幻想交響世界エクスマキナ Ep.6-2 理由 Infiltration | 幽玲の妄想ふぁんたじあ

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Part.2/4


 特務部隊JUSTICEの本部は首都ヴァルキュリアにある。そのミーティングルームでは、ベリアルが情報局の4人から報告を受けていた。

「イクシオラ軍の戦艦が徐々にですが前線基地であるゼネド基地に集まりつつあります。それに、≪王都アヴァロン≫にて潜伏中の諜報員からもたらされた情報の中には、≪クレメンス公爵≫が視察に訪れたとの情報もあります」

「クレメンス公が動いたか……最悪のケースを視野に入れて動く必要がある。スクルドが戻り次第、イクシオラ軍の動向を探らせる。お前達はスクルドの指揮下に入れ」

 情報局員達が了解の返事をした直後、入口の扉が乱暴に開かれ、室内にいる者を威嚇するような怒声が壁を揺らした。

「どういうことっスか!? 何で≪リリス≫に行かせたんスか!?」

 興奮するNo.Ⅲ、スクルドの姿を見て表情の裏に驚きを隠している情報局員達に目線を合わすと、ベルアルの意思を読み取った情報局員達は席を立って行った。

 情報局員達の開けた扉が閉まるのを見計らって言う。「今回の任務はラ・ピュセルの確保が目的ではない。ノワールを出た巡洋艦に警告するだけだ。だから、最もブランの近くにいたリリスを向かわせた」

「でも、その巡洋艦はナーシサスに行ったやつでしょ!? ラ・ピュセル関連の任務はオレっちに――」

「これは隊長からの命令だ。変更はない。それに、お前にはイクシオラの動向を探る任務を任せたはずだ」

 スクルドは苦虫を噛み潰したかのような顔をした。そして、けして了解の返事をすることなく背を向け、開いた扉を壊さんばかりの勢いで叩き閉めた。

 スクルドが苛立つ気持ちも分からないではない。当時、やり方は大胆で問題行動も多かったが、確実に成果を収めたレイ。そのレイとほぼ同時期に入隊したスクルドは、いつもレイの影に隠れていた。レイがNo.Ⅴであった頃、スクルドはNo.Ⅵだった。隊長であるNo.Ⅰと副隊長である自分、No.Ⅱ以外のナンバーに上下関係はないが、レイよりも後ろの数字であることに劣等感を抱いていたであろうことは伝わって来ていた。それは隊長も同じはずだ。

 隊長は、JUSTICEを抜けたレイを利用している。それはレイを信頼してのことなのだろうか。それとも、何か別の――。

 かつて3人の神々によって生み出された魔製武器≪神器≫。その7人の契約者によって組織される≪特務部隊JUSTICE≫。使える手は限られている。ベリアルはそう思った。

   ※

 瞼をゆっくりと開く。霞んでよく見えない。自分は確か署長室でソウルギア兵に連れていかれそうになって――頭がまだぼぉっとしている。

「お目覚めになられたか」

 男の声だ。一人掛けソファーに体を預けたまま、クラウは聞き覚えのあるその声の主を見た。霞んでいた目もようやく起き、男の姿が鮮明になってくる。品の良さそうな整った顔立ち――ナーシサスで出会ったソウルギアの士官だ。確かトリレナといったか。

 目の前にあるテーブルに、中身の入ったティーカップが細い腕でそっと置かれた。その腕を辿るようにして見上げると、1人の少女が立っていた。幼さの残る顔立ちとは裏腹に、感情を押し殺した軍人の顔。署長室でミーアと名乗っていた少女だ。しかし、今はソウルギアの制服に身を包んでいる。

「どうぞお召し上がり下さい。頭がすっきりします」執務椅子に座っていたトリレナはそう言うと立ち上がり、右手にかぶせていた白い手袋を外しながら歩み寄る。そして、ソファーに座るクラウに視線を合わせるように跪くと、肌が露わとなった右手を笑顔ですっと差し出した。「再びお会いできて光栄です、ミス・クラウ」

