皆さんが頭痛を訴えて医療機関を受診される場合、ほとんどの方々は、頭痛を専門に診療している「頭痛外来」を受診されるかと思います。こうしたところでは、まず、皆さんの頭痛についていろいろと質問(問診)をされます。患者さんから直接、お聞きすればよいのでしょうが、いちいちお聞きすれば、時間がいくらあっても足りないのが実情です。
とくに、1日に数百人も診察される「頭痛外来」もあります。こうした「頭痛外来」では、その施設ごとに工夫を凝らした「問診票」を作成され、診察の待ち時間の間に記入を求められることが多いようです。要するところ効率よく診察を行うためです。
これらをご覧頂ければお分かりと思います(これまで記入された方々も多いと思います)が、この質問項目のほとんどは「受診のきっかけとなった頭痛」に関するものです。受診以前にも頭痛を経験したことがあるか、それがいつ頃からか、といったように以前の「頭痛」に関する質問内容は、ありますが、これらの「頭痛」に関する問診項目はまったくありません。少なくとも、このような以前の頭痛は、現在訴えている頭痛に対処するためには必要がないため、項目には入っていません。
仮に、このような以前の頭痛に関して、質問されても、受診される当のあなたがたには、「今の頭痛を何とかしたい」と思われていることから、殆ど意識というか記憶にないのが実情ではないでしょうか。後述しますように、慢性頭痛の一般的な経過は、初めは緊張型頭痛のような状態から、ある一定期間を経過して片頭痛を発症してきます。ところが、診察する医師は受診時の頭痛にしか関心はなく、以前の頭痛を厳密に確認しないようです。このことは、受診前の頭痛が極めて軽いため患者さんの意識にはないことが多いという事実を見過ごさないことが重要になります(少なくとも、こういった事実に全く無関心のようです)。この点は先ほどの「問診票」の質問内容から明らかです。こうしたことから、医師の方から、人混み,疲れのあと,寝過ぎ,映画のあと、前屈みの姿勢を長時間とった後、といった具体的な場面から質問しない限り、過去の頭痛を思い出されないことが多いのではないでしょうか?
仮に、このような質問をしても、以前の頭痛は医療機関を受診する程でもない軽かったため、殆ど記憶に残っていないことが多いのではないでしょうか?
こういったことは、「慢性頭痛」という長い経過を辿っていく頭痛の、ごく一断面しか診ていないということを意味しています。このことは、現実に片頭痛を発症されておられる方が、冷静に過去の”頭痛”を振り返ってみれば、私から敢えて申し上げるべきでないと考えています。
このようにして診断されたあなた方の頭痛は、医師の立場から、「国際頭痛分類 第2版」に従って、1桁(タイプ)または2桁(サブタイプ)3桁(サブフォーム)レベルまでの診断を行います。分かりやすく説明致しますと、慢性頭痛のなかには片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛がありますが、いずれも余程”典型的な”症状を示していない限りは、この3者を明確には区別できません。このため”当面”階層的な分類 ( hierarchical classification ) が採用されています。このような診断をもとに、継続して患者さんを、生涯を通じて診察・診療を継続していけば何ら問題もなく、慢性頭痛の”生涯経過”が明らかとなり、片頭痛の発症の仕方も、当然明らかになるはずです。
ところが、片頭痛で悩まれる方々は、若い世代に多いといった傾向があるため、会社での転勤などがあり、継続して同一の施設で診てもらえない状況にあります。こうしたことから、都市部の方々は、転勤に転勤を重ねられ、各地を転々とされます。
