新聞の折り込み広告で入ってくる間取り図を眺めるのは結構楽しいが、昨今めっきり入ってこなくなった。マンションが高騰化しているせいなのか。あるいは新聞を取る人が減り、折り込み広告では効率が悪いのと、ネットで宣伝するのが主流になったのか。楽しみが減ってしまった。

 

この作品はそんな間取り図が発端になっている話。

映画がヒットして話題になったが、映画化が発表される前から原作もかなり話題になっていた。夏に図書館に予約を入れていたのが10ヶ月経ってやっと回ってきた。

 

買いたい家が変な間取りだと、相談を受けたオカルトライターが思いついた推論。反応があるかもしれないと記事にしたら、女性から連絡があった。その女性が提示した、もう一つの変な間取りの家。そして、女性の親類の家の間取り。

 

うーん。これ、ホラー?それともミステリ? 事件の背景のエグさはあるが、薄気味悪さとか怖さはそれほど感じないままあっさりと読み終わってしまった。

 

記述スタイルが独特で、会話の部分はページ上部に話す人間の名前があり、その下に発言が書いてある。まるで芝居の台本のよう、いや、台本と言っても通るだろう。

会話以外の地の文は、まるでト書きのように会話の合間に挟まれている。

 

だが、正直物足りない。誰かが推論を立てると事実もその推論の通りという流れになっていく。推論が正しいとは限らないが、この話では正解にされてしまう。

だから紆余曲折がほぼない。たまたま行き合った人から都合よく話を聞き出したりで、およそ能動的に何かを調べたりはしていない。あくまで推論ありき、そしてラッキーな証言。

トントン拍子で話が進むので、怖さを感じる前にとにかく読み進めてしまえる。話の進むテンポが一定の感じで緩急がないまま、するするあっさり読み終わってしまった。ネット時代のライトな作品はこんな感じなのか。

ちなみに一番怖さを感じたのは、相談してきた女性の素性が本人が言うものと違うらしいと分かったところ。意図がわからないまま近づいてくる知らない人、怖いですよね。

 

 

この間取り図があまりに話を誘導しすぎていると感じる。

不動産屋が出す間取り図は、洋室とか和室と書いてあるだけで、子供部屋という記載は見たことがない。どこの部屋をどう使おうとそれは買い手の自由だし、買い手に子供がいるとは限らないではないか。

この本では最初から間取り図に「子供部屋」と書かれている。ううむ。販売物件の間取り図ですよ、念のため。

親の使う主寝室よりも不必要なまでにだだ広い子供部屋。家の真ん中に置いたら広くなっちゃったのかな?

ちなみに間取り図にベッドやソファなど家具まで書き込まれている。この物件は家具が備え付けなのか?基本家具の置き方なんて買った人の自由だからまず書いてない。

 

広い子供部屋に対して、物置や謎の空間が不自然すぎるほど狭い。廊下程度、いや、謎の空間なんてもっと狭い。物置と謎の空間にはそれなりの用途が与えられているが、こんな狭いスペースで大丈夫なのだろうか。ううむ。いかにも素人が線引いた感じだ。

 

間取りの謎についての推論も説得力をあまり感じない要素が多い。

最初に出てくる間取りも次の間取りも、2階から1階への移動方法が書かれていないが、子供が移動するためには何が用意されているのか。登り棒みたいなので降りてくるのか?あるいは梯子なのか?はたまたロフトなどにある下ろせる階段?最初に出てくる間取りの家はもうないということなので、うやむやである。

2番目の家にはヤバいものを入れておく地下室があったのでは、と言うのも推論で終わり、実際のところは不明のままだ。

1番目の間取りと2番目の間取りについては、このように肝心なところが推論で片付けられていて、もやもやが残る。

 

対して3番目の、相談者の女性の親類の家。これは間取りはそれほど気にならなかったが、日本家屋の襖というのは音が筒抜けでプライバシーなどほぼないのも同然だ。それをあまりクリアできていないように思う。増して、寝られないまま布団に入っていた人物がいたら、夜なので少しの物音も聞いているだろう。

こういう説得力を欠いた部分がぽろぽろとあり、つい気になってしまう。ミステリではなくホラーとして読んでるつもりでも、引っかかってしまいスルーできない。

 

中盤からはほぼ、ある家族の家庭の事情の話になってしまう。これがかなり荒唐無稽である。ある意味、横溝正史的な?(笑)

だが人間の業というより、視野が超狭い激しく思い込みが強い人たちという感じで、いつの時代の話なのかと思う。昭和の前半くらいまでのことならまだしも、今の時代の話としてはちょっと話として強引である。

 

そして「近畿地方のある場所について」と内容が重なる要素が多いとも感じる。

オカルト専門のフリーライターが主人公というところ、宗教を匂わせたり、ホラーアイテムとしてではないが柿が登場した時はちょっと驚いた。

書籍の発行日を調べたら、「変な家」の方がおよそ2年前だった。「近畿〜」の書き手がこれ読んでいない可能性より、読んだ可能性の方が高そうだ。

だが「近畿〜」の方がじわじわと怖く、薄気味悪い。ホラーとしての磁場は強い。

 

多分これを書いた人は、中高年以上の男性ではないだろうか。

普通女性のシャツを「Yシャツ」とは言わない。そして大きめのハンドバッグを持っているとあるが、「ハンドバッグ」という言い方自体少し古く、今時あまり言わない。