慢性頭痛とくに片頭痛・緊張型頭痛 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 頭痛とは、どのようなものかを、まず知ることが大切です。このための説明です。


 一次性頭痛(慢性頭痛)とは・・片頭痛と緊張型頭痛との違い


 日本人の一次性頭痛(慢性頭痛)のほとんどが緊張型頭痛と片頭痛です。これ以外に群発頭痛がありますが、極めて稀です。
 緊張型頭痛と片頭痛の最も大きな違いは、痛みの程度です。
 医院に来られる多くの患者さんのように、仕事も家事も手につかないほど痛くて日常生活に支障が出るという場合は、ほとんどが片頭痛と考えられます。
 緊張型頭痛が体を動かすことによって軽くなるのに比べ、片頭痛は体を動かすことでよりひどくなります。少しでも体を動かすとズキズキと痛み、階段を上ったり体に力を入れたりするとガンガンする、ただひたすらに静かに横になっていたい。このような痛みが片頭痛の特徴です。
 片頭痛は人によって、また同じ人でも、そのときの体調などによって、とてもひどいときとそうでもないときがありますが、多かれ少なかれ生活に支障が出ます。ひどいときには会社や学校を休まなければならなかったり、寝込んでしまうこともあり、その生活支障度が高いのが片頭痛の特徴です。
片頭痛で悩む日本人は、15 歳以上の人口の実に 8.4 % 840 万人もいます。

 片頭痛は必ずしも片側だけが痛むとは限らず、また心臓の鼓動に合わせてズキンズキンとは痛まない場合もあります。
 さらに間違えやすいのが、肩や首の凝りです。
 緊張型頭痛は、同じ姿勢を続けたり根を詰めて何かをしたときに、肩が凝って起きることが多い頭痛です。ところが片頭痛でも痛くなる前に、肩や首、側頭部などが凝ってきて、それから頭が痛くなることがよくあります。
緊張型頭痛では、頭の両側が重かったり、圧迫されたり、締め付けられるような痛みがありますが、痛みの程度は軽く、仕事や家事、学校の勉強などは普通にできます。日常の動作によって悪化することはありません。むしろ体を動かして凝りがほぐれれば、痛みは和らぎます。マッサージを受けたり、肩を揉んだりするのも気持ちが良いものです。
 片頭痛は今までにも述べているとおり、痛みは中程度からかなり強いものまであり、その痛みは日常生活に支障を来たします。歩いたり階段を上ったり首を振ったりすると悪化し、鎮痛薬を飲まなければ4時間から72時間続きます。痛みがひどいときには吐き気を感じ、また実際に吐くこともあり、いつもは何でもない光や音が、眩しかったりうるさく感じられたりすることもあります。緊張型頭痛と異なり、肩などを揉んで良くなることはありません。


片頭痛とは


 片頭痛は、”遺伝的素因”が関与する病気です。片頭痛がある人は、ご両親のどちらか、また両方に片頭痛があるとされています。しかし、問診上、明らかでない人もおられます。

 片頭痛の患者さんはよく、痛みがくるのがわかる、と言います。
 背中が凝ってきた、凝りが肩にきた、上に上がってくる、ズキズキする、きた!というように、痛みがくる過程が感じられるのが片頭痛の1つの特徴で、片頭痛の予兆と呼ばれています。
 片頭痛の診断基準の中にも、痛みの最中の吐き気や音・光への敏感さなど痛み以外の症状が含まれていますが、片頭痛は頭の痛みだけが症状ではありません。
 何となく痛くなりそうな時期から痛みが引いていく時期に至るまで、予兆期、前兆期、頭痛期、緩解期、回復期という5つの過程があり、特徴的なさまざまな症状が見られることがあります。


1.予兆期


 多くの患者さんが感じる肩や背中、首の凝り、あくびなどの症状は予兆期に現れるものです。予兆期にはこのほか、疲労感や、集中力の低下、精神的な落ち込み、抑うつ感などが見られる場合があり、また人によっては、お腹がすいて過食をしてしまったり、痛みなどの感覚が過敏になったりという症状が出ることもあります。
 予兆は、長い人では2,3日間、続くことがあります。


