前回も申し上げましたように、現在片頭痛医療の世界ではただ一言「生活習慣を見直しましょう」と助言されることが殆どですが、現在のようにトリプタン製剤のなかった、エルゴタミン製剤が主流の時代には、前兆のある片頭痛の方々には確かに効いていましたが、前兆のない方々では、その服用のタイミングが難しく、大半の場合苦労を強いられました。 このため、片頭痛治療の主体は「生活指導」でした。このため「薬物療法」は二の次で、現在の片頭痛治療の方式とは逆の関係にありました。(現在は、トリプタン製剤を中心とした「薬物療法」が第一義的であり、「生活指導として、生活習慣を見直しましょう」と言われるにすぎないのが実情ではないでしょうか?)
このような時代に片頭痛医療に携わってこられた神経内科関係の重鎮とされる先生方は、あくまでも経験的に、以下のように指導されて来られました。
1.片頭痛を引き起こす誘因を生活から取り除くようにしましょう
片頭痛の治療の第一歩は片頭痛を引き起こす誘因をできるだけ生活から取り除くことです。片頭痛の誘因は人それぞれによって異なりますから、まず自分の頭痛発作がどのような原因で誘発されやすいかを把握することが大切です。誘因をつきとめてそれを改善・排除することで発作の頻度や程度をかなり軽減することができます。片頭痛の誘因には、過度のストレス、不規則な生活習慣、気候の変化や刺激の強い環境、アルコールや特定の食べ物、などがあります。
2.不規則な生活習慣
生活習慣で最も片頭痛に影響を及ぼしやすいのが睡眠で、睡眠が不足したり、逆に眠りすぎても片頭痛が引き起こされます。特に、平日の働きすぎの反動で休日に眠りすぎると片頭痛が起きやすいことが知られていますから、なるべく適度な睡眠を心掛けるようにしなければなりません。また、少食や不規則な食事による過度の空腹が片頭痛を引き起こすことがあるほか、運動不足または運動のしすぎも誘因となることがあります。ときに入浴によって血管の拡張を招くために片頭痛が引き起こされることもあるので注意が必要です。
3.気候の変化や刺激の強い環境
暑さや寒さ、あるいは気圧の変化が片頭痛の誘因となることがわかっています。気候の移り変わりの時期には体調に配慮するようにして、片頭痛の兆しに注意する必要があります。また、強い光や騒音、強い臭いなどの物理的刺激に加え、人込みや換気の悪い部屋などが片頭痛を引き起こすことがありますから、なるべくそのような刺激や環境を避けるようにします。
4.アルコール飲料や特定の食べ物
特定の食べ物が片頭痛を引き起こすことが知られていますが、個人差があるため自分の片頭痛がどのような食べ物によって起こりやすいかを把握しておくことが大切です。特に、アルコール飲料は血管拡張作用に加えて、アルコール飲料に含まれるヒスタミンが片頭痛を引き起こしやすいため、注意する必要があります。また、片頭痛を誘発しやすい物質にグルタミン酸ナトリウムがありますが、これは人工調味料としてインスタント食品やスナック菓子に添加されていますからなるべく避けた方がよいでしょう。その他に、チーズやチョコレートなどの食べ物が誘因となることが知られています。
5.過度のストレス
片頭痛を引き起こす誘因として最も大きなものが心身のストレスです。片頭痛は過度のストレスがかかって誘発される以外に、ストレスから解放されて心身の緊張状態が和らいだときにも引き起こされることもわかっています。仕事はあまり無理をして頑張りすぎないように注意して、適度な気分転換やリラクゼーションを日常生活に取り入れることが大切です。
結局のところ、以下のように要約されます。
「生活習慣を見直す」とは
頭痛は不規則な生活リズムや食生活、ストレスが原因となって発生している可能性があります。このため、以下のようなことに注意していきましょうとされてきました。
•毎日充分な睡眠を取る
•食事は1日3食きちんと取る
•喫煙は控える
•暴飲暴食をしないようにする
生活のリズムを確立して、健康的な生活を送ることが重要であると指導されて参りました。
こうした注意点は、古色蒼然としたものと批判の誹りを免れることはできないかもしれませんが、トリプタン製剤が片頭痛治療の第一義的なものとされている現代においても無視してはならない「注意事項」であるはずです。