えっ、なんで!?うそ!えっ、だってさ、さっきまでさっ、えっ、えっ、どうしよ、えっ、えっ。
僕が時間に間に合わなかったら、皆に迷惑が掛かってしまう。
なぜなら、皆の新幹線のチケットを、僕が持っているから!
パニックに陥ってしまった。
ブゥゥゥゥゥゥン…
ブゥゥゥゥゥゥン…
携帯が鳴っている。
一緒に行く予定の竹尾くん(仮名)からである。
さらにパニくる。
とにかく落ち着け!
とりあえず電話は無視!
5秒間。
深呼吸して、心を落ち着ける。
落ち着いて、次にこう考えた。
そうだ。動きながら考えよう。
動きながら、頭の中を仕分けしてみる。
今やらないといけないこと。
やらなくていいこと。
やってはいけないこと。
今やらなくてはいけないことは?
すぐに東京駅に向かう。
荷造りをする。
荷造りをしながら、どうするべきか考える。
タクシーに乗ろう。
荷造りをしながら、何をカバンに詰めるか考える。
ウェアは?
出して、畳んで、バッグに詰めて…
だめだ。時間無い。
パンツは?着替えは?
後回し後回し。
ゴーグルは?
どこにしまったっけ?
だめだ。パス。
靴下は?
部屋に吊したコレを持っていこう。
チケット、お財布、ケータイ?
これは絶対持ってかなきゃ。
この間、十数秒。
持っていきたいけど、時間が掛かるものは、切り捨ててゆく。
コンバースのハイカットの靴を、無理矢理かかと履きして、家を飛び出す。
マンションの非常階段を、三段飛ばしで掛け降りる。
走りながら、さっき着信があった竹尾くんに電話。
プルルル…
プルルル…
『もしもし…?』
『ごめん!さっき起きた!今から向かう!絶対間に合わせるから!じゃあ!』
プープー…
電話しながら、道路へ飛び出す。
タクシーが丁度、遠くで走っていた。
手を振る。
停まる。
ドア開く。
滑り入る。
『東京駅!大至急で!お願いします!!』
すぐに高速に入る。
間に合うか?
時刻は6時15分を過ぎていた。と、思う。
タクシーの運転手さんが、尋常じゃない様子の僕を見て、言う。
『東京駅は、どっち側だい?』
『あの、新幹線に乗らないといけないのです!』
『じゃあ、八重洲口だな。しっかり掴まってな。』
ギュイイィィィイイイイイン!!!
果たして、『しっかり掴まってな』なんて言ったかなんて定かではない。
でも、運転手さん頼りになる人だったことは確かだ。
6時25分頃。
皇居の辺りに来ていた。
これは、間に合うかもしれない。
と、思った。
どこかで、車は右に大きく曲がった。
曲がった先に、見たことのある建物が。
東京駅だ。
時刻は6時30分を回った。
僕は震えた。
間に合う!
『運転手さん!もうここから走ります!ここで停めて!』
『馬鹿言え!まだ近付ける!入り口の目の前に停めっから、待ってな!』
果たして、『馬鹿言え!』だなんて言われたかは分からない。
でも、運転手さんが、強い口調で僕に言ったのは確かだ。
料金は、3600円ほどだった。
時刻は、6時33分。
あと3分しかない。
財布を開ける。
5000円札と10000円札が。
間に合うには、“アレ”をするしかなかった。
苦しかった。
でも、アレをしなければ、絶対に間に合わなかった。
バンッ!
勢い良く、5000円札を出す。
そして言う。
『つ、釣りはいらねぇぜ!!』
5000円を払い、ドラマでしか見たことのないシーン。
アレを再現してしまった。
果たして、『いらねぇぜ』なんて江戸っ子の言葉を使ったかは定かではない。
でも、必死だったことは確かだ。
タクシーを降り、走りだす。
携帯をとり、吉町へかける。
プルルル…
プルルル…
『もしもし?』
『今駅!ついた!どっち行ったらいいかわかんない!』
考えてもらちがあかないので、とりあえず改札を通る。
そして走る。
すると、見覚えある景色が広がってきた。
去年、待ち合わせをした改札だ。
間に合った。
時刻は、6時34分。
でも、見当たらない。
皆が見当たらない。
どこにいるのだ!?
分からない!!
僕は、もうどうしたらいいのか分からなくなり、とにかく叫んだ。
『わぁぁぁぁああああ!』
時間になんとか間に合ったこと、皆がどこにいるかわならない最後の焦り。
色んな感情でわけわかんなくなって、とにかく出た言葉がこれである。
声に気付き、皆がどこからか姿を現した。
とにかく、皆にチケットを渡し、改札を抜け、ホームへ。
間一髪。
間に合った。
皆、もう諦めていた。
次の新幹線で、立ってでもいいかなんて思っていたようだった。
でも、僕は諦めなかった。
諦めなかったら、間に合った。
諦めないって、素晴らしい!
心からそう思った。