不思議の国のアリス症候群 | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 片頭痛が「不思議で、神秘的な病気」とされるのは、閃輝暗点や今回述べる「不思議の国のアリス症候群」を示す片頭痛患者さんがおられることから、言われています。


 不思議の国のアリス症候群(Alice in Wonderland syndrome、AIWS、アリス症候群)とは、知覚された外界のものの大きさや自分の体の大きさが通常とは異なって感じられることを主症状とし、様々な主観的なイメージの変容を引き起こす症候群です。 この症候群の名前は、ルイス・キャロルの児童文学『不思議の国のアリス』で薬を飲んだアリスが大きくなったり小さくなったりするエピソードに因んで、1955年にイギリスの精神科医トッド(英語: John Todd)により名付けられました。
「不思議の国のアリス(Alice's Adventures in Wonderland)」は英国の童話作家であるLewis Carrollが1865年に発表した童話であり, 1871年に出版された「鏡の国のアリス(Through the Looking-Glass, and What Alice Found There)」とともに有名です.


 典型的な症状は、眼に障害がなく外界が通常と同じように見えていると考えられるにもかかわらず、一方では主観的にそれらが通常よりも極めて小さな、または大きなものになったように感じられたり、ずっと遠く、あるいは近くにあるように感じられたりします。 例えば、子供が自分の母親が自分より小さくなったように感じたり、蚊が数十 cm もあるように見えたりします。 自分の体は逆にそれぞれ大きく、または小さくなったように思うこともあります。 外界が小さく感じられるものを小視症、大きく感じられるものを大視症、ひずんで感じられるものを変視症と呼ぶ場合もありますが、これらの呼称は眼底疾患など視覚そのもの障害による症状においても用いられています。


 この症状にはさまざまなバリエーションがあります。対象や位置が限定されており、例えば、人の顔以外を見たときにのみこの現象が現れたり、視野の右半分だけが 2 倍の大きさになったように感じたり、テレビに全身が映った人物の顔と体の比率が歪み、何頭身であるかを認識できなくなったりします。 大きさだけでなく色覚についても異常が起こることもあり、例えば自分の母親が緑色に見えたりします。またこの現象は視覚だけでなく触覚や身体イメージによっても起こり、自分の片方の耳だけが何倍にも大きくなったように感じられることもあります。 さらに、空間の感覚だけでなく時間の感覚に関して類似した現象が起こることもあり、時間の進み方が速くなったり遅くなったりしたように感じる人もいます。 空中を浮遊するような感覚も特徴とし、現実感の喪失や離人症状も現れることがあります。 現象は数分で終わることが多いが、何日も継続する場合もあります。


この症状は、ヘルペスの一種のエプスタイン・バール (EB) ウイルスの初期感染で引き起こされた中枢神経系の炎症での報告が多いようです。 EBウイルスは、日本では子供のころにほとんどの人が感染するもので、おそらくこのために、子供のころ一過性のこの症状を体験した人は比較的多いようです。 大人になっても不思議の国のアリス症候群を常にもつ人の多くは片頭痛をもっています。 また、他のウイルスによる脳炎、てんかん、統合失調症の患者からも報告されることがあります。さらにある種の向精神薬によってもこの症状が現れることがあります。またまれにうつ病の前触れとなったという報告もあります。ルイス・キャロルは片頭痛に悩んでいたことが知られており、彼自身がこの症状をはじめとする作品内のエピソードを体験していたかもしれないとする推測があります。


 このような症状がどのようにして起こるのかはまったく不明です。 症候群自体の認識が薄いこともあり、報告は多くありません。 EBウイルスに罹患した患者において、限定された画像法でのみ短期間で一過性の大脳皮質の広範囲の変異が認められたという報告がありますが、限局した病巣を認めるような報告はなく、脳の広い範囲が関わっているものと示唆されます。


