「脳過敏」を提唱される頭痛研究者の方々は、片頭痛は一言でいうと、頭痛の際に脳が異常な興奮症状をきたす頭痛であり、その興奮症状のために、痛み以外に光や音、さらにはにおいなどの外界の刺激に敏感に反応する頭痛とされます。市販の鎮痛薬は、この片頭痛の際の頭の痛みは取り去っても、水面下の脳の興奮状態は放置されたままとなっていると言われます。ですから、市販の鎮痛薬で痛みのみをごまかし続けると、水面下の脳の興奮状態が徐々に蓄積されて行き、ついには、はちきれんばかりの興奮状態が持続するようになると言われます。このような状態に陥ってしまうと、つねに光を敏感に感じ取り、太陽の光のみならず、室内の蛍光灯でも眩しがるようになります。診察室でも何となくまぶしそうに目を細めてしかめ面をされ、これを「脳過敏」と表現されます。
私のような、古き時代に生きてきた人間にとって、このような点は甚だ疑問に思っております。現在のように、CTやMRIのような画像検査がまったく存在しなかった時代は、頭痛の「一般的な検査」は、眼底検査、脳波検査、頸椎X線検査しかありませんでした。
現在では、眼底検査は、手軽に画像検査の行えない施設しかされない検査ですが、画像検査の出来なかった時代は、頭蓋内病変の有無を調べるための唯一の手段でした。しかし、片頭痛の方々には、まさしく”忌み嫌われる検査”でした。といいますのは、先述のように「室内の蛍光灯でもまぶしがる」ほどですので、ましてや直接目に光を当てる検査など、患者さんにとっては、もってのほかの”言語道断な検査であったはずです。普通は、眼底検査といいますのは、余程熟練しませんと、瞳孔を開く点眼薬でもあらかじめ点眼しませんと、眼底は観察できないのが普通です。ところが、このように光を極端にまぶしがる片頭痛の方々は、散瞳薬を点眼しなくても簡単に眼底が観察されていました。といいますのは、散瞳薬を点眼しなくても、既に散瞳していたからです。この原因は、ストレートネックが長期間持続することによって、交感神経が優位となり、瞳孔が開きっぱなしになった結果です。当然、このような方々は頸椎X線検査でストレートネックを呈していたことは言うまでもありません。しかし、脳波検査上では、必ずしも高電位速波が確認された訳ではありません。「脳過敏」を提唱される頭痛研究者の方々はすべて、ストレートネックに関してはエビデンスなし、とされ、 頸椎X線検査でストレートネックを確認される方はどなたもいらっしゃらないようです。
このストレートネックに関連して、「片頭痛と肩こり」の問題が存在します。
現在の頭痛学会の理事長である坂井文彦先生が、北里大学の時代に五十嵐久佳先生と発表された成績を引用させて頂きます。
片頭痛患者の首の痛みや肩のコリには、片頭痛治療薬トリプタンが有効であることがわかりました。トリプタンを服用した片頭痛患者の7割で、頭痛の緩和とともに首や肩の症状も改善したためです。神奈川歯科大学横浜クリニック内科の五十嵐久佳先生と北里大学医学部神経内科の坂井文彦教授が、京都で開催された第12回国際頭痛学会で発表されました。
対象は、片頭痛患者101人(うち女性88人、男性13人、平均40.7歳)で、兆候のない片頭痛(MO)が83人を占めていました。調査の結果、69人(全体の68%)では首や肩に痛みやコリがあり、そのうちの約半数は首の症状が肩よりも重症と答えましたた。また症状があるのは女性では73%、男性では39%と、性差が見られました。
薬剤による効果を比較したところ、トリプタンを服用した群(66人)では、頭痛の緩和とともに首や肩の症状も改善した人が68%を占め、頭痛は緩和したが症状は改善しなかった人は16%でした。一方、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)を服用した群(33人)では、頭痛が緩和した人は約6割、そのうち首や肩の症状も改善したのは12人で、頭痛が緩和しなかった人でも4人は首と肩の症状は改善したといいます。これらの結果から「片頭痛患者の首や肩の症状には、三叉神経と頚神経根が関わっているだろう」と五十嵐先生らは述べておられます。