2.前兆期


 頭痛の起きる直前に特徴的な前兆が現れることがあり、これを前兆期と呼んでいます。
 前兆は患者さんによってある場合とない場合があり、片頭痛の分類でも「前兆のない片頭痛」と「前兆のある片頭痛」に分けられています。
 前兆には、視覚性前兆、感覚性前兆、言語性前兆の3種類ありますが、ほとんどが視覚性前兆で、感覚性・言語性前兆はあまりみられません。前兆は、頭痛の始まる前に 10分から 20 分程度続く一過性の症状で、長くても1時間以上続くことはありません。
 視覚性前兆はいわゆる「閃輝暗点(せんきあんてん)」と呼ばれるもので、初めに視野の中心付近にチカチカ光るものが現れます。チカチカするものは次第に右または左の視野に広がっていき、やがてその部分の視力がなくなります(視野欠損)。20 分程度経つと視力が元に戻り、このあと、頭痛が起きます。
 感覚性前兆では、顔面や腕、足などにピリピリ、チクチクした感覚が現れ、また言語性前兆では一時的に言葉が話せなくなる状態になりますが、これらが現れるのは極めて稀です。


3.頭痛期


 頭痛期は、実際に痛みを感じている状態で、痛みの程度も軽度から中等度、重度とさまざまです。この期間には、吐き気や嘔吐、音・光(眩しさ)・臭いなどに対する過敏、食欲の減退などの症状があります。
 鎮痛薬を飲まずにいた場合、あるいは鎮痛薬を飲んでも効き目がなかった場合、頭痛は4時間から 72 時間続きます。


4.寛解期


 頭痛が回復に向かう時期で、少しずつ痛みが引いていきます。この時期、眠気を感じたり、実際寝込んでしまう場合もあります。


5.回復期


 頭痛がなくなった後も、しばらくは疲労感を感じたり食欲が低下するなどの症状が見られることがあります。また精神的にうつ状態になったり、逆に躁状態になったりすることもあります。この症状は半日から3日程度、続くことがあります。


 このような片頭痛の症状は、患者さんによって多く現れる場合、少なく現れる場合、また全くない場合それぞれですが、全体としてこのような経過を辿ることがほとんどです。
 そのため片頭痛の診断には、基本的な診断基準で判断するとともに、痛みの前後の精神的、身体的な状態を含めた包括的な診断を行うことが必要です。


 このようなパターンを示すのが特徴で、自分の頭痛発作のパターンを把握することが極めて大切で、どの段階で「お薬」を服用するかの決めてになります。
 さらに、誘発因子を見つける際の大切な点です。忘れないで覚えておいて下さい。
 私は片頭痛というものは、1つの大きな交響曲やピアノ協奏曲のようなものだと考えています。


そのメカニズム


 人間に何らかのストレスがかかった場合、血小板内に備蓄されているセロトニンという物質が血管内に放出されます。セロトニンは全身に分布していますが、脳の中では神経伝達物質として作用し、感情に対する情報をまとめて安定させる、という役割があります。
 セロトニンは血管を強力に収縮させますので、セロトニンが血液中に増加しますと血管がキュッと縮みます。増加したセロトニンは、血小板内の備蓄が少なくなるに従って、だんだん減少します。血管内のセロトニンが減少すると、収縮していた血管が今度は急激にバッと拡張します。このとき血管を取り巻いている三叉神経が刺激されて痛みに繋がると言われています。
 また三叉神経の末梢が刺激されると、サブスタンスPやCGRPと呼ばれる神経ペプチドが分泌されます。これらの神経ペプチドは、血管作動性神経伝達物質と呼ばれるもので、血管周囲に分泌されると炎症を起こし、血管がさらに拡がって痛みが出てきます。
 これが三叉神経血管説と呼ばれる片頭痛の起きるメカニズムです。
 血管が拡がって三叉神経を刺激して痛みを感じ、また三叉神経は血管を取り巻いているため、心臓の拍動に合わせた血流のドクドクという動きでさらに刺激され、拍動の合わせてズキズキと痛むこともある、ということになります。
 片頭痛に効くトリプタンという薬には、拡張した血管を収縮させる作用と、サブスタンスPやCGRPという痛みの物質が分泌されるのを抑制する作用の両方があります。いわば片頭痛が起きる原因をなくしてしまいますので、それだけ効果が高いということです。


