幻想交響世界エクスマキナ Ep.8-1 母の歌 Valkyrie of Jade | 幽玲の妄想ふぁんたじあ

幽玲の妄想ふぁんたじあ

しょーもない話と少しずつの小説をお送りする妄想世界をご堪能あれ


Part 1/4


 ライフルを腰に挟んで取り囲んだ憲兵は8人。部屋の出口には、その顔だけを遠くから見ても一目で軍人だと判別できそうなくらいに強面で頑固そうな顔をした憲兵が番人となっている。この数の憲兵が発砲するよりも早く後ろの窓から外へ飛び降りることはレイにとって造作もないことだが、レイは何も悪い事をしていないのだ。逃げる理由もないし、下手に逃げたところで状況を悪化させるだけだ。それに、アークが憲兵軍の幹部に対して説明してくれたはずだ。ならば、ここは大人しくしておくべきだろう。

 それにしても、兵士に取り囲まれるというこの光景は、つい最近も見たような気がする。これがいわゆるデジャヴというものかとも思ったが、そうではなく、ただ厄介事に巻き込まれる日々が続いているだけだとすぐに思い直した。

「ゆっくりと足元に剣を置いて両手を頭の後ろで組め!」部屋の番人と化した憲兵が言った。

 さてどうしたものか。憲兵の言うとおりに鬼斬丸を足元に置いてもよいが、それも面白くない。少し脅かしてやるか。ストレスが溜まり始めていたレイのいたずら心が刺激された。

「わかったよ」そう言って鬼斬丸をゆっくりと床に近付け、いざ触れると思われた瞬間、弾けるような光と共に鬼斬丸がアニマに還元された。

 初めての出来事に驚いた憲兵達が後ずさりし、1人の憲兵が箪笥に背中をぶつけ、その衝撃で上から落ちてきたぬいぐるみに頭を叩かれた。

 レイは両手を頭の後ろで組みながら言った。「あのな、あんたらが捜してる銀髪鬼は俺じゃないんだよ。やったのは俺の偽物」レイが顎をくいくいと振り、足元で肉塊と化し緑色の血を広げる魔物へと憲兵の視線を誘導した。

「なんでこんなところに魔物が……スイーパー共は何をやっているのか」

「こいつが偽物だったんだよ」

 憲兵がきょとんとした顔になった。周りの憲兵も互いの顔を見合わせてその心の内を確認し合っている。少しすると、今度は部屋中に嘲笑の声が響いた。

「こんなアニマの薄い街中で人が突然魔物化したというのか!? バカも休み休みに言え!」

「笑い事じゃなくて、こいつは変なアニマ輝石を持ってて、だからそれで呪文も詠唱せずに――」

「いい、いい」レイの言葉は憲兵の言葉に遮られてしまった。「銀髪鬼を2人同時に見掛けたという通報は入っているからな。だが、仮に偽物がいたとして、お前が偽物かも分からんだろうが」

「ハァッ!?」思いもよらない言葉に驚愕の言葉を隠せない。この男は一体何を言っているのか。「お前、さっき鬼斬丸が消えるの、その目ん玉で見ただろうがよ! 軍人のくせに、銀髪鬼が元JUSTICEで、神器の契約者で、スペシャルなんだって知らねぇのかよ!?」

「バカにするな、そのくらい知っている。しかし、さっきのはトリックがあるとも限らん」

 おいおい……「第一、あいつと俺じゃ顔が全然似てないだろ!」

 レイの言葉を聞いた別の憲兵が胸元から1枚の写真を取り出し、隊長格の憲兵に渡した。レイも春風亭で見た偽銀髪鬼の写真だ。とびきり不細工の。

 憲兵が写真とレイの顔を交互でちらちらと見比べている。本物を目の前にして比較するのだから、流石に気付くはずだ。同じなのは服装と髪型、そして髪の色だけで、骨格から何まで違うのだから。

