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時間。



それが解決することはたくさんある。


あんなに悩んでたのに、それが経つにつれて、何もなかったようになってしまう。



時間。



それは感覚であって生きたということはただの記憶でしかないって本で読んだ。
っていう歌があった。



3月2日(土)
かおりちゃんと会う約束をしていた。

結局、前日にドタキャンされてしまった。


おじいちゃんがガンになり、遊ぶことを自粛するのだという。

おじいちゃん思いの、いい子だなぁと思うのは、あまりに都合のよいことだろうか。


ドタキャンされて、悲しくなるかと思ったけど、なんとも感じなくなっていた。


しばらく連絡をとらなくなり、2ヶ月以上会わなくなって、好きだとかそういう気持ちが薄れてしまったのだろうか。

所詮。そこまでの感情だったということだろうか。



時間。



それがそうさせるのか。



時間。



それは戻らない。



時間。



それはすべての人に同じように流れているものではないと思うよ。
っていう歌があった。



時間。



このままそれがうやむやに消し去っていくのかな。



時間。



それって便利。悲しいくらいに。



そう思った。
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2月17日(日)
夜になって、急に走りたくなった。


お田鶴さんに漫画を貸してあげる約束をしていたのと、ちょっとびっくりさしてやろうと思ったので、お田鶴さんの家まで走ってみることにした。


もちろん、事前に連絡なんかしない。
家にいるかなんて知らない。
でも、行ってみることにした。


リュックに、“ジョジョの奇妙な冒険”1部と2部。あと、“ムジナ”という忍者漫画を詰めて、出発。


お田鶴さんの家は、大井町という町だ。
地図で調べたら、三軒茶屋から8キロくらいあった。



家の近くの商店街を走って抜ける。
いつもはのんびり歩いて通り抜ける商店街。夜なのに人が多い。
歩く人達の間を、ジクザクに走り抜ける。
お店から聞こえる騒がしい話し声とかが、目の前からすぐ後ろへ、どんどんと流れ過ぎていく。

御塩(おしお)さん(仮名)が住んでいる下馬という地区を走り抜け、細い道へ入っていく。


駒沢通りという道路に突き当たった。
信号待ちで立ち止まると、急に足が重くなった。
その場で足踏みをして、信号を待った。

この周辺に住んでいる人しか歩かないであろう道を、ひたすら走っていく。


目黒通りという大通りを横切る。
地図を見ると、かなりの距離を走っていた。
やっと半分といったところか。


武蔵小山、戸越銀座。
走っていくと、電車で来たことのある駅の付近を通りすぎる。


道が、ちゃんと続いてる。
当たり前なんだけど、とても感動した。


少しづつ、少しづつ、大井町へ近づく。
ドキドキ。
心臓が高鳴っている。
走ってるから鼓動が高鳴っているのは当然だが、それとは別の要因で、心臓が脈打つのを感じた。


戸越を過ぎた辺りから、東急大井町線の線路沿いを走った。

線路沿いのボロい住宅の横と、線路のフェンスの間を走る。
知らない人とすれ違う。
『三軒茶屋からここまで、走ってきたよ』
言ったら驚くかな。


線路は高架上へ上がり、僕は高架下を走る。
大井町駅ひとつ手前の、“下神明”という駅を過ぎた。


だんだん。
一歩一歩。
目的地へ近づく。


大井町駅の駅前の通りに着いた。
知っている風景が広がる。


なんだろう、この不思議な気分は。



お田鶴さんは、なんと不在だった。
玄関先に漫画を置いて、帰った。


帰りは、電車で帰った。
(笑)
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2月11日(月)祝日
お田鶴さん(仮名)に誘われて、長野へスキーをしに行った。

