頚部ジストニアと体の歪み(ストレートネック)をどのように考えるべきか | 頭痛 あれこれ

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 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

 先日、日本頭痛学会で主導的な立場にあり、これまで日本で片頭痛・群発頭痛の患者さんを最も多く診療される謂わば”学会で、重鎮とされる先生に以下のように”個人的に、メールで”指摘されました。ということは当ブログでは公開されては困るということのようです。このため、匿名でということに、させて頂きます。


 「直頸椎を主岫に考えると必ず突き当たります。直頸椎は結果であって原因ではないからです。どの片頭痛、緊張梨頭痛、群発頭痛そして鞭打ち症など、いずれにおいても筋性のこりや疼痛が介在する場合の方が直頸椎は多いと思います。これは頚部ジストニアによります。筋緊張の異常が持続することによって結果的に直頸椎が多くなると考えてください。」


 私は、このような指摘に対して、以下のように返答申し上げました。

 これまで、片頭痛は、”ミトコンドリアのエネルギー代謝異常あるいはマグネシウム低下によって引き起こされる脳の代謝機能異常疾患”であるといわれてきました。
 (Welch KMA, Ramadan NM Review article; Mitochondria, magnesium and migraine. J Neurol
Sciences 134 ,9-14 ,1995)
 
 そして、鳥取大学医学部神経内科のグループ、とくに下村登規夫先生は、ミトコンドリアと脳内セロトニンの関与を指摘されて来られ、MBT療法を提唱されて来られました。こうしたことから、あくまでも推論ですが・・


”片頭痛は「ミトコンドリアの働きの悪さ」によって起きてくる頭痛である”と仮定すれば、次のような推論が成り立つと思いますが・・・


 まず、生まれつき「ミトコンドリアの働きが悪ければ、当然「セロトニン神経」の働きも悪くなり、結果的に「脳内セロトニンの低下」を来すことになります。この「ミトコンドリアの働きの悪さ」と「脳内セロトニンの低下」があれば、当然、「体の歪み(ストレートネック)」を併発して来ます。そして、日常の食生活の問題から、「ミトコンドリアの働き」と「脳内セロトニンの低下」が増悪されることになります。さらに詳しく述べれば・・・

ミトコンドリア働きが悪くなると 体の中で、最も赤筋が多く分布している筋肉にはミトコンドリアが多く存在します。
場所は、「背中」です。ミトコンドリアの働きが悪ければ、背骨を支える「脊柱起立筋」という筋肉は、体の中で最も長い骨を支えるため、姿勢にも問題が生じてきます。

さらに、セロトニン神経の働きを悪化させます

 ミトコンドリア働きが悪いと、脳の神経細胞の場合、「セロトニン神経」が選択的に「ミトコンドリアの働き」の影響を受けやすく、セロトニンを産生しにくく、セロトニンの合成やその合成のための酵素も充分な量を生成できなくなってしまいます。その結果、「脳内セロトニン不足」が引き起こされてきます。

 「脳内セロトニン不足」は、とくに筋肉へ働きかけることで、問題を生じてきます

  セロトニン神経は、筋肉へ働きかける役割を担っています。
  セロトニン神経は直接体を動かすのではなく、筋肉を緊張させることで、影響を与えています。セロトニン神経が働きかけるのは、抗重力筋です。抗重力筋とは、重力に対して姿勢を保つために働く筋肉のことです。まぶたが開き、首が立ち、背筋が伸び、歩いたりできるのは、この抗重力筋のおかげです。セロトニン神経が活性化していると、まっすぐな姿勢や生き生きした表情になることができます。反対にセロトニン神経の働きが弱まると、背中が丸まったり顔の表情がどんよりしてしまいます。
このため、セロトニンが不足してきますと、「体の歪み」を引き起こしてきます。


体の歪み(ストレートネック)の形成過程


 「ミトコンドリアの働きの悪さ」に「脳内セロトニン低下」が加わることによって、姿勢保持が困難となり、容易に体の歪み(ストレートネック)を形成してくることになります。このように、ミトコンドリアの働きの悪さと脳内セロトニン低下が存在すれば、
 1.前かがみの姿勢やうつむきの姿勢などを長時間続けるような生活習慣
2.「ムチウチなどの外傷」を負ったりして、首の筋肉組織を痛めたりする
 ことによって、容易に、体の歪み(ストレートネック)が作られてくることになります。
 こういったことから、ストレートネックを容易に形成してくることになります。
 そうなれば絶えず、日常生活を送る際に、頸部の筋肉には刺激が加わってくることになります。