「不思議の国のアリス症候群」とまぎらわしいものとして、以下のようなものがあります


「知覚変容発作」は、自身が発作であると認識できるような突然の数分から数時間の発作的な、視覚的な変容の特徴があり、多くは不快感を伴います。うつ病や小児自閉症でも抗精神病薬の使用でも生じるようになり、抗精神病薬を中止することによっておさまる抗精神病薬誘発性の症状です。
「フラッシュバック」は、幻覚剤の体験に関連し、薬物の中止後かなり後にも生じることがあり、幻覚であることの自覚があり視覚的な特徴を持っています。数秒から数分のことが多く、以前の薬剤の体験に関したものです。



この「不思議の国のアリス症候群」と片頭痛の関係について、日本で最も研究される先生は、太田熱海病院(静岡の熱海ではなく福島県の熱海です)神経内科,脳神経センター長の山根清美先生です。先生は、ある頭痛専門医の勉強会で、「見逃されている脳底型片頭痛について」,副題として「多彩な症状(めまい,全健忘,アリス症候群など)を呈する片頭痛」と題されて講演されました。
 この「見逃されている」という表現から分かりますように,山根先生は,脳底型片頭痛は決してまれな片頭痛ではない,ということを強調されていました。自験例として23年間に110例の脳底型片頭痛を経験し,その特徴ある症状や,発症機序などにつきまとめられていました。もともとは1961年にBickersteffが脳底動脈片頭痛(Basilar artery migraine)として,脳底動脈系の多彩な症状を示す症例を詳細に検討して報告したのが初出ということでした。その後1988年の国際頭痛学会の頭痛分類では脳底片頭痛(Basilar migraine)と呼称され,2004年の頭痛分類第2版では脳底型片頭痛(Basilar type migraine)とされました。そして第2版の分類には詳細な診断についてのコメントが付記されています。
山根先生がこの疾患に興味をもたれたのは,初期の頃経験された48歳の看護師の症例で,片側視野全体の閃輝暗点,あるいは半盲のように人物の左半分が見えなくなり,その後その部分がきらきらとゆらいで見え出し,その後に頭痛・めまいなどの症状を発症したが,後ほど4日間の経過中の記憶がない,一過性全健忘の状態になっていたことが分かったそうです。患者さんの書いた絵を提示され,確かに経過も十分に印象的でした。山根先生の110例の検討では,神経内科の全新患の0.7%,片頭痛患者の25%が脳底型片頭痛であり,42:68で女性に多く,家族歴は48例で認められたとのことです。症状でもっとも多かったのが回転性めまいで88%に見られ,ついで運動失調(ふらつき)76%,耳鳴26%などが見られたようです。報告では小児片頭痛の30%が脳底型片頭痛であるとするものや,全片頭痛の30%程度が脳底型とする報告もあるとのことでした。
これだけ多いはずの脳底型片頭痛が,なぜ稀にしか診断されていないかというと,まず脳底型片頭痛という疾患概念が浸透していないこと,片頭痛の患者さんは頭痛に注意が向いているため,めまい・耳鳴・ふらつきなどの症状はこちらから聞かないとあまり訴えない,脳血管障害などと誤診されやすい,片頭痛の他のタイプとの移行例もあるため特徴を把握しづらい,精神症状が半数で見られるため精神科疾患と間違われやすい,などの点を指摘されていました。
また失神や一過性全健忘の合併も多く,脳底型の場合は脳波異常も多くみられるため,てんかんとの異同が問いただされているそうです。一過性全健忘を伴うケースで印象的な症例を報告されていました。62歳男性で3回の一過性全健忘と片頭痛発作があり,その健忘の間に車を運転し,遠く離れた福井まで行って,ひどい片頭痛で地元の病院に入院して初めて全健忘がわかったという驚くべき経過があったことを話されていました。山根先生の経験では一過性全健忘の原因の34%が脳底型片頭痛によるものであったとのことです。報告でも片頭痛によるものは大体14%から34%の合併頻度とのことでした。また脳底型片頭痛と椎骨脳底動脈血流不全も非常に似通っており,自験110例中2例が小脳・脳幹梗塞を起こしたそうです。
 また脳底型の特徴ある症状として「不思議の国のアリス症候群(Alice in wonderland syndrome AIWS)」があり,これは①身体像の奇妙な変形,②視覚的に物体の大きさや距離が変化する,③空中浮揚の錯覚的感覚,④時間的感覚の錯覚的変化,などで定義されるとのことです。このAIWSは13例11%に見られ,27歳の女性例では車の運転中に対向車が遠く小さく見え,危うくぶつかりそうになったというケースを話されていました。
治療としては予防が大切で,塩酸ロメリジンやバルプロ酸,その他一般的に片頭痛の予防薬として使用される薬を用いるとのことです。発作の頓座薬としてはトリプタン系薬剤は万一の脳幹梗塞などのリスクを考え禁忌とされているようですが,山根先生は私見として,症状が軽い,めまいやふらつきなどの軽症の症例はトリプタンを使用してもよいのではないかという印象をもっていると話されました。通常の治療薬はNSAIDsや脳梗塞に準じた治療薬などになるようです。実際に脳底型の発作期に脳血管撮影などで血管を見ると血管攣縮を起こしているケース(Frequin STFM et.al. Headache 31:75-81 1991)があるそうです。このように聞いていくと,確かにきちんと脳底型片頭痛と診断することが予後にも関係し,治療の選択の面でも非常に重要であるという印象をもちました。