朝、6時40分に都庁前に集合して、バスに乗って、三時間くらいかけて、長野の菅平(すがだいら)という所へ行った。


バスの中で、お田鶴さんと三時間。
何を話したっけ。
忘れてしまった。



スキー場は、小さかった。
周りが初心者ばっかりで、自分も始めて間もないんだけど、なんだか優越感に浸って滑った。


お田鶴さんは、四歳からスキーをやってる。
やらなくなって10年くらい経つみたいだけど、お上手だった。



帰りもバス。
サービスエリアに数回寄った。
“信州りんごモンチッチ”というモンチッチのキーホルダーを売っていた。

モンチッチは、かおりちゃんが大好きなキャラクターだ。

お田鶴さんがどっかに行ってる間に、コソッとお土産に買って、ポケットに突っ込んだ。



バスの中で、珍しく真面目な話を聞いた。

お田鶴さんが考える将来のこと。
海外で働きたいって、言ってた。


皆、みーんな。
夢を持って生きてる。
目標がある。
遠い。
僕はなんなんだ。
ちっぽけだ。


悩みも聞いた。
詳しく書くことができないんだけど、仕事で二者択一を迫られていること。

悩みを相談されるのは苦手だ。

“ようすこくんなら、どうする?”
そんなこと、聞かないでくれ。

一生懸命考えた。
自分がどうするか以前に、お田鶴さんにとっての最良は何なのか。

無責任だったかな。
お田鶴さんが、“こうしたい”って思っている方に、背中を押すような意見を言った。

でも、僕だったら選べない選択肢だ。
選びたいけど選べない。

そんな回答は、無責任だったかな。
結果的に、お田鶴さんを駄目にする選択肢かもしれない。

お田鶴さんは、自分が思うように、生きてもらいたい。


やっぱり、悩み相談は苦手だ。


専業主婦にもなりたいって、言ってた。




「あたしね、実は病気なんだ」

お田鶴さんは言った。

「ナルコレプシーって、知ってる?」


歩いていたり、会話していたり。
何かをしている最中で、突然、何の前触れもなく眠りに落ちてしまう病気。


ナルコレプシー。


それが、お田鶴さんの病気なんだと言う。

最近は症状も落ち着いていたが、部署異動で環境が変わり、また発症しているという。


悲しくなった。

ただの居眠りだと、誤解されてしまう病気だ。

新入社員研修の時、大事な話なのに居眠りしていた場面があったような気がした。


夢とか、新しい何かに向かって行く。
そんな中で、その病気はお田鶴さんを迷わせていた。


「あんまり人には言いたくないんだ」
お田鶴さんは言ってた。

「いや、周りに言うべきだ。そうしないと、誤解され続ける」
思わず、おっきな声を出してしまった。


お田鶴さんの迷いを、取り除いてあげたい。
病気を、僕がなんとかしてあげたい。

でも、一体僕に何ができるのだ。


『大丈夫。』
『なんとかなるよ。』
『がんばれ。』

そんな言葉、言えない。
そんな気休めは言えやしないんだ。


ポケットに手を入れて考える。


ガサッと音がした。
かおりちゃんに買った、モンチッチのキーホルダーだ。


僕は、自分が何をどうしたいのか、虚しくなった。


僕は、お田鶴さんに何かをしてあげられる資格なんかない。

僕は最低だ。

そう思った。
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誰かをびっくりさせるのは楽しい。


2月1日(金)
お客さんの接待だった。

相手はおばさんなのだが、僕はこの方がすごく好きだ。
好きというのは、恋愛とかの意味じゃなく、お母さんのような感覚だ。

いつも、打ち合せに行くと仕事以外の話で最低一時間は滞在してしまう。


松竹梅さん(仮名)と呼ぼう。


かおりちゃんのこととか、たくさん相談した。


かおりちゃんと、もしもお付き合いできたら、この松竹梅さんに一番に報告したい。
それに、かおりちゃんを実際に紹介したいとさえ思っているのだ。



接待は、田町の高級中華料理屋さんで行われた。


この日の目的は、松竹梅さんのおもてなしは勿論だが、もう一つの目的があった。

松竹梅さんのチームの南仏さん(仮名)が寿退社をされるということで、プチ送別会を開くという目的だ。


サプライズで、プレゼントを用意した。

お花だ。

ガールズバーで知り合ったお花屋さん“ゆめちゃん”に花束を依頼した。


『寿退社の山ガール』というテーマで花束を作って!
森の中に、色とりどりのお花が咲いているようなイメージで!