 「ストレートネック」→首や肩の筋肉からの侵害刺激情報
↓ ↓
↓       脊髄を介して三叉神経脊髄路核
↓ ↓
↓ 中枢性痛覚過敏(central sensitization, CS)
↓ ↓
↓ 脳の過敏性、頭痛の慢性化

自律神経失調症状 → 交感神経機能低下→頚性神経筋症候群
(慢性頭痛)


これとは別に、ジストニアについてですが、職業性ジストニアがあります。


これを理解して頂くために「職業性のジストニアについて」説明致します。、

 字を書くときに自分の意志とは関係なく指に力が入り過ぎたり、手首が反り返ったり、また手がふるえてしまって、書字が出来なくなってしまう病気があります。これは「書痙」です。
 この「書痙」は、大量の字を書く事務系の職業の人に多くみられ、字を書く以外の動作には何ら支障がありません。ですから、原因は精神的ストレスと考えられてきました。
 しかし、最近では、「書痙」は脳の機能障害によって生じる異常な姿勢と筋肉の過剰な緊張によるものであることが明らかにされました。こういう状態を医学用語でジストニアと言います。
 同じ動作や姿勢を過剰に反復してしまうことによって、異常な運動パターンを獲得してしまうためだろうと考えられています。言い換えれば、本来ありえない動作を誤って身体が覚えてしまう、つまり学習してしまうわけです。
 このジストニアという症状は、字を書く人だけに出現するわけではなく、熟練を要する複雑な運動を繰り返し過ぎると出現してきます。
 例えば、ワープロをタイプする人では、キーボードをタッチする時に指が曲がってたり手がねじれます(タイピストクランプ)。類似の症状は、ピアニスト、バイオリニスト、管楽器奏者などプロの音楽家にみられることも多く、楽器を演奏するときだけに指が曲がって伸びなくなったり突っ張ってしまったりします(音楽家クランプ、器楽演奏家クランプ)。特に、小指やくすり指など筋力が弱い指や、複雑な運動を要求される指に症状がでます。だいたい器楽演奏家の100人に一人ぐらいの割合で起こっているのでは?と考えられています。
 書痙やタイピストクランプ、演奏者クランプなど、動作を反復すればするほどジストニア症状は悪化してしまいますから、仕事をすればするほど、また練習をすればするほど、逆に症状が悪化するという悪循環に陥ります。
 ジストニアは仕事のプロにとっては人生設計さえ狂わせてしまうことになります。
 このジストニアは医学的にも難しい症状で、頸椎の病気や心因性の病気、腱鞘炎、ストレス性障害などと診断されている場合も多くあります。
 職業性ジストニアの原因としては『過剰な特定部位の使用』と考えられます。
 職業性ジストニアが芸術家に多いのは練習、作品作りのために腕や足など特定の部位を長時間動かすためと言われています。

 話をもとに戻します。ストレートネックがあれば、常時”頸部筋肉が刺激を受けている訳です、こうしたことから「職業性のジストニア」と同じように、過剰に負担がかかる頸部にジストニアが出現しても不思議はないと思われます。

 さらに、「体内のマグネシウムが不足するとジストニアになることがある」とも言われています。
一般的に、マグネシウム不足になると瞼がピクピクする、足がつるといった症状が出ます。とくに、汗をかいたり、筋肉運動を連続して行っていて急に足がつることがあります。また、布団に入って、爪先が伸びただけで足がつることもあります。典型的なマグネシウム不足の症状です。こんなときは200 ミリグラム程度のマグネシウムをとると、翌日にはほとんど改善されます。

 そして、一般的に片頭痛患者ではマグネシウム不足が指摘されています。

 こうしたマグネシウム不足によって、常時”刺激を受けている頸部筋肉にジストニーが出現しても何ら不思議ではないと思われます。

 ということは、基本的に「ミトコンドリアの働きの悪さ」が生まれつき存在し、このためにセロトニン神経の働きの悪さに繋がり、この両者が存在するために容易にストレートネックを形成することになります。このような状態にマグネシウム不足が加わることによって頭頸部ジストニアが引き起こされてくると考えるべきす。


 

