慢性頭痛患者の生活指導の基本とそのあり方 2014/08/05 | 頭痛 あれこれ

頭痛 あれこれ

 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 現在の頭痛治療薬のなかでも片頭痛治療薬の発達には目覚ましいものがあります。とくにトリプタン系の薬剤の開発には眼を見張るものがあるといえます.しかし,これらの薬剤は頓用薬として使われることが主体であり,実際に片頭痛発作の回数を減少させる効果については疑問を抱かざるを得ないのが現状です.
片頭痛の予防的治療においては,わが国ではカルシウム拮抗薬の塩酸ロメリジンを始めとして各種の薬剤が片頭痛の保険適用薬として認められていますが,その効果は発作の程度・回数を減少させるだけであり、効果発現にも時間を要し.片頭痛発作そのものをなくしてしまう程の効果はありません。


片頭痛患者の全般的な生活指導


こうしたことから、これまで「セルフケア」として生活指導が行われておりました。

こうした片頭痛患者の生活指導のポイントは,


①過労を避けること,
②ストレスを発散させること,
③生活を規則正しくすること(食事をきちんと摂ること,睡眠を十分に取ること,ただし,休日に眠りすぎないようにすること),
④頭痛を誘発する食物を避けること(アルコール類,チョコレート,だしの素,コーヒー・紅茶などカフェインを多く含むものを摂取しすぎないようにすること),
⑤姿勢を正しくすること(うつむき姿勢は頭痛誘発のもととなる),
⑥筋肉をリラックスさせること(特に仕事中や家事の際に奥歯を噛み締めていたりしないように注意する),
⑦鎮痛薬は可能な限り控えることなどでした.


 スポーツは片頭痛をはじめとする頭痛の改善に有効です.ただし,スコアや点数を競うようなものはそれがストレ スとなり,頭痛発作を誘発することがあるので避けるべきです.運動では,運動量を自分で調節できる歩行(いわゆるウォーキング)が有効であり,運動不足の解消にもよいとされて参りました。


頭痛を誘発する食物にはどのようなものがあるか


 片頭痛がさまざまな食物を摂取することで誘発される可能性があることはよく知られています.特に,チョコレート,チーズ,赤ワインは有名です.これら以外の食物ではアルコール(飲酒)により誘発される方もおられます.また,グルタミン酸(Na塩)を多く含む食物の摂取により誘発される方々もおられます.
 これらのうち赤ワインはアルコールに加えて,ヒスタミンを含むため,摂取により60分以内に頭痛が誘発されることが多いようです.チョコレート,チーズでは,チラミンという血管収縮物質の作用により血管収縮が起こりますが,チラミンの血中濃度が低下すると血管が拡張し,頭痛が誘発されると考えられています.特にチョコレートはチラミンと同様の作用を有するカフェインも含んでおり,チーズよりも強力であると考えられます.実際,日本人ではチーズよりもチョコレートで誘発される方が多いようです.だしの素で明らかに頭痛が誘発された方はいませんが,だしの素に多く含まれているグルタミン酸を多く含む食物を摂取することで頭痛が誘発されることはよく知られています(中華料理店症候群).これは,グルタミン酸の血管収縮作用によると考えられていますので,摂取直後よりは摂取終了後1~2時間でグルタミン酸の血中濃度が減少し始めるころに頭痛が起こることが多いようです.
 そのほか,柑橘類,コーヒー,紅茶なども頭痛を誘発する可能性がある食物として知られています.これらの中で柑橘類は主にオレンジのことをさしており,日本の温州みかんはオレンジと成分が若干異なるため,温州みかんが片頭痛発作を誘発する可能性は低いようです.コーヒー,紅茶はカフェインが含まれており,チョコレートと同様の作用を示す可能性が高いと考えられます.
 片頭痛患者の多くはチョコレートを好みますが,発作を誘発しないためには1日50g以下(板チョコ半分以下)とすべきとされます.