不思議の国のアリス症候群の臨床概念を初めて提唱したのは1955年英国の精神科医Toddによります。 Toddは”片頭痛およびてんかん”などと密接に関係がある奇妙な症状として, 「不思議の国のアリス」の主人公と同様の症状を体験する一群のあることを論文中に掲載し, 身体像の異常な体験を訴える患者を, 簡単に神経質, 精神障害として片づけることをしないように注意を喚起しました。


 こうしたことから、ミトコンドリアの機能不全に、マグネシウム不足、その他が関与する、”脳過敏による病態”なのでしょうか???



 参考までに、国際頭痛分類 第3β版」では、以下のように分類されています。


 「片頭痛の分類」として・・・・


1. 片頭痛


1.1 前兆のない片頭痛


1.2 前兆のある片頭痛


 1.2.1 典型的前兆を伴う片頭痛
 1.2.1.1 典型的前兆に頭痛を伴うもの
 1.2.1.2 典型的前兆のみで頭痛を伴わないもの
 1.2.2 脳幹性前兆を伴う片頭痛

1.2.3 片麻痺性片頭痛

  1.2.3.1 家族性片麻痺性片頭痛(FHM)
  1.2.3.1.1 家族性片麻痺性片頭痛 I 型 (FHM1)
  1.2.3.1.2 家族性片麻痺性片頭痛 II 型 (FHM2)
  1.2.3.1.3 家族性片麻痺性片頭痛 III 型 (FHM3)
  1.2.3.1.4 家族性片麻痺性片頭痛,他の遺伝子座位
  1.2.3.2 孤発性片麻痺性片頭痛

1.2.4 網膜片頭痛


1.3 慢性片頭痛


1.4 片頭痛の合併症


 1.4.1片頭痛発作重積
 1.4.2 遷延性前兆で脳梗塞を伴わないもの
 1.4.3 片頭痛性脳梗塞
 1.4.4 片頭痛前兆により誘発される痙攣発作


1.5 片頭痛の疑い


 1.5.1 前兆のない片頭痛の疑い
 1.5.2 前兆のある片頭痛の疑い



1.6 片頭痛に関連する周期性症候群


 1.6.1 再発性消化管障害
 1.6.1.1 周期性嘔吐症候群
 1.6.1.2 腹部片頭痛
 1.6.2 良性発作性めまい
 1.6.3 良性発作性斜頸

 
 1.2.2 脳幹性前兆を伴う片頭痛 の「1.2 前兆のある片頭痛 」に分類されています。