こうしたことも含めて、頭痛専門医の方々は「国際頭痛分類 第2版」を金科玉条のごとく遵守されるます。
 今回の先生も、「国際頭痛分類 第2版」に改訂される以前は、少なくとも緊張型頭痛と「直頸椎」の関与を指摘され、私はこの先生の考えに従って、慢性頭痛の方々に頸椎レントゲン検査を必ず行っておりました。ところが「国際頭痛分類 第2版」に改訂されてからは、”緊張型頭痛が頭頸部デイストニアに関与する”ということに改められました。

 このように、「国際頭痛分類 第2版」に改訂されてからは、自分の主張を”手のひらを返す”がごとく方向転換するのは、何とも理解しがたい思いがします。
 自分のこれまでの主張はどこへ行ってしまったのでしょうか?まさに節操なき論理でしかないように思われます。前回の記事でも明らかにしたばかりですが、この「国際頭痛分類 第2版」は、頭痛専門医にとっては、あたかも”水戸黄門の印籠”のようなもので、「この紋所が目に入らないか」と提示され、ガイドラインにそぐわない、国際基準に一致しない考え方は、全て排除され、これらに従わなければ、学会から”村八分”にされることを恐れておられるのでしょか?

 最初に申し上げましたように、これは「あくまでも、片頭痛がミトコンドリアの機能障害による頭痛である」といった前提に基づいたものです。この論理からすれば、片頭痛に「体の歪み(ストレートネック)」が存在しても何ら不思議でもなく当然のことです。
 こうした”前提”を納得されない頭痛専門医の方々に対して、頭痛と「体の歪み(ストレートネック)」が果たしてエビデンスなしとされる根拠がどこにあるのかを問い糾しました。こうした反論は、臨床データの上で提示すべきであり、こうしたデータを論じる場面での「体の歪み(ストレートネック)」の診断基準すら学会自体が持っていないことを指摘しました。
 こうした、頭痛と「体の歪み(ストレートネック)」の関連性は、日本頭痛学会の理事長の提唱される「頭痛体操」そして北見公一先生の論文において示され、さらに「国際頭痛センター」では鍼灸師の施術の意味合いが検証されつつあります。

 こうした事実をどのように評価されるのでしょうか?


 それでは、「国際頭痛分類 第2版」は、頸椎と頭痛に関しては、どのように説明されているのでしょうか? 念のため提示しておきます。


11.2 頸部疾患による頭痛(Headache attributed to disorder of neck)


 11.2.1 頸原性頭痛(Cervicogenic headache)
 11.2.2 咽頭後方腱炎による頭痛(Headache attributed to retropharyngeal tendonitis)
 11.2.3 頭頸部ジストニーによる頭痛(Headache attributed to craniocervical dystonia)


11.2 頸部疾患による頭痛


コメント:


頸部疾患による頭痛であっても、11.2.1「頸原性頭痛」、11.2.2「咽頭後方腱炎による頭痛」、または11.2.3「頸頭部ジストニーによる頭痛」の基準のいずれをも満たさないものについては、十分には確証されていない。


11.2.1 頸原性頭痛


  以前に使用された用語:頸性頭痛(cervical headache)

  他疾患にコード化する:

 頭痛が頸部筋膜圧痛点(cervical myofascial tenderspot)に起因する場合、2.1.1「頭蓋周囲の圧痛を伴う稀発反復性緊張型頭痛」、2.2.1「頭蓋周囲の圧痛を伴う頻発反復性緊張型頭痛」、または2.3.1「頭蓋周囲の圧痛を伴う慢性緊張型頭痛」にコード化する。


診断基準:


A. 頸部から生じる痛みが頭部または顔面部あるいはその両方の1 箇所以上の領域に放散し、かつC およびD を満たす
B. 頭痛の妥当な原因としての妥当性が知られているか、もしくは一般に認められている頸椎もしくは頸
部軟部組織内の疾患あるいは病変の証拠が、臨床上、臨床検査上、または画像検査上のいずれか1 つにみ
られる(注1)
C. 頸部疾患または病変による痛みの証拠があり、少なくとも以下の1 項目を満たす

1.頸部内に痛みの原因となる臨床徴候が認められる(注2)
2.プラセボまたはその他の適宜な操作を用いて、頸部構造またはその神経支配を診断的に遮断する
と頭痛が消失する(注3)
D. 原因疾患または病変の治療成功後、3 ヵ月以内に痛みが消失する


注:


