彼と出会ったのは高校生の時。
高校一年は同じクラスだったが挨拶程度の
普通の友達。
高校二年になり確かまた同じクラス。
その頃から音楽の話で盛り上がったりした。
高校三年は違うクラス。
しかしそこから突然仲良くなり語り合う日々が始まる。
彼はピアノを幼少の頃から習い、上手い。
俺は高校二年生の時に初めてアコギと出会い、
文化祭の2週間前から初練習を始め後夜祭で
尾崎豊のI love youを生まれて初めて大勢の前で
弾き語った。
肩から指先までが全部痺れギターはボロボロ。
だけど歌で聴かせてやるぜと思い、頑張って歌った。
途中から沢山のすすり泣く声が聞こえ始め
歌い終わり、下へ戻ると目を赤くした人達に囲まれた。
不思議な感覚にとらわれた。
そして高校三年の時に全校生徒の前で
彼と一緒に尾崎豊の卒業を歌った。
俺も彼も、尾崎豊が心から好きでした。
高校を卒業し、お互いフリーターで
同じアルバイトをし、
暇さえあれば会っていた。
ほぼ四六時中会っていた。
わけのわからない場所へドライブ、
果たして何回やったかね。
ビリヤードにハマりドライブに行き
カラオケに行き金がなくなり
ファミレスでドリンクバーを漁り
朝になり眠くなるまでとことん語った。
お互いの夢。
音楽で成功しようぜ!
俺たちなら絶対やれる!
何の根拠も無かったが間違いなく成功すると
俺たちは確信していた。
春夏秋冬。
全ての季節を語り合う日々。
その中でも冬。
冬は特別に熱くなった。
余計なものが削ぎ落とされていく凍てつく風。
冬の朝焼けに照らされながら俺たちは眩しい
未来へ目をやった。
俺はライブハウスで歌い始め
彼は音楽の専門学校に通いだした。
そして。
気がつけば…
時間は容赦なく過ぎ、仲の良い友達は
結婚し子供が出来、家を買う。
彼と俺だけ未婚になった。
どっちが早く結婚するのかね…
少しずつ会う回数が減っていった。
いつまでも呑気に暮らせるほど生きることは
甘くない。
連絡もしなくなり始める。
お互い夢を忘れ働いた。
あれから何度の冬が訪れたか…
ある昼下がり。
彼から一通のメール。
「俺結婚するから」
空を見上げた俺は何を思ったっけか…
忘れてしまった。
年に一度仲の良い仲間で集まる会。
皆子供が出来た。
役職にも付き、お金もある。
話が随分と合わなくなるものだ。
仕方ないよね。
彼は出世街道真っしぐら。
彼ならそうだろうと驚きはしない。
皆、それぞれの人生を歩む。
皆で集まる年に一度の会も
ここ何年もやっていない。
もしかしたら俺に気を使ってくれているのかも知れない。
悪いな。
冬になると…
冬の風が刺さると…
今も胸が騒ぐ。
だから俺は心から冬が好きで
あの日彼と誓った約束を思い出すんだ。
その約束に遠ざかった年もあれば
近づいた年もある。
そして今が一番、その約束の近くにいるような
気がする。
吐き出したくても吐き出せなくて
心でいつも叫んでいたメロディのようなもの。
彼と語った日々を俺は今も
昨日のことのように思い出す。
答えがあるのかわからないけど
向かうべき道筋だけは見える。
白か黒かではなく
まさにそれは冬の朝焼けのような…
そんな歌をずっと作りたかった…
生涯の親友よ
あの日々を今
心からありがとうと言いたい
それぞれ人には物語があって
それが背中を押してくれたり
時に
寂しくさせたりする。
でも人間は今しか生きられないんだよね。
今を精一杯生きる。
それが最高に人を輝かせるんだよね。
でも過去には生きるヒントが必ず
落ちている。
それを頼りに今を切り開いていけばいいのさ。
この長い長い冬の空のその先に待つ未来へ…
あの日眩し過ぎて見ることができなかった
その向こうへ…
あの日途切れた夢の続きを
探しながら…
一度きりの人生を
そうゆうものに捧ぐのも
面白い。
俺はね、
今、幸せだよ。