そんなホワッとしたオーダー。

そしたら、「わかった!任せといて!」だって。
たまんないや。


お店でしばらく食事をし、「ちょっとお手洗いに…」と言い残し、田町駅へ。

ゆめちゃんとの待ち合わせ場所へ行き、花束を受け取る。

僕自身も、この時はじめて花束と対面する。
この瞬間が最高にワクワク、ドキドキする。

『どんな花を作ってくれたんだろう』
そう思って胸が高鳴る。

今回も、素晴らしいお花を作ってくれた。



「これはなんて花?」

「これはね、アネモネっていう花。これはチューリップ。で、この木はゴールドクレストっていうの。これは土に根をはった状態で作ってるから、植えて育てることができるっちゃん!」


ゴールドクレストは、すごくいい香りがする木だった。



ワクワクして店に戻り、一先ずお店の人にお預けした。



デザートを食べ終えた頃。
またトイレに行くふりをして、お花を受け取り、南仏さんにお渡しした。


南仏さんは、とても喜んでくださった。

松竹梅さんも、自分の事のように喜んでくれた。


それを見て、僕は気持ち良かった。
心が満たされる思いがした。
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かおりちゃんと、お田鶴さんと、どっちが好きなの?
と、色んな人に聞かれる。

かおりちゃんが好きだと、皆に言う。


じゃあなんで、お田鶴さんと遊んだりするの?
と、言われる。


その度に、黙ってしまう。

「お田鶴さんとは、そんな関係じゃないんです!」

と、言ったりもする。


ここには本音を書くが、僕はかおりちゃんで埋められない心の穴を、お田鶴さんで埋めようとしている。

かおりちゃんをどうすることもできない寂しさを、お田鶴さんで紛らわそうとしているのだ。

でも、お田鶴さんは、僕に対して恋愛感情なんか抱いていない。
お友達だ。
それでも、一緒にいると寂しさが紛れる。



僕は情けない男だ。



1月27日(日)
お田鶴さん(仮名)と、買い物に出掛けた。


かおりちゃんに好きだって伝えて以来。
日に日に連絡が少なくなった。

毎日のようにやりとりしていたメールも、二日に一回、三日に一回、と次第に少なくなった。

考えれば考えるほど、自分が嫌になった。

だから、あまり考えないようにしようと思った。


気を紛らわすため、お田鶴さんを誘った。
気を紛らわすため、だなんて、お田鶴さんに失礼だ。
それは分かってる。
いつだって僕は自分勝手だ。


二子玉川で、洋服を買うのについてきてもらった。

カフェでコーヒーを飲んで、パンケーキを食べた。
デパ地下にあったアイスが美味しそうで、思い付きで2人で寄り道して食べた。
服を選んでもらったり、試着したり。


普通にデートみたいになっていた。


雑貨屋さんや、服屋さんで、お田鶴さんが手に取るものを観察していると、面白かった。

「ああいうのが好きなのか」

と、新しい発見があった。


皮肉なもんだ。
好きじゃないって思ってたら、心に余裕をもって、デートができる。

5年前とは全然違う気持ちで、リラックスした気持ちで話せた。


たくさん店を回って、結局最初に行ったユナイテッドアローズで服を数点買った。


駅でお別れした後、自分が虚しく、悲しくなった。
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信じられないことが起こった。


1月22日(火)
仕事をしていると、体に異常を感じた。

何やら悪寒がしてきたのである。
更に、頭がボーッとしてきた。
極め付けに、腹が痛くなってきたのである。


風邪か?と、思った。


風邪ならいい。
しかし、ふと、あるキーワードが頭に浮かんだ。




“ノロ・ウイルス”




あっちょんと食べた生牡蠣を思い出した。

ひょっとすると、当たったんじゃないだろうか?


あの女め!あのメスブタめ!
全部あいつのせいだ!
ほんのちょっと可愛いからって!
ちくしょー!