 薬で眠らし誘拐まがいのことをした男の手など繋ぐ気になれない。クラウは差し出された手に自らの手を合わせることはせず、ぷいとそっぽを向いた。すると、トリレナは空いたままの右手に再び手袋をかぶせて立ち上がり、執務机の横へと離れていく。

「ナーシサスのことといい、今回のことといい、乱暴なやり方であったことについて非礼をお詫びします。ですが、私も本意ではないのです。この様なやり方しかできないのが我が軍の実情であるということはどうかご理解頂きたい」

 逸らしていた視線をトリレナに戻し、クラウは言う。「そうまでして、何でわたしを捕まえようとするのよ」

「≪ラ・ピュセル≫……精霊との契約なくして魔術を操るあなたの力を我らは必要としています」

「わたしも戦争の道具にしようっていうの? この子みたいに……」テーブルの横で静かに話を聞いているミーアを見た。

「少尉は自ら志願して今ここにいます。それに、我が軍は性別や年齢によって異なる扱いはしない。少尉は優れた≪錬金術士≫です。我々のスポンサーが開発した≪魔封銃(まほうじゅう)≫なる最新の錬金術兵器も難なく使いこなしている」

 眉ひとつ動かさないミーアの顔から、トリレナの言葉に偽りがないことは分かった。しかし、同時にどこか怖さも感じる。

「オーディンって人に踊らされてるだけでしょ。弱い人たちの味方とか言いながら戦争の道具にして……命の重みを知らない人のやることよ!」

「治癒魔術に長けた天冥術士らしい意見だ。ですが、誤解もある。あの方は長年虐げられ続けてきた弱き者達――持たざる者達を導くお方です。オーディンが言うように、今こそ武器を取って立ち上がらなければ、再びアネル皇国で起きたような悲劇が繰り返される。だからこそ我らは皆オーディンに従い、地位と金のことしか考えていない愚民共を一掃すると決めたのです。自らの意思で。ナーシサスにいたあなたならば分からない話ではないでしょう」

「その言い方、≪主義者≫なんだね」ナーシサスで初めて会った時に覚えた嫌な感覚の正体を知った。自らの信念を貫く為ならばどれだけの血が流れることも厭わない人間から受け取る感覚だ。

「オーディンに会えばお考えも変わりましょう。間もなくこの船は離陸できます。銀髪鬼の邪魔さえなければすぐにノワールに戻れますよ」

「銀髪鬼って――」

「あなたを連れ戻そうと市街で派手なカーチェイスをやったそうです」

 レイが? 見捨てられたと思っていた。まだ出会って数日しか経っていないし、自分のわがままで一緒にいたのだから仕方ないと諦めようともした。しかし、レイは自分を助けようとしてくれている。驚きは安堵に変わり、心臓の鼓動の高鳴りが落ち着いていくのを感じた。

   ※

 ブランとクルーム大草原の間にある岩群(いわむら)地帯。カーチェイスをやらかしたソウルギアの車が戻ったであろう軍艦はそこに停泊していた。艦の上側には、この付近の土に似た色のシートが掛けられており、上空監視からなるべく回避できるようカモフラージュがなされている。しかし、そのシートはツナギを着た整備兵達によって取り外されようとしており、間もなく離陸するであろうことが分かる。レイとアークは岩陰に身を隠しながら見ていた。

 車で逃げられた時にはもう間に合わないかとも思ったが、アークが政庁の人間から艦の位置を訊き出してすぐに行動できたことにより、ぎりぎり間に合うことができた。

 後部ハッチが開いたままとなっており、中の格納庫でアサルターの整備をする兵士達が見える。忍び込むとすればそこからだが、周囲にライフルを肩から下げた兵士達が立ち、警戒している。まずはこの連中をどうにかする必要がある。