頭痛発作に抑制的に働く食物もある


 「これまでの報告では,片頭痛患者においてミトコンドリア機能の低下,脳内マグネシウムの低下とマグネシウムの発作抑制作用,脳内セロトニン減少の可能性,血小板内ラジカルスカベンジャー(SOD-1)の低下などのエビデンスがある」ことから鳥取大学時代の下村登規夫先生は、DASCHdietと呼ばれる,食事を中心として生活習慣を見直すことで片頭痛治療を提唱されておられました.
 ミトコンドリア機能を高める目的でビタミンB2を摂取し,マグネシウムを摂取します.さらにラジカルスカベンジャーとしてパロチン,ビタミンEおよびCなどを摂取します.脳内セロトニンを増加させるため,セロトニンの前駆体となるアミノ酸のトリプトファンを摂取します.具体的な食物としては,ビタミンB2,E,Cなどおよびβカロチンを多く含む緑黄色野菜,果物,海苔,うなぎなど,マグネシウムを多く含む大豆製品,ほうれんそう,柿,魚介類,トリプトファンを多く含む大豆製品,卵(卵黄),脱脂粉乳,牛乳などの乳製品やバナナなどをできるだげ多く摂取します.緑黄色野菜などの量は体重が約6Okgの成人で300g/日以上を目標とします.
 実際にどの程度摂取する必要があるのかということは個人により異なりますので,患者さんに1週間分の食事内容を記録してもらい,その内容から不足している栄養素を判断して食事指導を行うのがよいとされます.DASCH dietは非常に単純ですが,ほとんどの頭痛患者はDASCH diet とは大きく異なる生活をしていることが多いようです.ですから,DASCH dietを行うだけでも生活習慣をかなり変えることになります.ただし,ストレスを感じるほどに厳格なdietを行うと逆効果になることがありますので緩やかなdietを行うようにします.錠剤のビタミン剤(合成品)はあまり効果が期待できないことがあり,あくまでも食品から摂取する栄養素が中心となります.


片頭痛は多因子遺伝である


 疫学的調査の結果,片頭痛は家族歴があることが多く,何らかの素因(遺伝的因子)が関与していることは否定できません。さらに一卵性双生児での遺伝の仕方から考えて、遺伝学的には、メンデル型遺伝でなく”多因子遺伝”と考えるのが妥当のようです。そして、実際に鳥取大学の古和久典先生や柴田護(慶應義塾大学 神経内科)先生は、この点を指摘されます。ということは、”多因子遺伝”であることはほぼ間違いないことのようです。すなわち、取りも直さず”遺伝的素因”が存在しても、これに”環境因子”が加わらないことには、片頭痛は発症しないということを意味しています。
 このような遺伝形式を示すものは、糖尿病のような生活習慣病があります。糖尿病の場合その環境因子として、食べ過ぎや運動不足による肥満、アルコール、精神的ストレス、年をとること、その他が挙げられ、この環境因子を取り除くことに治療の主眼が置かれます。
 分子化学療法研究所の後藤日出夫先生は、片頭痛の大半は、遺伝素因である「ミトコンドリア活性の低さ」に、”環境因子”として、食生活が原因で「さらにミトコンドリア活性の低下」を来して「酸化ストレス・炎症体質」を形成することにより引き起こされる疾患であり、生活習慣病の一種とされました。


