幻想交響世界エクスマキナ Ep.9-1 満月の夜に The Third Man | 幽玲の妄想ふぁんたじあ

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Part 1/4


 この男、私を女だと思って油断したか。互いの力が拮抗し、交わった刃がカタカタと震えて音を為す中、ステラは嫌悪した。死んだ母が生前に愛用していた双剣≪ジェミナブランド≫の刃から真に逃れ続けることができたならば許せよう。しかし、銀髪鬼はこれを果たせず、鬼斬丸を召喚した。それは銀髪鬼がステラの力量を見誤った結果だ。騎士であるステラが女であるという理由だけで見誤った結果だ。銀髪鬼は騎士の誇りを汚した。ステラはそれが許せなかった。

「ブランヒルド中尉!」

 扉が開く音と共に誰かがステラの名を呼んだ。銀髪鬼の目から視線を外すことはできず、その姿を直接に見ることは叶わないが、その聞き覚えのある声が親衛隊の隊員のものであることは分かった。この憲兵軍支部にいることは、訪れる際隊員に伝えておいたが、わざわざ呼びに来るというのだから、そう些細な用件ではないはずだ。

 ステラは、レイがジェミナブランドを押し返そうとする力も利用して後方へ跳び、距離を取った。

「どうした!? 私は今忙し――」

「隊長がお呼びです。隊長室へ来るようにと」

「隊長が?」

 用件に見当はつかない。しかし、隊長からの呼出しを後回しにしてまで銀髪鬼の力試しをしているわけにはいかない。ステラはレイを睨みつけたまま、ジェミナブランドを両の鞘に納めた。それを見て、レイもホッとした溜め息ひとつと共に鬼斬丸をアニマに還元させた。

「貴様との勝負は後でつける。逃げるなよ!」

「逃げるも何も……」

「レイ・ヴェネディック殿とクラウ・エール殿もお連れするようにとのことです」

「こいつもか!?」

 確かにアークは隊長に話が下りているはずだと言っていたが、この憤りは理屈だけでは説明できない。隊長は納得しているというのか。ステラの奥歯がキリキリと軋んだ。

   ※

 ≪学園都市ダーナ≫行の飛行艦が出発するまでまだ時間がある。アークは、停泊中の飛行艦を見下ろすことのできるロビーで時間を潰していた。

 世界屈指の巨大ターミナルであるアヴァロン空港には世界中の人々が集まっている。家族旅行を楽しむ者、仕事で出張する者、友に会いに行く者――皆それぞれの目的を持ってアークの前を通り過ぎていく。しかし、彼らは知らない。今この国が戦争への道を進んでいることを。戦争となれば、目の前を歩く両親と手を繋いだ子供もまた、大人の勝手な都合によって犠牲となる。そのようなことは絶対にあってはならない。大人が子供に対してすべきことは、その未来を奪うことでなく、与えることなのだ。それは当たり前のことだ。当たり前のことなのに、一万年前、≪ラグナロク≫が起きた時代から現在に至るまで人はずっと争いを続けてきた。

 識者の中には、人の闘争本能こそが人たりえる要素であり、人は争うことによって学び、成長してきたという者もいる。それはそうかもしれない。しかし、そこには多くの血が流れる。血溜まりの上に立つ成長を否定しなければ、成長の前にいつか人類は滅びてしまう。
そのような本末転倒に至ったときに、≪破壊神ディクス≫は世界を破壊し、≪創造神ソラス≫が新たな世界を創造するのかもしれない。しかし、そうなる前に自ら気付かなければならないのだ。ソラスが創る新世界にアルシスが存在する保証はないのだから。

(お客様へお知らせ致します。ダーナ行便が間もなく出発致します。チケットをお持ちの方は搭乗口へとお越し下さい)

 アークは鞄からチケットを取り出し、搭乗口へと向かった。

 イクシオラ王国とバンドール共和国との間で戦争が勃発すれば、ラ・ヴァリオン帝国も動き出し、世界大戦へと発展することは間違いない。それを防ぐ鍵の一つは≪ソウルギア≫だ。世界は今ソウルギアを中心に回り始めている。そのソウルギアが固執する存在――≪ラ・ピュセル≫の秘密が明らかになれば、ソウルギアに対して優位に立つこともできるだろう。その秘密がダーナ大学の図書館に眠っているかもしれないのだ。シド・ブレアの論文――人工グロウシスの研究がどのようなものなのか、逸早く確かめる必要がある。その前に砂鼠による内乱が勃発してしまえば、事態は急加速し、もはや手遅れとなってしまう。

 そろそろバラック隊長からステラ達に伝えられている頃だろう。ステラがどのような顔をするかは、大体見当がつく。次に会ったときには先程以上に怒られることとなるだろうと想像したら、思わず1人で苦笑いをしてしまった。



つづく