そう思うと同時に、背中がゾクゾクとして、震えがとまらなくなった。


パソコンで、インターネットを開く。
ヤフーに検索ワードを入力してみる。



『ノロ 初期症状』



すると、たくさんのホームページがヒットした。



“熱が出て、腹痛、吐き気が起こり、急に耐えきれない下痢、嘔吐に見舞われる。”


読んでいると、吐き気もしてきた。


やばい。ノロにかかったに違いない。
そう思った。


苦しみに耐え、お客さんとの約束があったため、外出。

なんとか打ち合せを終え、電車に乗り込む。
運良く、座席に座ることが出来た。


東京メトロ 丸ノ内線。
茗荷谷駅から東京駅まで。
東京駅で山手線へ乗り換えないといけない。


東京駅手前の大手町駅で、自分が座席から立ち上がれないことに気付いた。

目眩のようなもので、立ち上がれないのだ。
立ち上がれば、確実に『吐く』という確信のようなものもあり、余計に立ち上がれなかった。

こんなところでゲロったら、大変なことが起こってしまう。


電車は東京駅を通過。
終点の新宿駅まで、僕は座席にうずくまってしまった。


新宿駅で、なんとか下車。
ホームの反対の電車を待つ。

乗ってきた電車は、新宿駅止まりだったが、通常の丸ノ内線はその先の駅がある。

そのため、来る電車はほぼ満員電車だった。

座席に座らないと帰れない。
そのくらい苦しかったので、何度も何度も電車を見送る。

何度目かで、新宿駅始発の電車がやってきた。
死にそうになりながら、それに乗って、なんとか会社へ戻ることが出来た。


早めに家に帰ろう。
そう思っていた。


しかし、現実は甘くない。
こんな時に限って、不測の事態が起こる。


納品した製品が間違っているという事故が起こったのである!


ちくしょー!なぜ!なぜだ!
神よ!これはあんたの仕打ちか!
だとしたら酷い!
神よ!


苦しみながら、上長報告。
明日の朝一に、埼玉にあるお客さんの倉庫に、納品物を検品しに行くことになった。


「今日は会社の車で帰宅し、明日朝から埼玉の倉庫に直行せよ」
と、命じられた。


その日は、本社から出張してきた方がおり、夜は皆で飲み会だった。

もちろん、僕は行かなかった。
というか、行けない。


皆が飲み会に出かけた後。
明日の朝一直行のため、震えながら夜中まで仕事をした。


ガチャッ。


仕事をしていたら、不意に入り口の戸が開いた。


だ、だれだ!?



「おぃーーすっ」



熊のプーさんを真っ黒にしたような、大仏さんのような裸の大将のような、真っ黒な人物が現れた。


御塩(おしお)さん(仮名)である。


飲み会を終え、会社に戻ってきたのである。


何故かを問うた。



「福岡に送る原稿をまだ準備してなかったけど、酒飲みたくて我慢できなくてほったらかして行ったとでごわす。ふっしゅ~(意訳)」


車を使って、羽田空港に原稿を持ち込み、航空便で福岡に発送するということだった。


会社の車は一台しかない。
御塩さんは酔いを覚まして、明け方まで会社で寝て、車で空港へ行く魂胆だった。

しかし、僕も車を使う。
明け方までなんて待っていられない。


こうして、酔っぱらいの御塩さんを連れ、空港経由で帰宅することになった。


寒い。苦しい。きつい。

車を空港に向けて走らせる。

御塩さんは、頑張って起きててくれたけど、途中から寝た。


全てを済ませ、夜中の2時にうちへ着いた。


明日、この状態で埼玉へ行けるだろうか。
悪化していたらどうしたらいいのだろうか。


不安ばかりが頭を行き来する。


とりあえず、寝るしかない。



朝になった。



目覚めて、信じられないことが起きていた。

今でも信じられない。

あんなことが起きるなんて。

どうしてあんなことになったんだろう。

どうして。
なぜ。

浮かぶ言葉はそればかり。



朝起きたら。


全然きつくなくなっていたのである。

完璧に治っていたのである。

寒気も、なにもかも。
なくなっていたのである。



あー、びっくりした。

そう思った。
(オチが弱いなー)
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1月20日(日)
渋谷 道玄坂。

18時に、あっちょんとお店で待ち合わせをした。


5分前にお店に入る。


普段、絶対に来ないような、高そうなお店。
ソワソワする。

席に座り、あっちょんを待つ。


あっちょんと二人で、会話はもつのだろうか?