 しかし、レイは次の言葉に耳を疑った。

「……そっくりじゃないか」

「目ん玉腐ってんのか!?」

「連行しろ!」

   ※

 幼き国王の後見役であり、叔父にも当たるケイネス公爵の屋敷は、自らが治める領地の本邸とは別に王都アヴァロンにもある。王宮の間近に建てられた屋敷は公爵の屋敷としては地味な造りとなっており、派手好きで有名な弟、クレメンス公爵の豪華絢爛な屋敷と対比されることが多い。

 アークはそのケイネスの屋敷の一室で、ケイネスと会っていた。日頃からイクシオラ王国内における所得格差に懸念を抱き、貴族に対して質素倹約の意識を持たせるよう国王にも進言しているケイネスは、自らの屋敷と同じく、身に纏う衣服も生地に麻を多用したもので、公爵としての威厳を失わないギリギリの努力をしていることが見て取れる。

「ノワールの偵察、ご苦労だった。宮廷魔術士のお前に危険な任務を任せてしまい、マースに何と言ったらよいか……」

「いえ、お気になさらないで下さい。欲しかった魔術書もついでに手に入りましたから」

 ≪ノワール事変≫が起きた直後に、アークはケイネスからノワールの偵察を命じられた。それは、三大国家間で働いていた均衡がソウルギアという勢力の登場によって崩れ、大規模な戦争へと発展する可能性を危惧したケイネスの素早い判断の結果だった。イクシオラ王国の軍部は今やクレメンスによって掌握されていると言っても過言ではなく、クレメンスに知られずに情報を得るには、限りなく信頼できるアークにしか任せられなかった。

「ソウルギア総帥オーディンの演説以後、ソウルギアはノワール市民の大多数から支持を受けています。基地に残っていたバンドール軍の部隊もソウルギアに接収されたそうですが、特にその際争いになることもなかったとか」

「オーディンという男は正義の味方を気取るか……」

「ですが、あの演説で大きく出た割には、あれ以降の制圧作戦を行っていません。水面下では動きがあるようですが……」

 ラ・ピュセル――クラウの件についてはまだ話すべきではない。アークはそう思った。ケイネスを信用していないわけではない。しかし、あまりにも不確定要素が多すぎるし、何よりも、育ての親だからこそケイネスという人間をよく知っている。ケイネスは、誰よりもこの国の今と未来を大切に考えている。だからこそ、国の為になると信じれば、非情なまでに冷徹にクラウを利用することも大いに予想できる。国を想う気持ちはアークも同じだが、クラウはまだ18歳の1人の女の子だ。使い捨ての道具のように扱われ、彼女の人生を、自由を奪うことはあってはならない。レイも同じように考えているはずだ。

「彼らの狙いが見えてこん。ノワールに新国家でも樹立するつもりか?」

「仮にそうであれば、既に独立宣言を行っていて然るべきかと思います。私にはもっと別の……今は時勢を見極めているのかもしれません。いくら最新鋭の軍事力を一小国並みに有していたとしても、バンドール軍の数的有利は変わりません。慎重になるのも分かります」

「しかし、我らは悠長なことを言っていられなくなった。クレメンスめ、ゼネド基地に艦隊を集結させ始めた。砂鼠に隙を与え、内乱を誘発させる目的もあるのだろう」

「そのことですが、≪ベラ・アルサール≫の捜索に適任の人物を見つけました。≪銀髪鬼≫と呼ばれている凄腕のバウンティーハンターです」

「憲兵軍が追っている男ではないか」

「それは彼に扮した偽物です。僕は彼と共に行動していましたから、アリバイがあります。先程逮捕されたという連絡を受けましたが、事情を伝え、今頃は釈放手続に入っているはずです。それに、逆説的に考えれば、偽物が出てくるくらいに腕の立つバウンティーハンターだということです。きっとベラ・アルサールも捕まえてくれます」

「そうか……今の我々に使える手段は限られている。砂鼠の件は任せよう。私は何とかゼネド基地の配備を遅らせることに尽力する」

「分かりました」



つづく