また片頭痛のどの段階で首や肩の症状が出るかを尋ねたところ、「片頭痛の前駆症状だった」と答えた人が47%と最も多く、「1時間前から」および「1~4時間前から」と答えた人がそれぞれ約3割。「首や肩の症状が片頭痛発作の引き金になった」と答えた人も26%でしたが、「片頭痛発作の間に症状は悪化していった」(31%)、「片頭痛発作の間に症状が始まった」(12%)、あるいは「片頭痛発作の後に症状が起こった」(2%)など、首や肩の症状は片頭痛のさまざまな段階に関連して起こってくることもわかりました。
また、間中信也先生の成績では、前駆期に61 %、頭痛期に92 %、頭痛消失期に41 % このように、片頭痛の全経過中に、肩こりは出現してきたと報告されておられます。
ある片頭痛患者さんの体験談として
片頭痛が起こる前は、こりが首と肩の接点の辺り(C3)から首の後ろ側を伝わって、頭に這い上がってくる感じがします。そして、頭と首の接点のくぼんだ所(天柱、C2)にものすごい圧迫感を感じます。その後、こめかみがズキン、ガンガン 吐き気もして、寝込んでしまいます。この頭痛経過は、三叉・頚神経複合体(cTNC)が賦活される様子を如実に表しています。
この、片頭痛に見られる「肩こり」もストレートネックに関連したものです。
「脳過敏」を提唱される頭痛研究者の方は、肩こりは三叉神経核の興奮性が引き金になる下行性のアロディニアではないかと述べています。
もし、仮に「アロデイニア」と考えるなら、このような方々への「トリプタン製剤」の有効率が矛盾することになります。
すなわち、片頭痛発作で、アロデイニアが出現した段階で「トリプタン製剤」を服用しても効かないのが一般常識です。
また、 相撲解説者の舞の海秀平さんは「片頭痛もち」で有名ですが、舞の海さんは、現役時代の「ぶつかり稽古」で首の筋肉に損傷を受けていたのでしょうか、引退して3~4年後に片頭痛を発症されたようです。
「脳過敏」を提唱される頭痛研究者の方を受診され、「元来の片頭痛と頸椎の椎間板ヘルニアが引き起こす頭痛が複合したもの」と診断されたようです。
ここでも、ストレートネックの存在が頭になかった診断です。
先日も記事に致しましたが、「セロトニン不足」と「ストレートネック」は相似性がみられます。ということはストレートネックが長期間持続することによって、慢性的な「脳内セロトニン不足」が引き起こされます。そうなれば、セロトニンの低下は、「衝動性、過敏性、こだわり、緊張」が強くあらわれ、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの五感すべてが過敏になり、わずかな刺激にも敏感に反応してしまい、さまざまな自覚症状を訴えるようになります。すなわち、 めまい・耳鳴り・不眠・不安・イライラ・頭痛などの不快症状を引き起こすことになります。
中高年になると、脳の血管のしなやかさがなくなってくるため、めまい・耳鳴り・不眠・不安・イライラといった症状が前面に出現してくるに他ならないということです。
ということで、これらの症状はどこからきているのでしょうか?
以前にも述べましたように、神経細胞の易興奮性はマグネシウムイオンの減少の結果あるいはミトコンドリアの代謝異常の結果として生じているものと考えられています。
こういったことから、片頭痛の諸々の症候は、「ミトコンドリア」「セロトニン」「ストレートネック」の3つの側面は無視できず、当然のこととして以下の図式が存在します。
「ミトコンドリアの活性低下」→「脳内セロトニン不足」→「ストレートネック」
このように、「ミトコンドリアの活性低下」が第一義的に存在しています。
このような観点から考えるべきと思われます。
それ以前の問題として、頭痛研究者が未だに「頭痛とストレートネック」の関係をエビデンスなしとされます。こういった考えでいる限り「頭痛研究」は「神の摂理」に従った道を歩むしかないようです。
少なくとも、このような言語録にお示ししたような考え方を何ら疑問も持たず、信じ切っている頭痛専門医が大半であるところをみれば、まさにおかしな世界としか言えないようです。