そこまで考えてなかった。



15分ほどして、入り口が開く音がした。

振り返る。


背の高い、モデルのような体型の女の子が入ってきた。

あっちょんである。


「ようすこ~!久しぶり~!」


戦いのゴングが鳴った。



「あっちょんさ、太った?」

出し抜けに、とんでもなく失礼な言葉を放った。


「えっ!?」


デカい目を更にデカくさせて、あっちょんが驚く。


あっちょんは、きっと誰にもそんなこと言われないだろう。

あっちょんの周りに、そんなデリカシーの無い発言をする男はいないだろう。

でも僕は違う。
あっちょんに好かれたいわけじゃない。
ここにいる理由はそんなんじゃない。

だから言う。
確かに、あっちょんは太っていたのだから。



「やっぱり?めっちゃショックやわ。人に言われたの初めてやから。」


やっぱり。



その後、あっちょんと美味い牡蠣を食べながら、沢山お話をした。


あっちょんには夢がある。
夢を追い掛けている人と話すのは楽しい。


オペラ歌手の勉強のため、イタリア?フランス?どっちかに留学するんだそうだ。


素直に、頑張ってほしいと思った。



あっちょんのことを沢山聞いた。
家族のこととか、色々。
なぜオペラ歌手になろうと思ったのかとか。

僕のことも話した。
ただ、メインの話はといえば、かおりちゃんがどんなに可愛いかということだ。


今から目の前にいるモデルのようなオペラ歌手のタマゴに飯を奢ろうとしている男が、違う女の子の話をする。

さぞ、不快な思いをしただろう。
一体なんなの?と理解不能だったろう。


“僕の心は、あなたとは別のところにあります。”
“あなたに興味があって、ホイホイやってきたと思ってたでしょう。”
“でも違います。残念でした。”



その他にも、いろんな話をした。



気付けば、時刻は22時を過ぎていた。


「帰ろう」


そう言って、店を後にする。


あれ?会計は?

勿論、あっちょんがトイレに言ってる間に済ませてる。



会った瞬間に「太ったね」と言い放ち、違う女の子の話をし、あっちょんなんか興味ない素振りをする。
そんなやつが、なぜか最後に全ての食事代を払う。


どうだまいったか。


僕はあんたに好かれようとしてここに来たんじゃない。
でも、奢る。


あんたに奢るのなんか屁じゃないんだぜ。
あんたに好かれるため、色んな男があんたにお金を払ったろう。
でも僕は違う。


あんたなんか興味ない。
でも、奢る。


要するに格下だなんて思ってもらっちゃ困る。
対価を払うことで対等になろうとも、なりたいとも思わない。


次元が違うんだよ!



帰り道。

「ようすこみたいな子が、彼氏だったらいいのに」


あっちょんが、そんなことを言いだした。


そんなこと呟いたら、僕の心が傾くとでも思ってんだろうか。



言うまでもなく、無視してやった。



あんたの思い通りになんかなんないのさ。僕は。
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あんたなんかに、僕の心はどうすることもできないのさ。

