特殊な原因の片頭痛 (1)甲状腺疾患 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 2007年のCurrent Pain and Headache Reportsの中にある、甲状腺機能亢進症に伴う頭痛に関しての、症例報告を含む総説があります。
 
 かなり以前ですが、テレビの健康番組で、あるタレントの方(名前を出せば、誰が述べたものかが判明しますので、ここでは伏せておきます)が、原因不明の頭痛に悩まされ、 それが片頭痛が橋本病により悪化したものだった、 という内容のものがありました。(これは、雑誌にも掲載されております)
 本当であれば非常に興味深い事例ですが、検索した範囲では、文献にはなっていないように思います。
登場した先生はある頭痛専門医の方で、その書かれたものは非常に面白いのですが、えっ、本当にこんなことがあるの? というような内容がしばしば書かれていて、文献などは引かれていないのに、かなり断定的な記載が多く、ちょっと不思議な印象を個人的には持っています。
文献を検索すると、日本語の総説のようなものばかりが、山のように出て来ますが、それ以外のものはあまり見付かりません。
 つまり、 経験的な事実なのか、単なる少数例からの印象に過ぎないのか、他人の文献があるのか、本人のデータがあるのかが、あまり明確に区分されずに、書かれているような気がします。

 甲状腺機能低下症と頭痛との間に関連性がある、という知見は、1948年には既に文献がありますから、古くから報告はされていますが、甲状腺機能低下症の症状としては、比較的注目され難いもののように思います。

 1998年にその頻度と頭痛の性質、そして治療における効果についての、比較的まとまった報告があります。Cephalalgiaという雑誌に掲載されたものです。
 これによると、 一定の期間にフランスの1つの施設で診断された、甲状腺機能低下症の患者さん102名中、31名に頭痛の症状が認められました。
つまり3割を超える患者さんが、 頭痛を訴えていたのです。
 この頭痛は甲状腺機能低下症による、だるさなどの症状から、平均2ヶ月程度経過してから発症し、8割が両側性で、 拍動性の頭痛は1割に過ぎず、8割は3日以上持続しています。
 つまり、 頭の両側の重い感じの痛みが、 我慢出来ないほどは強くはないけれど、数日間を超えてずっと続き、痛み止めはあまり効果がない、というのが甲状腺機能低下症に伴う頭痛の特徴です。
そして7割の患者さんは、頭痛の経験が直近にはなかったのです。
 こうした頭痛を、 現在の頭痛の国際的な分類においては、 新規発症持続性連日性頭痛(new daily persistent headache )と呼んでいます。略してNDPHです。
  厳密に言えば、 甲状腺機能低下症で起こる頭痛は、 二次性の頭痛なので、この区分からは外れるのですが、 一次性頭痛として症状を見ると、この区分に近い、ということになるのです。
  甲状腺ホルモン剤により機能低下症を治療すると、31例中18例で治療開始後15日には、 頭痛は改善し、1年以内に13例では消失しています。
最初にご紹介した文献においては、 今度は片頭痛やNDPHと診断された患者さんにおいて、 甲状腺機能低下症が合併する頻度を分析しています。
それによると、 片頭痛より16倍、NDPHは甲状腺機能低下症を合併するリスクが高い、という結果になっています。
 こうしたデータを総合的に考えると、 甲状腺機能低下症が、NDPHタイプの症状を持つ頭痛の誘発因子の1つであり、その場合には甲状腺機能を治療により正常化することにより、早ければ2週間以内に、頭痛も改善する可能性が高い、ということが言えるように思います。
 ただ、この分野の文献は、甲状腺の専門家によるものではない物がほとんどで、たとえばTSHのレベルと頭痛の発症率や重症度に関連性があるのか、潜在性の甲状腺機能低下症でもそうしたことが起り得るのか、甲状腺の自己抗体との関わりはないのか、というような点については、あまりデータが見当たりませんでした。
 1998年のフランスの文献においては、橋本病の症例は少数です。


 それでは何故、 甲状腺機能低下症で頭痛が起こるのでしょうか?


 これについては、 現時点ではあまりクリアな説明がないようです。

上記の文献によると、甲状腺ホルモンの欠乏が、痛み刺激に対して、人を敏感にすることはほぼ間違いがなく、動物実験のデータからは、それはアデノシンの欠乏と関わりがありそうだ、という説明になっています。

前述のテレビにおいては、 片頭痛の原因である脳の血管拡張が、甲状腺ホルモンの欠乏により遅延するので、片頭痛が遷延する、というような説明になっていました。
 ただ、それが本当であれば、全くの新説です。

 従来の考えでは、 甲状腺機能低下症に伴う頭痛は、前述のように片頭痛とは、関わりのない可能性が高いとされていたからです。
 現時点では非常に不思議ですが、今後新たな知見が、発表されることになるのかも知れません。


 以上を要約すれば、

甲状腺機能低下症とは、体内の新陳代謝や細胞や組織に深く関わっている甲状腺ホルモンを分泌する甲状腺の機能が低下し、甲状腺ホルモンを分泌が少なくなる病気です。これに伴い、 頭痛が生じることがあります。
この頭痛の成因は不明ですが、両側性で拍動性ではなく、緊張型頭痛に似た、頭を締め付けられるような頭痛が起こります。
他の甲状腺機能低下症の症状が出現してから、2ヶ月程度で急に始まり、その後数日間以上持続するのが特徴です。
甲状腺機能低下の程度と、 頭痛の頻度や重症度が相関するのかどうか、というような点については、あまりデータがありません。
このタイプの頭痛は、甲状腺機能が正常化すると、2週間で改善することも稀ではなく、治療の効果が期待出来るので、見落とすことのないように、注意する必要があるのです。
片頭痛の人が甲状腺機能低下症を併発すると、毎日鎮痛薬で対処してしまい薬物乱用頭痛を引き起こしてしまうこともあります。この点が注意すべきことです。


 甲状腺機能亢進症/バセドウ病では代謝亢進により血中のマグネシウム・ビタミンB2濃度が低下し、片頭痛が悪化することあります。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の片頭痛はマグネシウム・ビタミンB2を予防投与が行われております。


 分子化学療法研究所の後藤日出夫先生の見解を以下にお示し致します。


 メカニズムはわかっていないのですが、ミトコンドリアの活性にはコエンザイムQ10 以上に、甲状腺ホルモンが強くかかわっています。
ご存知の方もいると思いますが、甲状腺ホルモンが出過ぎるとバセドウ病を発症し、少ないと橋本病になります。ミトコンドリアに元気がなくなる橋本病では、わずかな体調の変化であっても活性酸素を発生しやすく、片頭痛の原因となることがあります。
「片頭痛を治すために今日からすぐ始めたいこと」を実践してみたものの、1ヵ月経っても改善効果を実感できない場合には、甲状腺ホルモンの分泌異常を疑ったほうがいいかもしれません。


 以上のように、甲状腺疾患そのものが片頭痛の原因であるのではなく、基にある片頭痛が、これら甲状腺疾患を合併することによって、「ミトコンドリアの働きに影響」を及ぼし、機能亢進症であれば、片頭痛を悪化させ、逆に機能低下症であれば、緊張型頭痛を生じてくると考えるのが妥当のようです。