生活指導のあり方


 この「ミトコンドリアの働きの悪さ」が存在するために、当然「セロトニン神経」の働きも悪くなり、結果的に「脳内セロトニンの低下」を来すことになります。この「ミトコンドリアの働きの悪さ」と「脳内セロトニンの低下」があれば、当然、「体の歪み(ストレートネック)」を併発して来ます。そして、日常の食生活の問題から、「ミトコンドリアの働き」と「脳内セロトニンの低下」が増悪されることになります。
 こうしたミトコンドリアの働きが悪化するにつれて、「活性酸素」を過剰に発生させてくる「片頭痛体質」を形成することになります。この過剰に発生した活性酸素が引き金となって片頭痛発作を誘発してくることになります。
 このように、片頭痛の根本原因は、「ミトコンドリアの働きの悪さ」にあります。
 まず、”環境因子”として、日常生活を送る際の”何気ない姿勢(とくに前屈みの姿勢)や動作”などが原因となって、頭痛そのものを発症させて来ます。
生まれつき存在する「ミトコンドリア活性の低さ」にマグネシウム不足がありますと、「脳過敏」が引き起こされてきます。
 さらに別の、”環境因子”として、“小麦、乳・乳製品、肉食に偏った食事”をとり続け、“運動不足”が重なれば「脳内セロトニンが低下」することや、「脳内セロトニンの低下」を来す不規則な生活習慣・ストレス・生理周期などの要因がさらに加わって来ることによって「脳過敏」が助長されてきます。
 そして先ほどの日常生活を送る際の”何気ない姿勢(とくに前屈みの姿勢)や動作”により、ストレートネックが形成・持続すれば、頸部の筋肉が絶えず刺激を受けることになり、この刺激は三叉神経核に絶えず送られることによって、さらに「脳過敏」を増強させます。
このようにして、最初の軽い頭痛(緊張型頭痛)に次々に「脳過敏」を引き起こす要因が追加されてくることによって、片頭痛へと進展していくことになります。

 このように、大部分の片頭痛では糖尿病を始めとする生活習慣病と同様に、「多因子遺伝」で、”遺伝素因”があった上に、先程述べたように次々に”環境要因”が加わって発症してきます。ということは、遺伝素因があったからといって、必ずしも片頭痛は発症しません。
 これに、生まれてからの”環境要因”が加わって、初めて発症するということです。

このような観点から「生活指導」を組み立て、理論的に構築されるべきと思っております。この具体的なことはhttp://taku1902.jp/sub%202.html に記載しておりますので、こちらをご覧下さい。
 片頭痛が生活習慣病であるとすれば、「きちんとした”生活習慣”」を励行する限りは、片頭痛はコントロールされるものと思っております。そして、治療上、最も大切なことは、片頭痛が糖尿病と同じように生活習慣病であるとすれば、当然、慢性頭痛がどのような起こり方をし、このなかで片頭痛がどのようにして発症してくるのかをきちんと理解した上で、「何をどのようにすべきか、自分で考え、これを自分で実行するということに尽きるものと考えます。自分で実行されなければ何もならない、何も解決されることはないということです。糖尿病の場合でも、食事・運動療法の原則を厳守しなければ、糖尿病の治療は成功することはなく、これと全く同じということです。
 他人任せでは、絶対に改善は望めません。また特効薬もありません。
 慢性頭痛(片頭痛・緊張型頭痛)の診療こそは、日頃の生活習慣から引き起こされるとの観点から、まずプライマリーケアを担当する一般開業医の役目と思われます。


 以上述べましたように、片頭痛が生活習慣病であるとすれば、当然、糖尿病と同様に運動・食事を中心とした生活指導抜きに「薬物療法」だけで糖尿病はコントロールされるはずはないことは一般内科医の常識とするところです。
 そうであれば、片頭痛も「生活指導」ぬきで、片頭痛がコントロールできるはずはありません。大半の頭痛専門医の先生方は、「薬物療法」を中心に考えておられ、「生活指導」を重視されることはありません。これを如実に示すものは、昨年日本神経学会と日本頭痛学会が共同して改訂された「慢性頭痛診療ガイドライン 2013」には、この「生活指導」の項目が一切ないことでもお分かり頂けるものと思います。
 こういったことから、片頭痛発作を幾度も幾度も繰り返され、中には慢性化させておられる方々が後を絶たないのが現状です。
 このようなことに、何時になれば気がつかれるのでしょうか。