片頭痛の画期的な治療薬トリプタン


トリプタンの登場


 トリプタンは片頭痛に非常に効果のある頭痛専用の薬で、日本では 2000年に販売が許可されました。トリプタンの登場によって片頭痛の治療は画期的に進歩しました。
 トリプタンが出る前、頭痛で医者に来る患者さんに対しては、鎮痛剤か、片頭痛の治療薬としてただ一つだけあったエルゴタミン製剤という薬を処方するのがせいぜいで、あまりひどい場合は痛み止めの点滴をしたりしましたが、これといって効果的な治療法はありませんでした。
 エルゴタミン製剤という片頭痛薬は、使い方がとても難しい薬です。痛くなってから飲んだのでは効かないので、痛くなる前に飲まなければなりません。患者さんは痛くなると大変だからと、頻繁に飲むようになります。すると薬物乱用頭痛を起こしてしまいます。また、ある程度痛くなってから飲むと、頭痛が治まらないばかりか悪心嘔吐を起こします。エルゴタミン製剤を使っていた片頭痛の患者さんたちの悪心嘔吐は、そのかなりが薬のせいだったと言われているほどです。
 また医療機関が処方する鎮痛薬は、市販のものよりは多少強いのですが、片頭痛には効かない場合も多く、忙しい中わざわざ医者に行っても、たいして効かない鎮痛剤をくれるだけなら市販の薬でも同じ、医者に行っても無駄だ、と、頭痛持ちの患者さんたちを医者から遠ざける原因にもなっていたように思います。
 ところがトリプタンは、片頭痛を持つほとんどの患者さんに対して、非常に効果があります。エルゴタミン製剤のように悪心嘔吐を起こしたり、飲むタイミングがとても難しいということもありません。午前中を潰して病院に行くだけの価値は絶対にありますので、片頭痛で悩んでおられる方は是非一度は試してみて下さい。
 トリプタンを治療で使う場合、口から飲む経口薬(頓服)、シュッと鼻から吸収する鼻吸入タイプ、皮下注射という3つの方法があります。注射が最も効き目が早く、打って 10 分もすると頭痛が治まってきます。次に早いのが鼻吸入タイプで 15分ほど、頓服の場合は1時間ほどで効き目が現れます。
 注射器タイプのトリプタンをいつも持っていて、痛くなったら自分で注射する患者さんもおられます。
 片頭痛ではほとんどの場合、痛くなったときにすぐに飲むことができるよう、経口タイプの頓服を処方します。激しい頭痛で吐き気があり、口から飲むことが難しい場合などは、鼻吸入タイプのものを使うこともあります。
 頓服は水で飲みますが、水がなくても口にいれると溶けるタイプのものもあります。
 トリプタンという薬は現在、4つの製薬メーカーから5種類発売されており、いずれも「○○ トリプタン」という一般名がつけられています。
 この5種類のトリプタンは、どれも片頭痛に効果がありますが、飲んで素早く効果の出るもの、効き目が長く持続するものなど、それぞれ少しずつ異なります。さまざまなトリプタンがあれば、それだけ各患者さんの痛みの質に合わせて選ぶことができますので、患者さんにとっても非常に便利です。


トリプタンの使い方


 トリプタンは市販薬ではありません。医療機関を受診し、片頭痛という診断をされて初めて、処方される薬です。片頭痛の痛みには非常に効果的ですが、使い方を間違えると治る頭痛も治らず、薬物乱用頭痛になりかねません。
 単に片頭痛だからトリプタン、群発頭痛だからトリプタンというのではなく、診察医に自分の頭痛の様子や頻度などをきちんと話し、頭痛が起きる誘因を排除したり予防薬と併用しながら、正しく使用することが必要です。
 トリプタンは、これは明らかに片頭痛である、という頭痛が起きたときに飲みます。風邪をひいたときの頭痛に飲んでも効果はありません。必ず、片頭痛のときに服用します。
 またトリプタンも有効率 100 %ではありませんので、体調などさまざまな状況によって、効かないときもあります。一度飲んで、2時間経ってもまだ痛みがあるか、ひどくなっている場合には、もう一度飲むことができます。1日に飲んでも良いと言われている個数はトリプタンの種類によって異なり、2つまでのものと4つまでのものがあります。
 市販の鎮痛薬には、かなりの量のカフェインが含まれていて胃を荒らすことがあり、また1日に何度も飲むことはできません。それに比べるとトリプタンは体にとって優しい薬と言えます。
 ただし、頭痛が起きるかもしれない、と思って予防がてら毎日1錠ずつ何日か続けて飲む、というのは避けなければいけません。他の薬と同様、薬物乱用頭痛を起こすことがあります。1カ月に6回以上激しい頭痛が起きてトリプタンを飲むようであれば、主治医と相談して予防薬を飲むべきでしょう。予防薬と併用することで頭痛の頻度が減り、トリプタンの効き目も良くなります。
 またトリプタンにも副作用があります。服用してしばらくすると、胸の辺りが少しキュッと締め付けられるようになることがあります。これはトリプタンの副作用で、患者さんの心電図などをすべて確認しても異常がないことがわかっており、全く安全なので心配ありません。5分か 10 分すると症状は消えます。