このような理由から、継続して、生涯を通じての経過観察は余程のことがない限り困難ということになります。また、片頭痛は、これまで”根治できない”という”思想”が存在することもあり、片頭痛がよくならないことから、逆に、患者さん自身が、”カリスマ医師”を求めて、日本全国の「頭痛外来」をドクターショッピングされるため、これに拍車をかけています。 このような「頭痛外来」に受診される方々は、片頭痛や群発頭痛、拗れにこじれた緊張型頭痛の方々です。こうしたことから、頭痛専門医の描く”片頭痛、緊張型頭痛の像”は独特の概念となっていくことになります。すなわち、片頭痛と緊張型頭痛はまったく別物であるという考え方です。そして、片頭痛こそ、研究すべき”頭痛”であり、緊張型頭痛は、取るに足らない”頭痛”ということになります。
一方、一般開業医は、その大半は「国際頭痛分類 第2版」の存在すら知ることなく、「頭痛患者さん」を診療する現実が存在します。こうした医療機関に受診される「頭痛患者」さんのほとんどは緊張型頭痛です。こうした方々から片頭痛が発症して来ているような印象を持たれる先生も多いように思っております。
私の診療する和歌山県の紀南地区は、梅の生産県です。こうした方々は、殆どの方々は、梅の生産・加工に携わる仕事をされます。ということは、1日のうち大半は”前屈みの姿勢”を強制される職場環境にあります。こうした地域での頭痛患者さんです。
こうした方々は、農家の方々が大半であり、先祖代々、農業を営んでおられ、こういった頭痛患者さんを家族ぐるみで、そして、これらの方々を個人個人、ずっと経過を追って診せて頂いております。田辺で診療させて頂いて、25年間という年月が経過しました。このような年月をかけて、「慢性頭痛」を個々の患者さんでの経過を診せて頂いて参りました。
こういった方々の場合、子供の頃からの”頭痛”を大人になるまでずっと経過を診せて頂いたり、頭痛発症した段階から、このような方々が、その後、頭痛自体がどのように変遷を遂げていくのかを逐一診せて頂いて参りました。
こうした頭痛患者さんの観察から、まず緊張型頭痛から始まり、さらに片頭痛へと進展していく様相をつぶさに観察させて頂いてきました。
このように、「頭痛外来」と「一般診療所」では、慢性頭痛の患者さんの来診される”様相”が全く、異なるということを意味しております。この点は理解して頂けると思います。
頭痛専門医は、片頭痛と緊張型頭痛と群発頭痛は全く別物であるとされ、発症のしかたはまったく異なっているとされます。これに対して、私は、これら3者は、すべて一連のものと考えています。ここに大きな考え方の相違があります。
この相違の原点は、冒頭で述べたような、「問診方法」に起因しているものと思われます。
こうしたことから、頭痛患者さんに、全国共通の「背番号」をつけて、これを一括して、日本頭痛学会の事務局が管理するという方法です。頭痛の診断基準は、「国際頭痛分類 第2版」に従って、1桁(タイプ)または2桁(サブタイプ)3桁(サブフォーム)レベルまでの診断を行います。
これらは、病歴すべてを、コンピューターで管理し、この情報を全国のどこからでも入手できるようにすることです。このようにすれば、どなたが、どこで診察されようとも一貫性が貫かれるはずです。こうすることによって、慢性頭痛の”生涯経過”が把握できることになります。これは、あくまでも”理想論”に過ぎませんが、このようにしない限りは、慢性頭痛の”実態”はわからないということです。しかし、現状は、これまで述べてきた通りの、”盲点”だらけということです。
ただ、一般開業医すべてに対して、「国際頭痛分類 第2版」を熟知させることが可能かどうか、「個人情報保護法」にまさに抵触することにならないか、という問題が残されています・・。
こうしたことを考える限り、「慢性頭痛」がどのようにして発症し、このなかで片頭痛がどのようにして発症するかが、明確になるはずですが、ここに至るには、いろいろな”盲点”が存在することが、皆さんにもご理解頂けたかと思います。
こうしたことから、慢性頭痛の発症の仕方、さらに片頭痛の発症様式が解明されない原因になっています。今後、どのように”盲点”を埋めていくかが鍵を握っています。どうして、このようなことを解決していかないのか、私には、不思議で仕方ないところです。