炎に包まれていたのは、ノワール基地内にある格納庫であった。戦艦から放たれた光の帯によるものである。その光は、アニマを高濃度に圧縮して対象を蒸発させるもので、「魔導砲」と呼ばれる主砲から放たれたものであった。
基地の管制室は、怒号にも似た指示とそれに対する報告が飛び交い、混沌としていた。
「何をやっている! まだアサルター全機発進できんのか!」管制塔の中心に設けられた椅子の前に立つ男が言った。男は士官帽を被っている。この基地の司令官である。
「アサルター」とは、一人のパイロットによって操縦される小型の戦闘機である。アスガルドの戦争は、戦艦に装備された主砲その他の兵器を撃ち合う艦隊戦とアサルターによる戦闘を中核として行われている。
「アサルター、発進急げ!」オペレーターは、司令官の催促を格納庫にいる兵士に通信で伝えた。
「敵の数は!?」
「所属不明の戦艦が12隻です!」
「所属不明だと? ちゃんと調べるんだよ!」司令官は、椅子に全体重を委ねて勢いよく座ると、その苛立ちをぶつけるように、手すりの先を指先で小刻みに小突き始めた。「大体、こんなに接近されるまでなんで気付かなかったんだ!?」
「周辺のアニマの濃度が通常値を超えており、レーダー機器に障害が生じた模様です」
管制室を取り囲む窓の外から強い光が差し込んだ。そして、次の瞬間には、強い振動と大きな爆発音がした。管制室にいた兵士達は思わず背中を丸めた。所属不明の戦艦から放たれた主砲が、またも基地の施設を直撃したのだ。
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一方、12隻ある所属不明艦の中で最も大きな戦艦「オーファン」のブリッジでは皆落ち着いていた。彼らもまた皆軍服らしい制服を着ていたが、バンドール軍のそれとは異なる意匠であった。
6つのオペレーター席と2つの指揮官席を設けたそのブリッジは、アスガルドの戦艦の中でもかなり広く造られており、艦隊の中心となる旗艦として堂々とした造りとなっている。
「艦長、そろそろ敵のアサルターが出てくるぞ」指揮官席に座る男が言った。
「了解。全艦に通達! アサルター全機発進、発進後、30秒間の援護射撃をかけろ!」隣の指揮官席に座り艦長と呼ばれた男が、オペレーターに指示をした。
同じ艦内にあるアサルター・デッキでは、ブリッジから流れるオペレーターの通信が響き、アサルターの発進準備が進んでいた。広いデッキには10機以上のアサルターが格納されている。既にパイロットは皆それぞれのアサルターに乗り込んでおり、その閉ざされたコクピット内で発進指示を待っていた。
艦内のアサルターは黒を基調としたカラーリングがなされていたが、1機だけ青を基調としたものがある。その青いアサルターに乗る男は、他のアサルターに乗るパイロットに向けて通信を発していた。
「散々待たされたが、いよいよガルダ隊の初陣だ。バンドールのやつらに一泡吹かせたくてたまらん気持ちはよく分かるが、味方に撃ち落されるようなへまはしてくれるなよ!」
(了解!)
オペレーターからの通信が入る。(ハッチ開放完了、発進どうぞ)
「了解。アブゼル・ガルダ、出るぞ!」
ガルダの乗ったアサルターは、その後部からアニマの光を放ち出すと、目の前に伸びるカタパルトを走り抜け、オーファンの外へと飛び立っていった。
ブリッジでは、オペレーターがオーファンに搭載されたアサルターが全機発進したことを報告していた。
「さて、どれほどのものかな」艦長に指示を出した男が言った。
ブリッジの後方に設置された扉が開き、一人の女が入ってきた。くせのない艶やかな長い髪を揺らすその女は、やはり他の者と似た制服を着ている。しかし、その女や指揮官席に座る男達が着た制服は、オペレーターが着ているものよりも施された装飾が少し多く、士官用に区別されたものであろうことが分かる。
その女は、艦長を指示した男の隣に立った。
「リゼル大佐、オーディンが――」
「カレンか。分かっている」エルンスト・リゼルは、カレン・シェイドハート大尉の言葉に被せるようにして言った。
「この作戦が我ら《ソウルギア》にとってどれだけ重要な意味を持っているか分からない方ではないはずだが」
「オーディンはいつも私達にとって最善の結果を伴う行動を取ってきました。今回もそうなのでしょう」
つづく
