると苦労させられます。
 そして、こうした5.6剤を投与される先生は、肝心要の薬剤は先発品を、どうでもよい薬は後発品を処方されます。こうした、後発品は、名前も全く知らず、どの先発品のゾロ(後発品)かが全く分からないことが殆どです。このため、いちいち調べる必要があります。こうした調べる時間は診察時間内にしなくてはなりません。
 そして、原因薬剤を同定する作業が残されています。このような煩雑な作業をいくらしたからといって診療点数が上がるはずもなく、自分の所で経過をみても、薬剤を処方するわけでもなく、じっと経過を追ってみるだけのことです。治療効果は、患者さんのパーキンソニズムが改善するだけのことです。
 かたや、5.6剤を投与される先生は、これまで儲けに儲けたはずです。こちらは、点数にもならないことをして、再診料しかとれないのです。


 何か、日本の医療制度はどこか狂っているとしか思えません。


 こうした「薬剤性パーキンソニズム」という神経症状は、そう簡単には消えるものではなく、症状が消失するまではハラハラドキドキの世界です。そして、患者さんには決して感謝されることはありません。「5.6剤を投与される先生」も私も同じ医師として、責任をとれ、とでも思っておられるからです。


 こうした「薬剤性パーキンソニズム」を診察するたびに、神経内科医という割の合わない診療科を選んだものだと、ボヤキしかありません。