医局講座制と頭痛研究 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 日本頭痛学会の歴史は、1973 年(昭和48 年)に第1回頭痛懇話会が発足した約40 年前に遡ります。日本の頭痛学の創始者は、加瀬正夫、喜多村孝一、黒岩義五郎の3先生です。その後、1985年に頭痛研究会に発展しました。そして1996年に濱口勝彦初代理事長のもとに日本頭痛学会が発足し、1997年に学会としての第1回総会が福内靖男会長のもとに行われました。2000年にトリプタンが導入され、専門医が中心となって頭痛医療を効率化させ、患者さんの満足度を高めるために、日本頭痛学会が認定する最初の認定医が2005 年に認定されました。現在認定医数は767名を数え、全国の医師会の数(約920)に満たず、この数に匹敵するだけを増加させる予定のようです。
 こうした頭痛専門医を量産する目的で、本年度からHMS-Jが行われるようになりました。
 そして、学会も本年度で42 回を数えることになりました。以下が、その年表です。


頭痛学会の歴史


開催年 回数と会名会長所属


1973 年~ 1984 年 第1回~第12 回頭痛懇談会 加瀬正夫・喜多村孝一
1985 年 第13 回頭痛研究会 喜多村孝一 東京女子医科大学脳神経センター
1986 年 第14 回頭痛研究会 加瀬正夫 関東逓信病院(現・NTT関東病院)
1987 年 第15 回頭痛研究会 祖父江逸郎 名古屋大学名誉教授
1988 年 第16 回頭痛研究会 後藤文雄 慶応義塾大学神経内科教授
1989 年 第17 回頭痛研究会 高橋和郎 鳥取大学
1990 年 第18 回頭痛研究会 平山恵造 千葉大学
1991 年 第19 回頭痛研究会 朝倉哲彦 鹿児島大学
1992 年 第20 回頭痛研究会 片山宗一 獨協医科大学
1993 年 第21 回頭痛研究会 赫彰郎 日本医科大学
1994 年 第22 回頭痛研究会 高柳哲也 奈良県立医科大学教授
1995 年 第23 回頭痛研究会 浜口勝彦 埼玉医科大学教授
1996 年 第24 回頭痛研究会 松本清 昭和大学脳神経外科教授
1997 年 第25 回頭痛学会総会 福内靖男 慶応義塾大学神経内科教授
1998 年 第26 回頭痛学会総会 岩田誠 東京女子医科大学脳神経センター
1999 年 第27 回頭痛学会総会 坂井文彦 北里大学神経内科教授
2000 年 第28 回頭痛学会総会 寺尾章 川崎医療福祉大学教授
2001 年 第29 回頭痛学会総会 島津邦男 埼玉医科大学神経内科教授
2002 年 第30 回頭痛学会総会 間中信也 温知会間中病院
2003 年 第31 回頭痛学会総会 森松光紀 山口大学医学部
2004 年 第32 回頭痛学会総会 上津原甲一 鹿児島市立病院
2005 年 第33 回頭痛学会総会 中島健二 鳥取大学医学部附属脳幹性疾患研究
2006 年 第34 回頭痛学会総会 中島健二 鳥取大学医学部附属脳幹性疾患研究
2007 年 第35 回頭痛学会総会 北川泰久 東海大学医学部付属八王子病院
2008 年 第36 回頭痛学会総会 鈴木則宏 慶応義塾大学医学部
2009 年 第37 回頭痛学会総会 平田幸一 獨協医科大学
2010 年 第38 回頭痛学会総会 片山泰朗 日本医科大学
2011 年 第39 回頭痛学会総会 荒木信夫 埼玉医科大学神経内科教授
2012 年 第40 回頭痛学会総会 喜多村孝幸 日本医科大学脳神経外科准教授
2013 年 第41 回頭痛学会総会 寺山靖夫 岩手医科大学 神経内科・老年科分野
2014年 第42回頭痛学会総会 鈴木倫保 山口大学 脳神経外科