「色々とお教えしておいてなんですが……やっぱりバンドール軍を待った方がいいんじゃないですか?」ソウルギア兵に聞こえないくらいに小さな声でアークが言った。

「んなもん、待ってられるかよ。それに、仮にバンドール軍がクラウを助けたとして、あいつらが大人しくクラウを返してくれると思うか?」

「それはそうですけど……」

 警戒していた1人のソウルギア兵がこちらに近付いてくる。まだレイ達には気付いていない。これは都合がいいとレイは思った。足元にあった小石を手に取り、岩陰に隠れたままソウルギア兵の胸元に目掛けて投げつける。小石は狙いどおり兵士の胸元に当たり、気付いた兵士が原因を探ろうとライフルを構えてレイ達のいる岩に近付いてくる。

「誰かいるのか!? いるなら出てこい!」

 出てこいと言われて出てくる馬鹿がいるものか。レイは兵士がもっと近付くのを待った。そして、まんまと兵士が岩陰を覗きこもうとした瞬間、レイは兵士の首を掴んで体ごと投げ倒した。「うわぁっ!」と叫び前に倒れた兵士のライフルをすかさず奪い取り、その額に銃口を突きつける。

「ついさっき、女が一人連れてこられたはずだ。今どこにいる?」

「し、知らねぇよ!」

「じゃ、運が悪かったな」突きつけた銃口を更に強く額に押し付ける。

「ま、待ってくれ!」

「どこだ!?」

「艦内2階の応接室にいるはずだ!」

「あんがとよ」

 突きつけていたライフルの銃身で兵士の顔を強くはたくと、兵士は気を失って静かになった。

「おい、どうした!?」声に気付いた別の兵士が近づいてくる。しかし、気付かれないように背後に回ったアークのロッドがその兵士の脳をがつんと揺らした。

 うだうだ言っていた割によくやる。レイはそう思った。

 昏倒した兵士の制服を脱がして奪い、帽子もかぶってソウルギア兵になりきる。こそこそしては不審がられ、堂々としすぎては目立ってしまう。気配を消すことが肝心だ。アークによく言い聞かせ、後部ハッチから艦内へと忍び込む。オイルの匂いが鼻を突き、金槌で金属を叩く音や離陸準備を指示する整備兵の声が広いアサルターデッキの壁に反響して耳に届いてくる。

 自分は一体何をしているのか。自分の命を救ってくれた恩返しをしようとしている? いや、そんな命の恩人を無碍(むげ)にした償いをしようとしている――本当にそうなのか。すれ違う車の中にクラウを見た時から、考えるよりも先に足が動いていた。今だって、得体の知れない軍事組織の軍艦に潜入している。それは、恩を仇で返してはならないという大人としての責任を果たそうと思っただけではなかったのではないか。自然と両手の拳に力が入る。

 アサルターデッキを抜けて艦内の通路を進んでいると、足元が揺れ出した。

「離陸したようですね」

 アニマドライヴによって生み出される推進力が船体を垂直に浮かび上がらせる。

「急ぐぞ」

 バンドール軍の艦艇に追いつかれて面倒なことになるのはごめんだ。レイは踏み出す足を速めようとした。ところが、前方から1人のソウルギア兵がやってくる。今は自分達もソウルギアの制服を着ている。演技が必要だ。

「貴様ら、警戒態勢中は休み時間じゃないんだぞ! こんなところをふらふらしとらんで持ち場に戻れ!」

「失礼致しました!」若い新兵がそうするように、腹から声を出して敬礼をする。隣りに立つアークも遅れて同じ動きをする。

 しかし、新兵を叱りつけた兵士の表情が途端に変化した。片眉を上げてレイ達の顔を凝視する目が、兵士の内心を表している。

「……貴様ら、見ない顔だな……所属と名前は?」

 濃い無精髭がレイの顔面すれすれにまで近付いてくる。口から洩れる耐え難い臭いが、全身の毛穴を開かせたように感じる。ダメだ……耐えられない……。瞬間、兵士の鳩尾に拳をめり込ませていた。兵士は白目を剥きながら泡を吹いて通路に横倒しとなった。

「顔が近ぇんだよ!」

 アークが横で呆れた顔をしているのが見えた。



つづく