 もう一つ注意が必要なのは、トリプタン服用のタイミングです。服用のタイミングを間違えると、本来なら効く頭痛も効かず、長い時間苦しむことになりかねません。
 トリプタンは、明らかに片頭痛だと思われる頭痛が始まったらすぐに服用するのが最も効果的です。日本人の場合、痛みにできるだけ耐えることを美徳とする傾向があり、痛みが始まってもなかなか鎮痛剤を飲まない患者さんも多いのですが、頭痛がひどくなってからでは、さすがのトリプタンも効果が出ない場合があります。
 初めてトリプタンを処方された患者さんで、効かない、と訴える人によく話を聞いてみますと、痛みをさんざん我慢して我慢して、もうダメだ我慢できない、というときになってやっと飲んだ、という場合がほとんどです。トリプタンは痛みを止めるための薬、痛みを我慢しなくても良いための薬なのですから、始まったな、と思ったらすぐに服用して下さい。
 また片頭痛には前兆のある方もいらっしゃいますが、トリプタンは前兆時に服用しても全く効果がありません。また痛みが引く頃になって飲んでも効きません。あくまでも「痛み」が始まったときに服用します。
 トリプタンは、「明らかな片頭痛の痛みが始まったら即座に」という最も効果的な正しい服用のタイミングを理解して戴き、患者さんは、我慢せずに、痛みが始まったらすぐに飲むこと。これが、患者さんの苦しみを減らし、決して安くないトリプタンという薬を有効に活用するためには、大切なことなのです。


トリプタンはなぜ効くのか


 トリプタンが片頭痛に効果があるのは、頭痛が起きる仕組みの根幹部分に作用しているためです。片頭痛にはセロトニンという物質が大きくかかわっています。セロトニンは神経伝達物質のひとつで、感情のバランスを安定させる役割を持ち、血管を収縮させます。ストレスなど何らかの理由でセロトニンが分泌され、収縮した血管は、役割を果たして減少するにつれて今度は拡張します。
血管が拡張することによって血管に絡みついた三叉神経が刺激され、頭痛が起きる、というのが一つ。
 さらに、三叉神経が刺激されると、サブスタンスPやCGRPなど炎症を起こす物質が分泌され、血管を刺激して痛みが出てくる、というのが一つ。
 この二つが片頭痛が起きるメカニズムです。
 このように血管の収縮と拡張に大きく影響しているセロトニンですが、トリプタンという薬は、セロトニンと同じような作用を持っています。そのためセロトニンの代わりに血管を収縮させ、拡張によって三叉神経が刺激されるのを防ぎます。
 さらにセロトニンは三叉神経に取りついて、痛み物質のサブスタンスPなどが分泌されるのを抑制する役割がありますが、ここでもセロトニンの代わりにトリプタンが三叉神経に取りつき、サブスタンスPなどの分泌を抑制して痛みが出るのを防ぎます。
 
 このようにトリプタンは脳の中でセロトニンとして働き、血管を収縮させ、サブスタンスPなどの分泌を抑制する、という2つの役割を果たすことにより、片頭痛の起きる原因そのものを排除します。つまりトリプタンは、片頭痛という病気のより本質に近いところに作用して痛みを取るため、効果が高いというわけです。
 トリプタンが出る前に使用されていた鎮痛剤や市販の鎮痛薬は、本質的な痛みの部分に作用しているのではなく、痛みの伝達を途中でブロックして感じなくしているだけです。
 そのため、痛みが強いと効果がなかったり、薬を飲んだときには少し良くなっても、しばらくして薬の効果が薄れてくるとまたすぐに痛くなったり(痛みはずっと続いているため)することがあります。


トリプタンも効かない場合


 今まで述べてきたように、片頭痛に非常に効果のあるトリプタンですが、それでも有効率は 100 %ではありません。中には、トリプタンを使っても完全には治りきらなかったり、部分的にしか効かないという場合もあります。
 そのような場合には、患者さんと一緒になって、何とか少しでもよくなるように、あれこれとさまざまな方法を試すようにします。
 トリプタンは5種類あります。すべて少しずつ異なりますから、どれが一番良く効くか順番に飲んでみたり、また予防薬もいろいろな種類を試し、飲み方や飲む量を加減します。


 故人となりましたが、樋口脳神経クリニックの樋口真秀先生の方式は、片頭痛の方にトリプタン製剤を処方する場合、この5種類のトリプタン製剤を2錠ずつ、いっぺんに処方して、患者さん自身に飲み比べてもらうようにしておられました。
 このような方式で行きますと、薬剤の金額だけで相当な金額となり、これに検査費用が加われば、初診時の患者負担は馬鹿になりません。
 この点、処方する側にも遠慮があるのではないでしょうか? しかし、1度処方されたお薬が効かない場合、2度と受診されない方も多いのも事実です。