 これらを通覧してお分かり頂けるかと思いますが、脳神経外科と神経内科の大学の教室が主として、いわば持ち回りのような形で行われているようです。こうしたことから、脳神経外科関係は”二次性頭痛”を、神経内科関係は”一次性頭痛”を主に論じて来ました。
 そして、各大学の教室には、教室としての研究テーマがあります。脳神経外科関連では”二次性頭痛”を来した興味ある症例の発表が主となることは当然ありうることで仕方ないのですが、問題は「神経内科関係」の方々の研究テーマは、大半が”片頭痛の各論”に終始してきました。とくに2000年以降は、トリプタン製剤に関連したものが多いようです。 こうしたことから、片頭痛全体を俯瞰するような研究はこれまでまったく存在しませんでした。これまでの研究として、女性の片頭痛であれば”どこの施設”、子供の片頭痛であれば”誰か”、さらに片頭痛の発生機序に関しては”どこの施設”、片頭痛の遺伝に関する研究であれば”どこの施設”、片頭痛の診断面に関しては”どこどこの施設”といったように、各大学の教室の研究テーマの”十八番(おはこ)”が伝統的にあります。

 そして、各大学の教室はお互いの領域を侵さないような配慮がなされています。これは絶対的なようです。私も、昭和45年医師となり、国家公務員等共済組合連合会呉共済病院・内科に勤務した当時から、内科医長の意向で、日本で出版される内科学関連の医学雑誌は全て購入され、毎月購読が可能になっていました。このため、これらの医学雑誌に掲載されていた「頭痛関連」の記事は、「頭痛懇話会」の時代から、目を通しており、さらに私の分野である「神経内科」関連の雑誌としては科学評論社の「神経内科」がありました。さらに神経内科治療研究会(後に学会になりましたが)の定期的な出版物がありました。 このため、昭和45 年以来、「頭痛に関する記事」は悉く目を通していました。これらを45年間通覧しても、こういった傾向は全く変わりなく現在まで持続しています。この中で目新しいものは、2000 年以降のトリプタン製剤が出現した当時にこのような記事が記載された程度で、45 年前と現在で何ら変わったものはないようです。強いて挙げるならば、昔の片頭痛から、群発頭痛が分離された程度でしょうか? そして、慢性頭痛さらに片頭痛に関する”総説”がこれまで全くありません。個々の研究が点々ばらばらであり、全く統一した考え方で行われていないことです。
 この点が、まったく信じられない思いがします。
 これこそ、医局講座制のありかたを如実に示しているようです。


 頭痛とは関係ないことですが、私が以前急性期脳梗塞の臨床研究を進めていた時代、第8回日本脳卒中学会が主導して「脳梗塞の共同研究」が行われました。これは、発症24 時間以内に脳血管撮影を行った症例を全国から集計して、その予後調査を行ったことがあります。
 これは、当時、脳梗塞に対する治療法として,内科的には線溶系薬剤による線溶療法,外科的にはバイパス形成術などの閉塞部位での血流を再開させることを目的とした,いわば「血行再開療法」が試みられ.当時その適応や有効性に関して一定の結論が得られていなかったための調査でした。このことは、以前には、急性期脳梗塞には脳血管撮影は行ってはならない、という考えが存在していた当時では、まさに画期的な共同研究でした。
 このような研究は、大学の教室の枠を離れ、さらに神経内科・脳神経外科という枠を超えた調査であったことに意義があったように思っております。こうした共通の認識のもとに研究が行われるべきです。こうした研究から、現在の血栓溶解剤のアルテプラーゼの開発につながり、致死的とされていた脳塞栓の患者さんの救命に繋がっていったように考えております。

 それに対して、頭痛研究はどうなのでしょうか? 各大学の教室のメンツばかりが重んじられ、片頭痛治療に”トリプタン製剤”が導入されたことによって全てが解決されたような錯覚に陥ってしまい、2000 年以降、まったく頭痛研究が進歩したように思えないのは私だけなのでしょうか? まったくストップしてしまったようです。
 その証拠に、いまだに「慢性頭痛」の本態解明がなされることなく、安閑とされる現実があります。私は、頭痛研究の進展しない理由の一つとして、自由な発想で研究が行えない「医局講座制」そのものにその原点があるように思っています。


 医局講座制については、以下をご覧下さい。


  http://taku1902.jp/sub059.pdf