「その1 救急の現場では・・・」で、頭痛初発時での救急の現場での対応のされかたについて述べましたが、片頭痛患者さんの受診率」の論旨から外れるため記載しませんでしたので、多少補足させて頂きます。
頭痛を訴えて受診する救急を担当する医療機関では、”命にかかわる頭痛”でないかどうかを診断し、”命にかかわる頭痛”でなければ、ただ単に鎮痛薬の投与で追い返されます。
それでは、、”命にかかわる頭痛”とはなんでしょうか?
それは、クモ膜下出血です。その原因は、脳動脈瘤破裂と椎骨脳底動脈解離です。
ここでは、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血について述べ、椎骨脳底動脈解離については最後に簡単に説明することに致します。
皆さんは、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血は、救急の現場では、頭部CT検査という画像検査で診断しているということをご存じかと思いますが、すべての脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血が”頭部CT検査という画像検査で診断できないということを知っておく必要があります。脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血というのは、字に書いたように脳動脈瘤が破裂して起きるものですが、破裂の前段階に血管が裂ける前に亀裂が入って血液が、漏れるだけの場合があります。これをマイナーリークと表現しています。この段階では、漏れ出た血液は極めて少量ですので、頭部CT検査という画像検査では描出できないものがあります。
これを診断するためには、教科書に記載されている”項部強直”という首か硬くなる所見は発症当日には出現しませんので、髄液検査で、髄液に血液が混入していないかどうかを確認する以外には方法はありません。これを確認しておかない限り、1週間後に本格的な破裂を起こして、致命的なクモ膜下出血に至ってしまうということです。
「髄液検査で、髄液に血液が混入」していても、頭部CT検査という画像検査で所見がなければ、当然のこととして、脳動脈瘤を確認するためには、脳血管撮影が必要となってきます。しかし、脳血管撮影にしても、撮影方向によっては、脳動脈瘤が描出されない場合も当然あります。このように「脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血」という診断を下すには、いろいろな問題点・困難なことが存在することを知っておく必要があります。
マイナーリークであっても、血管が裂けそうになって起きる頭痛ですので、あくまでも突発的に頭痛が出現してきます。このため患者さんによっては冷静な方は、頭痛の出現時刻を明確に記憶されます。まさに”秒単位”で記憶されておられるようです。
これに対して、片頭痛の発作時の頭痛は、血管が拡張して起きてくる頭痛です。こうしたことから、まず”秒単位”で出現することはなく、もう少し緩やかな出現様式を示します。その後の経過は、しばらくの間は脈うつような拍動性の頭痛が続きます。
こういったことから、片頭痛の方々は、このような頭痛の起こり方・経過を身をもって体験されますので、その発作を繰り返すため、片頭痛の頭痛の性状を知り尽くされます。
こうした方々が、その後、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血を起こす可能性は当然あり得ることですので、こうした方々が”いままでに経験したことのないような”突発的な頭痛を自覚すれば、当然、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血を心配して、医療機関を受診しなくてはなりません。
しかし、片頭痛の初発時期は、大体13~20歳前後ですので、この段階では、脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血の発症頻度は少なく、極めて稀に脳動静脈奇形の破裂があるくらいです。こうしたものは、CT・MRIで診断されるはずです。
ですから、こうした年代で初発された場合は、そう問題にはなりませんが、ただ注意すべきことは、40歳以降に初発される片頭痛の場合です。このような頭痛は”脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血”として以上のような観点から厳重な経過観察が必要とされます。このように”脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血が疑われながら、脳血管撮影で”脳動脈瘤”が確認されない方々は「一次性雷鳴性頭痛」と診断されますが、以後の厳重な経過観察が必要とされています。
ながくなりますので、参考までに「椎骨脳底動脈解離」について簡単に述べておきます。
椎骨脳底動脈解離とは
動脈の壁は内膜、中膜、外膜の三層構造から成り立っています。脳の動脈も同じ構造で、この動脈の壁が層と層の間や、層内で裂けて、血流が動脈の壁の中に入る状態を動脈解離と呼びます。動脈壁に入り込んだ血流が、裂けた動脈壁の内腔側を内腔に向かって、外腔側を外側に向かって押すため、解離部分の動脈の外観は膨らんで、内腔は狭窄することになります。これを解離性脳動脈瘤と呼びます。狭窄が高度になれば一過性脳虚血発作や脳梗塞を引き起こし、薄くなった外側壁が破綻すれば、出血(多くはくも膜下出血)で発症します。日本における解離性脳動脈瘤は、椎骨脳底動脈系に発生することが多く、その内でも頭蓋内椎骨動脈に最も多く見られます。
解離性脳動脈瘤は、動脈硬化などの危険因子を持たない、比較的年令の若い世代の脳卒中の原因として重要な位置を占めています。発症の平均年齢は40歳代で、男性に多く見られるといった特徴があります。原因としてカイロプラクティックや頸部の捻転を伴う様々なスポーツや運動、軽微な外傷などが引き金になったと考えられるもの(外傷性)と、明らかな原因が不明の特発性(非外傷性)のものとに分けられます。
前駆症状としての項部痛および後頭部痛の重要性
椎骨脳底動脈の解離性動脈瘤は、脳梗塞やくも膜下出血といった決定的な神経症状が出現する前に、何らかの痛みを自覚することが多いといわれ、76%の症例に見られたという報告もあります。これは動脈壁が引き裂かれて解離するときに感じる痛みであろうと考えられ、従ってその特徴は、急性に起こる一側(解離した椎骨動脈の側、時に両側)の項部(うなじ)や後頭部の痛みで、数日間持続すると言われています。そしてそれに引き続いて脳梗塞(多くは脳幹梗塞)やくも膜下出血が起こるのです。
脳幹梗塞や、くも膜下出血を起こしてしまえば、比較的容易に診断にたどり着くことが出来ますが、問題になるのは急性に起こった項部痛や後頭部の痛みのみで、どこまで積極的にこの疾患を疑うかと言うことです。よく似た症状の病気としては、脳底型片頭痛や後頭神経痛、項部の筋肉の肉離れによる頭痛(一次性労作性頭痛)、小脳や後頭葉の小出血などが考えられます。これらはそれぞれの疾患を想定しながら発症機転や頭痛の性状について問診を行い、局所の筋肉の圧痛や神経症状を調べ、頭部単純CTを実施する位で、ある程度までは鑑別することは可能と考えられます。ただ脳底型片頭痛の初回発作との鑑別など、最終的には緊急でMRIおよびMRAを実施する必要がある場合も多く、その際にはこの病気を想定して、頸部椎骨動脈を含めて検査することが大切なポイントとなります。
以上のようなことを、頭痛を初発した段階で「医師」は考えています。こうしたことを念頭において、最初に頭痛を経験した時点で、必ず初回の頭痛が治まっても改めて医療機関を受診され、この頭痛に対してどのように考えるべきなのかという指導を求めるべきです。そして、片頭痛の可能性があると指摘されれば、当然以後再発してきますので、これを再発させない的確な指導を受け、再発させない試みが必要とされます。
こうした、早い段階からの”片頭痛対策”が必要とされ、この段階で、片頭痛の芽を摘み取ってしまうことが極めて重要となってきます。