1.頸椎の腫瘍、骨折、感染症、および関節リウマチは、正式には頭痛の原因として認められてはいないが、個々の症例ごとに原因と判断される場合は、妥当な原因として受け入れられている。頸椎症および骨軟骨炎は、診断基準B を満たす原因として、受け入れられていない。頸部筋膜圧痛点が原因である場合、その頭痛は、2.「緊張型頭痛」のもとににコード化する。
2.診断基準C1 に該当する臨床徴候は、信頼性および妥当性を必ず証明されたものでなければならない。今後、そのような信頼性と妥当性を備えた実践的な検査を確立する必要がある。頸部痛、限局性頸部圧痛、頸部外傷歴、痛みの機械的増悪、片側性、併存する肩部痛、頸可動域制限、項部発症、悪心、嘔吐、光過敏などの臨床的特徴は、頸椎性頭痛に特有のものではない。これらは、頸椎性頭痛の特徴である場合もあるが、疾患と頭痛の原因との関連を決定づけるものではない。
3.頭痛消失とは、頭痛の完全寛解を意味し、視覚アナログ尺度(visual analogue scale:VAS)のスコア0 に相当する。しかしながら、90% 以上の痛み寛解、または100点VAS 法で5 未満のレベルは、診断基準C2 を満たすとして容認できる。


11.2.2 咽頭後方腱炎による頭痛


診断基準:


A. 片側性または両側性の非拍動性後頸部痛で、後頭部または頭部全体に放散し、かつC およびD を満たす
B. 成人において、C1~C4 レベルで7 mm を超える椎体前軟部組織腫脹(X 線検査の特殊技術を要する場合あり)
C. 頭部後屈により痛みが著しく悪化する
D. 推奨用量の非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)により、2 週間以内に痛みが緩和する


コメント:


通常、体温上昇および赤血球沈降速度(赤沈)亢進がみられる。頸部後屈により、ほぼ毎回頭痛が悪化するが、通常、頸部回転および嚥下でも頭痛は悪化する。通常、触診により、上位3 椎骨の横突起が圧痛を示す。中には、腫脹した椎前組織から無晶性石灰化物が吸引される症例がある。椎体前組織の薄い石灰化が最も良好に描出されるのはCT スキャンである。上部頸動脈解離を除外しなければならない。


11.2.3 頭頸部ジストニーによる頭痛


診断基準:


A. 後頭部または頭部全体に放散する頸部の痙攣感、緊張、または痛みで、かつC およびD を満たす
B. 筋肉活動の亢進による頸部または頭部の運動異常または姿勢異常
C. 筋肉活動の亢進による痛みであることを示す証拠が存在し、少なくとも以下の1 項目を満たす
1.活動亢進状態の筋肉内に痛みの原因があることを示す臨床徴候が認められる(例えば、筋収縮、
運動、同一姿勢の持続、あるいは外的圧力により痛みが誘発または増強される)
2.痛みと筋肉活動の亢進が同時に発生する
D. 原因疾患の治療成功後、3 ヵ月以内に痛みが消失する


コメント:


痛みを伴う頭頸部限局性ジストニーは、咽頭ジストニー、痙性斜頸、下顎ジストニー、舌ジストニー、頭部と頸部ジストニーの合併(分節性頭頸部ジストニー)。痛みは局所収縮および二次性変化により惹起される。

 

このように「頸原性頭痛」は他のものに分類され、存在しないことになっています。
 この点が、頭痛研究者が、「頭痛とストレートネック」はエビデンスなしとされておられる根拠のようです。
 しかし、現実には「受傷後数週~数ヵ月も経過してから頭痛が出現する場合」も多い事実をどのように考えたらよいのでしょうか?
 患者さん自身は、ムチウチの影響と考えられておられる方々がいらっしゃることは、前回の記事で明らかです。ところが、「頭痛専門医」の診断の根拠は、この「国際頭痛分類第2版」に従って診断している訳で、当然「事故」とは無関係と考えます。
 このギャップをどのようにして埋めるのでしょうか?
 
 この度のように、受傷後数週~数ヵ月も経過してからの頭痛を、どのように考えるかです。これまで、「片頭痛の慢性化のリスク要因には医療介入できない因子として、頸部または頭部外傷の既往が挙げられています。このように受傷後数週~数ヵ月も経過してから、発症した片頭痛は、「ストレートネック」を念頭においていなかったためと推測されます。さらに、一筋縄でいかない「緊張型頭痛」をどのように考えるかにも関係します。

 このあたりを、頭痛専門医の方々は、どのように説明されるのでしょうか?

 少なくとも、一般の方々の”頭痛でお悩みの方々”に対して納得のいく説明を用意すべきです。このような説明もなく、唯々諾々と単純に、納得するはずはないと考えるべきです。