あんたの魂胆は知ってるのさ。
惑わされたりしないのさ。


男なんて、どうとでも出来るって思っている。
男なんて、思いのままだって思っている。


僕は違うよ。
思いのままになんかならないのさ。




1月19日(土)
一通のメールが届いた。


『ようすこ久しぶり~☆突然なんだけどさ、明日空いてる??』


メールの主は、“あっちょん”だった。
覚えているだろうか。
オペラ歌手のタマゴ“あっちょん”である。


無視しようかと思った。
どうせまた、飯代を払わせようとか考えてんだ。

僕なんかに無視されたら、さぞかしプライドが傷つくだろう。

自分が一度メールを送信すれば、男は皆、ホイホイ喜んでやってくるなんて思ってんだ。

そんなことねー。
普通の男はそうなのかもしんない。
でも僕は違うんだ。


それを彼女に伝えたいと思った。

『あんたの思い通りにならない男が存在するんだ。しかも、あんたが自分より格下だと思っている男に。』
それを思い知らせたかった。


そう思った時に、ただ、このメールを無視するだけでは、足りないと思った。

ましてや、男をお金で測るような女の子。

そんな子に、僕は理解不可能な価値観を植え付けたいと思った。



だから僕は、メールに返信をした。


『明日は予定がなくて、どうしようかと思っていたところだったよ。何があるんだい?』


するとすぐに返事が来た。


『別に何もないよ。ようすこに久しぶりに会いたくなったから、一緒にご飯でもどうかと思ってさ☆』


はいはい来た来た。
そんな気もないくせしてよ。
同じメールを一体何人に送ってんだ?
皆、喜んで返信してくんの?
だとしたら皆終わってる。


僕はこう返信する。


『まぁ珍しい。いいよ。行こう!何が食べたいんだい?』


連絡してくるぐらいだから、何が目的の食べ物があるのだろう。
案の定、彼女はこう返信してきた。


『オイスターバーに行きたいな☆』


やっぱりかい!
目当てがあるンかい!
分かりやすすぎるよ!

でも牡蠣かー。
高そうだなー。


しかしそこは余裕を見せて、こう返信する。


『オイスターバーね。いいよ。場所は渋谷?どっか目当ての店でもあるの?無いなら探しとく。』


オイスターバーって言う時点で、どこかお目当ての店があるんだ。
分かってんだ。


そして案の定の返信。


『渋谷だったら西武百貨店の中に入ってる店か、ブロンってお店かな☆』


やっぱしー!!
思ってた通りー!
行きたい店ありきの誘いー!!


『わかった。時間は18時からでいい?予約しとく。また連絡するね。』


『18時からでいいよ!ありがと☆』



ちょろいちょろい。
男なんてホントにちょろいもんだわ。ひゃはっ!

なんて、思ってるんだろうか。

大体の人は、こんな誘いにすら乗らないのかな。
僕も最初はそうしようかと思ったんだけど。


でも、普通じゃないやり方で、彼女をギャフンと言わせたかった。


次元の違う男を、演じてみようと思った。


つづく
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その日は、かおりちゃんを家まで送ってあげた。

「悪いよ」って、言われたけど、なかば強引に送ってあげた。





「前から思ってたことを聞いてもいい?」

帰り道。
藪から棒に、僕はかおりちゃんに聞いてみた。


「なに?」


「なんで、俺なんかと何度も会ってくれるの?」


「う~ん。なんでかな。興味深いからかな。」


「興味深い?」


「同じ匂いを感じるの。初めて会った時から、視線の送り方とか。雰囲気が。寂しげだった。自分と同じようなものを感じたの。」


「ふ~ん。そっか。」



その後、何かを聞き返したような、そうでないような。
覚えていない。




家の前に着いた。


「じゃあね。」


「うん…」


「あ、あのさ」


別れ際に、切り出す。



「もう、ご存知だと思うけど、一応伝えとくけどさ。」

「俺、かおりちゃんに好意を持って、誘ったりとか、してるから!」

「なんというか、うーん、その、つまり、好きだから!かおりちゃんのこと!」



かおりちゃんは、照れたみたいな顔をしていた。



「かおりちゃん、勉強大変だし、だからどうなりたいとか、かおりちゃんが困るようなことになりたくないから、好きだってことを、今日は伝えとくわっ!」



雪が積もった道の脇で。
僕は、手に持った傘で、小さな雪山をホジホジしながら、話をしていた。



かおりちゃんは黙っていた。
何か言葉を絞りだそうとしているみたいに、俯いていた。



「うーん。」

「わからないの。」

「ごめんね。自分の気持ちがよく分からないの。」

「ガールズバーとか、行ったりするのは付き合いで仕方ないと思うの。」

「でも、仕事が忙しくなって、メールとかくれなくなるのって、私は耐えられないの。」

「そういうので、勉強が手に付かなくなっちゃうたちだから。わたし。」



ガールズバーで遊びまくってるって話も、前付き合った子と、仕事が忙しいって言い訳して連絡しなくなって別れたことも、全部かおりちゃんには話してしまってた。



沈黙する。



「わかった。」

かおりちゃんは、僕を振る理由を探してる。そう思った。


「どうわかったの?ちゃんと伝わった?」



「つまり、好きじゃないってこと…?」



「違うよぉ…」



どういう意味だろう。
分からなかった。



「チューされたの、嬉しかったよ」

「今返事しなきゃだめかな。」

「(-_- )( -_-)」
首を横に振る僕。

「紙飛行機飛ばしながら、考えるね」

「(゜_゜)(。_。)」
首を縦に振る僕。



かおりちゃんに、勉強以外のことを考えさせることになって、申し訳なくなった。


やっぱり僕は、自分勝手だなと、思った。
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『会いたいなー』



かおりちゃんから、そんなメールが届いた。


僕は震えた。


あのかおりちゃんから、そんな夢みたいなメールがくるなんて、夢にも思っていなかったからだ。



1月14日(月)
東京は大雪に見舞われた。
そんな中、僕は横浜まで、かおりちゃんに会いに行った。



カフェで、お茶をした。


元町にある、有名なカツサンドをくれた。
前に会った時、豚カツが好きだと僕が言ったのを覚えていてくれていて、雪の中、買ってきてくれていた。

嬉しかった。とても。
同時に、寒い中、申し訳ない気持ちにもなった。



僕は僕で、スノボをしに行った長野で買った『信州りんごキャラメル』を一箱、差し上げた。

「ありがとう」と言って、受け取ってくれた。



色んな話をした。
最近あった悩みの話など、かおりちゃんはしてくれた。


悩みの話は苦手だ。
なんて言葉を掛けたらいいか、分からなくなる。

気休めのようなことは言ってあげたくない。
でも、そうしたらキツいことを言ってしまいそうになる。

苦手だ。

何も言ってあげられなかった。



夜は、一緒にご飯を食べた。

お店に向かう道中は、雪で滑りやすくなっていた。

滑って、「わぁ!」とか言いながら、自然と腕を組むような感じになった。
手も握った。


でも、嫌だったのかな。
「あ、カバンが…」と、言いながら、さり気なく手を解かれた。

一緒の傘に入るのを、あからさまに嫌がられた。



今まで、あんなに心がシンクロしていたように感じていたのに、ある時を境に、まったく噛み合わなくなる時がある。


僕が自分から好きになった子は、だいたいそうなる。


お田鶴(たづ)さんの時もそうだった。

かおりちゃんも、その時に、そう感じた。



なんでだろう。
近付けたと思ったら、本当は違う。
距離は近くに行けても、間にはいつも大きな崖の隔たりがある。


本当は最初から、何も変わってなくて、ただ僕だけが、勝手に浮かれていただけなのかもしれない。



『会いたいなー』
は、一体何だったんだろう。

寒い中、僕のために買いに行ってくれたカツサンドは、一体何だったんだろう。


暖かいと感じた言葉、行動。
それとは裏腹に、今感じてるこの違和感は、一体何なんだろう。



分からない。
どんどん。
分からなくなる。


見えない。
何も。
見えなくなっていく。



僕には何にもない。
からっぽ。
かおりちゃんのような目標も、夢も。
昔はあった、情熱も。

分かっている。
全部。
分かっているつもり。


でも、時に思ったりする。
『僕だってやれる』って。
自分を信じて。
思うままに。


でも、やっぱり駄目なんだなーって、思ってしまう。
届かないんだなーって。



もう、分かんなくなってしまって、伝えようと思った。


かおりちゃんに。
好きだってことを。